厄災の魔法師   作:無為の極

7 / 69
第7話

「剛毅さん。何か変わった事でもあったんです?」

 

「来て早々済まないんだが、ちょっとこれを見て貰おうかと思ってね」

 

金沢に来て早々、蒼とアヤは剛毅の元を訪ねていた。一条家は魔法師の名門であると同時に、家業として海洋調査の仕事をしていた。普段であれば蒼を呼び出す事は無かったが、今回緊急で呼び出したのは普段ならば今回見つかった物は理解されないまま廃棄される様な代物を見つけた事だった。

 

 

「これは……」

 

「恐らくなんだが、この石は何かしら含まれているようなんだ。当初は聖遺物かとも思ったんだが、どうにも違う様にも思えたから、今回来て貰ったんだ」

 

手元にあったのは拳大程の小さな岩の塊の様にも見えていた。当初これが何なのかは分からないが、何かしらの反応があるからと、その場で廃棄せず価値があるならばと持ち帰っていた。

 

そんな中で当初は外部に委託して調べて貰う事も案として出たが、これが万が一聖遺物となれば今度は軍部にまで発展する可能性があった。もちろん、その可能性を考慮しても一度は調べない事にはこれがゴミとなるのか、それとも宝の山となるのか判断出来ない。そんな事も勘案した結果、蒼に声がかかっていた。

 

 

「確かに聖遺物と呼ぶにはちょっと違う様ですね……因みにX線検査は?」

 

「確認はしたが、中身はこれの塊のままだったよ。ただ、勘ではあるが何かしら気になる点があったんで来て貰ったんだが、調べる事は出来るかい?」

 

「ここではあれなんで、一旦研究室に持ち帰りませんか」

 

一条の研究室で色んなか角度からの検証が始まっていた。いきなり全部を壊す訳には行かず、端の部分を少しだけ砕き、遠心分離機へとセットする。他の物質にもなんらかの影響はないのかと、この時点で考えられる検査を一通り開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剛毅さん。これなんですが……」

 

どれ程の時間が経過したのか、既に時間は外が完全に暗くなっていた。昼過ぎから開始された検査に相当時間がかかったのか、蒼の表情に少しだけ疲労が見えていた。

 

 

「何か分かったのか?」

 

「推測ですが、純粋な物体として見た場合、これは感応石と同等の能力を発揮します。恐らくは剛毅さんの感じた勘はこれの事ではないかと」

 

感応石は現代魔法には欠かせないCADに内蔵されている物だった。本来であれば合成されるはずの物質が天然由来で発掘された事は今までになく、これは聖遺物とまでは行かないにしても、今後のCADのハード面での性能強化の可能性が高くなる代物だった。

 

 

「そうか。聖遺物では無いにしても、これもまた現代に於いての戦略物資となる可能性が高いと言う事になるのかな?」

 

「実際に試してみない事には何とも言えませんが、これが仮説通りであればCADのスペックは今よりも格段に高くなるでしょう。ただ、天然由来の物が故に数がどこまで確保できるかがポイントだと」

 

蒼の言葉に剛毅も驚いたが、こんな物が世間に流通させて良い物なのか暫し考えていた。蒼の言葉からすればこれはレアメタルに属する可能性が高く、実際には掘り起こした訳では無いが、海中に埋まっていた物を単純に発掘しただけだった。

当初は環境汚染も考えられていたが、深海とまでは行かないにせよ、それなりの深度にあった事から、安定供給は事実上不可能だと考えていた。

 

 

「環境汚染の事なら問題無いだろうね。これを取るにはマニピュレーターを操縦するしか方法が無い。深度から言えば人間がその場で作業できる様な環境には無いだろうからね」

 

「理論上は確かにそうですが、これならどうですか?」

 

蒼の手には小さな人形が乗せられていた。これが一体何なのかは理解出来ないが、蒼がそんな無駄な事をしない事は剛毅も知っている。これから先に何を見せられるのか少しだけ楽しみだった。

 

蒼は小さな人形に同じ大きさ程の呪術用の札を張り付けていた。これが一体何を示すのか、その答えは数秒後に理解していた。今まで動かなかったはずの人形が突如として動き出す。これは呪術の要因を含む物ではあるが大亜連合が使う様な物ではなかった。

 

 

「こ、これは?」

 

「これは研究中の術式です。ゴーレムとして動かす為にやってますけどね。これなら戦闘能力が無くても問題無いかと」

 

「まさかこんな物まで開発してるとは……将輝も君位出来ればいいんだが」

 

驚愕の術とは言え、剛毅も一条の総帥である以上、容易に驚く様な事は無かった。この魔法が確立すれば使い方によっては世界中の勢力図は一気に変わる可能性が高い。

 

人類の歴史はそもそも戦いによって成長している部分が多分にある。現在では当たり前の様にあるインターネットやGPSも元は軍事産業としての技術を開放した事から始まっている。ただでさえ今は近隣諸国には停戦講和条約を結んでいる訳では無い。

これが軍部に発覚すれば間違いなく何らかの技術取得に動くのは明白だった。

 

 

「あいつはあいつで良い所もありますから。どうせ今頃はアヤが相手をしてるでしょう」

 

含んだ笑みに、ここに来た当初の事が思い出されていた。将輝には言ったつもりは無かったが、どうやって知ったのか、蒼とアヤが来るのを将輝は待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将輝さん。今日は呼んで頂きありがとうございます」

 

