やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。   作:武田ひんげん

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そのきっかけは過去にあって、今まで続いている。

side陽乃

 

これは私が初めて人前に出た日…

みんなの望む雪ノ下陽乃が作り始められた日。

 

 

 

 

 

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「陽乃、いくぞ」

「はーい、パパ」

 

私は、父に連れられてあるお偉いさんがたくさん招待されているパーティーに行くことになった。

 

「ねえねえパパ、今日はどんなことがあるの?」

「今日は…そうだね、楽しいことがあるかもしれないね」

 

当時小学校に上がったばかりだった私は無邪気だった。

まだ何も知らない、只々純粋な女の子だった。

 

車を走らせること30分。パーティー会場に到着した。

私は裏の結構広い控え室につれてこられた。

 

「陽乃、挨拶の練習はしたかな?」

「うん!」

「じゃ、いってごらん」

「えーとね。私は雪ノ下家の長女の雪ノ下陽乃です。皆さんよろしくおねがいします!」

「よーし完璧だ。よくがんばったな」

 

そういうと父は頭を撫でてくれた。

 

「それじゃ陽乃、ここで待ってるんだ。おとなしくしてるんだぞー。」

「はーい。ねえ、ママは?」

「ママは後からくるよ」

 

そういうと父は控え室から出ていった。この場に残ったのは私一人だけ。

私は子供らしい好奇心でいろいろ気になることがあったが、父のいう事をきいておとなしくしていた。

 

すると父が出ていって数十分後、私の家のメイドの女の人が私を迎えにきた。

「陽乃ちゃん、こっちにいらっしゃいー。お父さんも待ってるから」

「はーい!」

 

そういうと私は控え室を後にして、パーティー会場に向かった。

 

 

 

 

 

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パーティー会場のドアをくぐると、レッドカーペットが父と母の元まで続いていた。

カーペットの上を通っていくと、父に手を引かれて壇上の真ん中までつれてこられた。

 

そこからの景色は一生忘れない。

会場が一望できるそこからみた光景は、気品がある大人たちがたくさんいた。

私はそれを見て正直、怯えていた。

今まで同年代の子、もしくは先生くらいしか大人を見ていなかった私にとってその人達は、あまりに違いすぎた。

 

「皆様紹介いたします。この子が長女の陽乃です」

 

父がそう発したのは耳では聞こえたが、脳までは入ってこなかった。

そうしてると、今までずっと動いていなかった母が、

 

「この子は初めて人前に出てきて少し緊張しているようです。ほら、陽乃、自己紹介なさい」

 

「は、はい。ゆ、雪ノ下家の長女の雪ノ下陽乃…です。よろしくおねがいします…」

 

いい終えると会場から拍手が巻き起こった。当時の私にはなぜ拍手が起こったのかまったく理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 

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壇上での挨拶を終えると、私は父と母に連れられていろんな人にあった。

 

「やあ、初めまして陽乃ちゃん」

「は、初めまして」

「おや、まだ緊張しているようだね」

「はい、初めてなのでこの子も緊張しているのでしょう」

 

そういうと大人同士で笑い合う。

私には何が面白いのかわからなかった。

 

 

いろいろ回っているうちに私は学習していた。

あぁ、ここは私が普段いる世界と違うんだなと。これが大人の世界なんだなと。

私には笑いあっている大人達が心の奥底から笑っている様にはみえなかった。

これが大人の世界なんだ…

 

私は小学一年生ながら悟ってしまったのである。

 

 

 

 

 

 

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私はその後も定期的に何度もパーティーに連れていかれた。

回数をこなしていく事にだんだん慣れてきていた。

 

「どうも、雪ノ下陽乃です。よろしくおねがいします」

「おや、しっかりした子だねー。よろしくね、陽乃さん」

 

わたし達は笑いあった。でも、心の奥底からの笑いではなく、表面上の物であった。

 

 

 

私は学校でも、同じ振る舞いをしてしまっていた。

いつの日か先生から、

 

「陽乃ちゃんは大人みたいだねー」

「そうですかー?」

「なんだか、一人だけ小学生じゃないみたい。周りの子達とはなんだか違うね、陽乃ちゃんは」

 

先生はニコニコしながら言ってくれたが、私にはその笑みは表面上の物にしか見えなかった。

 

 

その頃から私は本当の自分がだんだん分からなくなっていった。

周りからは私の名前を呼んで後ろをついてくる取り巻きが増えていったし、先生達からは頼られるようになった。

いつしか、周囲が求める雪ノ下陽乃になっていった。そのころには純粋だった私は綺麗さっぱりなくなっていった。…いや、単に忘れてしまっただけかもしれない。

 

その後、中学、高校と進学していっても同じことが続いていった。

取り巻きはどんどん増えていく一方だった。私はその中でも、求められてる雪ノ下陽乃を作り上げていった。

そしてパーティーでは、そこでも求められている雪ノ下陽乃を作っていった。

 

そうして、どこでもその場で求められている雪ノ下陽乃を何個と作っていった。そうしている中で本当の私はどんどん消えていった。

 

でも、それも比企谷八幡くんのおかげで本当の私を思い出せそうな気がする。彼なら本当の私を見つけてくれる…

 

 

 

 

 

 

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目を覚ますと午前9時だった。

今日は文化祭の代休なので学校はない。

とりあえず私は、ベッドから起き上がって父の部屋に向かった。

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

「陽乃、昨日はよく眠れたか?」

「うん」

「そうか。それよりも、文化祭は大成功だったそうだな。有言実行とはこのことだろう」

「ありがとうございます」

 

「お母さんは今日はいないから伝言を伝える。お母さんはニコニコしていたよ。それから、期待どおりにやってくれてよかったわ。私は満足しているわ。と、いっていた」

 

「お母さんらしいね」

「ああ」

「なら、私は戻るわ」

「あ、まて陽乃」

 

父は私を引き止めると、優しい顔で、

 

「よく頑張った。これからは少しのんびりするといい」

 

「ありがとうございます」

 

私はそういって父の部屋を出た。

 

のんびりね…。てことはしばらくパーティーとかないってことか。

ちょうど良かったかも。私は本来の私をみつけようとしている最中で、作り物の私を思い出したくはなかったから。

 

さてと、とりあえず八幡に電話しよっかなー♪

 

 

 

続く

 




次回投稿は7月8日の20時です。

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