厄災の魔法師   作:無為の極

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第6話

 

「蒼。模擬戦で例の力を使いましたね?」

 

「……………」

 

蒼は先ほどまでの不遜な態度は一切無かった。いつもの態度は身を潜めているのは、それ程までに目の前のアヤが怒り心頭になっているのがよく分かるからこそ、それ以上の抗弁はしなかった。

 

 

「何度も言ってますが、今の蒼の状態であれを使えばどうなるのか知ってるはずです。やっぱり私のパスはお返しします」

 

「悪かった。ちょっと分からせるだけのつもりだったから、あれ以上の事にはならない。それにアヤ、お前のパスは解除する訳には行かない。まだ完調してないだけじゃない。今外せば確実に命が消える。そんな事を言うのは止めてくれ」

 

「もうしませんか?」

 

「……多分な」

 

それ以上の事はアヤとて何も言えなくなっていた。事実アヤが持っているパスは初めて会った際に命を繋ぐ為に蒼が無理に自分の能力を分けた結果だった。今はお互いが繋がっている感覚があるからこそ、あの力が発動した事を知っている。

 

それがどんな結果になってどんな影響が起こるのかを知っているからこそアヤは蒼に対して起こっていた。

もちろん、今までこんな話は何度もしたものの、蒼はそれを拒否していた。

 

 

「…分かりました。これ以上言っても変わらないでしょう。次回からは私が居る時にして下さいね」

 

「ああ。善処するよ」

 

あの場で見せた物は魔法であって魔法では無い。恐らくは誰も知る事も無ければ確認の方法が無い以上、調べる事は出来ない事を確信していた。明言はしなかったが、達也はあの一瞬で何かを見た可能性は高い。

しかし、仮に分かった所で理解できるはずもない事を知ったうえで蒼は敢えて行使していた。

 

 

「そう言えば、一条家から依頼がありましたよ」

 

「剛毅さんからか?」

 

「そうです。あと美登里さんが私も偶には来てほしいって言ってました」

 

先ほどまでとは空気が一気に変わっていた。一条家は現在の所2人の後見人となってくれている関係上、その恩義位は報いるつもりだった。当初は生活面でのサポートの話もあったが、今はそれも断り蒼が稼ぐ収益で生活をしている。

不遜な態度は取るが、それとこれは別問題だとばかりの対応を知る者はアヤ以外には居なかった。一条家からの依頼の内容は確認してないが想像は出来る。今は次の週末の予定を入れつつ、今後どうするかを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四条さん。そう言えば赤城さんとはどんな関係なんですか?」

 

あの一件が終わる頃、アヤは突然深雪から話かけられていた。同じクラスであっても話す機会は殆どなく、精々が面識がある程度。そんな関係にも関わらず、どこにも接点が無いはずだと考えながらにアヤは深雪の真意を図っていた。

 

 

「蒼とですか?それはどう言う意味で?」

 

「実はお兄様と赤城さんが顔見知りの様でしたので、一体どんな関係なのかと思いまして。それに私も四条さんとは仲良くしたいと思いましたから」

 

美少女と美女が並んで話す関係を同じクラスの人間は一体何が起こるのかと、それぞれが注目している事を悟られる事無く意識だけを向けていた。

 

事実、アヤはクラスでもそう話す人間があまり居ない。決して苛めに会っている訳では無く、単純に話かけ辛い雰囲気がそこにはあった。もちろんそれだけでは無い。

あの場に居た森崎とそのグループがその場に居た事も原因の一つだった。誰も好き好んで蒼の相手をしたいと思う人間はそういない。

だからこそこの状況が一体どんな動きをするのかを確認すべく見ていた。

 

 

「……蒼は確かに人間的にはアレですけど、案外と良い所もありますよ。私こそ司波さんと仲良く出来るなら嬉しいです」

 

ほころぶ笑顔を直視した男子は顔を赤らめながらも、悟られる事無く状況を見ている。良い物が見れたと考えたクラスの人間が大半だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は深雪さんにお願いしたい事があるんだけど」

 

「何でしょうか?」

 

蒼の模擬戦のあと、暫くの間生徒会室には沈黙の時間が流れていた。一番の問題は言うまでもなく蒼の処遇。今までの揉め事の中で完全と言って良い程に蒼に一切の非は無く、その結果相手が誰であろうとも撃退していた。

 

まともな人間であれば多少気に病む可能性があるが、残念ながら蒼にその考えは通用しなかった。自分以外の人間が全て格下だと思う事もあるのか、たとえ上級生でも一瞥を平気で与える。人間性はともかく、何とか制御する方法が無い物かと考えていた。

 

 

「深雪さんのクラスに四条アヤさんて居るでしょ?彼女が赤城君と親しいみたいだから、何とか出来ないかしら?」

 

「何とかと言いますと?」

 

「ほら、彼ってああだから、万が一の事があるとちょっとね……頼まれてくれないかしら?」

 

「同じクラスですから問題ありませんよ」

 

「本当に?ありがとう。これで少しは気持ちが楽になるわ」

 

真由美の提案には深雪も気になる事があったからのか、二つ返事で了承していた。実際の所、達也の師でもある九重八雲に蒼の事を確認した際に、いくつかの驚愕の事実が出ていた。

 

佐渡の侵攻戦の本当の立役者であると同時に、十師族の一条家とも親交がある。そんな経歴は二人で驚いていた事は記憶にも新しかった。それだけではない。アヤの苗字には四の数字が付いている。少なくとも深雪が知っている自分の本家や分家にその該当は無いが、それでも気になる事があった。

 

だからこそ、先ほどの話がここにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで俺まで?」

 

「折角誘われたんですから、これを機に蒼もどうかと思ったんですけど嫌でしたか?」

 

