病院の幽霊   作:最下

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学校の幽霊
学級日誌①


「高校生活を振り返って」 2年F組 比企谷八幡

 

青春とは千差万別である。

己の心を隠し、多くの者と縁を築くのもいいだろう。

己の心を晒せる者を手に入れるのも、また、青春だろう。

しかし俺は多くの縁を築こうが晒せる者を手に入れようが意味がないと思う。

重要なのは誰か一人をシミの数まで知ろうとすることが大事だ。

勿論奥に踏み込み過ぎれば痛い目に遭う事もあるだろう。

その痛みで周囲が崩壊することもあるだろう。

だが多くの困難を乗り越えた先にまた一つ相手を知ることができるだろう。

割に合わないと感じる事もある、無意味なのでは無いかと思う事もある。

それでも俺はある一人を知ろうと思うのだ。

 

結論を言おう。

 

これが俺の青春なので無理に知人や友人を作る必要は無い。

 

 

  *  *  *

 

 

「比企谷、私は感動したぞ!」

「はぁ、どうも」

『おー、よかったねー、好感触!』

 

 

放課後、国語の教諭平塚先生に呼び出され職員室に来た俺は、周りで先生方が仕事しているのにも関わらず作文を読み上げ感想を言ってくる平塚先生に困惑の眼差しを向けていた。ハルはのんきにパチパチと手を叩いている。

 

 

「そう、感動したんだ……」

「何故過去形なんですか」

『まあ、仕方ないと思うけど。……後これって』

 

 

さっきの喜び交じりの表情から一気に落胆の表情までフリーフォールする平塚先生。俺の後ろで照れているのか、もじもじしながらある一文を指摘するハル。ハルは俺が入院中に知り合った『陽乃』の残留思念。見た目は小学六年生だが実年齢でいくと大学二年生と俺より三つ上だ。諸事情により精神年齢は低いが詳しくは『病院の幽霊』を呼んでくれ。あ、後いまだに病衣をまとっている。

 

 

「うっせ、だからコッソリ書いたんだよ……」

『くす、その場にいたら顔から火がでちゃうよぉ』

「おい、何ぼそぼそ言っている」

 

 

ハルは俺に憑りついているため意思疎通は生きている人間よりよっぽど簡単だ。どんな小さい声でも話しかけるつもりで声に出せば距離や声の大きさ関係なく通じる。まあ、人前ではあまり会話はしないつもりだが基本一人の為うっかり話してしまい『こいつやべぇ』的な目で見られたこともある。話がそれたので、軌道修正する。

平塚先生にガンを付けられたので佇まいを直し適当な事を言う。

 

 

「す、すみません。宇宙と交信を計っていました」

「ほう……、できたか?」

『んー、平塚先生はいつもコンビニのお弁当だったりインスタントだよね。とか?』

「……先生はもう少し栄養バランスに気を使え、との事です」

「余計なお世話だ」

 

 

ぷいっとそっぽを向きながら呟く平塚先生。ババァ無理すんな、少し可愛く見えちゃうでしょうが。

 

 

「こほん、比企谷。何を考えている?」

「い、いえ。何故疑問形にしたのかな~、と思っておりました!」

 

 

呼んだ理由であることを挙げれば個人の理由は優先できなくなるだろう。現に平塚先生は納得いってはいないようだが本題に戻ることにしたそうだ。というかさっき俺の心読んだ?

 

 

「ああそれか、そうだな、最後の一文を除けば満点だ」

「最後の一文の何が不満なんですか……」

「抗議口答えは後で聞く。話を続けるぞ」

『八幡、わかってるくせに』

 

 

俺の蚊のような細い声は恐竜の足で踏み潰され誰にも届かなかったようだ。後ハルうっせーぞ、男には負けるとわかっていてもやらなきゃいけない時があるんだよ。

 

 

「比企谷、君のこの考えは実に素晴らしいと思う、他の先生も称賛するだろうな」

「そうでしょうとも、世界が俺に追い付いた様ですね」

「少し黙れ」

「ひゃい……」

『こ、怖い……』

 

 

さっきのほめたたえる表情から打って変わって神すら殺しそうな目付きになる。俺もハルも震え上がってしまった、

ひらつか の にらみつける▼

いちげきひっさつ!▼

はちまん と ハル はたおれた▼

はちまん はめのまえがまっくらになった▼

『にらみつける』一撃必殺技じゃねぇよ。複数に当たるとか強すぎだろ!

 

 

「それでもな、君の『ある一人』は実在するのか?」

「私の杞憂ならいいのだが、私は君が誰かと居るところを見たことないのだが……」

 

 

同情も憐れみも仕事だからの感情も、一切混ざっていない『心配』をされてしまった。思わず感激で『母さん……!』と言うところだったが、明らかに優しさに機関銃ぶっ放す行為なので何とか抑えた。

 

 

『失礼しちゃう、ここにいるよぉ!ねぇ!』

「頼むから質量化するなよ……」

 

 

平塚先生の言葉が心底気に入らなかったようで顔の前で手をブンブン振ったり肩をポカポカ叩く動作をするが、やはり俺以外の目には映らないらしく平塚先生は相変わらず心配の眼差しを俺に向けてくる。

 

 

「どうなんだ?」

「まあ、その人は入院中に会ってそれから偶にしか会えませんからね、仕方ないでしょう」

 

 

入院中にあったのは本当だがそれ以外は嘘だ。まあ現在進行形で隣にいますと言えないし、これぐらいの嘘は許してほしい。

 

 

