大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた   作:さくたろう

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どうもさくたろうです。

文化祭のお話になりますが、思った以上に文量が多くなりそうなために2部構成にさせてもらいました!


私たちの祭りが始まる

 十一月、いよいよ私たちの大学の文化祭当日。

 碧たちはサークルには入ってないので適当に遊びに来るって言ってたっけ。

 私はというと、文芸サークルでの出し物であるラーメン屋台の準備をしている。

 

「いろはちゃん、これ着てもらえるかな?」

 

 そう言った金沢先輩が手に持っているのはメイド服。え? なんでメイド服なんて持ってるんですか? というかなんで金沢先輩メイド服着てるんですか。

 ニコニコ笑顔で「早く、早く」と言われるけど、こんなとこで着替えれませんから! それにメイド服とか……あ、でもちょっとだけ着てみたいかも。これ着て先輩に言い寄ったらどんな反応するかな?

 

「きっと喜ぶと思うよ?」

 

 心を読むの本当にやめてもらえませんかね? さっきからずっとニコニコしながらこっちを見てるし……これってあれなのかな、前にあった貸しをこれで返せってことなんですかね……。それなら断れないんですけど。

 高校時代の先輩もこんな感じだったのかなと思いつつ、更衣室に向かい、金沢先輩に渡されたメイド服に着替える。ラーメン屋台にメイドっているんですかね……。

 

「わー! いろはちゃん凄い似合ってるよ、ほらハッチー見て!」

 

 私がメイド服に着替えて屋台に戻ると、ちょうど先輩もその場で休んでいた。どうやら屋台の方の準備を終えたのかな。金沢先輩に言われてこちらを振り向くと、一瞬目を大きくさせていたけどすぐに目を逸らされた……

 なんなんですかね、そんな露骨に目を逸らしますか普通……

 先輩に目を逸らされたのが悔しくて、そのまま先輩の方に詰め寄る。

 

「……ご主人様……なんで目を逸らすんですか……?」

 

 うん、自分で言ってても中々恥ずかしいですねこれ。

 言われた先輩はどうやら私以上に恥ずかしかったらしく、耳まで真っ赤になっていた。どうやら効果はあったようですね!

 

「はい、そこー、イチャついてないで最終確認するよ~。いろはちゃんと私、あと二人がメイド服での接客、ハッチーたち男子は屋台の仕事ね。わかったかな?」

 

 あ、やっぱりそうですよね。この格好で接客するためにメイド服渡されたんですもんね。もしかしたら違うんじゃないかなと期待した私が馬鹿でした!

 ため息をつくと誰かに肩を叩かれた。金沢先輩だ。

 金沢先輩は、私の耳元に口を近づけ、内緒話するかのように話しかけてきた。

 

「いろはちゃんとはっちーは午後からフリーだからそれまでは頑張ってね?」

 

 午後からフリー? ていうことは午後からは先輩と一緒に文化祭を楽しめるってことですかね! よっし、気合入ってきましたっ!

 

「なぁ、一色……、あー……、えーと……お前午後暇か? もしあれだったら一緒にまわらねえ?」

 

 …………え?

 あれ? 今、目の前にいるこの人なんて言いました? 私の聞き間違いじゃなければあれです、あれ……、えっと先輩の方から誘ってくれた? 本当に? ドッキリとかじゃないよねこれ。そこからカメラもった碧たちが出てくるとかないよね……

 

「え、えっと……こちらこそ、お願いしましゅ……」

 

 噛んでしまった……、いや、ていうか先輩のせいですし! いきなり誘ったりするから、不意打ちなんて卑怯じゃないですか……何ですか彼氏気取りですかどうぞ気取っちゃってくださいお願いします!!

