厄災の魔法師   作:無為の極

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第23話

 

「やっぱりこれは人為的な何かだと考えるのが無難だな」

 

劇的な新人戦のあとは再びミラージバットとモノリスコードの本戦が始まる事になっていた。ギリギリまで摩利の出場に関しては悩んだものの、やはりここからの出場は無理だと判断した結果、新人戦の試合の前に深雪を本戦にコンバートし、新人戦は補欠が出る事で決定していた。

 

当初はその交代の際の得点に関しても悩むべきところはあったものの、最終的には達也が調整したCAD影響もあってか、終始安定した戦いが繰り広げられると同時に、達也の能力に信憑性が増す結果となっていた。そんな中でミラージバットの競技中に一人の女生徒のCADが機能不全に陥る。

結果的には競技委員のフォローもあって事無きことを得た物の、やはり後味の悪い事実だけが残っていた。

 

 

「その為にはこれから検証する必要がある。今は原因の解明を優先しないと今後どうなるかが分からないのであれば防衛手段が無いのと等しいからな」

 

蒼と話をしながらも達也は画像の検証で当時の摩利の事故状況から再度洗い直していた。手がかりになりそうな物が殆どなく、万が一見つかったとは言ってもそれが本当に魔法であるかどうかは分からない。

結論が見えないままに時間だけが悪戯に過ぎ去っていた。

 

 

「しかし、渡辺もよく思いきったものだな。俺はてっきり無理にでも出場するかと思ったが」

 

検証の途中で、当時の事を思い出していた。身体的には完治している事もある為に強硬して出場するかと思われたものの、結果的には代役を立てる運びとなっていた。一番の要因は身体能力ではなく、魔法師としての能力を考えた末での結果だった。

当初この話が出た際には上層部は荒れるかとも思われたが、意外な程にすんなりと受け入れていた事に蒼も少しだけ驚いていたのは記憶に新しかった。

 

 

「例の魔法の事を考えれば、想子が殆ど枯渇した様な状態で出た所で結果が読めるなら代役をと考えたんだろう。どちらにせよ深雪が本戦に出る以上、俺が全部やるしかないのは何も変わらない。ただ、ステージが変わるだけだ」

 

達也の言う様に、結果は深雪が本戦に繰り上がり摩利の代役として出場する事だった。1年とは言え深雪の能力を考えれば恐らくは優勝は難しくても上位には食い込めるだろうと計算した結果だと蒼は考えていた。

 

万が一ここでアヤを強硬させる事態になるのであれば蒼としても何らかの行動をする必要があったが、モノリスでの無茶をミラージにまで適用するのは不可能だと判断したんだろうと考えていた。

 

 

「そろそろ委員会にCADの提出だろ?時間は大丈夫なのか?」

 

「深雪のCADの作業は既に終えている。今は違う内容でのチェックをしているから、時間には問題無い。それよりも良かったのか?幹比古から聞いたが、魔法の一つを教えたんだろ?」

 

「ああ、あれの事か。前にも行ったが魔法が道具であればあるほど、あれは本人の力量が如実に出る。使うかどうかは幹比古次第であって俺には関係無い。それだけの事だ」

 

モノリスの優勝のあと、蒼は幹比古にCADにインストールしてあった魔法の一つを公開していた。本来であれば高度な術となればなるほど秘匿とする事が多くなり、その結果として個人の物と言うよりも、魔法そのものが一族の物となりやすい傾向があった。

 

そんな中で渡したのは以前に使ったホーミングタイプの魔法。札を使うかCADを使うかは知らないものの、あまりにも簡単に公表した事に幹比古は驚きを隠しきれなかった。

 

 

「本当にお前は……まあ良い。そろそろ時間だな。詳しい事はまた後だ」

 

「そうか。俺もそろそろモノリスの準備に入らないと拙いな。面倒だが仕方無いか」

 

そんな言葉を交わしながら蒼は九校戦の最終競技でもあるモノリスの本戦準備の為に移動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~珍しい事もあるんだな」

 

モノリスの準備の際に飛び込んで来たのは達也が委員を相手に大立ち回りをした一報だった。既に準備は始めた為に詳細は分からないものの、普段の感情が見えない人間がそうまで激昂するのであれば、恐らくは深雪に関係する事以外には無いだろうと考えながら目の前にあったモニターを眺めていた。

 

