大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた   作:さくたろう

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八幡誕生日おめでとう!!

というわけで八幡誕生日のお話です。
前の話が短かったので今回今までで一番頑張った気がします!
もしかしたら後で少し修正するかもしれません。




彼の誕生日を私は祝福する

 

今日は計画実行日だ。

 

 私は計画通り電話で先輩を呼び出す。

 

 何回かコールしているけど出る気配がない。まだ寝ているのか、単に出ないだけなのか。小町ちゃんに連絡しようかな、なんて考え始めていたらやっと先輩が電話に出た。

 

『……何?』

 

「せんぱい、今日暇ですよねー? 私もたまたま今日は暇で退屈してるんでー、一緒に遊びに行きましょう」

 

『お前、よくこんな暑い日に外に出ようと思うな……。俺今日は家でいろいろとすることあるんだけど』

 

 またこの人は……。少しくらい私に付き合ってあげようとかそういう気持ちはないのかなぁ。

 それに今日誘ってることの意味も少しくらい考えてほしい。

 

「先輩に予定がないことは昨日小町ちゃんに確認済みなので無駄な抵抗はやめてくださいね?」

 

『はぁ……。わかったよ。とりあえず俺はどうすればいいんだ?』

 

 ちょっとちょっと先輩! ため息は流石に酷くないですかね?仮にもJDブランド引っさげた可愛い後輩が休日に遊びに誘っているわけで、そこまで露骨にため息されると流石の私でも傷つくんですけど!?

 

 ……まぁでも断られないだけましか。なんだかんだ来てくれるみたいだし。少しムカッとするけど。

 

「そうですねー、とりあえず千葉駅に12時集合でいいですか?」

 

『はいよ』

 

 本当にこの人は返事も素っ気ないなぁ。でもとりあえず先輩を家から引きずりだすことには成功したわけだし、私も準備しなくちゃ。

 

 時計を見ると9時を少し過ぎている。準備して千葉駅には余裕で間に合うかな。しっかりと身支度を整えて姿見鏡で確認。夏ということもあって今日は少し露出度をあげていく。水色のロングノースリーブに合うようにスカートを合わせる。

 

「ふっ、完璧……」

 

 鏡に映った自分を見て呟く私。いやこれで惚れない男とかいないでしょ?

 

 いるんだけどね……

 

 しかし今日は、いや、今日もめげずにグイグイいかないと。しっかりと気合を入れて家を出る。

 

 

 

 今日は私の方が先について待っていようと思って時間より30分前に千葉駅に着いた、着いたんだけど何故か先輩が既にいるわけで……

 

 なんでいるの!? せっかく私が先に待ってて先輩が来たら「せんぱい、おそい~~!」って言ってやろうとしたのに……!

 

 むぅ……。

 

 これじゃなんか負けた気分だ。実際そんなことはないのだろうけど。

 でもまぁ先輩が早く来て待っていてくれてることは素直に嬉しい。私に早く会いたかったわけではないだろうけど。小町ちゃんが急かしてくれたのかな?

 

 さて、とりあえず待たせるのも悪いし、行くとしますか。先輩に気づかれないように後ろから忍び寄り、肩をたたく。

 

 振り向いた先輩に満面の笑みで挨拶をする。

 

「せ~んぱいっ! どうしたんですかー、早くないですか。あ、もしかして私に会うのが楽しみだったとか?」

 

 すると先輩は少しジト目でこちらを見据えながら

 

「いや、小町に急かされただけだし。あとお前も十分早いだろ。何、俺にそんなに早く会いたかったの?」

 

 むっ……、先輩のくせに生意気な返しですね。というか本人を前にして妹に急かされたから早く着たってどうなんですか?

 でもまぁ先輩? 今の発言は先輩のミスですね。遠慮なく利用させてもらいますよ。

 

「そうですね……。わたしはせんぱいに、早く、会いたかったんですよ……?」

 

 ……決まった。流石にこの上目遣いでこの台詞は男心擽るでしょ! さらに先輩の腕にくっついて攻める、このダブルの攻めに耐えれますかね?

