やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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平塚静はやはりサプライズな存在だ。

sign八幡

 

終業式まで残り一週間となった12月のとある木曜日。外は寒く、あたりはクリスマスムードに包まれていた。俺と陽乃は一緒に学校から帰っていた。

実はこれは久しぶりで、最近は受験関連のことでスケジュールがあわず、昼休みいつものベストプレイスで2人で昼食を食べたりはするが、一緒に帰ることは少なかった。

昼食を食べてるときや、一緒に帰っている時に思うことがあるのだが、陽乃は俺といるときなにか考えているような、なにか言いたげな雰囲気を出している。でも、今までなにか言われたことはない。もちろん、他愛もない世間話程度は喋るのだが。

そして今もなにか考えているような雰囲気だ。表情がこころなしか暗い。でも、なかなか思い切って聞くことができない。前に聞こうとしたら陽乃からやんわりと断られてしまってから、なにか触れてはいけないような話の気がするからだ。俺もなかなか踏み出すことが出来なかった。

 

二人の雰囲気がどんどん重くなっていく。今日の帰りは世間話すらなかった。

そのままいつもの場所まで陽乃を送った。陽乃はそこから迎えの車に乗って帰るのだ。

 

「じゃ、八幡、またあしたね」

「おう」

 

これが今日の帰りで初めての会話だった。そのまま陽乃は黒のリムジンに乗って帰っていった。俺はそれを見送ると、いつもより数倍速いペースで自転車をこいだ。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

次の日、俺と陽乃は平塚先生から特別棟のあの空き教室に呼ばれた。

最近受験関連のことでここに来ることはほとんどなかった。陽乃もなんか忙しいみたいだからな。

ということで俺は久しぶりにいつもの位置の椅子に座っていた。

 

ガララッ

 

「よお」

「ひゃっはろー八幡」

 

陽乃は笑顔を作ってはいるが、声のトーンは少し低かった。

陽乃は俺の正面の椅子に座るが、いつもの数倍俺の顔をじっと真顔で見ている。時折下を向いたりしながらも、ひたすら真顔で俺のことをガン見していた。

でも、なにか言いたそうにしているのには確信が持てた。ここ数日の陽乃の行動や、雰囲気から俺は察していた。でも、そこまでしても言えないことなのだろうか?一体こいつなにを言おうとしているんだろうか?

 

ガララッ

 

そんな時、教室のドアを開ける者がいた。俺達はドアの方をみると、

 

「おお、そろってるな。この画をみるのは久しぶりだなー」

 

俺たちを呼んだ平塚先生が入ってきた。いつもどおり白衣を着て、勢い良く入ってきた。

 

「…うす」

「久しぶり、静ちゃん!」

 

俺はいつもどおりテンションの低い挨拶だった。でも陽乃は、文だけ見ればいつもどおりに見えるが、実際はいつもの勢いはなく、明らかに空元気に見えた。

 

平塚先生は俺達の近くに立つと、

 

「どうだ?受験勉強の方は?」

「まあ、ぼちぼちと」

「比企谷の志望はたしか、国立の文系大学だったかな?」

「はい」

「陽乃は…たしか理系だったかな?前々回の進路希望調査だと」

「…え?あうん」

 

?なんか妙に歯切れが悪いな。いつもの元気がない。

それに前々回?前回は?

 

「前回は未提出のようだが、陽乃、どうしたんだ?」

「…ただ、忘れてただけよ。今度出すわ」

「そうか」

陽乃に限って忘れることってあるのか?まあたしかに人間なら誰しも忘れることだってあるが、そんな大事なものをこの陽乃が忘れるなんて思えなかった。

 

その後平塚先生を筆頭に他愛もない話をしていく。陽乃も徐々に元気を取り戻していった。

すると陽乃に電話がかかってきたので、陽乃は教室を出ていった。陽乃が徐々に遠ざかっていくのが靴の音から察した。

すると、平塚先生がこっちを向いて、

 

「なあ比企谷」

「はい?」

「陽乃…なにかあったのか?」

「いや、俺は知りません。おれも気になってました」

「そうか、やはりお前も知らないのか…」

 

平塚先生も付き合いが長いだけあって陽乃の異変に気づいていたようだ。

 

「俺的にはなにか隠し事をしているように見えるんですよね。最近一緒にいるときもそんな雰囲気を出しているんです」

「隠し事…ふむ、比企谷が言うなら信憑性が高いな」

「そうですか。それは喜んでいいんですかね?」

「大絶賛だよ。しかし隠し事か…」

「そうですね。そういえば陽乃は進路希望出してないんでしたよね?」

「そうだ」

「もしかしたら関係があるのかもしれませんね、それと」

「…かもしれんな」

 

一体なにを隠しているんだ陽乃は?俺は日に日に気になっていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

しばらくしたら陽乃が帰ってきた。そのままさっきの席に無言で座った。

座ったのをみると、平塚先生が、

 

「さて、では本題に入るのだが、君たち今週の土日は空いているかね?まあ比企谷は空いているだろうが」

「ちょっと?俺が年中暇人みたいになってるふうに言わないでくださいよ」

「え?事実でしょ?」

 

くっ、陽乃から止めを刺された。否定できないけど。

 

「陽乃は?」

「今週は空いてるよ」

「わかった。それでな、君たちは今受験に向けて猛勉強をしているのだろう。だけど息抜きも必要じゃないか?」

「え?いや大丈夫ですけど」

 

俺は否定した。勉強っていっても自分のためだし、いい大学にいくには勉強しかないし。

 

「まあまあそう言わずに。それでな、土日を使ってとある場所に行ってもらう」

「え?どこですかそれ?」

「まあそれはいずれ分かることだ。まあひとつヒントを与えるとすれば、受験関連だ」

「…はあ」

 

皆目検討つかない。一体どこに連れ出すんだ?今日は金曜日なので、明日と明後日のことになる。

すると、陽乃がこの会話の中で初めて口を開いた。

 

「ねえ、その場所って遠い?」

「まあ、遠いな。あちなみに、電車移動になるからな。安心しろ、お金は私が全て払う」

「え?ちょっと待ってください。あなた一体どこに連れ出すんですか?」

「だから、それは行ってからのお楽しみだ」

 

ちょっと、不安になってきたんですけど。どういうことだ?なんか遠くに行くような雰囲気だけど。

 

「てか、もっと早く言ってくださいよ」

「仕方なかったんだ。ここ数日忙しかったからこうして時間が取れなかったんだよ。申し訳ない」

 

ほんとに申し訳なさそうに言ってきたので、もう気にするのはやめた。

「とりあえず、明日の9時に総武駅にきてくれ。そこからいろいろあるから、しっかり旅行の用意をしてくるように」

もう旅行というフレーズには触れないことにした。薄々察してたしね。

 

「じゃ、わからないことがあったら電話してくれ。あ、比企谷の電話番号を知らなかった。教えてくれ」

 

俺が平塚先生に電話番号を教えると、平塚先生は教室から出ていった。

その後俺達も2人で帰っていった。

そのあいだ、二人のあいだに会話はほとんどなかった。

 

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は7月30日17時頃です。

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