厄災の魔法師   作:無為の極

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第4話

 

「なあ蒼。お前は俺に恨みでもあるのか?」

 

「巻き込まれたお前が悪いだけだろ?そもそも俺は何もしてないぞ。ただ事実を述べただけだ。敢えて言うならお前の妹のせいだ」

 

「深雪は関係ないだろ?」

 

現在、蒼と達也は2人並んで廊下を歩いていた。事の発端は昨日の夕方だった。1-Aの面子が余程執着心が強かったのか、それともお近づきになりたかったのか、深雪に付きまとう様に話かけた所に丁度蒼が出くわしていた。

 

蒼とて本来であれば面倒事に自分から首を突っ込む様な真似をする事は殆どなく、前回の様な乱入は余程の事が無い限りしない。ただし、降りかかる火の粉が自分に降りかかるのであれば、払うには払うが問題なのはその払い方だった。

 

客観的に物事を言うだけならまだしも、図星だったからなのか僅かな侮蔑が入ると感じる人間が多いからなのか、何かと目の敵にされる事が多かった。

またもや邪魔が入ったと勝手に考えた人間がまたもや以前の二の舞になる様な事をした結果、こうやって生徒会室へと呼び出される始末となっていた。

 

 

「お兄様。態々申し訳ありません」

 

「良いんだ。深雪にこうやって会えた事を良しとするから」

 

「そんな…深雪に会いたかったなんて…」

 

何がどう変換されたのか深雪は生徒会室の前で顔を少し赤くしながら一人クネクネと身体を動かしている。この場に誰もいなかったのが幸いしたのか、この状況は蒼以外には誰も知る事は無かった。

 

 

「あのさ…時間が勿体無いからサッサと入らないか?」

 

「はっ、そうですね。ではどうぞお入りください」

 

蒼の存在を直ぐに理解したからなのか、先ほどの行為はまるで無かったかの様に深雪は毅然とした姿で入室している。呼び出された内容は大よそ理解していたからのか、そこには予想通り生徒会のメンバーが揃っていた。

 

 

「司波君と赤城君。お昼の休憩中にごめんなさい。実は昨日の件でちょっと確認したい事があったから来てもらったんだけど」

 

「それで、俺たちを呼んだ要件ってなんだ?貴重な時間を割いたんだ。それなりの内容じゃなければ帰るぞ」

 

真由美の笑顔には一切気にかけず、まるでそれがどうしたんだと当たり前の様な表情で放たれた言葉に真由美は内心苛立ちはあったものの、社交界で身に付けた厚い猫の皮はそう簡単にめくれる事は無かった。

 

 

「赤城君でしたね。仮にも生徒会長が話してるんですから少しは敬う様な素振り位はした方が宜しいのでは?」

 

「敬うも何も、端的に要件だけ言えば済むのに態々もったいぶる言い方をして俺の気分が害さないとでも思ったのか?生徒会長なら何やっても許されるとでも考える輩に対して敬う必要性も無ければ、権力で言う事を聞かそうなんて考える人間性なんて薄っぺらなやつが殆どだ。自分よりも格下と思える人間に敬う必要はあるのか?一個人としては対等な立場であるのは然るべき当然の事だと思うが?」

 

あまりの暴言に鈴音はそれ以上の言葉を発する事は出来ず、今までゆったりとした空気が突如として緊迫した物へと変貌していた。

 

 

「まぁ、リンちゃん。その事は横に置いておいて、ね?」

 

見知った人間であれば恐らく今の真由美の顔は怒り心頭になっているのは容易く理解出来ていた。しかし、ここは何も知らない無知な人間相手にキレた方が負けだと自分に言い聞かせる事で平静を保っていた。

真由美としては恐らく今までの人生の中でここまで貶された記憶が無かったからなのか、今は逆にこの男に少しだけ感心をよせてみようかと別の視点から考える事にした。

 

 

「実は、来てもらったのはそれぞれに用事があったからなの。司波君、あなた魔法の起動式が見えるって本当なの?」

 

