大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた   作:さくたろう

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どうもさくたろうです!

文化祭後編になります!


そして私たちの祭りが終わる。

 それから私たちがライブ会場につくと、既に大勢の人が集まっていた。

 

「すっごい人ですねー!」

 

「ん、そうだな。まぁ、人気歌手だしな」

 

 それにしても先輩がライブって意外。人が多いのは好きじゃないはずなのになぁ。確かに私もやなぎなぎさんの曲は好きなのでこれは嬉しいからいいんだけど。

 

「そういえば先輩はどうやってチケット入手したんですか? 確か人気ありすぎて入手が難しいって聞いたんですけど」

 

「あー、あれだあれ、知り合いにこういうの入手できるやつがいてな。まぁ、俺この人の曲好きだし、せっかくだから頼んでおいたんだよ。そしたらたまたま二枚手に入ったって言うからお前もどうかなって思ってな。本当たまたまだ、たまたま」

 

 何回たまたま言うんですかねこの人。それに先輩の知り合いって言ったら割と限られて……そうでもないか。大学に入ってからの先輩の交流関係の広さは私じゃ把握できてないし。合コンの時がいい例だしなぁ。

 

「でも私もやなぎなぎさんの曲好きだったので誘ってもらえて嬉しいですよ。ありがとうございますね、先輩」

 

 実際、私もやなぎなぎさんの曲は好きだし、特に「春擬き」が好きで、あの歌詞を聞くと高校時代を思い出す。奉仕部の部室で先輩が二人に言った言葉……

 あれから先輩は「本物」を見つけることができたのだろうか。……私は先輩にとっての「本物」になりたい。

 

「一色、どうかしたのか?」

 

 どうやら難しい顔をしていたらしい。先輩が心配そうにこちらを見てそう言った。

 

「……先輩ってほ「それでは、今からやなぎなぎさんによるライブを開催しまーっす!」

 

 タイミング悪いなぁ。

 司会の男性の言葉で会場のボルテージが一気に上がる。隣にいる先輩も少し興奮気味でステージの方に目をやる。ステージの端からやなぎなぎさんが現れて、挨拶をする。挨拶中、そういえばこの人の普段の声初めて聞くなぁとか、意外と可愛いなぁとかそんなことばかり考えていた。横を向くと、さっき以上に興奮している先輩、こんな顔もできるんだ。

 挨拶が終わり、やなぎなぎさんが歌い始める。ファーストシングルのビードロ模様から始まり、次々に歌っていく。ユキトキを歌っているとき、先輩は懐かしい過去を振り返るような、どこか儚げな表情をしていた。それからもライブは続き、最後に春擬きを歌い始める。

 曲を聴いてると思い出す懐かしい高校時代……、あの日、あの場所で先輩たちの会話を聞いてから私は、隣にいるこの人に惹かれたんだ。横目で先輩を見ると何かの決意を固めたようなそんな表情をしていた――

 

 

 

 やなぎなぎさんのライブが終わり、私たちは会場を後にした。先輩が珍しく饒舌になり、感想を私に語りだすのがなんだか微笑ましくて、そんな時間がとても幸せだった。

 時刻は二時ちょっと前、私たちは次の目的地に向かう。

 

「なあ、ところで次って何するんだ?」

 

 目的地に向かう途中、先輩から質問される。

 んー、ここで本当のことを答えると先輩のことだから出てくれないだろうしなぁ。さて、どうしたものですかね。何か上手く先輩をだま、説得する方法……、餌で釣る方向でいこうかな。

 

「ちょっとしたイベントに参加しようかなと思いまして。その賞品がなんとですね、マッ缶一年分らしいんですよ! ただそのイベントは二人じゃないと参加資格がないらしいんですよー。先輩のことだから出たいと思って」

 

「そんなイベントあったか? 日程にあるこの時間のイベントってカ「今日!! 急遽決まったらしいんです! だから急ぎましょう、先輩!」

 

 先輩の言葉を遮り、手を握って目的地まで連れて行く。どさくさに紛れて握った手は、初めて手を繋いだときのように少し汗ばんでいたけど、先輩が照れてるんだなと思うとなんだか少しだけ嬉しかった――

 

 

 

 コンテスト会場に到着し、参加者の列に並ぶと、やはりというか参加者の人たちが集まっている。周りがカップルだらけなわけで少し場違い感がしてきた。リア充爆発しないですかね? 

 

「……一色これってカップルコンテストだよな?」

 

 流石にここまで来たら言い訳しても無意味なわけでして、それなら潔く本当のことを言ったほうがいいかな?