 

「……っ、ち、近い、近いから、あんまくっつくな。お前はあれなの? 必ず俺の腕にくっつかなくちゃいけない理由でもあるの?」

 

 顔を真っ赤に染めて私がくっつくのを阻止しようとしている先輩。

 

 ふっ……、先輩がいけないんですよ? 私が攻める口実を与えてしまったのだから。

 

「えー、なんでですか。私はせんぱいに会いたくて会いたくて仕方なかった気持ちを表現してるだけですよー?」

 

 夏で二人とも肌を露出してるため、肌と肌が触れ合う。少しばかり恥ずかしいけど、これくらいしないとこの人は意識してくれないと思うしなぁ……

 

「わかった、わかったからあんまり近づかれると歩きにくい。さっきのは俺が悪かった。だからもう少しだけ歩きやすい感じにしてくれ」

 

 ちっ……、意気地なしの先輩め。腕組みくらい私の誕生日のときだってしたのに。

 まぁ今日は先輩に楽しく過ごしてもらうのが一番の目的だし、少しくらい言うこと聞いてあげよう。腕組みはするけど。

 

「じゃあこれくらいでどうですか?」

 

「腕組みはするのかよ……。まぁそれくらいなら……。んで、これからどうするんだ? 悪いけど俺何にも予定とか決めてないぞ」

 

「流石に当日に誘ってそんなこと期待はしてないですよ。今日は一日、私が決めた予定で過ごしますっ。それではレッツゴーです!」

 

 私は先輩を誘導するように歩き、まず最初の目的地であるカフェに向かった。

 

 懐かしいカフェ……。先輩と一度デートで来たことのあるこの店は、3年前と変わらぬ佇まいをしていた。

 

「あれ……? ここって昔一色と来たことあったよな?」

 

 ……意外だ。先輩にとってデートなんてたぶん人生で数回くらいしかしたことないだろうから印象に残っているかもしれないけど、それでも3年前に1度だけ来たことのあるこのお店を覚えていてくれたことは素直に嬉しい。そういえば昔、ぼっちは記憶力は良いって言ってたのは本当だったのかな。

 

「よく覚えてましたね先輩。今のいろは的にポイント高いですよ?」

 

「記憶力はいいんだよ……。それと小町の真似すんな。本当あざとい」

 

「……むぅ。先輩のくせに生意気ですね」

 

「なんなのそれ。とにかく入ろうぜ。外暑い」

 

 まったくこの人は……。ムードなんかありゃしない。

 

 店内の内装も昔来た時とほとんど変わっていない気がする。

 案内された席につき、メニューを広げる。

 

「先輩は何にしますか?」

 

「ん、そうだな、昼飯だとしたら普通にパスタにするわ」

 

「そうですねー、じゃあ私もパスタにします」

 

「デザートとかは頼まないのか?」

 

「あっ……、そうですね、今日はパスタだけにしておきます」

 

「ふ~ん」と先輩が呟く。確かにこのカフェで私がケーキとかデザート系を頼むと思うのはわかる。

でも今日はここでケーキを食べるわけにはいかないわけで……、いや本当は食べたいけどね。

 

 注文を済ませて先輩と軽くお喋りをしているとパスタがテーブルに置かれる。

 

「わぁ、美味しそうですねー! 先輩、先輩、写真撮ってもらいましょう」

 

「え、やだよ。なんでまた写真撮らなきゃいけないんだよ」

 

「ほら先輩、店員さんも困ってますから! 早くです」

 

 店員さんが不安そうにこちらをチラチラ見ている。あれ? この店員さん見たことある気がする……

 

「今回だけだぞ……」

 

 そう言った先輩は、写真が撮りやすいように少し私の方に寄ってくる。耳のあたりが少し赤いのは黙っておいてあげようかな。

 

「では、いきますよー」

 

「ほら、先輩、ピースですピース」

 

 先輩にピースサインを促す。少し照れながらもピースをしてくれる先輩。そして2,3度シャッター音がした。

 

「ありがとうございますー」

 

 私がそう言うと店員さんが

 

「いえいえ、幸せそうで良かったです。また是非いらっしゃってくださいね」と応えてくれた。

 

 あの人、3年前の時と同じ人だったのかな……

 

 カフェで昼食を済ませた後、私たちは、少し街をぶらぶらしてから、次の目的地である水族館に行くために電車に乗る。

 

