大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた 作:さくたろう
一応これ単体でも読めるように書いたつもりではありますが上手くまとまってないかもしれません。
感想や気になったことありましたらよろしくお願いします!
春の夜風は心地よい。
一人ならそんなことを思いつつ、酔い覚ましがてらに歩いて帰っているところだろう。
とりあえずこいつどうしよう……
大学の飲み会で先ほどでろんでろんに酔った一色いろはが俺にくっついている。
こいつと再開したのはつい最近で、まさか同じ大学に進学しているとは思わなかった。
確かに関東だし、うちの高校から同じ大学に進学する可能性は低くはないが、俺の記憶にある一色の学力はそこまで高くなかったはずである。
相当勉強したのだろうか、この大学で何かやりたいことでもあったのだろう。
いずれにしても高校時代の知り合いに再会というのは悪くない。
一色は俺の高校時代の唯一の後輩であるし、再会したときは驚きの方が強くはあったが、久々のあざとい挨拶は正直かわいかったのは認めねばならない。
「…一色大丈夫か?」
「…………」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
「一色、起きろ。お前んちどこだ」
「ありぇ、おはようございます。しぇんはい…」
…何この可愛い生物。
つうか酔ってるせいか顔が赤く目がとろんとなっていてヤバイヤバイヤバイ。
「目を覚ませ一色。お前んち教えてくれないと送っていけねえんだよ」
「おきてますよー。でもわたしの家遠いですし、今日はせんぱいのおうちに帰りましょう」
ちょっと待って。何言っちゃってるのこの子。
こんな状態のお前俺の家に入れたら何が起こるかわからねえぞ、主に俺の八幡が起きちゃう。
いや今のは無しで。
「早く行きましょうよ~。なんかフラフラします」
待て待てだからって抱きつくな、やめろ、いい匂い、近い、可愛い。
しかもこいつ少し大人っぽくなってるというか、ちょっと見ない間に色っぽくなりやがって…
しかし、一色のやつマジでフラフラだし今のこいつに聞いても無駄のようだし仕方ないが今日は俺の家に連れて行くしかないか…
断じてやましい気持ちがあるわけではない。
このまま放置するのは流石に可愛そうだし、家が遠く、今の一色に道を聞きながら家に送るのは得策ではないと判断した結果だ。
幸いなことに今住んでる場所はこの飲み屋の近くのアパートなので徒歩で十分な距離である。
しかしそれも俺一人の場合であり、今もなお俺の左側に抱きつきながら意識を失いかけてる一色が一緒の場合は少々骨が折れる。
「せんぱ~い。おんぶしてください。おんぶ~~」
「あぁ、しかたねーな。ほれ早くしろ」
一色におねだりされて俺の108の特技の一つおんぶが発動してしまった。
これも小さい頃の小町をよくおんぶして身につけてしまった特技なだけに年下に強請られると発動するみたいだ。
しかしこいつ軽いな…
でも背中に当たる感触は柔らかい…ってこれは違う違います。
「やっぱりせんぱいは優しいです…」
おいやめろそんな言葉耳元で囁くな。ドキッとしちゃうじゃねえか。てか意識はっきりしてませんかね?
