やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
神社は普通の神社よりも狭かった。社務所と本殿がある程度の簡素な神社だった。
パンパン
三人でならんでお参りをしている。受験関係の神社ということは、俺にとって敏感に反応するところだったので、神だのみなどの類のものをあまり信用しない俺でも少し力をいれてお願いしてみた。
お参りが終わると、車を置いているところまで俺たちは戻ることにした。
「そういえば、この後どうするんですか?」
俺は気になったことを聞いた。大荷物を持ってきたからこのまま帰るとは思えなかったからだ。
「このあと東京から新幹線に乗るんだ。いってなかったかね?」
「はい?聞いてないですよ?」
「ああ、すまないな」
「いったいどこにいくの?」
「また私の縁のある地にいくんだがな。ちょっと遠いんだ。とりあえず車に乗ろう」
そういうと先生は車に乗ったので俺たちも車に乗ることにした。
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再び東京に戻ってきた俺達。車の中で先生から言われたのは東京駅から新幹線に乗って京都まで向かうということを聞いていた。
時間は午後四時だった。まだお昼を食べていなかったので、俺達は東京駅の駅弁を食べながら新幹線が来るのを待っていた。
「八幡、あーんしてあげよっか??」
「…はい?」
突然なにを、いいだすんだ?なんの前触れもなくそんなこと言ってくるなよ。平塚先生をみろよ!リア充死ねどころか、口から魂抜けかけてるぞ。
「ほら、口あけて、あーん」
「…」
えらく強引に迫ってくる陽乃。顔はすっごい不自然なほどの美しい笑顔を浮かべながら。
俺はその迫力に負けてしまって、口をあけてしまった。
「おいしい?」
「あ、ああ」
なんか陽乃キャラがぶれてないか?今日は特に。車ではすっごい雰囲気最悪で、今は気持ち悪いくらい機嫌がいい。
「はい、あーんっ」
「あ、あーん」
その後弁当の中身がなくなるまであーんされ続けた。なんだか餌付けされてるような気分は悪くなかった。だけど、平塚先生がその間に寂しく一人で弁当を食べていたことは言うまでもない。
――――――――――――
ようやく新幹線がきた。ここまで長かったぜ…。
というか平塚先生が全部持つとはいってたけど、三人分の新幹線代とかはバカにならないんじゃ…?
「あの、先生大丈夫なんですか?」
「ん?なにがか?」
「お金ですよ。バカにならないんじゃ?」
「大丈夫だ。金ならあるからな」
その理由が、わかる気がする。それを聞いたが最後、俺は恐らく悲しむことになるだろう。
新幹線の席は、俺と陽乃が隣同士で、その前に先生が一人という順番になった。
新幹線に乗るなり、陽乃は窓側にいる俺にもたれかかってきた。
「おい、なんだ?」
「なんだじゃないよ。…だめ?」
うっ、上目遣いでみてくるなよ。ドキドキするだろ…
「ねえ、八幡」
「なんだ?」
「…ううん、なんでもない」
「そうか」
俺は陽乃の髪の毛から臭ってくる柑橘系のいい匂いと、柔らかい体にかなりドキドキしていた。
やめてって、俺の心臓を爆発させる気かこいつ??
こころなしかすっごい密着してくるし。
と、腰の方に手を回してきた。まるで俺にしがみつくように。
「…八幡、好きよ」
「…ここでいうなよ」
「ふふっ、いいじゃないどこでも」
「俺の心臓と羞恥心が持たない」
「壊しちゃっても、いい?」
小悪魔系の笑顔でそう言ってきた。もうだめだ。こんな笑顔を見せられちゃ…
そうして俺たちの顔が迫って…
「んっ」
軽く口付けをした。
「えへ、どう?」
「あ、ああうん」
「ふふっ、壊れた?」
「あ、あん」
ちょっとあかんくねこれ?いややべーわー、これやべーわー。
あーあーあー!と叫びたい。
と、陽乃がさらに俺に寄りかかってきた。と、
すーすー。
規則正しい寝息が聞こえてきた。あ、寝たのか。ほんと荒らすだけ荒らして寝るなんてな。
ちょっと寝顔を見たい気分になったので、すこし見ることにした。
…整った顔、艶やかな唇…
男を誘惑させるには充分な条件が揃っていた。
しばらくしても、すーすー、という寝息を聞きながら寝顔を見ていた。
おっと、なんか俺も眠くなってきた。
俺は徐々に眠りの世界に入っていった。
完全に入る寸前に陽乃の口から聞こえた寝言がある。
「…ごめんね…八幡…」
「え、?」
ほぼ眠りに入りかけていたので真意を脳で考える前に、俺は深い眠りに入った。
続く
次回投稿は8月3日19時頃です。