やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 作:武田ひんげん
体育祭当日
グラウンドに全校生徒が集合して開会式が行われていた。今日の気候は運動会には適さない蒸し暑かった。その影響と、校長の長い話などで生徒たちの気力はあまりなかった。
体育祭の準備はすべてがうまく行った。予定通りにすべての作業がおわって今日を迎えれた。
「では、第一種目に入ります。競技は千葉最速は誰だ?炎のリレー合戦です」
たかが一高校で最速だからって千葉最速にはならないのかというツッコミは置いといて。
よーい、パン!
一年生が走り始めた。
「おおっと、赤のタスキの子がリード、それ以外は少し遅れたー!」
実況にも熱が入っているようだ。朝から元気いいな。
てか、やっぱり体育祭が始まるとテンションが低かった生徒も暑さを吹き飛ばしてエンジンが掛かってきたようだった。
「赤がそのまま逃げ切ったー!赤が最速だー!」
実況テンションたけー。ついていけねーわー。
俺は何をしているかというと、グラウンドで記録をとって本部に持っていくという仕事をしている。しかも記録を取る場所から本部までが遠い。こりゃ倒れないようにしねーと。
その後も一年生の残りと二、三年生が次々と走っていった。実況のテンションは高くて、生徒たちのボルテージも上がっていったが、俺を含めて裏方の仕事のやつらは暑さに早くもバテていた。
「では、続きまして第二種目、男子の熱さで千葉を盛り上げろ!棒倒しじゃい!です」
ただでさえ暑いのに、熱さを加えるっていったい何度になるんだよ。あつさ次第じゃ、アフリカを超えるぞ。
まあ、俺もこれは参加しているのだが。といっても男子全員だけど。
先陣を切って一年生が戦いを始める。
うぉーーーー!!
「さーて、男子の野太い掛け声と共にスタートです!おおっとこれはすごい!男子がもみくちゃになって、これはやばいげふっ!」
「ちょ、ちょっと、鼻血ださないで!」
実況席の方も大変そうだ。だいたいこれ見て鼻血だすとか完全にあっちの人だろ。
「ふっ。さーて、入り乱れる男子たち。おおっとひとつ倒れたー!それによって押し倒されていく男子げふっ!」
もうあいつ退場させた方がいいんじゃないの?あとなんかい鼻血出せばいいんだよ…
2年も白熱した戦いが待っていた。各所で棒が倒れて行くと共に実況席でも鼻血を吹き出していた。いったい誰が実況してんだよ。声からして女子だとは思うが。
そして俺達3年の出番がやって来た。もうみんなボルテージも上がって異様な雰囲気だった。俺たちが各棒の場所に着いた時、
よーい、パン!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
すげっ!てかやばいっ!男の雄叫びと共に各勢力がぶつかりあっていく。3年はやっぱり気合が違った。やばいってこれは。
「うぉーー!こ、これは、だ、男子たちがくんずぼくれずげふっ!」
本日二桁目の鼻血を吹き出した実況も興奮のたたかいの幕があいた。
もうそこからは無茶苦茶だった。殴る蹴る有の戦場だった。これあぶないぞ。怪我人どころか大怪我してもおかしくないぞ。
教師たちは興奮を少しでも抑えようとしたが、生徒の耳には聞こえるはずもなく、興奮は更に高まっていった。
俺はなにも出来ずに自陣の棒のところで突っ立っていた。だって棒にたどり着く以前にそこに至るまでのところで戦闘が起こりまくってるから、ここが一番安全なのである。
チラリと横をみると、何人か棒に張り付いていた。そこには棒倒しというのが目的ではなく、ただ単純に戦闘しか存在しなかった。
でも、俺達の平和もそう長くは続かなかった。運悪く、俺達の棒の奴らが負けてしまい、敵が大勢攻めてきた。
敵の数は多数。一方こちらは10。勝負は見えていた。
にも関わらずそいつらは手加減なしにやってきた。お前ら勝負は見えてるんだから手加減してくれよ。このままじゃ怪我人でるぞ…
そんな心の叫びなんか聞こえるはずもなく、とうとうやってきてしまった。
うぉぉぉぉぉぉっ!
あ、だめだ。一斉に敵が押し寄せ、為すすべもなく圧倒されて棒を支えることが出来なくなった。
鬼畜すぎるだろ。こんなの勝てるわけねーし。
と、その時、
「あぶない!」
誰かが叫んだ声が聞こえた。俺は後ろを振り返ると、
棒が目の前に迫っていた。
「うおっ!」
とっさにガードをしようと腕を出したが、重たい棒をそれで防ぐことはできずに、
バキッ
嫌な音がした。その勢いのまま頭に
ガンっ
あ、いかん、目の前が真っ暗に…
――――――――――――
――――――俺は森の中のキャンプ場にいた。
なぜかわからない。とにかく周りには木ばっかりで、俺たちがいるところだけが開けた場所になっていた。横には妹の小町がいた。辺りは暗く、電灯だけが頼りの状況だった。周りには小学生くらいの子供が何十人かいた。
―――はーい、今から肝試しをしまーす!
若い大人の女の人がそう叫ぶと、俺たちの周りにいた子供達がゾロゾロと女の人についていった。俺たちもいこっか、といってそいつらについていった。
―――暗い夜道を進んでいく。いわゆる肝試しだった。
周りの子供達がキャッキャっと騒いでいる。小町も俺の手を力強く握ってきた。
と、
突然先頭を歩いていた女の人の懐中電灯が切れた。
きゃーーーーー!
子供達が叫んでいる。唯一の明かりがなくなったのでみんなパニックになっていた。
自分達がどこを歩いているのかもわからず、子供達は叫ぶことも出来なくなっていて、あたりが静かになっていた。
俺たちは何が襲ってくるかもわからずにただ恐怖が渦巻いていた。
とにかく俺は小町の手をひたすら強く握っていた。
と、俺はバッグの中に懐中電灯があることを思い出した。
そして懐中電灯を付けると、あたりには子供達が居なくなっていた。女の人も。
まさか、暗い夜道を歩いたのか?そういえば、女の人がこっちです。とかいっていたような気がする。おいおい、大の大人がその判断は違うだろ。それで子供達を遭難させたらどうするつもりなんだよ。こういう時は俺みたいに懐中電灯を持ってる奴がいるかもしれないから、あの人が真っ先に落ち着かないといけないのに。
と、そこに一人の女の子がやってきた。その子はどうやら俺たち以外にこの場に残っていた唯一の奴らしい。賢明な奴もいるんだな。
そいつは子供離れした容姿をしていた。雰囲気も子供とは思えない。
その子は俺に向かって、
「あら、私以外にも賢明な子供がいてよかった!」
「そうだな」
「とにかく、ここにいない子達を探さないといけないわ。あなたには懐中電灯があるし、ここは幸い一本道だから、遭難もないしね」
「そ、そうだな。とにかくそうしよう」
こうして、俺と小町とその女の子で残りの子供達の捜索がはじまった。
次回投稿は7月22日17時頃です