 

「で、です」

 

「帰る」

 

 先輩は方向転換して歩き始める。それを止めようと襟裏を掴むと「ぐえっ」と気持ち悪い声をあげる。

 

「……何すんだよ」

 

「せ、先輩が帰るとか言い出すからですよ!」

 

「だってお前、これカップルコンテストだよ? 俺らカップルじゃないだろ。まず参加資格がない」

 

 うぐっ、それはそうですけど。

 

「せっかく碧に参加書類もらいましたし、というか店番変わってもらってるんで借りは返さなくちゃいけないんですよ! だから……お願いします、せんぱい……。わたしと一緒に、でてもらえませんか……?」

 

 私が先輩を見つめながらそう言うと、少し困ったような表情を浮かべた後、「はぁ……」とため息を吐いて口を開いた。

 

「わかったから、そのあざといのやめろ」

 

 言いながら私の頭に軽いチョップを入れる先輩、そんなに今のあざとかったですかね? いやまあ狙いましたけど。というか段々雑になってませんかね、扱いが! 

 お返しに先輩の頭を叩いてやろうと、ちょっとだけ背伸びをし、先輩の頭を狙ったけどバランスを崩して先輩に抱きついてしまった。

 

「「…………」」

 

 少しの沈黙の後、周りからの視線や「おーやるなぁ」なんて声で我に帰り、恥ずかしさのあまり抱きついた先輩から離れる。

 

「あ、す、すいません……」

 

「お、おう……」

 

 きっと今の私の顔は真っ赤だ。多分先輩も――

 

 

「次の組の方ーお願いしますー」

 

 どうやら私たちの番のようだ、あれから少し気まずくなってしまってお互い無言で列に並んでいたけど、それも終わりのようで一安心。

 係員に参加書類に名前を書いて提出すると、男女別の部屋で待機ということで先輩とは別の部屋に移動する。部屋に入ると携帯電話を預けるように言われ、持っている携帯を預ける。その後、質問用紙のようなものを渡された。待っている間に書いていて欲しいとのこと。

 

 質問用紙を書き終えてしばらくすると、係員の人に会場へ案内される。出場者が全員揃うと司会の人が挨拶をし、カップルコンテストがいよいよ始まる。

 

 このコンテストの参加者は三十二人、十六組で争う。ステージに上がると大きな板があって、腕一本くらい入るような穴が十六個ほど空いている。

 

「それではルール説明です! これから彼女さんたちには、板の向こう側に行き、自分の腕を空いている穴からこちらに出してもらいます。彼氏さんはそれを見て、自分の彼女だと思う手を握ってください! 間違えた場合、誰か一人が正解するまで次の手を握ることができません。勝ち抜けた上位八組が準決勝に駒を進めます! なお身につけているアクセなどは外してもらいます」

 

 司会者からの説明が終わり、私は板の向こうに案内される。

 でもこれってあれじゃないのかな、向こう側の人が間違って私の手を握るってこともあるんだよね? うわっ、それは嫌だなぁ……、先輩、頑張ってくださいよ?

 

 板の向こう側から司会者の「それでは始めっ!」という声が聞こえた。

 合図と共に向こう側から足音がする。一人一人自分の彼女の手を探しているんだろう。

 開始して一分もしないくらいに私の手が握られた。このちょっと手汗をかいた手を……私は知ってる。

 

「比企谷さん、正解です! まずは初戦をトップ通過!」

 

 板を回り込んで先輩の方へ駆け寄る。

 

「先輩遅いですよー、下手したら私の手を違う人に握られちゃうところだったじゃないですか!」

 

「いや、トップだっただろ? なんで貶されてるの俺」

 

「そんなことより! 私を心配させた罰としてこれが終わるまでの間、私の手が誰かに握られないように手を握っててください」

 

「え、何それ……」

 

 最初は嫌そうな顔をしていた先輩、でも私がしつこく手を握ろうとするのに観念したのかそっと手を差し出した。その手を握って満面の笑みを先輩に向けると、ちょっとだけ照れくさそうにしていた――

 

 トップで準決勝に進出した私たちはそのまま他の組が彼女の手を握るところをみていた。ドヤ顔の彼氏が別の人の手を握っていた時は思わず鼻で笑ってしまった。

 しばらくして残りの準決勝進出者たちが出揃い次に進んだ。

 

 準決勝――司会の人から先ほどと同じようにルールが説明される。どうやら準決勝は早押しクイズ形式らしい。彼氏と彼女に分かれてお互いがどれだけ理解しているかチェックするというもの。なるほど、さっきの質問用紙はこのために書かされたようですね。決勝進出組は三組。つまりここで半数以上が落とされるというわけですね。