目の前のモニターにはミラージの競技が始まっているのを横目に蒼は自身のCADの最終調整を始め居ている。今回も本当の事を言えば模擬戦の様に達也に細部のデザインを依頼するつもりではあったが、急な出場に加え、深雪の種目変更と何かと忙しくしていた事から、蒼は結果的には自分で調整をする事にしていた。

 

 

「何が珍しいんだ?」

 

「ああ、あんたか。達也は自分の事には中々感情を露わにしないからな。噂じゃ運営委員会の人間が今回の元凶だと聞いたが?」

 

蒼の呟きに反応したのか、十文字が何気なく話かけていた。モノリスは最終日の競技ではあるが、今から何か出来る事は限られてくる。ただ、念のための最終確認とばかりに蒼は調整していた所で出くわしていた。

 

 

「ほう。一条から聞いたのか?」

 

「まあそんな所だ。何が目的かは知らんが、障害が無いならこれ以上の心配は杞憂だろ?自分のすべき事をしたらどうなんだ」

 

この場にはモノリスの選手とそのスタッフしか居ない。しかし、今回の競技の選出の際には蒼に文句を言った者も居たからなのか、完全に居心地の悪い状態になっていた。時折横目で蒼がどんな事をしているのかと見ようとした人間もいたが、残念な事に全ての調整と確認が生データで行った事から、見る事は出来ても理解出来る人間はこの場には誰も居なかった。

 

 

「お前に心配されなくても準備は終わっている。お前の方こそあれだけ大口を叩いたんだ。少しはやってくれないと困るがな」

 

「ふん。お前に心配される程俺は落ちぶれて無いからな。明日の競技は心配しなくても手は抜かないさ。それがたとえ雑魚が相手だったとしてもな」

 

既に臨戦態勢に入りつつあったのか、十文字の言葉に対して蒼はそれ以上の事は何も言わない。本来であればここまで空気が悪ければチームワークが破綻するが、蒼自身は全ての競技を一人で戦い抜くつもりなのか意にも介さない。

殺伐とした雰囲気だけが一高のテント内部の空気を重くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一条、今回の一高のモノリスなんだが、例の1年なんだが、得意な魔法とか知らないか?」

 

下馬評では一高の対抗できる学校は事実上なく、また必ず対戦するであろうと考えていた三高は将輝に何か知らないかと情報収集を兼ねて確認していた。

今回の中で厄介なのは十文字のファランクス。対抗できる魔法が無いのであれば、直接の対決を避け、突破口を開くべく、今回のメンバーの中で一番アンバランスな蒼から攻める計画があった。

 

 

「得意魔法はあまり無いかと。ただ発動速度は少し遅い位で後は……何も無いですかね」

 

本来であれば身内を売る様な真似はしたくないが、聞かれた事は当たり障りの無い内容だった事から、将輝は一般的な事だけを伝えていた。しかし、その言葉に何か安心した様な表情を浮かべたからなのか、将輝は一抹の不安が過る。

 

いくら十師族とは言え、学校で権力を振りかざす様な真似はしない。しかし、蒼はある意味初見殺しの魔法を平然と使い、それが毒の様に身体を蝕む効果を持つ事は身を持って知っている。だからこそ将輝は心の中で詫びながら忠告とばかりに先輩に口を開いていた。

 

 

「参考になるかは分かりませんが、実戦であれば俺は多分30秒しか持たないです。それを過ぎれば……多分俺は確実に死にます」

 

「…一条。お前、それが十師族である事を前提に話してるのか?」

 

「はい。模擬戦であれば多分五分五分か六四で俺が負けます。あいつの事は俺も知ったつもりではいますが、本当の力は知らないんで」

 

本来であれば将輝とてこんな言葉を言うつもりは無かった。しかし、九校戦の直前に渡されたCADに内包された魔法の存在がそれを否定する。念を押された事で真紅郎と入念にチェックした場所での魔法の展開をした際に、これは人類が早々使って良いとは思えない程の威力があった。

 

魔法障壁が展開した事で周囲に対する被害が最少だったが、問題なのはその威力だった。内部にあった物が一瞬にして蒸発するかの様に消滅すると同時に、地面がマグマ状になっている。

これは内部の温度が超高温になった事で床が熱エネルギーに耐え切れなくなった結果マグマ状になっていた。その魔法が発動するまでのタイムラグが30秒。本来であれば対象物を確認してから魔法が発動する為に、回避できる可能性は高いが、生憎とこの魔法は魔法障壁が瞬時に展開されると内部からの破壊は事実用不可能となり、その結果高温になるのを感じながら一瞬にして消滅する事だけが予測出来ていた。

