病院の幽霊   作:最下

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病院日誌①

ハァイ、皆さん!こんちくわ(*'▽')!知る人ぞ知る比企谷君だよ!僕は今、足の骨折で病院に入院しているんだ!新学校の初めから不安タラタラーだけど頑張るぞ!いぇい!

 

……はぁ、滅茶苦茶暇だ、無理矢理テンション上げても何も楽しくねぇし。念の為説明するとこの俺比企谷八幡は総武高校入学式に犬を助ける為に車に突っ込んで足を骨折しました。俺から突っ込んだというのに何故か病室が個室だし……、いや有り難いけどね。というか誰に説明してんだ、俺は……

 

 

「でもやっぱ暇でござる……」

 

 

うん、暇。持ってきてもらったゲームも漫画も本もこんなに時間があると一瞬で消化してしまう、消灯時間とかもあるしむやみやたらに寝る訳にもいかんし。あー、こんな時に友人がいればなー、どちらにしろ学校で来てくれないだろうけどなー、そのまま縁が切れちゃうよなー、切れちゃうのかよ。

 

 

「……タイマー掛けて寝るか」

 

 

寝るぞ、と思えばすぐ寝れるそれがぼっちだ。それに射的もあやとりもできる。なにそれのび太君?とにかくもうおやすみだ。俺は寝るぞ!起こしてくれるな!

 

 

 

  *  *  *

 

 

「…………」

 

 

ね、眠れねぇぇぇええええ!タイマーが鳴らないせいで超グッスリ寝ちまった。あーあ、ひたすら横になって眠りに落ちるまで待つか。そういえば寝る前にすぐ寝れると言ったな。スマンあれは嘘だ。

 

 

「…………」

 

 

…………

 

 

「…………」

 

 

…………、そろそろ眠りに……

 

 

「…………」

「ふーん、これが新人くんかー。あっ、少女漫画。どれどれ」

 

 

…………、眠りに……

 

 

「…………」

「ほうほう……」

 

 

…………、ん?

 

 

「…………」

「わー、これは惚れちゃうねぇ」

 

 

…………、枕元に少女?

 

 

「どちら様ですか……?」

「わっ、起こしちゃった?ごめ……」

 

 

何故かそこで言葉を切る病衣の少女。歳は10ぐらいか?……そういえばさっきから胸の辺りがズッシリと重い、まさか一目惚れか!?我ながら惚れっぽいとは思っていたがここまでとは思わんかった。

 

 

「まって、わたしが見えるの?」

「は?」

 

 

何この子、電波っ娘?見えるに決まってるだろ、現に肩にかかるくらいのショートカット、艶やかな黒髪、パッチリおめめの病衣ロリが見えてますけど。もしかして俺の眼が腐り過ぎて目が見えない人だと思った?なにそれショック。まぁいいや、もう眠いし。

 

 

「見えません。おやすみなさい」

「いやいや、見えてるし聞こえてるでしょ?」

 

 

そういえば何でこいつ枕元にいるの?ちゃんと扉閉めてたし、扉を開けられた気配は無かった、だがしかし冷気が入り込んでいるのか肌寒いし扉を開けたのか?それともこいつは俺がぼっち過ぎて生み出した幻想か!?いいぜ、俺がこんな幻想を生み出すならそのふざけた幻想をぶち殺す!

 

 

「はぁ、で?どちら様?」

「良かった、見えてるみたいだね」

「別に俺、失明してないんで」

「違う違う」

 

 

首をフルフルと横に振る少女。すげぇフルフルと音が聞こえてきそうな首の振り方だ。フルフルだ超フルフル、電撃袋とか剥ぎ取れそう、電撃文庫は関係ない。

 

 

「わたし、幽霊だもん」

「は?」

 

 

幽、霊……?何だそりゃちょっと病弱なセブンティーンかよ……、別に三千年の怒りとかないからね。いやいや、幽霊なんて居る訳ないだろ、いたとしても俺じゃなくてリア充のところでキャーってやってうぇーいwwとかしてろよ。

 

 

「あー、信じてないでしょ?」

「信じる理由がないからな」

「じゃあこれで信じてくれる?」

「は?」

 

 

そういって幽霊(仮)は浮かび上がり天井を抜けて窓から戻ってくる、そして着席。ハ、ハハ、何だそりゃ、まじもんの幽霊ってか?夢か?現実か?くそ、プロジェクションマッピングとかじゃないのかよ、さっきから街灯の光が幽霊(仮)の身体を透かせてるのは。

 

 

「……わかった、仮に幽霊だとしよう」

「仮じゃなくて幽霊だってば」

「何の用だ?俺は旨くないぞ」

 

 

俺の言葉を聞いてクスクスと楽しそうに笑う幽霊(仮)。やべぇ少女としてみれば可愛いのに幽霊としてみると凄く怖い。食べられちゃう?オマエ、オレ、マルカジリ?

 

 

「クスクス、食べないよ、お腹空かないもん」

「じゃあ何用でござるか」

「クス、それやめてよぉ、ふふ」

 

 

手を口に添えて笑う姿は育ちの良さと可愛らしさを伺わせる。それをみてると……、なにこれ心が温かい。肌は寒いけど。「もん」とか可愛い、「やめてよ」の後に「ぉ」が入るのが可愛い。絶対口には出さないけど。「ござる口調」とかクラスメイトにやったら「は?キモ」とか言われたのに……、目から汗が出てきた……

 

 

「えっと、これといって用はないけど新人くんが来たからね、顔を見ておこうと思ったの」

「えっ、俺幽霊の仲間入り?」

「違うって、入院してきた人の顔は皆見てるの、幽霊は出来ることが少ないから」

「へぇー」

 

 

確かに一般的な幽霊イメージだと、出来ることは少なそうだ。驚かしたり物動かしたりが楽しいとは思えない。特にこの幽霊はそういうのは苦手そうだ。だからといって人の漫画を勝手に読むのはいかがとは思う。

 

 

「クスクス、人とお喋り出来たのは久しぶりだなぁ、嬉しい」

「奇遇だな、俺も家族以外の人と喋ったのは久しぶりだ、嬉しー」

「生きてるのに?」

「生きてるのに」

 

 

不思議そうな顔で聞かないでくれ、泣きそうになってきた。それに生きてれば必然的に友達が出来る訳じゃねぇんだよ、文句あるかこの野郎。野郎じゃないか、この女郎。塩撒くぞオラァ!オラオラすんぞ、オラ!

 

 

「新人くんは面白いね。いつまで入院してるの?」

「2、3週間後までだな」

「そっかぁ、お名前は?」

「比企谷八幡」

「ふんふん、わたしはユーレイでいいからね」

「いいのかよ……それ」

 

 

自分から幽霊呼びを許可するもんなの?幽霊の知り合いとか初めてだからわからない、人間の知り合いもいないけど。まあ当の本人がベッドに転がる様な動作を空中で行うぐらいリラックスしてるから問題ないんだろうけどさ。……幽霊って便利だな、例えば空中で横になれるところとか。

 

 

「とにかく起こしてごめんね? おやすみなさい八幡くん」

「ちょ、ま」

 

 

そういって天井から出ていく幽霊。3つ程ツッコミたいんですが、まず出入口から出てけ、次に名前呼びは驚くからやめて欲しいです、最後に……俺にも挨拶する時間くれてもいいだろ。

 

 

「……おやすみ」

 

 

聞こえるとは思わんがね。


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