下校の際に何故か蒼だけではなく達也とその友人までもが一緒になっていた。アヤから誘われた当初は少し訝しく思う部分もあったが、特段困る様な内容で無い事は理解している。友人らしい者には期待していない事もあってか、事実蒼と親しい親交があるのはごく一部に留まっていた。

 

 

「特に問題無いが、良いのか?」

 

「はい。深雪さんもそう言ってましたから」

 

笑顔で話すアヤの表情を見てそれ以上の言葉を告げるつもりはなかった。深雪がいるのであれば達也も居る。以前に話をしていたエリカと言う名の女性の事も少しは分かるだろうと考え、今はアヤの言う事を聞きそのまま目的地まで行く事にしていた。

 

 

「何だ。一緒っだたのか?」

 

「あのな……深雪は生徒会。俺は風紀委員なんだ、時間もほぼ同じだったから一緒に来ただけだ」

 

達也はあの後、風紀委員へと加入する事になっていた。当時の経緯に関しては細かい事は知らないが、大よその事は想像出来ていた。あの委員長がこんな逸材を指をくわえて逃すなんて事は絶対に無いだろうと考えていたが、やはり蒼の予想通りの結果となっていた。

 

指定されていたのは喫茶店。恐らくはここに割と良く来るのか、既にそこには例の女性と他に3人、あとは男性が一人待っていた。話を聞けば女性の方はアヤと同じクラスだった事もあってか話は終始和やかに進んでいく。赤髪の女性とメガネをかけた女性は達也と同じクラスだったからなのか、話は何かと弾んでいる様にも見えていた。

 

 

「じゃあ、アヤさんは一条家に居たんですか?」

 

「居たんじゃくて後見人になってもらっているの。蒼の方は少しだけ居た見たいなんだけどね」

 

「一条って事はクリムゾンプリンスに会った事があるの?」

 

「将輝君?会った事はあるわよ」

 

まさかこんな所でもクリムゾン・プリンスの名前が聞けるとは思わなかったのか、蒼は笑みを浮かべながら次回の訪問の際には再度からかおうと心に決めていた。

 

 

「なんだ?どうかしたのか?」

 

「いや。あいつは俺からクリムゾン・プリンスと呼ばれるのを嫌がってるんだよ。まぁ、それを知った上で俺もからかうんだがな。それと俺の事は蒼でかまわない」

 

笑みが疑問に思ったのか、西條レオンハルトと名乗る男子生徒は蒼に話かけけていた。基本的に敵意がなければ不遜な対応をする事は無い。そんな中で友好的な話が出来るのも悪くはないと少し考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様。今日は楽しく過ごせたと思うんですが、何か気になる事でも?」

 

友人たちと別れた後、達也は自宅で少し考え事をしていた。以前に聞いた八雲の情報を何も考える事もなく平然と公表していた事に少しだけ疑問があった。

達也達の様に隠匿した状況でなければ通常、十師族と関わりがあるとなれば多少なりとも優越感に浸る可能性が高いと考えていた。しかし、今日の話からはそんな考えは微塵もなく、まるで近所の親戚の様な話ぶりに聞こえていた。

 

 

「いや。まさか一条との関係をそう簡単に公表すると思ってなかったから、少し驚いただけだよ」

 

「そうですね。でもアヤさんを見てると十師族だからと考えてる様な節は感じられませんでした。私は少しだけアヤさんが羨ましいとも思いました。変なしがらみに囚われる事もなく自由に生活する事が出来る。でも、私の場合は…」

 

無邪気な話に何か惹かれる物があったのか、それ以上の言葉は何も無かった。達也とてそう考える可能性はあったが、無い物をねだった所でどうしようもない。しかし、模擬戦で放たれたあれは果たして本当に魔法なんだろうか。

そんな考えが達也の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体なんの騒ぎなんだ?」

 

蒼が目にしたのは学校の玄関から校門に向かって色んなテントがすらりと並んだ光景だった。学校にはただ来ている様な雰囲気があるからこそ話を碌に聞いていなかったから知らなかったのだが、これはこの時期特有の新人獲得のオリエンテーションだった。

 

 

「部活の新入部員獲得らしいですよ」

 

「…でこれなのか。ご苦労な事で。アヤはどこか入りたい部活があるのか?」

 

「私は特に無いですね。こう見えても蒼のお世話で大変ですから」

 

子供の様な扱いではあるが、事実それは間違っていなかった。幾ら学校の授業を受けていないとは言え、蒼もやる事だけは異様な程に多い。新たな術式の開発だけでなく、今は世界中にあると思われる古代魔法に通じる魔導書の解析などやらなければならない物が山積していた。

そんな中で部活にまで手を出せば時間は確実に無くなる。それ故にこの騒ぎを回避する事を最優先と考えていた。

 

「おい。あいつは確か……」

 

「いや。しかし……」

 

まるで猛獣か珍獣でも見つけたかの様にいくつもの視線が蒼に向けられていた。一番の要因は事前に入試の成績が裏で流れたからなのか、それとも模擬戦の話をどこからか聞きつけたからなのか、蒼に対する視線は通常の新入生に向ける物とは明らかに違っていた。

事実、模擬戦の後で例の風紀委員はこの学校から退学している。表向きは立場を利用した不正ではあったが、その後のクラスでの魔法の授業で思う様に魔法が発動出来す、またその原因が模擬戦にあるのではと噂された事が一因でもあった。

 

 

「取敢えず帰るか」

 

人でごった返したはずの通路がまるで道を作るかの様に別れていく。何も知らなければ異様な光景ではあったが、本人の事を良く知る人物であれば、これはある意味当然だろうと思えていた。見た目は穏やかだが、近くによれば不気味とも取れる迫力に、その場に居た人間は誰一人声を掛ける事は出来なかった。

 

 

 


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