 

以前に蒼が見せた際にはここまでの威力は無かった。しかし、CADで展開した際に蒼がやっていたであろう制御が無かった事から、これがいかに危険な魔法であるのかを2人は瞬時に理解した事を改めて思い出してた。

 

 

「一条がそこまで言うならば警戒するに越した事は無いだろう。多分一高はそんな部分も踏まえて選手に送り出したのかもしれんな」

 

選手の選考に関しては各学校ごとにやり方は違う。三高は戦闘能力に注目した結果として選手を選定するが、一高はそうでは無い事を少しだけ将輝は聞いていた。しかし、この時点で蒼の話をしたが詳細については何も語っていない。とりあえず学校に対する義理は果たしたと内心考えていた。

 

 

「ちょっと将輝!一高のミラージ見た?あれ飛行魔法だよ!」

 

将輝の考えを現実へと戻したのは真紅郎の声だった。既に決勝に入っているのか時間はそれなりに経過していたがミーテイングをやっていた事もあり気が付かない。もちろん今がその時間であるのは真紅郎も理解しているが、やはり見せつけられた魔法に脅威を感じたのか、モニター越しに見た光景は深雪が空中で舞っているかの様な光景だった。

 

 

「飛翔魔法の間違いじゃないのか?」

 

「あの挙動は飛翔魔法では無理。あんな物出されたら勝てっこない」

 

真紅郎の言葉はこの場に居る人間だけではなく、他の学校や一高内部でも同じだった。まだ公表されたばかりの新型術式でもある飛行魔法は世間に対し、あまりにもセンセーショナル過ぎていた。

人類の歴史の転換点ともとれるその内容は全ての常識を覆す結果となっている。それを高校生のエンジニアが何事もなく披露した事で三高のテント内は重苦しい物へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう来たか。まあ達也の事だから、遅かれ早かれ披露するとは思ったが、案外と早かったな」

 

「そうですね。でも達也さんはどうやって手に入れたんでしょうか?」

 

準備が終わったからと改めて競技会場でも見ればそれはまさに深雪の独壇場でもあった。薄暗くなりつつある空に人が舞う様に次々と得点を重ねていくその姿に魅了された人間は多かった。

 

 

「確か企業のオープンコードだからそれなにりに内容が理解出来る人間なら誰でも確認できるはずだぞ。確か剛毅さんがそんな事言ってた記憶があるが」

 

「そうだったんですか。でも達也さんはそれを理解した上で使っているんですから凄いですね」

 

アヤの言葉には打算は無く素直な賞賛だけだった。元々飛翔魔法を使いこなすからこそ、その安定性がどれ程の恩恵をもたらすのかは確認するまでも無かった。それと同時に、一つの考えが浮かぶ。披露するタイミングが早すぎたのだ。

これでは運営委員会に各校からのクレームが付く可能性がある。そして考えられるのは各校にそのソースを態と漏らす可能性がある事だけだった。

 

 

「でも少し早かったかもな。次のインターバルまでに恐らくだが、各校共にこれをインストールしてくるだろうな。一から作るなら面倒だが、既にある物ならコピーするだけだからな。多分次はそれも込で見た方が良いだろう」

 

「でもそこまでしますか?」

 

「するさ。今回の大会はあまりにも不可解な事が多すぎる。只でさえ一高のやった事は横暴だと思われる所で、この魔法だと、最早依怙贔屓なんてレベルは通り過ぎてるからな。これ以上のクレームを嫌っている以上、運営委員は間違いなく公表する」

 

蒼の指摘通り、インターバルが開けた後は各校がそれぞれ飛行魔法を使っての競技に挑んでいた。全員が一度も地面に着地する事無く移動する様はまさに妖精の様にも見える。しかし、それが結果としてどんな結末を迎えるのかを知っている人間はそう多くは無かった。

 

 

「思った通りだったな」

 

蒼が指摘した様に始まった競技ではあったが、やはり常時想子を吸収する為に容量に個人差がある以上、結果は想定内で終わっていた。ただでさえ絶対量が必要な魔法に対し、本来であれば各自が使うCADでさえも完全に使いこなすのが難しいそれを、一段も二段も性能が劣ったCADで展開すれば早々いリタイアする人間が続出するのは当然でもあった。

結果的には残ったのは深雪ただ一人。結果は誰もが確認するまでも無く終了していた。

 

 

 


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