やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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三章
俺の夢は妄想なのだろうか?それとも。


あたりは暗闇に包まれ、懐中電灯の明かりだけが頼りのこの状況。俺は小町の手をしっかり握って歩いていた。

他の子供達はどこかへ消えてしまったが、俺たち以外に唯一同い年くらいの女の子がいたので、俺たち三人で残りの奴らを捜索していた。

しかしあたりには人の気配はなく、ただ大きな木しかなかった。

小町は横で怯えるようにして俺の手を握っているので、お兄ちゃんとしてカッコ悪くないようにふるまっていたが、内心はそうとうビクビクしていた。何と言ったってまだ小学生なんだ。怖いのは当然だった。

 

「ねえ、君って小学生なの?」

 

横にいる女は落ち着いた様子で歩いていた。

 

「そうだよ。君はどうなの?」

「私も小学生よ。6年なの」

「…そうなんだ。俺も6年だ」

 

とても同い年にはみえなかった。あの大人の人よりもこっちの方が大人に見える。

 

「そっちの女の子は?」

「ああ、こっちは妹の小町だ」

「ふーん」

 

なんかコイツといたら落ち着いてきた。目の前にしっかりした雰囲気の奴がいるとこうなるんだな。

 

……。

無言のまま歩いていく。はぐれた子供達を見つけるためにひたすら歩く。

無言のまま歩いていると、また少し不安になってきた。小町も相変わらずに手を強く握ってきた。俺は不安を紛らわすために横の女の子に話しかけてみることにした。

 

「なあ、お前なんであの時あの場所にとどまっていたんだ?」

「あの時下手に動くよりも、留まって懐中電灯とかの灯りになるものを探すべきと思ったの」

「よくそんな判断できたな… 」

「冷静になれば自然と浮かぶものよ♪」

 

♪なんかつけて当たり前のように言ってるけど、小学生がそんな判断できないだろ普通。俺もギリギリ判断できたけど。やはりボッチはこういう時落ち着くことができるんだな。学校でも精神は鍛えられているからな。

 

「この判断をあの女の人もできたらいいんだけどね」

「そうだな…」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

しばらくあるいていると、開けた場所に辿りついた。そこには小屋があった。大きさはコンパクトな平屋だろうか。まあ良くテレビとかで見る小屋と思ってくれて構わない。

 

「ここにいるかもしれないわ」

 

そういってドアを開けると、

 

「ひいっ」

 

小さな悲鳴が聞こえた。明かりで照らすと子供達と女の人もいた。みんなビクビク震えていて懐中電灯で照らすと、みんな安心したような顔をした。

 

「みなさん、無事ですか?」

「え、ええ。あの、助かったわ」

 

大人の女の人は俺たちが来て安心しているようだが、普通あなたが俺たちの立場じゃないといけないんだけどね。

てかこの人以外に誰かいなかったっけ?そう、お化け役の人達とか。

というと、小屋の外に多数の人の気配がした。

俺と横にいた6年の女の子はドアのほうを見ると、

どんっ!というドアを開ける音とともに、

 

「お前ら無事か!」

 

長い黒髪の別の女の人が男らしい風貌で入ってきた。その服装は迷彩柄のいかにも軍服で入ってきた。

その後にも同じく軍服をきた男の人が二人、女の人がもう一人入ってきた。

子供達を初めとしてみんなが少し怯えていた。すると頼りにならない女の人が、

 

「ちょ、ちょっと!どういうことなんですかあー!」

「なにって肝試しだが?」

 

 

話によれば、懐中電灯が切れたのも、この小屋に向かったのもすべて計画のうちだったようだ。もっとも頼りにならない女の人には伝えられていなかったようだが。

当初その人に伝えられていたのは、この道をとにかく進んでいってその先にあるこの小屋の中にあるお札をとって戻ってくるということだったらしい。ちなみに、お化けは出てくる予定はなく、雰囲気でこわがってくれということだったらしい。

ただ、もし懐中電灯が切れたりしたらその時はとにかく事前に伝えられていた道をまっすぐ歩いてこの小屋にたどり着いてくれということだった。だからあのときにどこかに歩き始めたのか。

 

「そんなことなんでしたんですか?」

 

横にいた女の子は当然のことを聞いた。それに答えたのは、一番最初に入ってきた黒髪ロングの男らしい女だった。

 

「なにって、決まっているだろう!そこにいる女、山本が原因よ!」

 

…は?