 

 電車に乗り、しばらくすると目的の駅に到着する。駅前の噴水広場から見える観覧車は日本最大を謳うだけあって間近で見るととても大きい。あの観覧車に二人で乗って、先輩と景色を見るなんてのも悪くない。先輩の柄じゃないか。

 

 私たちはそのまま水族館の方へ向かう。入館前に元々用意しておいた入場券を渡し入館する。

 

「なんでお前入場券なんて持ってるんだ?」

 

「たまたまです、たまたま」

 

 本当は先輩のために用意していたものだけどそんなことは言わない。

 

 入館して間もなく目の前には大きな水槽が広がる。そこにはサメがいた。ツマグロと表記されているけれどこれ見た目サメだよね? 全然マグロ感ないけど。もっと可愛い魚のほうがいいけど横にいる先輩はどうやらテンションがあがっているようだ。

 

「おぉ、サメ! サメだぞ、一色! 懐かしいな……」

 

 ……意外。先輩ってサメ好きなんだな。でも確かに小さいころとか魚図鑑とかずっと眺めてそうではあるかも。でも最後の言葉の懐かしいなってどういう意味だろう……

 

「先輩、せっかくだから写真でも撮ります?」

 

「何? 撮ってくれるの? よし、じゃあ頼む!」

 

 そう言うと私にスマホを渡す先輩。いやいや、私的に一緒に撮りましょうっていう意味だったんですけどね? わからないよね先輩には!

 

「では、預かります。えーっと……」

 

 周りを見渡す。ちょうど近くに手が空いてそうな人がいたのでこの人にしよう。

 

「すいません、写真撮ってもらってもいいですか?」

 

「あ、いいですよー。えーとお二人の写真を撮ればいいですか?」

 

「はい! なるべくサメが一緒に写るようにお願いします」

 

「わかりました」と男性は写真を撮る位置に移動してくれた。私はすぐに先輩の横に並ぶ。

 

「ねえ、俺一人で良かったんだが」

 

 まーたこの人は!

 

「ぶー、いいじゃないですかー、せっかく二人で来てるんですから、一緒に撮りましょうよ。というかそういうこと直接口に出すのどうかと思いますよ?」

 

「だってお前これ恥ずかしいだろ。というかさっきも写真撮っただろ」

 

「あれはあれ、これはこれです! では先輩撮りましょう。せっかく撮ってくれるって言ってる人がいるんですから」

 

 そのまま先輩にピースを促し、男性がスマホで写真を撮ってくれた。あとであの写真もらわなきゃだ。待ち受けにしよう、そうしよう。

 

「先輩、その写真くださいね?」

 

 ん、とスマホを私に渡してくる先輩。……これはあれですか、私に自分で送っとけってことですかね。それならそれでいいでしょう。これ待ち受けにしてやれ。そのまま画像を自分に送り、先輩の待ち受けにしておいた。気づいたらどういう反応するかな?

 

「はい、ありがとうございます。では次いきましょうかー」

 

 次に目に留まったのは周囲に比べて地味な水槽。中にはちょっとキモイ魚が泳ぐでもなくただ漂うようにふわふわしてた。解説を読んでみる。

 ナーサリーフィッシュ、泥で濁った川の中で、あまり泳ぎ回らず生活している……昔の先輩みたいだ、そう思うと若干この魚が可愛く見えてきた……気がする。チラっと先輩の方を見ると、何故か私の心が読まれたように口を開く。

 

「全然似てねえから。名前も似てない。まぁこの魚の生き様はまさに理想だけどな」

 

 やっぱり似てるじゃないですかね。

 

「別に私何も言ってないじゃないですかー。次行きましょう、次」

 

 そのまま移動するとたくさんの人が集まっている場所についた。どうやらふれあいコーナーのようだ。ふれあいかぁ、魚とふれあうのもいいけど本当はもっと先輩とふれあいたいな……

 

「せっかくだから行ってみるか?」

 

 珍しく先輩の方から誘ってきたので一瞬反応が遅れた。

 

「……ふぇ? あ、あぁ行きましょう! 私、魚と触れ合いたいです!」

 

