厄災の魔法師   作:無為の極

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第8話

「何だか騒がしいみたいだが、何かあったのか?」

 

「深雪さんの話だと一部の生徒が放送室で声明をあげて立てこもっているらしいですよ」

 

一条家でのやり取りが終わり、ここから漸く本番だと考えた頃、突如として事件が起こっていた。詳細は分からないものの、どうやら何かが騒ぎ立てている。そんな話がアヤから聞かされていた。

 

 

「で、また下らない事じゃないのか?」

 

「…それがちょっと微妙は部分があって、どうやら差別撤廃に関する事らしいんです」

 

アヤの言葉が濁った事に蒼は少しだけ気がかりな事があった。そもそもアヤは一般人であり、魔法師としての資質を一切持っていなかった。しかし、蒼に助けられた事によって、自身の命を繋ぎとめる措置をした結果、蒼の能力の一部を使う事が出来ていた。

本来でれば普通の高校に行くのが一番だが、やはり魔法の能力が発覚した後の事を考えると、最初からその環境にいた方が良いだろうととの判断によって入学した事もあり、その結果として今回の様な一因に対して少なからず嫌な感情があった。

 

 

「差別ね……ここの連中は馬鹿が多いから差別と区別の違いが分からないんだろうな。このままの放置は……面倒だけど現場に行ってみるか」

 

「でも無理はダメですよ」

 

そんなやり取りを他所に放送室での一件は全校生徒が知る事になっていた。話だけ聞けば大義名分がある様にも見えるが、実際の所は何も分からない。しかしながらこんな環境での研究が進む訳でもなく、自体は直ぐに収束した方が自身の為だと、蒼は現地へと足を運んでいた。

 

 

「よお!面白い事になってるな」

 

「蒼か。面白いで片づけるな。こっちは今対策を考えている最中なんだ」

 

現地では生徒会役員だけではなく風紀委員や部活連の幹部までもが揃っていた。どうやら鍵がかかっているらしく、この状況をどう打破するのかを思案している最中だった。

 

 

「ドア開けて普通に入ればいいだろうが?何を考える必要があるんだ」

 

「鍵がかかってるんだ。無理に壊す訳にも行かないのと今後の事も踏まえての協議中だ」

 

達也が言う様に、どうやら対策会議をしている様ではあったものの決定打となる物が出て無いからなのか、一向に話が進む気配は無かった。

 

 

「鍵か。じゃあ開けて入る事が出来れば問題ないのか?」

 

「壊すのは無しだ」

 

「そんな事はしないさ」

 

蒼がドアノブを持つと確かに鍵がかかっているのが確認出来た。校内の鍵は基本的には電子施錠されている物が多く、また万が一の際には外部からの開錠をする為には学校の許可が必要だとなっていた。

しかし、マスターキーを持ち去って施錠したからなのか、今の時点では学校としては汚点を晒したくないと考えているからなのか、その一任を生徒会へと託す事にしていた。

 

 

「ちょっと蒼君、壊すのはダメよ」

 

「七草か。誰がそんな面倒な事するんだ。こうやれば良いだろうが」

 

蒼が再びドアノブを持った瞬間僅かな光が手に宿っていた。それが何なのか理解する前に結果は目の前に出ていた。

 

 

「ちょっと中のやつらと話してから出るから人払いしておいてくれ」

 

そんな一言と共に何事も無く開錠されたドアが開き、そのまま蒼は中へと入りこんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は誰だ?どうやって鍵を開けたんだ!」

 

「どうだって良いだろう。なんでこんなくだらない事したんだ?時間の無駄だろうが」

 

突如として開いたドアに中にいた人間は驚愕の表情と共に、何者なのかを確認していた。外部からの開錠の可能性は低いと考えていたからなのか、突如として開いたドアのインパクトによって立てこもってた人間は既に冷静な判断が出来きていない。

そんな中で蒼は一人の女生徒を見ていた。

 

 

「あんたはまともそうだけど、どうしてこんな事を?」

 

「私はこの学校で苛まれない差別に嫌気がさしたからよ。あなただって同じ二科生なら分かるでしょ?」

 

