先輩のともだち訓練   作:そーだー

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番外編 新年

新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。が若者のアレンジを加えられてあけおめことよろと飛び交う中、そんな教室を眺めている。

毎年恒例の挨拶。比企谷家でも

「お兄ちゃんあけおめ!」

「おう小町今年も可愛いな」

「お兄ちゃんも変わらず腐ってるね!」

「発酵食品は腐ってる事に価値を見出されている様に人間も腐ってる事に価値を見出す事が出来る可能性がある。つまりこんなお兄ちゃんにも価値はあるってことだぞ小町」

「価値は他人が決めるものなんだよごみぃちゃん」

「ぼっちの価値を決めるような他人は周りにいない。よってぼっちの価値は無限大」

といった風に新年の挨拶が交わされた。その後奉仕部で初詣に行ったため、彼女達とは既に挨拶を交わしている。

よってもう挨拶を交わす様な人間はいないだろう。残っているのは大天使戸塚とその辺の石ころこと材木座ぐらいだ。

ふと教室のドアの方を見ると由比ヶ浜が教室に入ってきた所だった。入ってそうそう葉山達の集団にあけおめ!と声をかけている。流れで他のクラスメイト達にも挨拶していた。葉山グループだけではなく、クラス全体とも違和感無く馴染む辺り由比ヶ浜らしいというか。雪ノ下や俺ではまずない行動だ。

すると由比ヶ浜が葉山達の方ではなくこちらに歩いてきた。何か用だろうか。

「あけおめ、ヒッキー」

「おう」

「おう、じゃないよヒッキー!あけおめって言ったらあけおめかことよろでしょ?」

「あけおめに関しては分からなくも無いがことよろってあけおめに続く言葉じゃなかったのか」

「あ、確かにそうかも」

時々この娘は周りに合わせているのではなくただアホなのではないかと思う事ある。

「というかお前と俺はもう挨拶しただろ…何回新年迎えるんだよ」

「そうかもしれないけど…でも言われてみるとそうかな?そうかも…」

由比ヶ浜がうーんと唸っているとその後ろからひょっこり顔を出した天使が現れた。

「あけおめ!八幡!」

「あぁ新年開けて本当に良かった…」

絵面そのものは人の後ろからこちらを見つめる顔という若干ホラーな絵面だが戸塚だからそんなホラー要素は皆無、むしろチラリズムすら覚える最高の絵面だ。

冷静に考えてホラーでも何でもないのだが。

ちょうどその時だった。教室の外にこのクラス以外の人間が顔を出した。

「あ、先輩あけましておめでとうございます」

「ん?あー一色か」

「あー一色か、じゃないですよ先輩…葉山せんぱーいあけおめです!」

葉山は周りとの会話が忙しいのか、手だけ振って返した。それを見て一色は教室に入ってきた。

「先輩、今年もよろしくお願いしますね?」

「後ろ向きにポジティブに頑張る」

「いろはちゃんあけおめー」

「あ、結衣先輩あけおめです!」

気が付けば戸塚は自分の席に戻っており、俺の席の周りには由比ヶ浜と一色だけになっていた。

「で、一色何しにきたの」

「用が無きゃ来ちゃダメなんですか?」

「あざとい、というか用が無かったらお前来ないだろわざわざ」

「用ならもう済ませましたよー」

もう済ませた、という事は今までの行動に答えがある。思い当たるのは一つだけ。

「挨拶する為だけに来たのかよ…葉山とは部活で会えるんじゃねぇの」

「いやいや先輩分かってませんね。わざわざ挨拶しに来てくれる後輩っていうのが欲しいんですよ。ぶっちゃけ挨拶そのものには何の意味もないと思ってますし」

このいろはす怖い。挨拶って大事だよ?俺は普段する相手が居ないけど。

「じゃあ用は終わったんじゃないの?」

「何ですかその用が済んだなら帰れよ、みたいな素っ気ない態度はーあ、もしかして素っ気なくする事で構って貰えるとか思いましたかそういうのは女の子がするものなので先輩じゃ無理ですごめんなさい」

「いや、単純に疑問に思っただけなんだが」

「先輩暇そうですし暇つぶしにいいかなぁと思ったので」

「俺はいつだって世界平和について考えてるから忙しいんだ、悪いな」

「世界平和と可愛い後輩どっちが大切なんですか!」

「比べる対象がおかしいだろ…」

そばでその会話を聞いていた由比ヶ浜は世界平和…と何か考えているようだがきっと由比ヶ浜の考える事だ、 深く考えている訳では無いだろう。

世界平和について考え始めたであろう由比ヶ浜を他所に一色との会話は続く。

「先輩は世界平和を選ぶとみました」

「残念だな俺は敢えて一色を選ぶ」

「世界より君を守るとかベタ過ぎて冗談っぽいので無理ですごめんなさい」

「いや、知らない人達が平和になろうが何だろうが知ってる人を取るな。知りもしない人間の事なんて考える程人間出来てないからな」

「喜ぶべきなのかつっこむ所なのか悩むコメントを有難うございます…先輩って無駄な所で真面目ですよね」

「今のただ屁理屈を並べてみただけなんだけどな」

「なっ」

どうやら見当違いな反応をしてしまった事に気付いた一色は少し恥ずかしそうにした後、きっとこちらを睨んできた。

「先輩性格悪いですよ」

「お互い様だな」

はぁ…じゃあそろそろ時間なんで、と一色は去っていった。ふとした偶然で生まれたこの繋がりは、年が明けてもまだ途切れることは無いらしい。

 


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