 コーナーの水槽を覗き込むと、そこいたのはまたもやサメだった。ちょっと? これ先輩が来たかっただけなんじゃないの!? 魚と触れ合うよりもそっちに意識がいってしまった。まぁ今日は先輩に楽しんでもらえればそれでいいから、これでいいんだよね。

 

 しばらく先輩と一緒にふれあいコーナーで遊んだあと、今回私が行きたかったぺんぎんを見に行くことになり、若干の駆け足で向かう。

 

「せんぱい、せんぱい! ペンギンですよ、ペンギン。可愛くないですか!」

 

 あーもう、なんでこんなにペンギンって可愛いの? 人類の癒しでしょ、この生き物、可愛いなあ。

 

「あーはいはい、ペンギンを可愛いって言ってる一色可愛いぞー」

 

 はい? ……あぁ、この人私がそういう狙いで可愛いと思ってるのか、まったく失礼ですね。

 

「先輩、私は本気で可愛いと思って言ってるんですよ?」

 

 割と本気で睨んでいた気がする。だってペンギン本当に可愛いもん!

 

「そ、そうなのか、すまん、俺が悪かった」

 

「わかればいいんです、わかれば。ではそろそろ行きましょうか」

 

 その後も先輩と一緒に水族館内を歩き回り、気づけば一周していた。

 

「どうします? もう一周しますか?」

 

「いや、流石に疲れた。そろそろ出ようぜ」

 

「それもそうですね、では私お土産買ってきます」

 

 そのままお土産コーナーに行き、自分の分と先輩の分のストラップを購入する。

 

「お待たせしました、では行きましょうか」

 

 水族館をでるとさっき買ったお土産を先輩に渡す。

 

「先輩、これ今日のお土産です、つけてくださいね?」

 

「サメか……。さんきゅ、あとでつけておくわ」

 

 よし、成功だ。サメのストラップなら先輩もつけてくれるかなと思って買った甲斐があった。

 

 日が暮れ始めたのでそろそろ最終フェイズに移行する。むしろこれが目的だったまである。協力者である彼女にもメールで連絡をしておく。

 

「先輩、そろそろ帰りますかー」

 

「おう、まぁあれだ、なんだかんだ今日は楽しかったぞ」

 

 だからこの人は……、急に素直になるのやめてっ……!

 少し照れて顔が熱くなってるのがわかる。先輩はこれでお終いだと思っているようだがまだ続きがあるのだ。それを終わらせるまで私は帰らない。いや、終わっても帰らない可能性あるんだけどね……?

 

「私も楽しかったですよ? それじゃいきましょうかー」

 

 照れ隠しでそう言うと、二人で帰りの電車に乗る。先輩が降りる駅に到着するとまたな、と言い電車から降りる。普通ならこのまま私は電車に乗って家に帰るわけだけど、今日は違うので先輩と一緒に降りる。すると先輩は少し戸惑った様子で私に尋ねてくる。

 

「なぁ一色、お前の降りる駅ってここじゃないよな?」

 

「……? あれ? 言いませんでしたっけ? 私も今から先輩のお家にお邪魔する予定なんですよー」

 

 そう、私は今から先輩の家に行ってしなくちゃいけないことがあるのだ。これを終えるまでは家になんて帰れないし、帰りたくもない。

 

「いや、初耳なんだけど……。つかもう時間も時間だし帰った方がよくない? 親御さんも心配するぞ?」

 

 予想通りすぎる反応ですね先輩。

 

「親になら今日は遅くなるか泊まってくるって言ってありますので心配いりませんよ?」

 

「お前……、大体ちゃんと誰の家に行くとか言ったのかよ。いいの? 年頃の女の子を男の家に泊まらせて。お父さん悲しむぞ」

 

「大丈夫ですよー。親には後輩の小町ちゃんの家に行くって言ってありますし! 小町ちゃんから親に連絡も言ってますしね! 嘘はついてないですよねー?」

 

 そうだ。私の親は小町ちゃんと面識があるし、小町ちゃんが昨日家に訪れたときに今日のことは伝えてある。だから私は嘘はついていない……よね?

