大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた 作:さくたろう
温泉旅行は一応大事な話にしようと思ってます。
頑張って書くつもりなので楽しみにしていてください!
大学生活で初めての夏休みが終わり、今日から後期が始まる。しかし、今日来ると明日また休みなわけで、どうせなら来週まで休みにしてくれればいいのに。
それにしても、今年の夏休みは実家に帰省していたせいか、いろは達とは遊ぶ機会がなかったなぁ。来年はみんなでどこか遊びにでも行きたいな。
九月の中旬になってもまだ夏の暑さは残っていて、大学内の冷房が心地よい。久しぶりにみんなに会えると思って普段よりも早く大学に着いた私は、ロビーにある椅子に腰掛け涼んでいた。
「あぁ、今日はもうここから動きたくないなぁ……」
「何、おっさん臭いこと言ってんの?」
声のする方へ顔を向けると、いろはが立っていた。
「おはよー、碧。テンション低いねー」
そりゃ九月の中旬だってのにこの暑さはテンション下がるよ。逆になんであんたそんな笑顔なの?
「逆になんであんたはそんなテンション高いの?」
「えー、そりゃ大学始まれば先輩と会える時間増えるし? これがテンション上がらなくてどうするの!」
「へー」
あー、はいはい。何この恋する乙女。朝から私には眩しすぎるんですけど……、からかう気力もない私は適当に相槌を打つ。
「でねでね、先輩の妹の小町ちゃんがね、先輩の誕生日に温泉旅行のペア券くれたの! すごくない? このチャンスものにするしかないよね!」
温泉旅行かぁ……。温泉旅行!?
「え、それって何? 二人だけで泊りがけ?」
「もちろん!」
二人だけで温泉旅行って……いろはさん大人の階段上ってしまうの? あれ、でもいろはと先輩って既に同じ部屋で泊まったりしてるんだよね? なんなのこの二人の関係は……。しかし、比企谷先輩もよくいろはと二人で行く気になったなぁ。まだ付き合ってないんだよね? おかしくない? もう付き合っちゃいなよ……
「まだ時期は決めてないんだけどねー。私的にはクリスマスがいいかな、なんて思ったりしてるんだよね。クリスマスに先輩と二人きりの旅行……」
やっば、マジやばい……。何この子めちゃくちゃにやけててかわ、いや……キモイ! うっかり可愛いなんて言いそうになったけどさ、これいろはの容姿じゃなかったら完全にただのヤバイ人だなんだよねぇ。
「二人とも早いねー、おはよー」
「「おはよー」」
涼香たちが来たので私たちは一限目の講義にみんなで向かう。
「そういえばさっきさー、いろはの先輩、私たちの前にいたんだよー」
「えっ、嘘! ちょっとなんで教えてくれないのーー!」
「いや、いろはいなかったし……」
すごい食いつきようですね、いろはさん。涼香たちの前ってことは、ちょうどいろはが危ない笑顔振りまいてた時か……
「ところでさ、今日いろはと碧暇? 暇だよね? ね?」
何々、どうしたの急に。涼香が今日の予定を聞いてくる。
「んー、今日はサークルも休みらしいし、特に用事ないけど……、碧は?」
「私も予定はないかなぁ……何かするの?」
「今日さー、合コンしようと思うんだけど二人足りないから碧といろは来てっ!」
なんですと!? 合コン? 合コンですか、ついに私も合コンデビューしちゃうのか! 涼香グッジョブ! ……あれ、でも私は良いけどいろははどうなんだろ? 比企谷先輩という想い人がいるのに行くのかな。
「合コンかぁ。んー、あんまり興味ないんだよね」
そりゃそうだよねえ。今のいろはには比企谷先輩がいるし、まだ付き合ってないけど他の男には全く興味ないだろうしなぁ。
「いろはは自分だけが良ければそれでいいの!?」
グイグイいくね涼香……どんだけ必死なの、いや私も行きたいけどさ?
「えぇ!? い、いやそんなことないけど……でもなんか先輩のことが好きなのに合コン行くのも気が引けるし……」
「まだ付き合ってないんでしょ? お願い! 今回だけでいいから私たちを助けると思って! 碧もほらお願いして」
ええーっ、ここで私に振るの? まってまって。いや行きたいけど……
「いろは、今日だけ悪いけど付き合ってくれないかな?」
みんなの期待の眼差しに負けていろはに頼んでしまった……。ごめんね、いろは。
「うぅ……、碧がそういうなら……。でも私何もしないからね?」
「大丈夫、大丈夫! むしろ何かしたらいろは人気でて私たちが困るから!」
「じゃあ、今日だけだよ」
「「「やったー!」」」
どうやらいろはの合コン参加が決定したらしい。でも合コンかー……、楽しみだなっ。なんか大学生っぽいし、やっぱり一度は経験してみたいよね。そういえば相手の人たちってどんな人たちなんだろう。
「相手の人たちはどんな人たちなの?」
私が思ったことをいろはが代わりに聞いてくれた。
「んとね、一応この大学の二年生だよー。私のサークルの先輩が幹事で向こうも友達集めるって言ってた」
へー、この大学の先輩かぁ。確か涼香って陸上サークルだっけ。その友達ってことは体育会系なのかな? 筋肉質な男の人っていいよね……。
「集合場所と日時は?」
もし時間に余裕あるなら気合い入れていきたいしねっ。ちゃんと聞いておかないと。
「18時に○○○のお店に集合だよ」
オーケーオーケー、そこなら割と近いし、一度家に帰って気合い入れなおせるね。
講義中、私たちは今日の作戦を練っていた。勉強? いま大事なものは合・コ・ンです!