「そうか……、後君が不気味に虚空に語り掛けているという噂基相談を受けているのだが」

「それきっとアレですよ。ぼっちにはエア友達の『トモチャン』がいるんすよ」

「哀しすぎるだろ!?」

『ハルちゃんだよー』

 

 

俺としましては不気味がられて相談されている方が悲しいのですが……。そして暫し黙ってくれトモチャン、うっかりお前に返事しちゃいそうで怖い。

 

 

「ハァ、つまりエア友達を作る位には人恋しいのだな」

「どうしてそうなっちゃうんですか……」

 

 

何か急に飛翔したぞ。ハルも『ふぇ?』と言う感じの表情してるし、それに決めつけ良くないです、逆に考えれば人恋しくないからエア友達で満足してるんですよ、側に居るのはエアじゃなくてプラズマだけど。

 

 

「違うのか?」

「ええ勿論です。友達は多ければ良いという訳ではないでしょう」

「それはそうだが、同じ高校に一人ぐらい居た方が何かと助かるだろう」

 

 

確かに助かる。だが

 

 

「……俺には借りを返す当てがないんすよ」

 

 

俺が貸し借りを考えずに接することが出来るのは小町とハルだけだ、この二人だけでいい。ハルはまだ出会って一年しか経っていないが一つ屋根の下で暮らした仲だし、小町は言わずもがな十五年兄妹をしてきたのだ、今更気にする方が難しい。

 

 

「そうか、比企谷……」

『クス、八幡らしいね』

 

 

少し困ったような表情でくくっと笑う平塚先生。その目はめんどくさい奴だなと思いながらも放っておくことが出来ない大人がいた。その近くにはぺたんこ座りで空中を漂っているハルがいつもの笑顔で笑っている。少し恥ずかしいんですが……。

 

 

「君は破滅的に人間関係の構築に向いていないな」

「知っていました」

 

 

生まれて五年ほどで薄々気づいていました。完璧に自覚したのは中三位ですけど。

 

 

「そんな残念な比企谷にプレゼントをやろう」

「え、結構ですし、面と面向かって残念とか言わないで下さいよ」

『プレゼントだって!何かな何かな?』

 

 

ハルよ、質量化してまで袖を引っ張らないでくれ。誰かに気付かれたらこの学校に居づらくなるぞ、青い焔のエクソシストさんが来たらどうすんだ、サイン貰っておこうか?

 

 

「さあ、ついてきたまえ」

「拒否権はありま」

「無い」

 

 

いぇーい!即答即効大否定!同じアホ毛を持つ何かを受信してしまった。俺としては第一位(金持ち)に一生養ってもらいたい。あー、どっかに学園都市の第一位落ちてねぇーかなー。

 

 

「ああ、後レポートは再提出だ」

「へい」

『…………』

 

 

今度は当たり障りない事を書いておこう、昨日は11時に寝ました!位当たり障りない事を書こう、もう一回言っておくか?結構だな。

……丁度特別練への通路に入ったあたりからハルの様子が可笑しいな。

 

 

「……ハル」

『…………』

「ハル」

『ん!? な、な、なぁに?』

 

 

露骨におかしい、目の前に平塚先生がいるから会話に集中できないがわかることは分かった方がいいだろう。この先に嫌な物でもあるのだろうか、魔封じの炊飯器とか。

 

 

「大丈夫か?」

『んー、どうだろ?居づらかった外に出ちゃうから大丈夫かな?』

「……無理すんなよ」

『はーい!』

 

 

元気よく返事してくれるのは良いんだが、返事より表情を優先してほしかったぜ。めっちゃガッチガチだぞお前。

 

 

「と、ここだ。入るぞ」

「え、説明無しですか」

 

 

着いたやいなやノックすらせず扉を開ける。誰もいないならともかく、態々離れた此処にまで連れてきて誰もいないという事は無いだろう。結論は平塚先生も女性なんだから礼儀作法気にしてください。

 

 

「……平塚先生。ノックを」

「したところで返事をしたことが無いだろう」

 

 

そこにはまるで一枚の絵画のような風景が広がっていた。そして察した。この少女が男女問わず皆の視界に入る程の輝かしい人物、雪ノ下雪乃だと。そして顔のパーツが所々ハルに似ている。つまり

 

 

『あ、はは。やっぱり雪乃ちゃんだ……』

 

 

彼女は『陽乃』の妹『雪乃ちゃん』ということだろう。思わぬ邂逅に絞り出したかのような笑い声を上げるハル、俺には想像もできないが思う事があるのだろう。まったく……、これからの青春が不安でならないぜ。




後書き (読まなくても何な問題ありません)

初めにここまで読んで頂き誠にありがとうございます。ユーレイが残留思念なのは初めから決まっていたのですが、それを匂わせることが出来なかったのは完全に私の実力不足です。申し訳ありません。さて「病院の幽霊」は前回で終わり、今回は原作に入る「学校の幽霊」です。ですがそのまま続けてもグダグダになるのが目に見えます、ですから原作のやりたい回とオリジナル回をやりたいと思います。

それとこれは只の愚痴に過ぎませんがスランプの様なものになってしまいました。今まではキーボードに手を乗せているだけで適当な物語が出来る、それを修正して投稿していたのですが何も書けません。「病院の幽霊」は真面目にプロットを作ったので難を逃れましたが「学校の幽霊」はもろに影響を受けています。一応更新ペースは落とさない予定ですがいつまで持つものか……。すみません本当に愚痴ですね。

そして最後に改めて読んでくれた方々評価をくれた方々ブックマークをしてくれた方々コメントをくれた方々、本当にありがとうございます。

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