 

「嘘はついてないけどそこに俺の存在がないのは問題じゃないのか? つうか小町の許可がある時点で俺に発言権はないわけだけど……」

 

「そうです! だから先輩にあれこれ言う権利はありません。なので一緒に帰りますよ、先輩」

 

「好きにしてくれ……」

 

 すると先輩が私が腕を組みやすいように左腕を少しこちらに差し出す。

 なんですかこれ? あざといんですけど?

 

「先輩も大概あざといですね……」

 

「どうせくっついてくるんだろ……。早く帰ろうぜ」

 

 なんですか、なんなんですか俺お前のことわかってんだよ的なことですかね確かにくっつくつもりだったけどそう言われとくっつきにくいんですけど!

 

「先輩、自意識過剰すぎますよ? 私がいつでも先輩にくっつく思ったら大間違いではありません」

 

「間違いじゃねえじゃねえか……」

 

 私が先輩にくっつきすぎて先輩に耐性ができ始めているのだろうか。ムムム……、これは少し攻め方を変えるべきなのか……

 ならばこんなのはどうだろうか。

 

「えいっ」

 

 先輩が差し出している腕を無視し、先輩と手をつなぐ。んー、腕組みより恥ずかしい気がするのはなんでだろう。

 

「ちょっ、お前何してるの?」

 

 よしよし、動揺してますね先輩。

 

「えっ? こっちの方が歩きやすいと思ったんですけど……。ダメ、ですか……?」

 

 お得意の上目遣いを使い、猫なで声で尋ねる。

 

「い、いや、ダメじゃないけど……というかこっちの方が恥ずかしいんだが」

 

「ダメじゃないならいいじゃないですかー! 奇遇ですね、私もこっちの方が恥ずかしいです」

 

「じゃあ離れ「嫌です」

 

「はぁ……」

 

 私の言葉で諦めたのだろうか、先輩はゆっくり歩きだす。

 

 気づけば私たちは、先輩の家の前に到着していた。道中二人共、気恥かしさからか会話もなく歩いた。せっかくの先輩との時間を会話しながら過ごしたかったけれど、まぁ手をつなぐことができたし良しとしよう……

 

「……流石にもういいだろ」

 

 先輩は繋がれている手に目線を向ける。

 

「あっ、そ、そうですね……」

 

「ん、誰もいないのか。あー、そういえば親二人とも今日は帰り遅いって言ってたな……」

 

 家の明かりはなく、留守のように思える。まぁ小町ちゃんはいるんだけれど。

 

「鍵は開いてんのかよ……。無用心すぎんだろ」

 

 扉を開け、玄関の明かりをつける先輩。私はそのあとについていく。そしてリビングの扉を開けて明かりをつけた瞬間だった。

 

「お兄ちゃん、誕生日おめでとー!」

 

 小町ちゃんがそう言ったあとにクラッカーを鳴らす。それに続き、私も後ろで準備していたクラッカーを鳴らす。

 

「せーんぱい、誕生日おめでとうございますー!」

 

「なっ……。お前ら……」

 

 驚きつつも、状況を理解したのか、少し顔が赤くなる先輩。これはサプライズ成功かな? というか今日が自分の誕生日だということをわかってれば、ここまでサプライズにもならない気がするけど……。変なとこ鈍感な先輩らしいといえばらしいのかな。

 

 とにかく、先輩のこの表情をみれば、私の計画は成功したのだろう、素直に嬉しい。

 

「ささっ、お兄ちゃん、今日の主役はお兄ちゃんなんだから早く席について!」

 

「お、おう……。つかお前らいつの間にこんなこと考えてたんだ?」

 

 どうやら先輩はまだ混乱しているらしい。

 

「先輩が夏休みに実家に帰るって言ったじゃないですかー? あの時からですよー、それを聞いたあとに小町ちゃんに連絡して、今日の計画を立ててみました。帰らないなら帰らないで、違う計画を立てるつもりだったんですけどね」

 

 席に着いた先輩のもとに、昨日小町ちゃんと作った特製のコーヒーケーキを持っていく。

 

「えへへ、どうですか先輩、小町ちゃんと作った特製のコーヒーケーキです」

 

「へえ……、美味そうだな。流石小町だ」

 

 ちょっと! なんでそこ小町ちゃんだけなんですか!