まず整理すると、涼香は同じサークルの先輩が好きらしい。ならばその先輩を狙うというのは野暮だ。とすると、残りの四人の中でいい人を見つけるということになるわけだが、いろははやる気ないし、残りの二人との戦いになるわけか。頑張ろう。というかさっきから私ガツガツしすぎてない? 大丈夫かな。ほ、ほら、ちまたで私百合疑惑あるから、ここいらで男の人に興味のある普通の女子大生アッピしておかないと、ね? ね?
「それじゃまたあとでねー」
今日は一日中合コンの話で終わってしまった気がする。まったくもうみんな楽しみにしすぎなんだから! 学生の本分は勉強なんだからそれを忘れちゃいけないのに……なんて言うわけないでしょう? さて私も早く帰って準備しないとねっ。
家に帰っていつもより少し、ほんの少しだけ気合いを入れて準備する。気づけば時間ギリギリになっていたので慌てて家をでて、そのまま待ち合わせ場所に向かう。
私が待ち合わせの場所に行くと既にみんな集まっていた。
「みどりおっそーい!」
涼香が顔を膨らませながらぷんぷんしている。何あんた。そんなキャラだっけ? どこのいろは?
「ごめん、ごめん!」
「大丈夫だよ、こっちもまだ一人来てないからね」
優しげに答えてくれる男性。写真で見せてもらった涼香の想い人だ。なんだ、結構いい人そうじゃない。涼香なかなか見る目あるんじゃないの?
「とりあえず店に入って待っていようか」
涼香の想い人の言葉で最後の一人を店内で待つことになった。というか男の人が遅れるってどうなの? よろしくないよね、きっとろくな奴じゃない。そのまま先に飲み物を注文しようとみんなでメニューを見ていると、最後の一人がやってきた。
「……男だけの飲み会って聞いてたんだけど……」
どこかで聞いたことのある声。アホ毛がピョンと跳ねて死んだ魚のような目をしているその男はいろはの想い人、比企谷先輩だった。
「何これ?」
「合コンっていったら絶対お前来ないだろ、だから男同士の飲み会ってことにしておいたんだよ」
向かい側の男性がそう答える。うん、この先輩が進んで合コンに来るとは確かに思えない。
「はぁ……、つかなんでお前までいるんだよ……」
そう言うといろはの方を向く比企谷先輩。
「せ、先輩こそなんでこんなところにいるんですか!」
おー、おー焦りすぎでしょいろは。小動物みたいで可愛いな……
「今の話聞いてたろ、嵌められたんだよ……」
「そんなこと言って、女の子と飲めるのを実は期待してたんじゃないんですか!」
「んなことねえよ……、大体お前も俺の質問に答えろよな。なんで合コンなんて来てんの? やっぱりゆるふわビッチなの?」
「なっ……、私だって友達にどうしても来てくれって頼まれてきただけですから! 先輩みたいに下心があってきてるわけじゃないです!」
「まぁまぁ、八も一色さんも落ち着いて。とりあえず乾杯しようか」
何この夫婦、もう結婚すれば?夫婦喧嘩は余所でやってくださいお願いします。みんなの視線が二人に集まっていることに気づくと、比企谷先輩はそこで会話をやめて席に着く。
「ねぇねぇ、あの人っていろはの好きな先輩だよね……?」
涼香が耳元でそう呟く。耳弱いんだからやめてっ!