真由美の放った言葉に達也は真っ先に隣の蒼を睨む様に見ていた。この情報は完全に言った訳では無かったが、それらしい事を知っているのは蒼しかいいないはず。だからこそ該当するのは一人しかいないと判断していた。

 

 

「どこで聞いたかは知りませんが、それは事実無根です」

 

「でも、貴方の妹さんはそうは言ってなかったわよ」

 

何がどんな話になったかは横に置いておいて、まさか情報の漏洩元が身内だとは予想してなかったのか、達也は珍しく苦々しい表情をしながらも深雪を見れば、やはりなのか目線を明らかに逸らしていた。

 

 

「だったら、要件は達也だけだろ?俺は帰るぞ」

 

「ちょっと待て!お前を呼んだのは私だ」

 

どうやら蒼は物のついでではなく、意図して呼ばれたのかその場で呼び止めたのは風紀委員長の渡辺摩利だった。

 

 

「あんたは…ああ、あの時の。で、何の用なんだ?」

 

「お前、風紀委員に喧嘩売っただろ?部下から話は聞いたんだが、その件について聞きたい事があったんだ」

 

風紀委員の一言で少し前にあったやり取りが思い出されていた。内容に関してはともかく自分に汚点が無い以上、なぜ呼ばれたのか理解出来なかった。

当時の事は校則に基づいた適切だと考えられる措置しかとっていない。

 

一旦は疑問に思うも、その内容に語弊があるのであれば問いただす必要が出てくる。しかも風紀委員長が自ら来ているのであれば、変に情報が歪曲される事は無いだろうと、蒼は当時の状況を説明する事にした。

 

 

「ああ、あれね。風紀委員様がこの学校で禁止されている差別用語を俺に対して使ったから少し注意しただけだが?」

 

「私はそうは聞いてない。説明ではお前が突如として襲い掛かってきたと聞いている。これがもし本当ならば我々は罰則規定に基づいた処分をする必要がある」

 

あの時の事をここに来て漸く思い出していた。確かあの時の原因はともかく実際に言われた事は間違い無かった。式典には出ていないが、ここで生活をする以上最低限の内容は熟知している。

もちろんその中でも差別用語等については確実に確認していた。蒼は基本的に忌憚なく言う事から誤解される事が多く、またつまらない事で揉めるのは時間の無駄だからと、どこまでなら許されるのかは一番最初に確認していた。

そんな中で取り締まる側の人間がまるで当然の如くそうする事に苛立ちを覚えた事がキッカケだった。

 

 

「へえ。証拠はあるのか?まさか、風紀委員様は本人が証拠だなんて頭の悪い発言は無いと信じたいんだが」

 

「残念ながら風紀委員には証言だけでも問題無いんだよ。ただし、それが不正に使われた場合は一般の生徒よりも重い処罰があるがな」

 

「そう。じゃあ念の為に聞くが、風紀委員会としては俺の有罪は決定と考えて良いんだな?お前はその証言を信じたと考えていいんだな?」

 

この期に及んで何が言いたいのか、摩利だけでは無く隣にいた達也も現状は見ているだけに留まってた。普通ならここまで追い詰められれば、何らかの行動を起こすケースが多いが、蒼にそんな兆候は一切無い。

未だ不敵に笑っているのがかえって不気味にも見えていた。

 

 

「部下を信用するのは当然だろう。で、お前こそどうするつもりだ?」

 

摩利も同じく不敵な笑みを浮かべながらに蒼がどんな反応をするのか少しだけ楽しみにしているのかお互いの視線が交差していた。

 

「はん。お人良しもここまでくれば滑稽だな。……言質は取ったんだ、後悔するなよ。証拠ならここにある。ほら、これを見ろ」

 

蒼は胸から小さなレコーダーを取り出すと同時にその画像を見せていた。これは一体何だと言わんばかりに摩利だけではなく、その場にいた真由美と鈴音も顔を寄せてみている。

内容を最後まで確認するまでもなく摩利の顔から笑みは消え、顔色は一気に悪くなった。

 

 