 

「はぁ……、本当ごみぃちゃんはごみぃちゃんだね……。これはいろはさんがお兄ちゃんは大学生になってもマッ缶飲んでるし、どうせならお兄ちゃんの好きな味のケーキにしたい、って言って作ったんだよ? 小町はほんの少しお手伝いしただけ」

 

 小町ちゃん……。フォローは嬉しいんだけどそれは言わないでぇぇ……! 本人に聞かれるともの凄く恥ずかしいからっ!

 

「い、いや、冗談だから、冗談。一色もありがとうな。食べてみてもいいか?」

 

 先輩が言うと冗談に聞こえませんからね?というか冗談言えるんですかあなた。

 

「むー、こういうときに冗談はやめてくださいよ。私だって傷ついたりするんですからね? じゃあ切り分けますね」

 

 私は、準備したナイフでケーキを切り分け、先輩、私、小町ちゃんにケーキを分ける。

 

「ではどうぞ召し上がれ」

 

 先輩がフォークを手に取りケーキを口に運ぶ。……どうだろうか、私は先輩の好みをちゃんと理解してケーキを作ることができたかな? 感想が待ち遠しいようで若干の怖さもある。もし、先輩の口に合わなかったらどうしよう。聞きたいけど聞きたくない、そんな気持ち。

 

「……一色」

 

 真剣な眼差しでこちらを向く先輩。

 

「これめちゃくちゃ美味い。味もしっかりコーヒーの風味があるし、甘さも俺の好きなちょうどいい甘さだ。お前がお菓子作りが得意なのは知ってたけどこれはパティシエなれるレベルだと思うぞ」

 

「おお、あのごみぃちゃんがちゃんと褒めてる……。良かったですね! いろはさん」

 

「う、うん」

 

 ……嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい。この人にそう言ってもらえることが嬉しい。他の人の感想なんていらない。この人にそう言ってもらえただけで私は、今までお菓子作りをしてきた価値がある。

 好きな人に自分が得意としていることを褒めてもらえることが、こんなにも嬉しいだなんて……

 

「……一色? どうしたんだ?」

 

 気づけば私は涙を流していた……。心配そうに見つめる先輩。そんな顔しないでください、これは嬉し泣きですから。

 

「な、なんでもないです! ちょっと目にゴミが入っただけです!そ、そうだ先輩、私から先輩に誕生日プレゼントです!」

 

 泣いてるのを必死に誤魔化しながら、用意しておいたプレゼントを先輩に渡す。これ誤魔化せてるのかな?

 

「いいのか? ありがとうな」

 

「いえいえ! 私も誕生日祝ってもらえましたし、そのお礼も兼ねてです。開けてみてください」

 

 私に促されてプレゼントの箱を開ける先輩。

 

「腕時計か、いいのかもらっちゃっても?」

 

「先輩のために選んだプレゼントなんですからいいに決まってるじゃないですかー。本当はアクセサリーにしようかなと思ったんですけど、先輩のことだから恥ずかしがってつけてくれないかもしれないと思いまして、身に着けるもので普段から使えそうな腕時計にしました」

 

 お揃いのリングなんてのも考えたけれど、付き合ってもいないのに流石にリングを渡したら先輩は拒みそうだったしね。いつか付き合ってお揃いのペアリングとかしたいけど。

 

「サンキューな。大事に使わせてもらうぞ」

 

 先輩がそう言うと、小町ちゃんが次は私の番ですねと先輩にプレゼントを渡す。

 

「じゃじゃーん! お兄ちゃん、可愛い妹からのプレゼントは、な、な、なんと! 温泉旅行の招待券です! 日頃大学生活で疲れてるんじゃないかなぁ、なんて考えた小町は、お兄ちゃんの疲れを癒せるようにこれに決めたんだよ? 」

 

「おぉ、小町もありがとうな。……ってこれ2枚あるけど?」

 

「え? そりゃそうだよお兄ちゃん。だってペアの招待券だもん」

 

 何言ってんの? 当然でしょ、と小町ちゃんが言うと、先輩が困ったように口を開く。

 

「いや、ペアとかの招待券渡されてもだな……。俺一緒に行く相手いねえし。あっ、小町が一緒にいくのか」

 