 

 司会者が壇上に上がり問題を出し始める

 

「それでは始めたいと思います。四問正解したカップルはその時点で決勝戦進出が決まりますので頑張ってください! まずは彼女の方に問題です! 彼氏の好きな飲み「マックスコーヒー!」

 

 司会者が問題を最後まで言う前に答える。司会者が私の彼氏である、あっ、彼氏役である先輩の質問用紙をみて答え合わせをして「正解!」と叫ぶ。

 

 ふっ、こんなの楽勝じゃないですか。この調子なら決勝に上がるのは余裕そうですね。リア充何かに負けてたまるもんか。

 

「では第二問です。次は彼氏さんに問題です! 彼女の得意なりょ「肉じゃが」

 

 今度は先輩が司会者が問題を言い終わる前に答える。もちろん私は正解を知っているわけで、それが当たっていることは知ってるわけで。さっきと同じように司会者が答えをを見て「正解!」と叫んだ。

 肉じゃがを書いたのは前に先輩の家で披露したからだけど、書いてよかったなぁ。

 

「比企谷、一色カップルが今のところトップです! それでは第三問、彼女さんたちへの出題! 彼氏が世界で一番愛し「小町ちゃん!」

 

 こんな問題簡単すぎますね! ここで私って言うと絶対不正解なわけで、先輩が愛しているといえば間違いなく小町ちゃんだ。

 司会者がが先輩の質問用紙を見て答え合わせをする。

 

「一色さん、不正解です! そこは自分の名前を言っておくべきでしたねー。不正解の比企谷、一色ペアは次の問題で一回休みです」

 

 あれ? 間違った? 絶対小町ちゃんだと思ったんですけど……。ふと、先輩の方を見ると一瞬目があった気がしたけど、すぐに先輩は司会者の方を向いてしまった。

 一度の休んだあと、また私の番からスタートする。

 

「それでは第五問! 彼氏の将来のゆ「編集者!」

 

 よっし、流石にこれは当たったでしょ!

 

「正解です! これで比企谷、一色ペアは決勝戦進出リーチになりました。では第六問! 彼氏さんに出題です! 彼女が今一番楽しみにしていることはなんでしょう!」

 

 これは問題が難しい……私はもちろんあの事を書いたけど、楽しみとか漠然としすぎている。周りのカップルもまだ誰も答えない。

 

「……旅行」

 

 先輩が小さな声で何かを呟いた。

 

「はい、比企谷さん、もう一度大きな声でお願いします!」

 

「温泉旅行」

 

「……正解っ! 比企谷、一色ペア、またもやトップで決勝戦進出! これは優勝候補の大本命になるかーっ!」

 

 わーっと歓声が鳴り響く。問題に集中していて気づかなかったが周りを見渡すと大勢の人がこのコンテストを観戦していた。

 それから残りの決勝進出組が出揃い、決勝戦へと進んだ。

 

「それではお待ちかね、決勝戦を行いたいと思います! ルールは簡単、これから順番に私が各カップルに質問をさせて頂きます。それを答えてもらい、最終的に会場にいる百人の審査員にどの組みが一番良かったのかを選んでもらいます!」

 

 それから各カップルに質問がされていく。順番的に最後の私たちは他のカップルの質問の答えを参考に聞いていく。質問は大体、惚気話をしてください的なことで、ここまで残っているだけの事は有り、他のカップルは中々の甘いエピソードを語っていく。

 

「それでは一色、比企谷ペアに質問です、まずは一色さん。最近、彼氏を惚れ直した瞬間はありますか?」

 

 惚れ直した瞬間ですか。うーん、もう常に惚れ直してる感じなんですけどね……

 

「そうですねー。先輩と一緒にいるともう常にトキめいているんですけど、やっぱり先輩の誕生日にデートしてケーキを作ったんですけど、それを普段は滅多に褒めたりしてくれない先輩が、寝ている振りをしている私に、感謝の気持ち言ってくれて、それが本当に嬉しくて惚れ直しちゃいましたかね」

 

 隣から「起きてたのかよ……」とかいう声が聞こえたけど聞かれてたのがよっぽど恥ずかしかったのか俯いてしまった先輩。

 

「なるほどなるほど、それでは比企谷さんに質問です。最近彼女が可愛いなと思ったことを教えてください」

 

 俯いたままの先輩は少し考えた後、口を開く。

 

