やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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彼と彼女の関係はこのまま…。

結局平塚先生の愚痴大会につき合わされて、ホテルのロビーに帰ってきたのは、食事を始めてから二時間後の10時だった。

 

「じゃ私は静ちゃん寝かせとくから」

「わかった」

 

酔いつぶれてまともに立つこともできず、陽乃の肩を借りている状態の先生はなんだか見ていられなかった。

俺は気分転換にコンビニに行くことにした。

 

 

俺は中に入って、雑誌コーナーで立ち読みすることにした。

俺は普段ほとんど読まない週刊誌を手に取った。気分転換にたまにはいいか。

 

書いてある内容は芸能人関連のゴシップ記事やらで、正直あまり俺的に面白くなかった。

本を閉じようとした時、ふと目の前に気になる記事が見えた。

 

「「京都のとある寺で怪奇現象?突然聞こえる誰かの声?」」

 

その記事は8行ほどの小さな記事だった。俺は普段ならスルーするようなタイトルにもかかわらず、なにか気になりその記事に目を通した。

 

「「噂によれば、そのお寺の外れにある山小屋で聞こえるらしい。そしてその山小屋に入ると誰か人の声が聞こえるらしい。現に何人かが入ったらしいが、聞こえた人と聞こえなかった人がいるらしい。そして、その声が何を言っていたかというのは詳しくはわからないが、とにかく声が聞こえたらしい。気になる人はぜひ行くことをオススメします!」」

 

…どうせ嘘記事だろ。この手の記事は嘘がほとんどなんだよな。見て損したぜ。

一応、一緒に乗っていた山小屋の写真を見ると、なんだか見たことがあるような感じがした。

俺は週刊誌を本棚に戻して、ドリンクコーナーに移動した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

マッカンがなかったので、いくつかのマッカンの代わりの甘そうなコーヒーとパンを持って自分の部屋まで戻ってきた俺は京都のテレビ番組をみながらボーっとしていると、部屋のドアがノックされた。

 

「はい」

「私よ。あけて」

 

俺は素直にドアを開けると、陽乃は少し疲れた顔をしていた。きっと平塚先生がめんどくさかったんだろうな…

 

「ふぅー、疲れたー。ほんと静ちゃんたら、あの後も愚痴言ったのよー。三十分くらい」

「それは…ご愁傷様です」

「なによー、人ごとみたいにー。そのコーヒー一つ頂戴。甘いものがほしいわ」

「ほい」

「ありがと」

 

俺と一緒にベッドに座って、陽乃はコーヒーを開けた。コーヒーを開けて、ごくごくと飲むその姿を俺はガン見してしまった。

 

「…どうしたの?」

「え?いやなんでもない」

「でもじっと見てたよね…。あ!もしかして、見とれてたとか?」

「…そんなわけないでひょ?」

 

のぉーーーっ!噛んでしまったー!これでバレバレじゃん!見とれてたってことがっ!頭壁に打ち付けたいー!

 

「…なにしてんの?」

「なにって?頭を壁に打ち付けてるだけだけど?」

「いや、だからなんでそうしてんの?」

「煩悩を打ち捨てるためだ」

「…ふーん」

 

陽乃はそういった後に、一際にやっと嫌な笑みを浮かべると、

 

「えいっ!」

「ちょ、おまえなにしてんの??」

 

陽乃は俺の背中に抱きついてきた。ちょ、まってこれはやばい。その、当たってるって、背中に柔らかい二つの物がっ!

 

「八幡なにしてんの?」

「煩悩を打ち捨てるためだ」

「いや、さっきよりも激しすぎでしょ?」

 

そのとおり、俺は頭が割るくらい激しく壁に頭を打ち付けていた。痛てぇー…

あまりに痛いので壁に頭を打ち付けるのはやめることにした。

 

その後は二人とも並んでベッドに座って、テレビを見ていた。

テレビ番組は正直あまり面白くなかった。関西の番組だから面白いのがあるのかと思ったのだが。

 

「なーんかつまらないねー。面白いのないかなー?」

 

いろいろチャンネルを見てみたが、どれもつまらないものだった。陽乃の顔はほんとにつまらなそうな顔をしていた。

俺はここでずっと気になっていたことを聞こうとしていた。

 