 

「山本はねー、私よりも年下の癖に、彼氏とかいっぱい作って、いっぱい捨てて、挙句に私と仲良かった男を寝どったのよ!ううっ!私の恋かえせー!」

 

あんた子供の前で何叫んでんだよ。教育にわるいだろう!しかも理由が子供にわるいだろう!

すると、頼りない女の人が今までのゆるふわ系雰囲気を一変させ、

 

「えー、ただ先輩があの人をさっさと落とさなかったからじゃないっすかー」

 

おい、キャラ変わってみんな怖がってるぞ。本性見せるなよおい。

男らしい女の人は泣き崩れてしまった。なんだか小学生ながら、大人の汚い一面を見た気がする。

横にいる冷静な女の子は真顔でそのシーンを見守っていた。…なんかこわい。

 

俺はそこから目をそむけると、御札をみつけた。あれが例のおふだか。…それを見た瞬間、なんか普通のお札の雰囲気じゃないような気がした。それは横の女の子もそう思ったようだった。

 

すると、

 

――――――おま…はこ……らふ…にな…

 

ぬ?なんか脳に声が響いてきたような?横の女の子をみると、同じく声が聞こえたようで、セミロングの髪を少し揺らしていた。

 

――――――おまえはこれ……こう…なる

 

まただ。どこからか脳に響かせるように声が聞こえてきた。

そして今度ははっきりと、

 

 

――――――おまえはこれからふこうになる

 

はい?なんだこの声。横の女の子も聞こえたようで、びっくりした目でこっちをみてくる。そこには冷静さを失いかけていた。

 

――――――いまからじょじょにふこうになる…とくにろくねんごにふこうになる…

 

それっきり声は聞こえなくなった。え?6年後に不幸になるってどういうことだ?ちょうど俺は高校3年生か。

横の女の子は少し動揺しているようだ。とにかく、これは信じるべきなのだろうか。ただの幻聴なのだろうか?いやこの子も聞こえているようだったし、でも、俺ら以外は聞こえていないようだし。

 

それを疑問に思っていたが、元の場所に戻るということなので、俺達はついていった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

エンジンの音が聞こえてきた。祭りとかにある簡易型の電灯があるベースキャンプにもどってきた。

 

「ねえ、さっきの声、きこえた?」

 

セミロングのずっと横にいた女の子が不安そうな目で聞いてきた。

 

「あ、ああ、お前も聞こえたのか?」

 

いまさらだが、少しキョドりながらもこいつとはなぜか話せる。ほかの奴には怖くて話しかけれなかったのに。

 

「あれって、どういうことなんだろうね…」

「さあ…」

 

ほんとにどういうことなのだろう。

 

「ねえ、君の名前を聞いてなかったね」

 

その子は気分を変えるという意味も込めて聞いてきた。

 

「俺の名前は比企谷八幡だ」

「そう。私の名前は――――――」

 

と、いいかけたところで、その子は俺の後ろをみた。なんだろうと俺は後ろを振り返ると、

 

目の前に電灯が迫っていた。

 

誰かの叫ぶ声が聞こえる。小町の声と、その子の声をききながら俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

――――――ん、はちまん、八幡!

 

 

俺がパチッと目を覚ますと、オレンジがかった白の天井が目に入った。そのあとに泣き顔の陽乃が目に入ってきた。

 

「八幡!大丈夫??」

「あ、ああ。ここはどこだ?」

「病院よ!」

 

ああーそうか、だんだん思い出してきた。俺はたしか体育祭で棒が腕と頭にあたったんだったな。腕は骨折しているようで、包帯で巻かれていた。

 

「なあ、俺はどれくらい寝てたんだ?」

 

こういう時ってまる何日寝てたとかあるんだよな。

 

「え?半日よ?」

 

え?そんくらい??そういえば、夕方みたいだな。オレンジ色が窓から差し込んでいる。

そういえば夢の中でも頭にあたったよな。これが夢の中の不幸ってことか?というか俺あんなこと忘れてたのか?それとも妄想なのか?もし妄想じゃなければ今高校3年生だから、不幸ってことだよな?

それから、腕にあたったのに気絶するほどに頭に棒があたるって、おかしいことだよな。あたりどころが悪かったのだろう。これも不幸ということなんだろうか?

 

 

続く、




次回投稿は7月24日17時頃です


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