病院の幽霊   作:最下

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病院日誌②

 

「夢か……?」

 

 

授業中に寝た位のスッキリ感を伴って起床した。時間を見れば起床時間を設定されてる数分前、しばらくしたら看護婦さんがカーテンを開けがてら顔色のチェックに来るだろう。それはどうでもいい。今気になることはユーレイとやらが夢かどうかだ。夢ならOK、現実なら対応に悩む羽目になる。フランクな美少女幽霊とか超困る。だって私童○ですから(キリッ。

 

 

「おはようございます。比企谷さん」

「あ、おはようございます」

 

 

この「あ」は「嗚呼」を略称したものであって決してコミュ障特有のアレではない。「嗚呼」とは「物事に深く感じたり驚いたりした気持ちを直接表す語である」。……結局話しかけられて驚いてるじゃねぇか。

 

 

「……今日はいい天気ですよー、中庭で散歩もいいかもしれませんね」

「機会があったら……」

 

 

反射的にほとんど否定の語を出してしまう。癖になってんだ、否定するの。ただの屑野郎だそれ。まぁこれもぼっちスキルである。中学後半で身に着けたスキルは必要な時も必要ない時も発動するアクティブスキルなので掛け直しや発動ミスはない便利スキルだ。

 

 

「それでは失礼します。少ししたら朝食が運ばれてきますのでよく噛んでくださいね」

「あ、どうも」

 

 

……ほら、勝手に発動するだろ?ちなみに少ししたら朝食が運ばれてくるというのは嘘だ、起床から1時間ぐらいたって運ばれてくるからな。ソースは昨日。

 

 

「おはよー、八幡くん。ご機嫌いかが?」

「……朝から出てきていいの?」

 

 

拝啓、親愛なる妹へ。朝一に幽霊が床から出てきて挨拶をしに来てくれました。前回と同じように彼女と同じ部屋にいると寒気と胸辺りに重みを感じます。ここで私が巨乳になったとかだったら気持ち悪いですが、残念ながら心臓部への重みです。胸板は堅いです、あなたは頼りないと言いますが頼りがいがある胸板です。敬具

 

 

「いいのいいの、それより、おはよ」

「おはよう……」

 

 

うむ、落ち着いて考えれば幽霊は元人間だ。なら幽霊だからと考えなくて人と考えれば……、緊張してきた。やっぱ幽霊と思う事にしよう。何なら全ての生きてる人間も幽霊と考えれば、俺のコミ障も治るかもしれないが、それはやばい人だ。

 

 

「で、何用?」

「わたしと話せる人は八幡くんしかいないから」

「暇なのね」

「まあね」

 

 

なら丁度いい。俺も暇すぎて死にそうなところだ。暇すぎて雑談もありかなと思考が傾くぐらい暇だ。それに今頑張れば高校では自然に話せるかもしれん。つまり友達が出来る可能性が微粒子レベルで存在するという事だ。

 

 

「そうか、とりあえず入口から入ってくれないか?」

「えー、ノックも出来ないし意味ないと思うけどなー」

「漫画持ってたやん……」

「ちがう、心霊現象だー!って騒がれるのがヤなの」

 

 

成程。確かにノックが響くが誰もいないというのはただの怪談だな。目の前に幽霊が居といて今更怪談を恐れる理由は無いが。しかし幽霊というのは壁や床をすり抜けるのに物が持てたり不思議。正にこの世の理に縛られぬ者だな。おっとまたつまらぬ黒歴史を刻んでしまった。

 

 

「誰もいないのに喋る少年も怪談レベルじゃね?」

「この部屋は防音性遮音性に優れてるっぽいから沢山おしゃべり出来るよ」

「へー、なら問題ないのか……?」

「だいじょうぶ。ねぇ、八幡くんって幾つ?」

 

 

寝る前みたいに質問タイムか、俺別に転校生じゃ……、似た様なものか? まあいい、色を付けた返しが出来るよう努力するんだ比企谷八幡!俺の高校生活は薔薇色だ!きっとその薔薇は青色ですけどね。

 

 

「15、高校1年生だ。8月に16歳だな」

 

 

うん、色を付けるとかリア充行為は俺には無理だ。諦メロン。いや、相手の返事から話を広げるんだ、諦めるには、まだ、早い!

 

 

「へー、わたしは生きてれば大学一年生かなー」

「なんて返すのが正解なんだよ、これ…………」

 

 

「わぁ、じゃあ先輩と呼びますね!」とでも言えばよかったか?

……これはただの推測だが容姿は10歳前後だ、生きてればと言ったことから死んだまま容姿は変化しないのだろう。8年前ぐらいに死んだと見るのが妥当だ、一般的に考えれば幽霊がこの世に留まるのは未練や恨みが代表的、だがこの少女からは恨みの感情は伝わってこない、心の底に沈めてもその感情は見え隠れするものだ。なら未練か。 どちらにしろユーレイと俺は出会ってから1日も立っていない知り合いだ、俺が悩んでもしょうがないだろう。

 

 

「次は俺な、いや俺です?」

「いいって、わたしは12歳で止まってるしタメ口で」

「そ、そうか、じゃあお前以外に幽霊っているのか?」

「んー」

 

 

人差し指を唇の下に当てて少し考え始める。凄く自然な動作で思わず指を見ると思わず柔らかそうな唇まで目に入ってしまいドキリとする。何これ○貞かよ、気持ち悪い。これは豆知識だが「キモイ」より「キモチワルイ」の方がダメージが大きい、覚えとけ。ちなみに俺はロリコンじゃない、これも覚えとけ。

 

 

「ここにはわたしだけ、でも本とかの心霊現象は再現できるから他のところにもいると思う」

「ほう」

「わたしは地縛霊に分類されるのかな、病院からは出る気になれないし」

「後活気に溢れた場所では薄くなっちゃうからいないかな。ここはいい感じ!」

「それは俺の部屋は活気に溢れてないというのか」

 

 

やめて、その「ちがうの?」ってキョトンと首かしげるのやめて。本当その通りで肯定できちゃうからやめて。

それにしても幽霊本人に話を聞くと納得できる。だからリア充がうぇーいと言いながら挑む肝試しは何もで無い訳だ。例え居てもリア充が幽霊を薄めてる。リア充が聖属性だというのか、そして非リア充は元気ないから幽霊も普通に過ごせて顔を合わせると死ぬほどビビると。

 

 

「順番でわたしね、えーと、」

「ヒキタニさーん、朝食ですよー」

「あ、どうも」

 

 

カーテン開けに来た看護婦さんとは違う看護婦さんが来た。ナースと呼ぶのも有りだが、今日は看護婦さんの気分だ。呼び方を分けることによって「今日はナースがいいな」とコスプレを強要している気分になれる。やっぱり気持ち悪い。というか名前間違ってます。

 

 

「はい、はい。食べ終わったら――」

「――はい。ありがとうございます」

 

 

短いやり取りを終わらせ出ていく看護婦さん。うむ、無駄なやり取りがなくて八幡的にポイントが高い人だった。名前間違えてるけど、名前間違えてるけど。

 

 

「それじゃあわたしは少し時間を潰してくるね」

「ん、いてらー。……入口から出てけよ」

 

 

時すでに遅し。天井を抜けて去っていくユーレイ。そしてユーレイが居なくなるのと同時に胸の重さ、寒気が無くなる。やっぱこれって……、いやだからなんだ。

 

 

「いただきます」

 

 

飯を食おう、看護婦さんに迷惑かけられんしな。後のことは後で考えればいいだろ。後リア充目指すのは疲れたのでもう嫌です。俺の青春やっぱりブルーローズ。


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