「なあ陽乃」

「ん?」

「なにかあるのか?」

「へ?なにが?」

「だからさ、お前今日なにかを話したげな感じだっただろ。ここ来てからはそんな雰囲気出してなかったけど、朝の車の中とかでさ、なにか言いたそうな感じだったから」

「…」

 

その話題を出した途端に、陽乃は押し黙ってしまった。

 

……。

 

しばらく陽乃は無言だったが、俺の方をぱっと向くと、

 

「…」

 

また無言になった。そのままお互いに見つめあっていた。俺は目を逸らしたかったが、ここで目を逸らしたらだめだと思い、なんとか陽乃の目を見ていた。

 

「…」

 

陽乃はそのまま俺の方に顔を近づけてきた。

そのまま段々とお互いの顔が近づいていって…

 

「…まてよ」

 

俺は陽乃の顔を抑えた。

 

「…なんで?」

「俺の質問に答えてないだろ?」

 

もうなにかを隠していることはわかった。そしてそれだけ言いずらいことなのだろうということもわかった。陽乃がそんなことを隠すなんてよっぽど重要な事なのだろうと思った。それだけにどうしてもその事を俺は知りたかった。

 

「…」

 

陽乃はまた押し黙ってしまった。

俺はどうしても聞きたかったので、おい、と声をだそうと陽乃の方を向くと、

 

「おねがい、絶対にいうから。でも、今は、言えない。でも、絶対に、然るべきときには、いう、から」

 

陽乃は涙目だった。声を詰まらせながら言ってきた陽乃をこれ以上追求することは出来なかった。

 

「はち、まん」

「…なんだ?」

「キス、して」

 

そのままお互いの顔が近づいていって…

 

今度こそキスをした。

その後も何回もキスをした。陽乃はいつもよりも俺を求めるように、キスをしてきた。俺もそれに精一杯答えようとしていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

目を覚ますと、外が明るかった。

昨日は陽乃と何回もキスをして、そしてそのまま寝た。

ふと寝返りを打つと、

 

「おはよう、八幡」

「…ああ、おはよう」

 

ちなみにまだ寝ぼけていた。でも段々と頭が覚醒して行って…

 

「なっ!お前なんでここで寝てるんだ??」

「なんでって、あのまま寝ちゃったじゃない」

「え?そうだったか?」

 

そういえばそんな気がする。何回もキスをして、なんだか眠くなっていって、陽乃のお休みなさいっていう声が聞こえたような…

とにかく、マッカン飲みながら目を覚まそう。

ふぅー、うめーマッカン。

 

「八幡の寝顔、可愛かったなー」

「ぶふぅー!」

 

飲んでいたまっかんを吹き出してしまった。なにを言ってるんだあなたは。

 

「ねえ、今何時だと思う?」

「いやわからん」

「12時よ」

「…はあ?」

 

時計を確認すると、ほんとに12時だった。まじかよ、寝すぎだろ俺たち。

 

「静ちゃんもまだ寝てるみたいだしねー。起こしにいく?」

「さすがにな。ここに来た目的も果たしてないし」

「そうね、じゃ、呼んでくるわ」

 

そういって陽乃は立ち上がって部屋を出ていこうとした。

 

「んっ」

 

…出て行く間際、俺にキスをして。

 

「お目覚めのキス。これで完璧に目が覚めたでしょ?」

「…バッチリ目が覚めたよ」

「ふふ、よかった」

 

そういって、部屋から出ていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「頭痛い…」

 

平塚先生は二日酔いに苦しんでいた。そりゃ、あんだけ飲んで、あんだけ愚痴ってたんだからな。

 

「それで、今日はどこにいくんですか?」

「ああ、寺だ。私の思い出のな」

「どこにあるんですか?」

「まあ、ここから電車で30分ほどかな」

 

俺達は京都駅から在来線に乗って目的地まで出発した。

陽乃はニコニコしていたが、時折ふと、表情が暗くなることもあった。

 

ガタンゴトン

 

電車の動く音と、車内アナウンスをひたすら聞きながら電車に揺られること30分。目的の駅についたようだ。

 