蒼の肩を見たからなのか、ポニーテールの女性は蒼にも同意を求めていた。そもそも蒼はこんな対立など児戯にも等しい位にしか考えておらず、また事実を知らない人間は哀れだとも考えていた。

 

 

「一科なんて頭の悪い糞餓鬼ばっかりだろ?世間知らずが多すぎて困るからこっちも迷惑なのは認めるがな。この前だって模擬戦した際に気絶してたぞ」

 

「模擬戦って…じゃあ貴方が例の二科生の人なの?」

 

模擬戦の言葉に何か思い出したのか、ポニーテールの女性は改めて蒼を見ていた。詳細については何も知らないが、二科生の中では生徒会長と風紀委員長を断罪した人物だと思われていたからなのか、蒼の人となりは知らなくても、その話だけは漏れ伝わっていた。

 

 

「例のかどうかは知らないが、こんなくだらない事をするなら、話し合いの方が合理的だろ?だったら俺が交渉するが?」

 

「よせ壬生!こいつは生徒会の罠かもしれない。勝手な判断は止めるんだ」

 

「お前は少し黙れ。虫けらがさえずって良いのは許可した時だけだろうが」

 

蒼の殺気の籠った睨みを受けたからのか、止めようとした男子生徒はその場にしゃがみ込んでいた。元来ここに籠ったのは自分達の主張を聞いてほしいと考えた結果の行動であって、それ以上の活動をするつもりが無い。

そんな思いがあったからこそ、壬生は蒼の提案に乗る事を決めていた。

 

 

「君の名前は?」

 

「赤城蒼だ。あんたは?」

 

「私は壬生紗耶香よ。赤城君の提案に乗らせてもらう」

 

その一言がこの場で決定されていた。既に蒼の殺気に当てられた人間はそれ以上何も言う事はなくこれからの出来事をただ見守る事しか出来なかった。

 

 

「あー達也。悪いが七草と変わってくれ。話がある。どうせそこに居るんだろ?」

 

端末越しとは言え、生徒会長を呼び捨てにしそのまま交渉する姿は異質にも見えていた。この学校では生徒会長の権限は意外と大きく、学校の運営はしなくても自治に関しては権力がある。普通ならばこの時点で顔が青くなるのだが、目の前の蒼はそんな雰囲気は微塵も無かった。

 

 

「なんで服部が出るんだ。貴様じゃ話にならん!……は?お前は馬鹿か!これは交渉だと言ってるだろうが。良いから代われよ!貴様如きがしゃしゃり出るな!文句があるなら実力行使するぞ」

 

「あの、赤城君。今のって?」

 

「七草を呼び出したんだが、服部の馬鹿が出たから叱ったんだよ。一々気にするな」

 

放送室を占拠した時点で大事になる可能性はあったが、まさかこんな状況になるとは想定していなかったのか、他の人間の顔色が徐々に悪くなる。このまま何も出来ずに今はただ見る事しか出来なかった。

 

 

「おい!部下の躾位しろよ!会長なら当然だろ?誑し込むとかやり方位いくらでもあるだろうが……ああ良いだろう。因みに出た瞬間に拘束を考えているなら、何人か正当防衛で再起不能にするぞ。……はあ?当然だろ。それは約束しよう」

 

ここで漸く決着が付いたのか一旦蒼は端末を切り、この場にいた全員に対しての忠告を出した。

 

 

「今、七草と話をつけた。明日にでも話合の場を設ける事が決定している。で、今後の事だが、今回の占拠についてはお咎めは無いが、鍵を持ち出した事に対してのペナルティは受けて貰う事になる。それが嫌なら最悪は退学だな。さて。どうする?」

 

この時点での結果は分かってはいるものの、このまま退学になる事を考えれば、蒼の提案に乗る以外の選択肢は最初から無かった。

結果が出たと同時に占拠した人間はビクビクしながらもそっと出ると、蒼が言う様に拘束する気配すら無かった。既に話が付いていた事もあり、この場は直ぐに散会となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼はどうするつもり?」

 