「いや、小町は行かないよ。お兄ちゃんと温泉旅行とかつまんないもん。というかごみぃちゃん本当に一緒に行く人いないと思ってるの? 目の前にいるじゃん」

 

 小町ちゃんがそう言うと二人ともこちらに視線を送る。え? 私? こ、小町ちゃん? い、いや、先輩と二人きりで旅行とか願ってもないことだけど……! というかこの兄妹は本当に人の不意を衝くのが上手いな……。

 

「……お前一緒に行くか?」

 

 へ? 今なんて言ったのこの人。一緒に行くかって聞いてきた? あの先輩が? 私はてっきり、どうせ一色は俺とは旅行なんて行きたくない、やらなんやら言うと思ったのに……

 

「い、嫌ならいいんだ、誰か他のやつ探してみるし」

 

「い、嫌なわけないじゃないですか! いきます! いきますよ! あ、でも別に先輩と二人きりで旅行が嬉しいとかじゃないですからね? 私は温泉が好きで行きたいだけですから、そこのところ勘違いしないでくださいね!」

 

 はぁ、はぁ……、また余計なことを言ってしまった気がする……

 

「まったくこの二人は……。これは小町も苦労しそうだなぁ」

 

 呆れ声で呟く小町ちゃん。うぅ……なんかごめんなさい。

 

「その旅行券は、期限1年くらいあるから別にいますぐ行く必要ないよ。二人が行きたいと思ったら行けばいいんじゃないのかな?」

 

 なるほど、1年かぁ、じゃあ今すぐっていうよりはちゃんと計画を立ててかな。

 

「そんじゃまぁ日程はゆっくり決めようぜ」

 

「そうですねー」

 

「じゃあとりあえずご飯食べましょう! 今日は小町のスペシャルディナーですよ~。お兄ちゃんのために愛情込めて作ったんだからね? あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 でた本家! やっぱり小町ちゃん可愛いなぁ。

 

「でもさ、普通飯ってケーキの前じゃね?」

 

「細かいこと気にするお兄ちゃんには食べなくていいのかな?」

 

「いや、俺のために作ったのに俺食べれないのってどうなの? 泣いちゃうよ?」

 

 この二人のやり取りを眺めているのは楽しい。私もいつかこのやり取りに混ざれるようになりたいな。本当の家族に……

 

 ではでは、と小町ちゃんが料理をテーブルに並べる。私も準備の手伝いをする。昨日準備しておいたお酒も先輩に渡す。あ、もちろん自分の分も用意してますよ?

 

 「では改めてお兄ちゃん(せんぱい)誕生日おめでとう~! かんぱーい!」

 

 3人で食べる夕食はとても楽しい時間だった。気づけば時刻は20時を過ぎていて、若干酔ってしまった私はやっぱり泊まることに。まぁ最初から帰るつもりはなかったんだけどね。

 でもまぁ今日は1日楽しすぎて、今更ながら疲れが出てきた私は、早めに寝ることにした。小町ちゃんに頼み布団を引いてもらい、電気を消して横になる。

 

 「先輩、今日は楽しんでもらえたかな……」

 

 口では楽しかったと言ってもらえたけれど、やっぱり少しだけ不安になる。

 その時、部屋の扉が開かれた。小町ちゃんかな?私はそのまま反応せずにいた。すると扉を開けた人が呟く。

 

「一色、起きてるか……?」

 

 ……先輩だった。今更反応するのも少し恥ずかしく、そのまま寝てるふりをする。

 

「もう寝たのか……。まあ今日は結構動いたしな。あのな、今日は本当に楽しかったぞ、たぶん人生で一番楽しかった誕生日だった。ケーキも本当に美味かったし、プレゼントも大事にする。だから今日は本当にありがとうな……」

 

 寝たふりをした私にそう言うと、静かに扉を閉めた。

 

 本当にこの人は……。そういう事はちゃんと面と向かって言ってくださいお願いします。あ……、今の言われたことってほとんど直接言われたことだった。なんだ……私が気にしすぎてただけだったんだ。

 

 先輩の言葉に安心したのか、私はそのまま眠りについた……

 

 

 

 こうして長い一日が終わった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回ガッツリ書いてみたんですけどいかがでしたでしょうか。感想等あればぜひぜひお願いします。本気で喜びます!

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