「うん、まさかここに来るとは思ってなかったんだけど……。比企谷先輩の交友関係が謎」
全員が席に着くと注文していた飲み物とお通しが到着し、涼香の想い人の先輩が音頭をとり、合コンが始まった。
涼香は意中の先輩と話を始めてる。それはまぁわかる。ただ、納得がいかないのはいろは、なんでそんなに男子に囲われてるの! 開始早々にいろはの周りに残り(比企谷先輩を除く)男性陣が囲う。いや、確かにいろは可愛いけれどさ! いろはは困ったような表情を浮かべながら男性陣の質問に受け答えをしてる。それを横目で見る比企谷先輩を私は見逃さなかった。この表情はなんだろ……? 嫉妬かな? 嫉妬じゃないよ。嫉妬だよ! やだ、ちょっと可愛いんですけど比企谷先輩っ。これは嫉妬っていうよりやきもち? こういう比企谷先輩を見るのは珍しいかも。
「あ、いろはちゃんグラス空いてるねー、次何飲む? お酒は何が好きなの?」
一人の男性がいろはに尋ねていろはが答えようとした時だった。
「おい、一色、カルーアミルクでいいか? 注文するけど……」
「え、えっと、はい、お願いします」
急に比企谷先輩に声をかけられて軽く動揺しているいろは。てか今のはあれですかね、いろはのことは俺の方が知ってるんだぜアピールですかね!? 思った以上にあざといぞ、この先輩。
他の男の人たちは、比企谷先輩の挑発にむっとしたのかそのままいろはと会話しようとしている。
「俺地元埼玉なんだけどさー、いろはちゃんは地元どこなの?」
「千葉だよな」
「あ、千葉なのかー……、そっかそっか」
いろはではなく、何故か比企谷先輩が答える。いろはもそれに「ですねー」と同意して会話はそこで終わる。だが男の人も諦めずになおも会話を試みる。
「いろはちゃんは誕生日いつなのかな?あ、ちなみに俺は七月なんだー」
「四月だぞ」
「へ、へぇ~……」
あー、これはあれですねぇ。完全に比企谷先輩が邪魔しに入ってる形ですね、これは嫉妬してますわ。いろはもそれに気づいたのかさっきより表情が良くなって「そうなんですよ~~」とか調子のいい感じで答えてる。それでも諦めようとしない男の人に対して私は、軽く敬意を表する。が、がんばれ……
「い、いろはちゃん少し早いけどさ、クリスマスの予定とかある?俺今フリーなんだけどさ~」
この人も懲りずに攻めるなぁ……クリスマスなんてまだ三か月以上も先だろうに……
「あ~、えーと……」
流石にいろはもどう断るか悩んでいるようで返事を返せないでいると、また比企谷先輩が答える。
「クリスマスは温泉旅行いくんだろ?」
「ふぇ!?」
いきなりの先輩の言葉にめちゃくちゃ動揺しているいろは。クリスマスに温泉旅行って、今日の朝の話を比企谷先輩は聞いていたのだろうか。そういえば涼香たちの前にいたとかなんとか言ってたっけ……
「そ、そうなんですよー、なのですいません……」
「そ、そっかぁ……」
流石に諦めたようだ。というか比企谷先輩妨害しすぎじゃないですか? まるでいろはの父親か何かってレベル。いや、単純にこれは彼女に言い寄る虫を駆除しているような感じか……
しかし、あまりにも比企谷先輩が妨害しているためか、いろはの周りの空気が若干重い。比企谷先輩どうにかしてくださいよーー! 私がそう思いながら比企谷先輩の方を向くと、こちらに気づいて少し申し訳なさそうにしていた。
「わりぃ、俺そろそろ帰るわ……」
席を立つ比企谷先輩。
「えっ……?」
いろはが反応する。そして少し考えた後、口を開く。
「あ、わ、私も帰りますー。すいません!」
そう言ってお金を私に渡し、ぱたぱたと早足で比企谷先輩に追いつく。
「先輩、先輩、今日なんか疲れちゃったんでまた泊めてください!」
「あー、いいぞ」
「え? なんか今日の先輩やけに素直じゃないですか?」
「いや、だってお前断っても来るだろ」
「それはそうですけどねー」
あのー……お二人さん、そういうのはお店出てから話しませんか? こっちに丸聞こえなんですけども……。周囲に目をやると、私以外の人がみんなぽかーんとした表情で二人を見ていた。まぁそりゃそうなるよね。
「あ、あのさ、あの二人って付き合ってるのかな?」
先ほどまでいろはに話しかけていた男性が聞いてきたので私は事実を伝えてあげることにした。
「付き合ってません!」
「いや、でもだって、今日泊まるとか」
「付き合ってません!」
そうだ。あの二人は付き合ってない。そりゃ傍から見ればそう見えなくもない、いや、むしろ完全にカップルと言っても過言ではない。だが付き合ってないのだ。周りもそりゃ戸惑うよね!
まあしかしですね、今日の合コン、二人を観察しすぎて、私何もしてないんですけど!? なんなの本当、私何のために来たの? あの二人のイチャつくのなんてもう見飽きてるのに! 私に新しい出会いをプリーズ!
「すいません、飲み放題のお時間終了となります」
店員さんにそう告げられ、私の初めての合コンは、いろはと比企谷先輩の夫婦漫才を見て終わったのであった。
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