「どうせ児戯なんだし、見てればいいんじゃないか?ただ、占拠した際に気になる事があったからちょっと確認したいとは思ってるがな」

 

放送室の一件は直ぐに知れ渡っていた。アヤが言うまでもなく蒼のクラスでも話題にはなっているが、昨日の話を聞く分には大した話にならないだろう。そんな考えだけしかなかった。

 

 

「お蔭でこっちの仕事が増えたのは勘弁してほしいんだがな」

 

「そう言うなよ達也。でもすぐに収束しただろ?」

 

「それは否定しないが、もう少しやり方があるんじゃないのか?」

 

食堂では何時ものメンバーが食事をしていた。あいにくと今日の件で深雪が駆り出されていた為にこの場には居なかったが、かわりにアヤが居た。そんな状況下で今日の事を話していたからなのか食堂では何気に視線を集めていた。

 

 

「どうせくだらない内容だろう。様子位は見るつもりだが、何かあったのか?」

 

「いや。何も無いが」

 

まるで何かを探る様な視線に達也も何か気が付いたのかと考えはしたものの、今ここで話す訳には行かない。下手に蒼に入られると今度は自分の仕事が増える可能性が高い。そう考え、それ以上は何も言う事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の話合いと言う名の討論会の会場は注目を浴びていたからなのか、思った以上の人間が講堂内に居た。事実一科と言えど全員が選民思想に染まっている訳では無く、ごく一部の人間が事を大きくしていた事からも、ここではそれを止めようとする空気が無かった事が今の校内に多大な影響を与えていた。

 

差別はする側とされる側の認識は大きく異なる。そんな中で何が起こるのかを確認したいと考える人間が多かったのも一つの要因だった。

そんな中での討論会は蒼の予想通り、生徒会側の一方的な展開となりつつあった。今回問題を起こした側の言い分はもはや子供の駄々と変わりなく、すべてがデータに裏打ちされた返答によって収束を向かえつつあった。こんな程度だろうと予測しながらも、今回の中で一つだけ確認しようと考えた事があった。

 

 

「七草生徒会長。確認したい事がある」

 

檀上の人間ではなく、観客として座っていた蒼の発言に、真由美の表情は僅かながらに苦々しい物へと変化していた。これは真由美だけではない。その場にいた摩利や服部も同じ様な表情をしていた事に気が付く人間は誰もいない。

あの時のやり取りの記憶が嫌でも引きずり出されようとしていた。

 

 

「運動部の予算や活動は俺には関係ないんだが、先だっての件で俺は未だ謝罪すらなく、そこの服部に至っては態々邪魔までしようとしているんだが、その件について確認したい。生徒会として今回の様な事件が起きたのであれば、それは生徒を纏める立場ではなく、現状を助長する行為をしている様にも思うが、それに関してはどう考えている?」

 

蒼の一言で真由美と摩利は今さらながら謝罪していなかった事に気が付いていた。あの時点では模擬戦のインパクトが強く、またイレギュラーな事が起きた事もある以上失念していた事は仕方ないが、蒼の性格を完全に考慮していなかった。

 

 

「そ、その件に関しては…」

 

「おい!お前は部外者だろ!今はここでの話に対しての討論であって、今ここで話すべき事ではない!」

 

言葉に詰まった真由美をかばおうとしたのか、、服部は無意識とも言える状況で思わず反論していた。まさかこれがキッカケになるとは誰も予想だにしていなかった。

 

 

「それを言うなら服部。お前も部外者だ。今回偶然にも生徒会長が単独で話をするのであれば、俺もついでに確認しただけだ。今回の討論に関しては七草が単独で答弁する事になっていたと記憶してるが、まさか上司でもある生徒会長を押しのけて自分が主役にでもなりたかったのか?」

 

明らかな挑発であるのは誰の目にも明らかだった。蒼が発言した時点で見知った人間は天を仰ぎ、知らない人間はこれから何がが始まるのかを黙って見守っていた。

 

 

「そんな訳ないだろうが!邪推するな」

 

「なぁ、そんなに蔑んだ二科生に模擬戦で負けた事が悔しいのか?自分の無能さを棚に上げたその態度はある意味賞賛に値するぞ」

 