 てか何笑いこらえてるんですか、そんなに私が噛んだのがおかしいですか。悔しい悔しい悔しい……! 後で覚えておくんですね……

 

 

 

 それから間もなくして開始のアナウンスと共に今年の文化祭が幕を開けた。

 

 

 学祭でラーメン屋台なんて人が来るのかな、なんて思ったけどどうやら杞憂だったみたいだ。ラーメンの味も評判がよく、時間が経つにつれてお客さんが増えていく。それを見ながらニヤニヤと麺を茹でる先輩、ちょっとキモイです。どうせ「俺の作ったラーメンにひれ伏せ!」とかくだらないことでも考えているんですよ、あの人。っと、よそ見してる場合じゃなかったかな。女子メンバーもお客さんが増えていくにつれ、接客の仕事が増えていく。しかも、メイド服を着てるせいか、やたらと話しかけられたりするから困ったものだ。まぁ、メイド服のおかげでお客が来ているところもありそうだし仕方ないかもしれないけど。

 

「いろはちゃ~ん、こっちお水ちょうだーい!」

 

 忙しいんですからお水くらい自分でやってほしいんですけどねー。しかも酌みに行ったらやたら話しかけられるし……

 

「……チッ」

 

 ん、なんか今どこかから舌打ちが聞こえた気がするんですけど? 音の出処を出処を探そうと周りを見渡すと、さっきまでニヤニヤしながら麺を茹でていた先輩が今度はこっちをずっと睨んでるんですけど、なんですかねあれ。先輩の睨みにびびったのか、絡んできた男子学生の人は大人しくなった。ふむ、これは感謝しときますか。先輩の方に駆け寄り、「先輩、ありがとうございますね?」と一言伝えると、「いや、別に」と照れくさそうに返事をしてくれた。

 

 昼時になり、お客もさらに多くなってきた。

 なにやら後ろの方から笑い声がする。

 

「いろは……、あんたっ……何っ、そのかっこ……」

 

 振り向くと、碧たちが必死に笑いを堪えながらこっちを見ている。……あ、見られたくなかったのに……。というか碧、笑いすぎじゃない? もう堪えきれてないんですけど?

 

「あ、碧ちゃん、こんにちはー」

 

 金沢先輩も碧に気づいたようでこちらに近づいてきた。

 

「美智子さん、こんにちは!」

 

「ちょうど人手が足りなかったんだ! これ着て手伝ってもらえるかな……?」

 

 金沢先輩がそう言うと「えっ!?」と驚いてこちらに助けを求める碧。ふっ……いい気味っ。必死で断ろうとしている碧だけど、金沢先輩が碧の耳元で何かを呟くと、「はぁ……なら仕方ないか」と納得し、涼香たちも巻き込んでメイド服を持って更衣室に向かっていった。

 

「じゃあいろはちゃん、もう大丈夫だからハッチーといろいろ回ってくるといいよー」

 

 おっと、もうそんな時間ですか。せっかくの文化祭だしお言葉に甘えるとしますかね。そのまま金沢先輩に挨拶してメイド服を着替えようとすると「あ、でも本当に大変な時は呼ぶからそのままでいてね」と言われたので、仕方なくそのままでいることに。このままの格好って結構恥ずかしいんですけどね……

 先輩も終わったようでこちらに向かってきた。

 

「そ、そんじゃあまぁ……いくか?」

 

「あっ、は、はい!」

 

 先輩と二人でラーメン屋台を離れようとしたとき、ぱたぱたと碧が走ってくる。メイド服意外と似合ってるし……しかも、胸元が揺れ揺れでわざとやってんの? と疑いたくなる。……あ、こけた。半泣きになりながらもこちらまで向かってくる。なんでそんなに慌ててるのこの子。

 

「はぁ、はぁ……、いろは、これ……」

 

 碧から手渡されたのはカップルコンテストの参加書類だった。って、え?

 こちらを向き、グーサインをする碧、いや、グーじゃないし! そもそも先輩とはまだカップルじゃないんだけど? 何これ嫌味?