「そうっすね、まあ、こいつといると毎回可愛いと思うことだらけなんですけど、最近だったら泊まりに来たとき寝言で『せんぱい……せんぱい……』とか言って人の枕を思いっきり抱きしめてたことですかね、正直あれにはやられました」

 

 え、え? 何、私そんなこと言ったりしてたんですか!? い、いや、これはあれですね、勝つための先輩の策略であって、実はそんなことなかったんだぜ! ってやつでしょ? 私がそんなこと言うわけな……くもなさそうで否定できない……

 

「なるほど、なるほど。みなさん中々の惚気っぷりですなあ。それでは最後にお互いのことをどれくらい好きか答えてもらいましょう。まずは一色さんお願いします」

 

 どれくらい好きかですか。正直言葉では言い表せないくらい好きなんですけど。

 

「そうですねー、高校一年生のころから今までずっとかた、好きで、まだ付き合ってなかった先輩を追いかけて同じ大学に入るくらいは大好きで、これからもできることなら一生一緒にいたいなって思ってます!」

 

 再びわーっと歓声が鳴り響く。そんな良い事言いましたかね?

 

「では最後に比企谷さんお願いします!」

 

 先輩は一度深呼吸をし、何かを決意したような表情で口を開いた。

 

「正直、どれくらいこいつのことを好きかとかを言い表せる気がしない、……それでも一色のおかげでいろいろと変われたこともあるし、大学で再会してから一緒にいる時間がどんどん増えてって、一昨日より昨日、昨日より、今日って着々と俺の中の一色が大きくなってくるのがわかるくらいには好きだ」

 

 ……先輩にしては大分喋った気がしつつ、これがもし本音だったらなと思うと、私は恥ずかしさのあまり顔を伏せた。

 

 それから審査員の百人がボタンを押してどのカップルが一番良かったか選んでいく。

 司会者がステージの中央まで歩いてきて結果を発表する。

 

「投票結果が出ました! 一位は五十二票で比企谷、一色ペアです、おめでとうございます! 会場の皆様は盛大な拍手を! それでは比企谷さん、一色さんステージの前にお越し下さい」

 

 そう言われて中央の方に向かう私たち。歓声がすごくて「いろはちゃーん!」なんて声も聞こえる。

 

「では優勝者のお二人です! もう一度盛大な拍手を! 二人にはペアのブレスレットと二泊三日の旅行招待券が贈られます」

 

「「え?」」

 

 二人して同じ反応をしてしまう。旅行券がついてくるのは意外だった。小町ちゃんのもあるし、これどうしますかね……

 

「それにしても比企谷さん、一色さんの服装は比企谷さんの趣味ですか? 羨ましいですね~」

 

 ……? 言われて気づいた……そういえばラーメン屋台からずっとメイド服のままだった……、なんだか急に恥ずかしくなってしまって先輩の後ろにかくれる。

 

「い、いやこれはサークルのラーメン屋台での服装なんすよ……」

 

 司会者がなるほどなるほどと相槌をうち、そこでインタビューが終わり表彰式が行われた。

 表彰式中、「比企谷変われー」などの言葉も聞こえたけれど、まあ変わらせる気はないです。

 

 無事に表彰式を終えた私たちは、ラーメン屋台に向かった。途中、回れていなかった出店などを先輩と一緒に徘徊しながら文化祭を楽しんだ。やっぱり文化祭と言ったら出店のイメージありますもんね。

 

 ラーメン屋台に着くと碧と金沢先輩が出迎えてくれた。

 

「いろはー、お疲れ! で、どうだった!? 優勝できた?」

 

 碧の質問にVサインで答える。それを見た金沢先輩が先輩に「良かったね」と言うと先輩は恥ずかしがりながら頭を掻いていた――

 

 

 

 慌ただしかった文化祭も終わり、疲れた私はそれを理由に今日も先輩の家に泊まることにした。もはや断ることをしなくなった先輩、なんだか嬉しいんですけどちょっとさみしいですね。

 帰り道、文化祭の荷物をさり気なく持ってくれる先輩の姿にクリスマスイベントのことを思い出す。

 ふと、先輩が口を開く。

 

「なあ、一色……。クリスマス空いてるか? 一緒に旅行にでも行かないか」

 

「……ぜひっ」 

 

 

 

 

 

 そして私はクリスマスに告白しようと決意した――

 

 

 

 




どうも、最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回でこのシリーズも最終話の予定です。

なんというかSSを書いたのもこの作品が処女作なので、終わりが近づくと嬉しくもあり、ちょっと寂しくもありますね。

では最終話の方もよろしくお願いします!

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