「また負けましたー先輩って実は運動系なんですか」
「知らなかったのか俺は超運動系だぞ」
「これからも荷物持ち頑張ってもらえますねー超運動系ですし」
「んなっ」
えへへと勝ち誇った微笑みを浮かべる後輩は卓球場の壁に吊るされている時計を見て、こちらをちらっと見てきた。
何か察しろよという視線に戸惑いながらも、可能性の一つを述べてみる。
「何か食べるか?」
「お、意外にも察しがいいですねー。私的にポイント高いです!」
「さっきから露骨にご飯屋さん見てたろ。誰でも分かる」
「そ、そんなことはないですよ!全然見てないですし!ご飯にがっつく女の子とかそんなの全くないので!」
いつもの振られる時の早口で捲し立てられた言い訳はどうやら本当の事らしい。
いろはすが動揺しているのはなかなかにレアだ。
あざとい可愛らしさからあざとくない可愛らしさになって・・・結論可愛いじゃねえかなんだこれ。
素のこの子基本的に怖いからなぁ…
「お腹すいたならすいたで素直に言えばいいのに」
「女の子が仮にも男の人にご飯にがっつく姿を見せるとか死ねというのですか!?」
「そこまでの事なのか・・・いや、だとしても相手俺だし気にするなよ」
「気にしますよ!先輩はとことん鈍いですね!」
あれーおっかしいなー。
なんで気遣う言葉をかけてあげたはずなのに罵倒されてるんですかね。八幡イミワカンナイ!
そういう趣味はないのでいくらこの後輩が可愛かろうと罵倒されたら素直に受け止めてしまうのである。
「で、何食べたいの?」
「いやそこはせっかく友人らしくなんですから二人で考えましょうよ」
「とは言われてもなぁ・・・友人と食事ってのを経験した事がないから安くて美味しいファーストフード店しか知らないぞ?」
安くて美味しい、それだけではない。
注文してから出てくるまでの時間が短い。
つまり自動的に食べる時間が短くなる。
ということは人が沢山いる食事店で長居しなくてすむというサービス特典までついてくるのだから。
ファーストフード店こそコストとパフォーマンス、つまりコストパフォーマンスがインフレーションしてハピネスをプレゼンしているグレイトな空間では無いだろうか。
おっと意識が高くなってしまった。
「今回に限って言えばそれでもいいですよ?友人同士なら普通そんなおしゃれな所にわざわざ行きませんし。
普通はお互いが楽に過ごせる空間を選ぶ筈です」
「じゃあ家」
「言うと思いましたけどって友人同士って設定なら連れ込めるとか思ってますかそういうのはちゃんと女の子として扱ってくれる時じゃなきゃ嫌なのでまた今度にしてくださいとお願いします」
「そういう反応があった方が普段らしくて楽だな」
「そうですか?変態さんですね」
「やめてくれそのセリフ言われるとなんかあれだから」
はい?何言ってるんですか頭打ったんですかと言いながら一色は少し考える素振りをして一つ頷いてからもう一度こちらに向き直った。
「やっぱり先輩が考えてください。先輩が考える友人同士っていうのも気になります」
今頷いたのはなんだったのか。
友人同士の食事。どうしても頭をよぎるのは彼女達との食事だ。彼女達と行くならどうするかが頭の中をぐるぐると回ってしまう。
頭の中をリセットしたいな。ブラックのコーヒーを飲みたい気分だ。
そこまで考えてひとつの案が浮かび上がった。
「一色、お前ってコーヒーとかいけるか?」
「先輩もしかして馬鹿にしてますか?子供とか思ってません?」
「いやお前って甘い物好きだろ?だからどうなんだろうって思ってさ」
すると、一色が黙った。突然の沈黙に思考が止まる。
え、なにか地雷踏みました?
俺があわあわしはじめた所で少し視線を落とした一色がようやく反応した。
「いえ、なんというか先輩も結構あざといですよね」
「唐突にどうした・・・」
この間も言われた気がする。
本人は何がそう言われるきっかけなのかよくわかっていないんですけどね。
「そうですよ!私は甘い物大好きです!でもコーヒーだっていけますよ!どこに行くんですか?」
「スタバにしようかと思ってさ」
「いいですねー行きましょう!」
やけにテンションの高い一色に付いて行く様にして卓球場を出た。