やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
土曜日
荷物が詰まった重たいボストンバッグを道路に置いて、陽乃と共に総武駅前で平塚先生を待っていた。
時刻は9時になった。10分前から待っていたので、少し肌寒くなってきた。
すると、俺たちの前に1台のバンがとまった。
「待たせたな君達。さあ乗ってくれ」
荷物を詰めて、俺と陽乃は2列目にすわった。
「9時5分か。君達寒かっただろう?またせてすまないね」
「大丈夫よ」
車の中は特に喋ることもないので、静かだった。
「あの、どこにいくんですか?」
俺はまだ知らされてなかった行き先について尋ねると、
「まだいっていなかったか。群馬の方にいく」
「群馬、ですか?なんでまた?」
「まあ黙ってついてこい」
そのセリフはなんだか男気がこもっていた。先生、かっこいいっす。
そういえばなんだか陽乃の様子がここ数日おかしい。車の中でもそうだった。いつもならなにかしらちょっかいをだしてくるはずなんだが…
おれはこの機会にチャンスがあれば聞いてみようと心に決めた。
――――――――――――
車に揺られること3時間。高速道路をおりて下道を通っていた。
途中でサービスエリアによって買ったおにぎりをほおばりながら平塚先生が運転するさまは家族のお母さんだった。本人にいったら泣き出して運転に支障がでるだろうから言わないが。
というか、平塚先生をいじっておかないといけないくらい退屈だった。おまけに陽乃は喋らないし。まあおれは静かな方がいいが。
しばらくすると、山の中に入っていった。
群馬のとある峠が舞台の漫画作品に出てきそうなくらいな標高の高い山に入っていった。
ブオォーーン
山を登っていく様は走り屋そのものだった。バンで、荷物が多いのに、キレキレの走りで山を登っていく。
俺らはとにかく横に揺れーる揺れーる。すごいGを感じてるわー。
車酔いするやつはもう車内で吐いてるレベルだぞこれ。
どうやら目的地に着いたようで車がようやく停止した。
平和は守られたよ…
「さあついたぞ」
「…どこですかここ?」
「ここはなー、私が学生の頃来た場所なんだよ」
「へえー」
「ここって静ちゃんの思い出の場所?」
ここにきてようやく陽乃が口を開いた。笑顔も浮かべていたが、俺には無理してつくっているように見えた。絶対なにか隠してるのは見え見えだった。
ふとここで疑問に思う。あの雪ノ下陽乃とあろうものが、なにかを明らかに隠している風に見えてるのがすごく変だった。陽乃のことだ、こういうことは誰にもわからないように隠し通すやつなんだが。それともたんに俺が陽乃と付き合ううちに気づけるようになっただけか?
いや、平塚先生も気づいていた。てことは陽乃が――――――
「ちまん?はちまん?八幡?」
「ん?あ、なんだ?」
「だから、もう静ちゃんがあるきだしたからいくよ!?」
「あ?ああそうだな」
俺達は黙って平塚先生のあとを追った。
――――――――――――
連れてこられたのはとある神社だった。
「ねえ静ちゃん、ここは?」
「ああ、ここは私が昔大学受験を控えた時にお参りした神社なんだよ」
「なんでまたこんな山奥に?」
「ここは結構地元では有名な神社でな。太宰府天満宮みたいに人が多いわけでもないから地元民には人気のスポットなんだよ」
平塚先生はしみじみそう語っていた。
「受験の結果はどうだったんですか?」
「あ?ああ、合格したよ、第一志望に。だから君達にも合格してほしいから連れてきたんだ」
「平塚先生…」
俺はすこし感動していた。そこまで生徒のことを思ってくれていて…
これで彼氏さえできれば…ぐほっがっ!
「…比企谷、失礼なことを考えるな」
「…はい」
あなたはエスパーですか?こえーよあとこえーよ。
続く
次回投稿は8月1日17時頃です。
46分遅れてすみません。