「因みにこのレコーダーは国際魔法協会が求める裁判の際の証拠能力のある物だ。もちろん改竄は不可能だし、やればすぐにデータは消える。どっちの言い分が正しいかはお前が勝手に判断しろ。これでも不正だと言い張るなら裁判になるが?そうだな……見出しは魔法科高校にて人権無視の訴訟が開催って所か。マスコミの喜びそうなネタだな」

 

「ま、待て。そんなつもりは無い。私は確認したかっただけだ。あまりにもしつこく言うから仕方なく聞いただけだからな」

 

「なんだ?今度は弁解のつもりか?くだらないプライドが優先したからこうなったんじゃないのか?ここまで呼びつけた責任が重大だと考える。この件に関しては…七草だったな?裁定はどうするつもりだ?立場上は風紀委員も生徒会も同列なんだろ?無実の人間をここに引っ張り出して糾弾した責任は重いぞ?」

 

まさかここまで用意周到に準備されていたと考えていなかったのか、すぐに回答を出す事は出来なかった。これが表に出ればただでさえ一科と二科の対立が大きくなっているのに、火に油を注ぐどころか火薬を投げ込むに等しかった。

判断を一歩でも間違えればどうなるのかは考えるまでも無かった。

 

 

「そうだ。委員長の権限でそいつを呼び出してくれ。多分逆恨みなんだろ?二年の一科が一年の二科に負けたなんて聞いたら恥だからな。ここは実力を分からせた方がいいだろ?」

 

判断に迷った挙句、ここからどうすれば良いのか迷い出した頃だった。そもそも蒼は時間の無駄を一番に嫌う。その為に回りくどい事を一番嫌がっていた。もちろん、そんな事は何も知らないのであれば、どうしてここまで怒りに満ち溢れるのか理解出来ない。そんな中での提案だった。

 

 

「でもあなたは二科生でしょ?大丈夫なの?」

 

「あのな、冤罪で呼ばれて今さら大丈夫もないだろ?あの時負けたのは向こうだから報告を捏造したんだろうが。今さら拒否権なんて存在しないだろ。どうせ一科がどうだとか二科がどうだとか捨てても構わないプライドを振りかざすからこうなるんだ。そんな輩は一回キッチリと教え込むのが一番手っ取り早い。因みに今日しか空いてないから授業が終わってすぐにしてくれ」

 

「分かった。では授業が終わり次第模擬戦の許可を出そう。それでどうだ?」

 

この一言を蒼は待っていた。本音を言えばこの場に呼び出してすぐに叩き潰したい衝動もあった。ただでさえ時間があまり無い所にこんな子供の喧嘩の相手までする必要がどこにあるのか、その目的を見出す事が出来ない。

少なくともこの校内で蒼が見た限りまともに相手が出来る人間はそうは居ない。ただでさえ厳しい戦場を経験した魔法師は高校レベルでは数える程しかいない。蒼の目から見ればどうしてこんなくだらない事に血道を開けようとするのかすら分からなかった。

 

 

「まあそれで良いだろう。どうせ終わるのは一瞬だ。大した時間は要らないだろう」

 

「ほう…大した自身だな。自信過剰は身を亡ぼす事になるぞ」

 

「客観的事実を述べただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

蒼の一言にひっかかる物があった。確かに蒼は今、捨てても構わないプライドと口に出していた。その言葉を正しく理解するならば、その根底にあるのはただ人間として公平な部分だけ。この場で些細な一言を理解したのは摩利だけではなく真由美も同じだった。

この結果がどう転ぶのか、もしこの結果が自分達が考えるプランに対して有効なのではないか。そんな考えがそこには存在していた。

 

一方で蒼は自分のやりたい事だけをするのであれば、ここで完膚無きまでに叩き潰せば、今後は過ごしやすくなる位にしか考えて居なかった。

 

口は悪くても、世間をわきまえている以上降りかかる火の粉はここで払おう。そんな考えしかない。勢い任せにその場を出たことから、達也の存在は一切忘れ、今日の模擬戦へと意識を向けていた。

 

 

 

 

 


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