一色を背負って歩きながら答える。
「対小町用スキルが発動しちまっただけだよ」
「うわ…やっぱりシスコンだ」
「ほっとけ……」
「でも意外でした…せんぱいのことだから大学でもぼっち生活してるとおもったんですけどね。ちゃんと友達いるみたいで安心しましたよ。」
「まああれを友達と呼べるものかはわからんがな。あの場所を利用しているだけとも言える」
「素直じゃないですねーせんぱいは。金沢先輩ともいい感じそうじゃないですか」
「なんでここであいつの話題がでてくるんだよ。あいつとはなんでもねーよ」
「せんぱいがどう思ってるかわかりませんがあの人はせんぱいに好意を抱いてると思いますけどね。見てればわかります」
「お前は恋愛博士か何かか」
「せんぱいだって気づいてるくせに…」
「………」
一色の言いたいことはわかる。
正直俺もあいつの好意には気づいてる。そこまで鈍感じゃないし、この1年間でのあいつの接し方を見てればわかる。奉仕部での経験もあるしたぶん勘違いではないだろう。でもだからと言って俺がそれを受け入れるかと言えばそれはまた別の話だ。
サークルに入るきっかけを作ってくれた恩もあるし、あいつのおかげで大学生活が悪くないものだと思った。
しかしそこに恋愛感情があるかと言えば実際の所ほとんどないだろう。それは昔3人で過ごしたあの環境に近いものだ。
とても大切で失いたくない本物…だけれどそこにあの二人のような恋愛感情は俺にはなかった。
でも俺は知ってしまったから。俺とは別の感情…いや本物をあの二人は求めているのだと。
それから逃げてしまった自分がいるのだと。
「似た状況なら知ってるしな。お前に指摘されるとは思わなかったが」
「ずっと3人を見てきましたから」
そう告げた一色の声ははっきりとしたものだった。
実際一色は奉仕部にとって平塚先生を除けば一番近い存在なのだろう。
だからこそ再会してからのこの短時間で気づいたのだ。
「やっぱりお前はすごいよ」
「………」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。(二度目)
まったく素直に関心したらこれである。やはりこいつに関してはよくわからん。
だが俺に影響を与えた一人であることは間違いない。
眠ってしまった一色を背負いながら自宅の玄関をあける。
ちょと掃除しとけばよかったな。
1LDKの間取りのアパートは1人暮らしには十分なスペースであり、逆に広すぎて物を結構その辺においてたりする。
決して掃除がめんどくさいというわけではないです。
電気をつけると明るさで一色が目を覚ましたようだ。
「一色はベッドで寝とけ」
「うーん、せんぱいどこで寝るんですか?」
寝ぼけてるのか酔ってるからなのか、それとも演技なのか一色の発言に力がない。
「俺はその辺で寝るから気にすんな」
「じゃあせんぱいもベッドでねましょ~ほらほら~」
「はぁ!?」
一色のいきなりの提案で素で大声だしちゃったじゃねえか。何この子馬鹿なの?いくら俺が理性の化け物と言われててもこんな可愛い子と一緒に寝たりしたら間違いが起きても不思議じゃねえぞ。
「だが断る」
これでいい。まったく年頃の女の子がそういうこと言うんじゃありません。
「ぶーぶーせんぱいの甲斐性なし~チキンー」
こいつまだ酔っぱらってるだろ…あー朝になったら本人に今言ってること言いたい。
それに…
まぁ今はやめておこう。真面目な話を今の一色にしたところで無意味だろう。
「いいから寝ろ」
聞き分けのない一色の頭に俺の108の特技の一つであるチョップが発動する。
これもよく小町にしたなー。
「イタッ…せんぱいがぶった~~~~」
「酔っぱらいは早く寝ろ」
「酔ってないです!普通ですよ!普通!」
「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ。これマメな」
「せっかくせんぱいの家にいるんですからお話しましょうよ~」
「お前どうせ明日には忘れてるから。そんなに話したいなら明日起きてからにしろ。それなら付き合ってやる」
「え?なんですか付き合ってやるって。なんでそんな上から目線で口説かれなくちゃいけないんですか。わたしはちゃんとお互いが対等な感じで口説いてほしいんで今のじゃダメですごめんなさい」
「はいはい。わかったから今日はもう寝るぞ。俺も今日は疲れた、おやすみ」
そう言って部屋の電気を消す。
「むぅ…おやすみなさい」
眠れないんだよな…
同じ部屋に女の子と二人きりで意識しない方がおかしいだろう。
寝息が妙に気になる。
自分で言っててなんだが一色を一人の女性と意識しているということなのだろうか。
高校時代は可愛い後輩だとしか思ってなかったんだけれどな。
久しぶりに会った一色は可愛い後輩と言うのは何か違う気がした。その何かが何なのかは今の俺には分からないが俺が少し変わったように一色もまた変わったのだろう。
まぁ今はもう考えるのはやめよう。今日は疲れたしそろそろ寝よう。
寝息も落ち着いたし。
「おやすみ、一色」
そう言って俺も眠りについた。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
次回も引き続き二人のお話にする予定です。
感想やアドバイス等お待ちしております。