電車から降りると、華やかな市街地とは打って変わって田舎だった。

周りには田畑が広がり、平和な地帯だった。山の頂上にはわずかに雪が残っていた。

そして駅から五分ほど歩くと、

 

「え?この山に登るんですか?」

「そうだ。といってもすこしだけだぞ」

 

冬だから暑いというわけではないのだが、さっきみた雪が頂上に残っている山に登るというのを考えただけでゾッとした。

 

「寒いねー」

 

そういって、陽乃はおれの腕に絡ませてきた。しかも相当体を密着させて。

俺はあえてこっちを向いている平塚先生を見ないようにした。

 

 

そのまましばらく登ると、脇道にはいっていった。

そのまま石の階段をのぼっていくと、お寺についた。

 

「ついたぞ」

 

そのお寺は少し小さめで周りが山なので、境内には落ち葉が沢山落ちていた。

 

「ねえ、ここになんの思い出があるの?」

「ここは不思議な寺なんだよ」

「…え?」

「まあ正確にはこっちにある山小屋なんだけどな」

 

というと平塚先生は脇道にむかって歩いていったので俺たちもその後ろをついていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

先生についていくと、山小屋があった。大きさは小さめの平屋だった。

俺はその山小屋に見覚えがあった。昨日コンビニでみたあの山小屋そのものだった。

 

「あの、ひょっとしてこの山小屋で声が聞こえる…とかですか?」

 

俺は一応聞いてみることにした。

 

「そうだが、なぜ知っているんだ?」

「え?マジですか?」

「なんで八幡しってるの?」

「昨日コンビニで週刊誌を見たんだよ。その時にここの記事が乗ってて」

「そうか…。まあとりあえず入ろう」

 

そういうと平塚先生は小屋の中に入っていった。

 

中に入ると、暖炉が目に入った。それから、

神棚とお札があった。

ん?なんか見覚えがあるぞ。はて、どこで見たのだろうか?

 

「声なんて聞こえないわよ」

「やっぱり噂なんだな」

「…聞こえるかもしれないぞ」

 

平塚先生はいつにも増して真剣な表情を浮かべていた。

 

と、

 

――――――きたか。

 

「え?」

「ん?どうしたのだ?」

「あ、いや、えーと」

 

――――――久しぶりだな、少年よ。それから…

 

「??」

 

何だこの声は?まさか、あの噂は本当なのか?

と、陽乃がさらに腕にしがみつくようにしてきた。

陽乃を見ると、明らかに動揺していた。…まさか。

 

「なあ、お前も聞こえてるのか?」

「八幡も??」

「ああ」

 

でもこの声、どっかで聞き覚えがあるような…

 

――――――さて、そろそろだな。あの時言った時まで…

 

あの時言った時まで?どういうことだ?

ん?まてよ、この声、それからこの場所、それから…

 

――――――思い出したのか?記憶はなるべく封印をしたのだがな。まあどちらにせよ後少しだ…

 

 

「ねえ…」

「ああ…」

 

――――――後少しで不幸になるが…その後は君たち次第だ…

 

 

それっきり声が聞こえてくることはなかった。

俺は思い出したことがある。そうここは、あの時の、

体育祭の日に見た夢の中の出来事にそっくりだった。いや、もしかしたら記憶がどうたらとか言っていたから忘れているだけなのか?

そういえば夢の中だともう一人のあのセミロングの髪の女の子がいたが…まさかな。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「私、ここに来たことある」

「は?」

 

これには俺だけではなく、平塚先生も驚いていた。

え?どゆことなの?

 

「私、昔来たことあるここに」

「それって、どういうことだ?」

「ここであの声を聞いた。私はその時にあの声に言われたの…」

「なにをだ?」

「んー?よく覚えてないけど、6年後不幸になる…とか」

 

あれ、それって俺が言われたことじゃ?

 

「まて、お前声が聞こえたのか?」

 

平塚先生がえらく驚いていた。まあ声を一番聞きたがっていたのはあなただもんね。

 

「うん、でもいったい声が聞こえるとなにかあるの?」

「声が聞こえると幸せになるとかという話があるんだ」

「え?でも私の記憶だと不幸だとか…」

「ふむ、そうなんだがおかしいな…。私はここで声を聞いて、幸せになるという予定が…」

 

結局それかよ。ほんと誰かもらってやってくれよ…。

 

でも陽乃と言われたことが同じとはどういうことだ?

