やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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彼は事実と夢のことを考え出す。

骨折したので入院することになった俺は、病院の個室でただぼーっとしていた。

病院のさほどおいしくない昼食を食べてゴロゴロしていると、眠気が襲ってきた。

こういう生活をしてからもう一週間たった。

そんな寂しいぼっちな俺の見舞いにくるのは、小町とそれから陽乃だった。

陽乃に関しては学校帰り毎日病院によってくれる。小町は何日かにいちど、洗濯物を回収しに来てくれるので、陽乃がくるのはとてもうれしいことだった。

 

それでも一人でいる時間の方が圧倒的に長いので、その間に色々なことを考えるようになった。まあ元から一人で思考するのはかなり多かったが、最近は授業が無い分、余計に増えた。

でも、くだらないことばかりを考えてるわけではない。陽乃がどういうお土産を持ってくるかとかの極めて重要なことである。…そこまで重要じゃないかこれは。

でも、その中でもあの夢のことを多く考えるようになった。

あのことは夢とはいえ、ものすごくリアルなことだった。実際には忘れているだけで実在した出来事だったとか、あの少女は誰かのかとか、最後に脳内に響いてきたあの声は一体なんなのか、そして、不幸になるというのはなんなのかなどを考えていると、時間がたっていく。そういうことを考えて暇を潰していた。

考えれば考えるだけ妄想ができる。そんな能力を手に入れた比企谷八幡なのであった。

 

コンコン

 

ドアをノックする音がきこえた。ああ、もうそんな時間か。

 

「どうぞ」

 

カラカラ

 

「八幡体調大丈夫?」

「ああ、もう気持ちは最高なんだがな」

 

ニコニコしながら陽乃がお見舞いに来るというのはもう定番だった。

 

「おう比企谷、体調はどうだ?」

「あ、平塚先生どうも。腕以外の体調はいいんですけどね」

 

今日は見舞い客が二人も来た。平塚先生はここに来るのは初めてだった。

 

「八幡、りんご食べる?」

「ああ。サンキュ」

 

そういうと、陽乃はカバンからりんごが入った容器を差し出した。これもいつものことで、俺は毎日陽乃が剥いてくれた美味しいりんごを食べていた。

 

「りんごは切ってから鮮度が落ちていくから急いで持ってきたんだけど、どう?」

「…うまい。最高だ」

 

陽乃いわく、青森産の最高級りんごなんだとか。俺ら庶民には滅多に味わえない上物だ。

 

「静ちゃんも食べる?」

「ん?いいのか?」

「いいよいいよー。ささどうぞ」

「それじゃお言葉に甘えて」

 

平塚先生がりんごを口にすると、目を見開いて、

 

「んー!旨いなこれ!」

「でしょ!美味しいのを持ってきてるんだよー!」

「ふむ、こんなりんごが毎日食べられて、比企谷は幸せ者だな」

「はははは」

 

実際幸せだよ。もうそれはそれは。すると、さらに俺を幸せ者にすることを陽乃が言ってきた。

 

「ねえ、あーん、してあげよっか?」

「…へ?」

「だから、食べさせてあげよっか?」

「…は、はい?」

「もうつべこべ言わない。はい、あーん」

 

りんごを口の前に持ってこられた。これは無言の圧だ。陽乃はニコニコしている。平塚先生は…うん、すっごい羨ましそうな顔してるわ。

さすがに俺も断れるような心は強くないので、口を開けた。

 

パク

 

「…うまい」

 

りんごもうまいんだけど、あーんによって魔法が掛かったような、もう一言で表すと、めっさうまい!

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

やばい、病みつきになりそう。 気がついたら、残り全部のりんごをあーんによって食べさせてもらった。

なんだか餌付けされてるような感じだったが、美味しかったので有りだな。

 

ブーブーブー

 

「あ、電話かかってきちゃった」

 

陽乃は着信画面をみると表情が強ばった気がした。そのまま小走りで病室から出ていった。

 

陽乃が病室から出ていったのをみると、平塚先生は俺のベッドの近くの椅子に座った。

 

「怪我はどの位で治るんだ?」

「医者によれば、完治は二、三週間だといわれました」

「そうか…すまないな比企谷」

「なにがです?」

「あの棒倒しの時、もうすこし我々がしっかりしていれば、あのようなことは起こらなかったはずだ。これは我々教師の失態だ。すまない」

 

平塚先生は心底申し訳無さそうに言ってきた。

 

「大丈夫ですよ。あの時俺もよそ見をしていたので俺のせいでもあります」

「比企谷…ほんとにすまない」

「いいですよ」

 

……。

その後お互いに少し沈黙が流れた。

 

 

「…陽乃、遅いですね」

 

5分ほどたったが、陽乃はまだ帰ってこなかった。荷物はここにあるので家に帰ったというのはないだろうが、それだけ長電話なんだろう。

 

「なあ、比企谷」

「はい?」

「君は…陽乃の家のことを知っているか?」

「え?まあ多少は」

「多少…か。そうか。比企谷は知っておいた方がいいのかもしれないな」

「どういうことです?」

 

俺がそう聞くと、平塚先生は神妙な雰囲気を出した。

 

「陽乃の家は少しめんどくさいんだ。まあ私もあいつから聞いた話しか知らないがな」

「どういうことです?」

「…陽乃はな、昔から両親の期待を背負ってきたんだ。もちろん雪ノ下家の長女でもあるからな。だけどな、あいつには妹が居るんだ」

「え?」

 

そんな話はきいたことなかった。陽乃に妹がいるなんて一度も。

 

「まあ知らなくて当然だ。あいつは今妹とは絶縁状態なんだからな」

「…どういうことです?」

「…妹のことを愛しすぎたのだよ。だから妹はあいつのことを避けるようになった。やがてほぼ絶縁になった」

「愛しすぎたって、どういうことです?」

「陽乃がいうには、可愛がりすぎたと言っていたんだがな。詳しくは話してくれなかった」

「…」

 

俺はまず陽乃に妹がいることを知らなかった。そんな話は出たこともなかった。

 

と、ちょうどそのタイミングで陽乃が帰ってきた。

 

「ごめーん、電話長くなっちゃった。…ちょっと家から呼び出しがあって、もう帰らなきゃ行けなくなったの。じゃ、八幡また明日くるね!静ちゃん、またねー」

 

そういうと、急ぎ足で病室を出ていった。

 

「じゃ私も帰るよ。お大事に」

「はい」

 

平塚先生も帰っていった。二人が帰ったことによって再び病室に沈黙が流れた。

 

 

 

続く

 




次回投稿は7月26日17時頃です。

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