 

「大丈夫、あんたたちなら絶対優勝するから! あと店番変わってあげてるんだから拒否権はないからね?」

 

 え、え、え? 何が大丈夫かわからないんだけど……? でも私たちの代わりに働いてもらってると言われたら断れないわけで……

 

「……わかったよ」

 

「よっし、頑張ってね! 賞品はペアのブレスレットだってさ! イニシャルも入れてくれるらしいよ」

 

 ペアのブレスレット……先輩とお揃い……うん、これは頑張ろう。でも先輩が参加してくれるかが一番の問題だけど。

 とりあえず、まずは先輩との文化祭を楽しむとしよう。今の時刻は十二時を回ったところ、カップルコンテストの受付が二時だからまだ時間はあるかな。

 

「先輩、とりあえずどうしますか?」

 

 どうせ先輩のことだから特に予定は立ててないんだろうなと思うと、意外にもすぐに返事が返ってきた。

 

「ん、とりあえず一時からのライブみないか? チケットあるんだよ。それまでに昼飯食べようぜ。石窯で焼いてるピザがあるらしいんだけどそこでどうだ?」

 

 ほう、ライブですか。……ってライブ!? 今年って確かやなぎなぎさんで、人気高くてチケットの入手困難なはずじゃ。先輩、一体どうやって入手したんだろ。しかもお昼の選択もなんかちょっとだけレベルアップしてるし。とりあえずライブは確か一時間はかからなかったはずだし、この予定で問題なさそうですね。

 

「そうですねー。じゃあそれでいきましょう! あとライブ終わったら私に付き合ってくださいね?」

 

「ああ、いいぞ。じゃあ行くとするか」

 

 それから私たちは石窯で焼き上げるピザのお店に行き、それぞれの注文を済ませる。先輩がマルゲリータで、私がシーフード、メニューの写真はどれも美味しそうで、決めるのに二人して迷ってしまった。

 

「楽しみですね、先輩っ」

 

「そうだなー……でもまぁ、所詮学生の作るピザだからそんなに期待してもあれだが」

 

 先輩、今の発言はポイント低いですよ……まったくもう。

 

 しばらくすると、接客の男の人が二枚のピザを運んできてくれた。写真よりも実物のほうが美味しそうに見える。どうやら先輩も同じ意見のようだ。予想以上の出来だったのか驚いてる先輩の表情は眺めていて楽しい。

 二人で「いただきます」と言い、お互いの品を口にする。パリッと香ばしく、具材との相性も良くて本当に美味しい。先輩の顔も満足げで、どうやら納得のいく味だったらしい。せっかくだし先輩の方も食べてみたいな。

 

「先輩、先輩、せっかくなのでひと切れ交換しませんか?」

 

 私がそう言うと「ほれ」とひと切れ手に取り差し出してくる。ふむ……「えいっ」と先輩が持ってるピザをそのまま口に含む。ちょっと照れてる先輩の顔が愛おしい。

 

「ほら、先輩も私もピザどうぞー?」

 

 手にとったピザを先輩の方に差し出す、ただしピザから手は離さない。まぁ、文句言って食べないんだろうけど……と思ったときだった先輩が何も言わず、そのまま私が手に持っているピザを食べ始めた。

 

「せ、先輩? な、な、なにしてるんですか?」

 

「え、いや、お前がどうぞって言ったんじゃないの?」

 

「いや、言いましたけど、そこはいつもなら文句のひとつやふたつを言うところじゃないんですか!?」

 

 急にいつもと違う事されるとドキドキしちゃうって何回言えばいいんですかね? 

 

「文句言ってもどうせ食べさせられるだろ? なら言うだけ無駄な労力を使うからな。うん、こっちも美味いな」

 

 なんか先輩にしてやられた気分だなと思いつつ、先輩の顔を見ると顔が真っ赤になっていたので良しとしよう。

 

 二人で食事を終え、私たちはライブ会場に向かった――

  




最後まで読んでいただきありがとうございます!

できるだけ早く後編の方あげれるようにがんばります!


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