やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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四章
クリスマスの夜にはサンタがやってくるのかもしれない。


世間はクリスマスムードで浮かれている中、俺はとても暗い気分だった。

それになんだかもどかしい。なぜならこの日までまったく陽乃と連絡が取れなかった。

 

「はあ…」

 

毎日ため息しか出ない。今日も電話をしたがでなかった。

一体何をしているのか、まったくわからない。

そして俺もなんでこんなに何回も電話をかけているのか。いつもなら諦めているのだが…。

 

もう夜だ。受験前だというのに全く勉強する気になれなかった。

…明日はクリスマスか…。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

家には俺以外誰もいないクリスマス。今までならなんともなかったはずなんだが、今年に限っては違うようだ。やっぱり俺の中での陽乃が日に日に大きくなっているということなんだろう。

 

「陽乃、どこにいるんだ…」

 

こうして独り言を毎日のように言っている。

もう外は暗い。部屋に戻って寝よう…。

 

ピンポーン

 

…だれだこんな時間に。無視しようかと思ったが、

 

ピンポーン ピンポーン

 

…だんだんいらついてきた。誰だ?こんなにチャイムを鳴らすのは。

 

「今出ますよ」

 

俺は不機嫌マックスの声でそういうと玄関に向かった。

 

まだチャイムを鳴らしてるのか。

 

「…はい」

 

この世のものとは思えないイライラマックスの声を上げながら玄関を開けると、

 

「やっはろー八幡ー!メリークリスマス!」

「…え?」

 

陽乃がそこにいた。その顔はニコニコしていて、俺は拍子抜けしてしまった。

 

「な、なんでお前…」

「なんでって、クリスマスだからに決まってるでしょー??」

「いやお前…」

「まあまあ。お邪魔しまーす!」

「お、おい…」

 

陽乃は強引に入ってきた。俺はいろいろ聞きたいことがあったが、それは中で聞くことにした。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「外はクリスマスムードでいっぱいなんだよー!」

「そりゃクリスマスだからな」

「やっぱりクリスマスっていいよねー」

「そうか?俺は好きじゃないけど」

「なんで?」

「だって街中うるさいし、リア充がたくさんいる」

「ふふっ、なにそれ」

 

さっきから他愛もない話をしていた。その間、陽乃はとにかくニコニコしていた。

俺は話は合わせていたが、心の奥では無性にイライラしていた。

すると、陽乃は突然ふっと表情を真面目なものに変えて、

 

「…なにか聞きたいことあるんじゃないの?」

「…当たり前だろ」

「ふーん…」

「ふーん、じゃねーよ。なんで何日間も電話無視してたんだ?」

 

俺はいらいらが爆発して声を荒らげた。陽乃はここに来てまで上から目線を貫くのかと。悪いのは俺ではない。電話に出なかった陽乃が悪いはずなのに、なぜこうまで傲慢な態度を取れるのかが分からなかった。

 

「…」

「黙ってないでなんとか言えよ」

「…八幡、落ち着いて」

 

落ち着けるわけねーよ、と言おうと思ったが寸でやめた。俺は少し冷静さを取り戻さなければならないと気づいた。このまま感情任せにしても意味がない。

 

「わかった…。でも、なんで電話に出なかったんだ?」

 

今度はすこし優し目の声で聞いた。すると陽乃は、

 

「…実はイギリスに行ってたの。ここ数日」

「え?」

「向こうでいろいろとしなければいけないことがあって、その関係で電話にも出れなかったの…。ごめんなさい」

 

俺は言葉が出なかった。俺はイライラしていた自分が恥ずかしくなった。

 

「…そうか」

 

これしか出なかった。その後お互いに黙ってしまった。

 

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「ケーキ、買ってきたんだけど、食べる?」

 

何分か沈黙が流れたあと、陽乃は手荷物で持ってきたケーキの箱を差し出して来た。

 

「…おう」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

ケーキを食べたあと、俺達はテレビを見ていた。

正直全く面白くなかったけど、二人ともじっと、テレビを見ていた。

 

「…ねえ、八幡」

「なんだ?」

「イギリス、いいところだったよ」

「そうか」

 

陽乃はテレビの方を見ながら話していた。俺の方からは表情はみえなかった。

 

「イギリスの新居ね、街のなかにあってすごく雰囲気良いんだよ」

「そうか」

「人々も良さそうな人がいたよ」

「そうか」

「街中アーセナルファンばっかりだったよ」

「ロンドンに住むのか?」

「すごいね、それだけでわかったの?」

「まあな」

「大学もすごい綺麗でね、楽しそうだったよ」

「そうなのか」

「ねえ、八幡」

 

そういうとこっちを向いた。

 

「離れるのって…つらいよね?」

「…ああ、あんまりそういう経験ないからわかんねーけど」

「はは。そういうと思ったよ」

「どういうことだよそれ」

「そのままだよ。でも、やっぱり辛い…のよね」

「…」

「ねえ八幡」

「わかってる」

 

俺は陽乃を抱きしめた。抱きしめたとき、陽乃は震えていた。

おそらくこの数日俺も辛かったが、陽乃も辛かったんだろう。俺はそれにもかかわらずイライラしてしまっていた。その後ろめたさもあって、陽乃を強く抱きしめた。

 

「…痛いよ、八幡」

「あ、ああわりい…」

「許してほしい?」

「ああ」

「じゃ、わかってるよね?」

「…おう」

 

俺達の顔が段々と近づいていった。

 

 

 

続く

 

 




次回投稿は8月9日19時頃です。

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