蒼の一言はこの会場に居た全員に動揺を誘っていたのかザワザワし始めていた。服部はそもそも入学以来、同じ学年での模擬戦では負け知らずで通っていた。それは二年次になっても同じ事ではあったが、先だっての模擬戦で侮った事も影響はしたが、それを踏まえた上でも結果的には達也に敗北していた。

 

その後の蒼の二年の風紀委員との模擬戦も結果的には完勝していた事もあって失念しそうになっていたが、その現場には当事者でもある蒼が居る以上、言い逃れは出来なかった。

 

 

「油断して勝っただけだろ!そんな事は今は関係無い!」

 

服部の言葉がキッカケだったのか、蒼の口許はしてやったりと弧を描いていた。

 

「皆さん、聞きましたか?模擬戦と言えど正規の戦いに負けたにも関わらずつらつらと言い訳をし、挙句の果てには油断したで済まそうとする。こんな生徒会役員が在籍しているのであれば今後の校内は何も変わる事は無いだろう。しかも現生徒会長でもある七草と風紀委員長でもある渡辺は俺を無実の罪で糾弾し、その後証拠を提示し無実を確認したにも関わらず謝罪する気持ちすら無い。こんな人間として劣った者が今後の生徒に対する運営を任せても良いのだろうか?これが全てとは言わないが一科の代表と称するのは如何な物か?」

 

この一言で漸く服部は自分がダシに使われた事を理解していた。本来であればこれは蒼と真由美との約束だったはず。にも関わらずまんまとおびき出された事は失態以外の何物でもなかった。まさかの発言に会場の空気が悪くなる。このままではこの時点で今後の生徒会役員としての意味が無くなる事を示していた。

 

 

「その件に関しては我々は正式に謝罪したいと考えています。遅れた事に関しては当方の不手際ですので申し開きはできないと考えています。出来る事ならば寛大な措置を我々としてはお願いしたいと考えております」

 

まさかの謝罪にこの場にいた全員が驚きを隠せなかった。今まで余程の事が無い限り、この様な場での謝罪はあり得ない。ましてや方や生徒会長、方や二科生。この構図が尚更驚愕の場面へと変貌していた。

 

 

「お願いね。遅すぎるな…今どき幼稚園児でもすぐに謝罪するぞ。まあ、そこまで言うならこちらとしても検討の余地がある。ただし、条件が一つだけある。この学校の本当の事を言え。お前は知ってるはずだ」

 

蒼の言葉は何を指しているのかすぐに理解していた。今回の一番の原因は一科と二科の対立。真相はともかく表面上はその一言だった。

 

本来であれば学校の事実を知っている人間は教職員以外には真由美しか知らない事でもあった。恐らくこれを言えば今後は多少なりとも関係性が改善される。そう考え真由美は改めて口を開いていた。

 

元々一科と二科は急遽変更された事による弊害だけではなく、当時の行政のミスで制服の誤発注が始まった事が発端だった。行政としてはミスを認める事はなく、結果的にはそれが元で奮闘してくれればと自分達の都合の良い様に考えていた事も影響していた。

 

話だけ聞けば実に単純な話でもあり馬鹿馬鹿しくあった。しかし、この場に居た人間でそれを知っていたのは真由美だけ。当然の事ながら事実を知った状態で今後の事を考えれば今まで何をしてきたのか分からなくなりそうな程の事実だった。

 

 

「そもそも教師の数が足りないから一年次は二科は理論から、一科は実技からであって、それが二年次からは逆になるのも知らないって、お前ら馬鹿ばっかりだな。どうせスタンフォードの監獄実験に陥ったからそう思うんだろ?因みに服部。文句があるなら模擬戦はいつでも受けてやるぞ。せいぜい努力だけは怠るなよ。お前は後悔出来ない程念入りに叩き潰してやるからな」

 

蒼の一言が会場全体に響いたときだった。突如としてガラスが割れると、そこには催涙弾が撃ち込まれたのか、ガスが発生していた。

それがこれからの騒乱の開幕の合図となった。

 

 

 

 

 

 

 


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