蒼とアヤを駅で出迎えたのは一条将輝その人だった。当初は直接出向くと話すも、何かを考える部分があったのか、駅に到着すると珍しく待っていた。

ここでは一条家は地元の名士としての側面が強く、事実その事を理解した上で上手く利用している節が感じられていた。しかし、今回の将輝は何時もとは違ったのか、どこか緊張した面持ちで居る。

前回同様アヤに対してなのは将輝だけではなく隣に居た真紅郎も知っていたが、それ以上の事は何も言わなかった。

 

 

「アヤ。すまないが将輝の相手してくれないか?」

 

「え?でも私も…」

 

当初はアヤと一緒に行くつもりだったが、ここに来るまでに剛毅から受け取ったメールの内容に、万が一の可能性を考え、一旦は結果が出るまで教えない方が良いだろうと判断していた。

何かトラブルが有った際に、将輝が負傷しても気にしないが、アヤが負傷する事だけは避けたいとも思惑がそこにはあった。

 

 

「ひょっとしたら生臭い話になる可能性がある。結果が出れば伝えるから」

 

誰にも聞こえない様にヒソヒソと話す。蒼の生臭いの一言に何か思う部分があったのか、アヤもそれ以上の事は何も言わなかった。

 

 

「って事で済まないが真紅郎。アヤの事は任せたぞ」

 

「ちょっと待て蒼。なんでジョージなんだ。俺じゃ信用出来ないのか?」

 

「当然だ。お前の視線をいつまでもアヤに浴びせるのは不本意だが、ここは剛毅さんとの要件で来てるんだ」

 

蒼の言葉に真紅郎はいち早く反応していた。将輝とは違い、真紅郎は学者然とした部分がある為に、どちらかと言えば蒼と話す事が多い。そんな蒼が態々剛毅の名前を出した以上、そこに何かがある事だけは理解していた。

 

 

「将輝の事は任せておいて。あとで顛末を教えてくれればいいから」

 

「すまないが頼む」

 

「では私はお言葉に甘えてお願いしますね」

 

「は、はい」

 

顔が赤くなった将輝とのやり取りを尻目に蒼は剛毅の元へと移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃アヤの相手をしてますから、こちらとしても有難いですよ。そう言えば例の魔法科大学の件、ありがとうございました。お蔭で助かってます」

 

「こちらがしたことは大したことでは無い。あの結果は君自身が努力した結果であって、私はキッカケを作ったにすぎない。まあ、何にせよ君の今を見ている限りでは楽しく過ごしている様にも見えるがね」

 

「まあ、楽しいかどうかはともかく友人もいますし、これからでしょうね。中には困った輩も多いですから」

 

当時のいきさつを思い出しながらも、友人と称した達也達の事を思い出していた。第一高校は確かに魔法科高校の中では一番なのは否定はしないが、所詮は高校生。

井の中にいたままでは魔法科大学や世間と言う名の大海に出た瞬間、己と強制的に向き合う事になる。一部の人間はそんな中でも優秀だと思えるが、一科の人間全員が必ずしもそうだとは思えなかった。

 

 

「まあ、大学まで行けば勝手に理解するでしょうね」

 

蒼の一言が何を指しているのかは剛毅には直ぐに理解出来ていた。三高は尚武と呼ばれるほどに武の力に重点を置いているが、一高は魔法協会が定める国際基準を重点に置いている為に、その範疇から外れる人間の評価は著しく悪い物になっていた。

事実、一高ではなく三高や四高に行けば間違いなく上位に入れるにも関わらず、一高では規格に合わないの単純な理由で弾かれている者が多かった。

 

 

「そう言えば、夏には九校戦もあるが、君はどうするつもりだい?」

 

「多分二科ですから選択肢には入らないでしょうね。事実俺が出ると何かと問題もあるでしょうし」

 

蒼の言葉に当時の状況が思い出されていた。蒼自身がまだ力のセーブが出来なかった事もあり、全力で戦った結果新ソ連の軍を殲滅したまでは良かったものの、その後の対処にはかなり困っていた。

 

一番の問題点は軍部が戦力面として蒼を完全に囲もうとしているが直ぐに理解出来た所で、内部でのゴタゴタが出ていた。当時はまだ沖縄の戦いのすぐ後だった事も影響したからなのか、お互いの利権だけを求めているのが子供でも理解出来ていた。

 

当時はまだ何も分からなかったが、ここに来て当時やろうとしていた事が理解できる。そんな中で助け舟が出たのもまた事実だった。

 

「我々の事なら気にしなくても問題無いんだぞ。将輝が一人気にするだけだから、我々としても同じ土俵で戦う姿が見たいと思ってるがね」

 

笑みをこぼしながらも、一先ずは今後の可能性を考え一条のへと戻る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事は今後はどうなるんだ?」

 

夕食を取りがらも今回の顛末を話す事になっていた。当初は隠すつもりもあったが、将輝とて時期当主であれば、今回の物がどんな物なのかがすぐに理解出来ると同時に、今後の可能性を考えていた。

 

地球に眠る資源は時代と共に変化していく。当時であれば見向きもしなかった物が今は貴重品へと変わる時代。だからこそ今回の発掘結果には親交な判断が必要とされていた。

 

 

「一旦はこっちで解析と有用性の確認だな。例の魔法式も起動出来るレベルなら間違いないだろう」

 

「そうか。結果は楽しみにしてるぞ」

 

「となればここから売り出す事になるからな。また増収益の決算になりそうだな」

 

これがどれ程の物なのかを一番理解しているのは蒼である以上、これが市場に出回るのであればかなりの高値になる可能性もある。しかし、あくまでもこちらが望む効果があればの前提が付く以上、今はその結果を待つ事しか出来なかった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。