 

「…不幸か。なるほどね」

 

陽乃はなにかを納得したような表情をしていた。そして陽乃はいつになく真剣な表情をして、

 

「あのね、実は言わないといけないことがあるの」

「「え?」」

 

俺と平塚先生は同じタイミングで反応した。

 

「…私ね、高校卒業したら…」

 

なんだ?一体何を言いたいんだ??

 

「私、海外に行くの」

 

「…は?」

「言った通りよ。ずっといいたかったんだけど…ごめんね言い出せなくてね、あはは…」

 

なにいってんだ?え?

 

「ごめんね八幡、八幡とはほとんど会えなくなるんだ…ほんとにごめんね。…不幸ってこのことなんだろうね…」

「それってどういう」

「私思い出したんだ、あの時私は小学6年生だったの。そこから6年後って…」

「…今じゃねーか…」

「うん…」

 

そんな…うそだろ?何が幸せだよ…。悲しみしかないじゃないか…。

 

「…そうか、陽乃だから君は進路希望を出さなかったのか…」

 

平塚先生でさえ知らなかったことってこれかよ…。

何だこの気持ちは…。なにかできないのか俺は??

そして俺もその、声に同じ事を言われたってことも引っかかっていた。

そういえばあの時、横にはセミロングの女の子もいたような…。そして俺もあの時は小学6年生だった。

…まさかな。そんな偶然ないよな…。

 

「とにかく、もう時間がない。電車に乗らないと…」

 

俺達はとにかく山小屋から出ることにした。一体なんなんだこの山小屋は。それからあの声に言われたこと、

 

――――――後少しで不幸になるが…その後は君達次第だ…

 

俺はこのことを思い出していた。一体あれはなんなのか?俺達に言っていることなのか?

というか、なんでこんな超常現象がおこってるんだ?訳が分からない。

 

 

俺達は無言のまま電車にのり、新幹線にのり、千葉までとにかく無言で帰った。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

家に帰ってもこの気分は変わらなかった。

小町からなにかあったのか?と聞かれたが、なんでもないとだけ言って部屋に閉じこもった。…このあと喧嘩が始まるかな…。でもそれすらどうでもよかった。

 

 

学校にいっても陽乃と話すことはなかった。お互いに何か気まずく、話せなかった。

 

そのまま終業式まであっという間に過ぎた。終業式の日、俺は放課後に職員室で平塚先生に呼ばれていた。

 

「あの、なんですか?」

「なんですかじゃないだろ。わかっているだろ?自分でも」

 

俺は目を伏せた。自分でもわかっていた、なぜ呼ばれたか。

 

「最近、陽乃と会っていないようだな」

「…はい」

「なぜ会っていないんだ?」

「それは…」

 

気まずいから…とはいえなかった。

 

「なあ、比企谷」

「…はい?」

「…捕まえないと、後悔するぞ、これから先」

 

先生のその言葉は妙に重たかった。

でも、俺にはその言葉だけで充分だった。

 

「…すいません先生。俺、もう一度話してみます」

「…うむ、お前ならそういうと思ったよ。私がいいたかったのはこれだけだ、帰っていいぞ」

「…いつもありがとうございます、先生」

「…うむ、お前も変わったな比企谷」

「え?」

「いや、やっぱり成長していくんだな、どんな奴でもな」

「それ、どう言う意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

 

先生は笑いながら言ってきた。

 

「そういう先生も、早く結げふっ!」

「…お前はそこも成長させろ」

「…すいません」

「まったく、早く帰れよ」

 

そのまま俺は職員室を出ていった。

捕まえるか…。そうだな、陽乃としっかり話さないとな。

俺は心に固く決意した。

でも、一つだけ気になることがあった。

今日の終業式、陽乃を見ていなかった。それどころか、三日前から陽乃を見ていなかった。

 

 

 

続く




次回投稿は8月7日19時頃です。

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