厄災の魔法師   作:無為の極

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第15話

 

「ちょっと待て!何で出るんだよ!俺は何も聞いてないぞ!」

 

何も知らないよりはマシだろうからと将輝との回線を開き、現状の報告をしながら、まるで思い出したかの様に九校戦の参加を伝えていた。元々の実力を知っている側すれば厄介以外の何者でも無かった。

ただでさえ実戦まで経験し、尚且つ敵を殲滅まで出来る人間が出場するとなればある意味当然の驚きとなる可能性の方が高かった。

 

 

「今初めて言ったからな。因みに剛毅さんに昨日言ったらぜひ見に行くよって言ってたぞ」

 

「親父と話した時にはそんな事一言も言ってなかったぞ。…だから昨晩はあんな表情してたのか」

 

ガックリとうなだれるかの様な表情に笑いはあるものの、何に出るのかはまだ決まっていない。恐らくは既に決まっているのと判断出来るが、可能性を考えれば同じ一年であれば対戦する可能性は極めて高い。

間違いなくこの通信が切れた際には真九郎が頭を抱える姿だけは容易に想像出来ていた。

 

 

「何に出るかは聞いてないが、お前と当たる可能性はあるかもしれんな。今年は3連覇がかかっているらしいから気合いも入ってるみたいだが」

 

ただでさえ一高には十師族の内の2人とそれに近い実力を持った人物が居る事から、既に下馬評でも一高の優勝の確立はダントツだった。魔法師の能力は代を重ねるごとに強く濃くなる。

まさにそれを体現しているとも取れる人間を内包されると、他校から見ればそれだけでも脅威的とも取れていた。

 

 

「そうか……その発言で確実に俺とジョージの悩みの種が増えたのは間違いないな。何に出るのかはまだ分からないんだよな?」

 

「聞いてないからな。それに分かったと所でどうこう出来るレベルでも無いし、こっちとしては迷惑以外に何も無いんだがな」

 

九校戦は魔法科高校に在籍している人間であれば、選手になるだけでもどれ程の栄誉なのかをまるで理解していないようにすら聞こえたのはあながち間違いでも無いと将輝は考えていた。

蒼は自分の感心が向いた事には力を注ぐが、それ以外にはまるで関係無いとまで言える程に冷淡な部分が多分にあった。一条の依頼で動く際には世間では特殊だと思われる魔法を惜しげも無く使うが、これが一転して興味すら無いと分かればまるで相手にする事が無い。

そんな一面を今まで見てきたからこそ、今の蒼の態度は分かり易かった。

 

 

「普通は栄誉があるんだけどな」

 

「そんな小さい事を考えても仕方ないだろ?大体俺は出るけどアヤは出ないからな」

 

「じゃあ、来ないのか?」

 

「いや。確実に来るさ。ただ、選手になる可能性は低いって事だけだ」

 

アヤの能力では恐らくは選手としての起用は無いだろう事は蒼が一番理解していた。仮にあの能力が発覚すれば可能性はあるが、未だ日の目に当てる真似をした事が無い以上、バレる可能性は極めて低い。それが蒼が将輝に言った根拠でもあった。

そんなやりとりが続くも、そんな用事で連絡が来たとは将輝は思えなかった事を汲んだのか、蒼はすぐさま話題を変更していた。

 

 

「そう言えば、この前送ったCADだけど、見たか?」

 

「やっぱりあれはCADだったのか。最初は何なのか分からなかったぞ」

 

蒼は以前に海洋調査で発掘された物質を改めて精製する事に成功していた。元来CADに利用されている感応石と似たような性能ではあったが、改めて精製した際には、既存の物を遥かに超えるスペックがある事が発覚していた。それがあったからこそ廃屋での魔法を発動させる事に成功した背景があった。

 

 

「あれは中々の出来だ。例の魔法が発動したからな」

 

「本当か?あんな複雑な工程を破綻させずに発動するって事は相当な処理能力がある事になるぞ」

 

「ああ、だから昨日剛毅さんに報告したんだ。因みにあの魔法はお前でも使えるけど、恐らくは想子の消費が大きいから使えても精々が一発だけだろうな」

 

高熱を内包した空間はありとあらゆる物を一瞬にして蒸発させる程の威力を持っていた。幾らCADで工程を簡略化しても、それが使えるかどうかは本人の資質による部分が大きい。

ましてや、あれは元来であれば蒼の固有魔法とも呼べる代物だった為に、将輝自身が使えるとは考えても居なかった。

 

 

「あんな魔法をホイホイと使える方がおかしいだろう。まあ、一度発動するか試してはみるよ」

 

「それが懸命だな。ちなみに下手なアレンジすると暴走する可能性があるから気を付けろよ」

 

何気に怖い発言に将輝も顔が引き攣るが、今回のCADはまさにそれ専用ともとれる物なのは、見た瞬間に理解出来ていた。

あれはある意味で戦略級レベルの威力を誇る。そう考えると自然と扱いは丁寧な物へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也。技術スタッフに選ばれたんだってな。推薦した効果はあったな」

 

蒼の言葉にまさかとは考えていた達也も思わずやっぱりかと言った表情をこぼしていた。最初に選手側の選考が始まったまでは良かったが、そこに懸念すべき材料が存在していた。

 

一番の要因はCADのプログラミングが出来るスタッフの数の少なさだった。一高では実技に力を入れ過ぎているのはと思う程に、選手を選ぶには問題は無かったが、理論となれば話は別問題となる。大会の際には運営委員会から配布されるCADか、もしくはそれに準じたレベルの物しか使用できない。その結果として調整出来る能力に高い物が要求されていた。

 

 

「なんで俺の名が出てきたんだ?」

 

「服部と模擬戦しただろ?あの調整はお前がやったって七草と渡辺に言ったからな」

 

まさかの結末に達也は改めて頭を抱えたくなっていた。もちろんその反対に深雪の機嫌はうなぎ登りに高まったのはある意味余談ではある。

 

 

「決まった物は諦めろ。あの2人が下らない考えで戦力を破棄する様な真似をするタマに見えるか?」

 

この時点で当時の状況がハッキリと見えていた。事前に蒼の件で紛糾した事が影響したのか、技術スタッフを決める際には殆ど反論出来る様な人間は誰も居なかった。その為か、達也の今の技術力を確認する為に簡単なテストはしたものの、やはり全体的には好意的に取られていた節があった。

 

 

「そもそも、今の一高のスタッフ連中は殆どが既製品を少しだけアレンジする程度の能力しか無いんだぞ。実際に技術スタッフが足りないなんてほざいてた時には中々上質な笑いを提供させて貰ったぞ」

 

当時の状況を思い出すと、今でも笑いがこみ上げそうなのは無理も無かった。一番最初に選手登録が完了し、調整の話になった際に蒼は盛大に上級生を扱き下ろしていた。

幾ら一科生とは言え、全員が等しくCADの事を理解している訳では無い、事実として蒼も調整出来ると言った際にはやはり非難に近い物が出ていたが、調整方法をまともに理解したのは2人しかおらず、またその中身が何なのかすら理解出来ない人間が殆どだった為に、皮肉を言う以前に同じ立ち位置にすら立っていない事が直ぐに理解出来ていた。

 

「普通は自分で調整出来ないのであればもっと謙虚になるはずだが、なんでここの連中はどいつもこいつも自分出来ないのを棚に上げて自信にあふれているのか意味が分からん」

 

「蒼。全員が等しく理解して使えるならば今頃魔工師の職種は存在しないぞ。誰もが生活の為に人体を理解しているかと言えばそうではないのが現実だ」

 

「なあ、話が盛り上がっている所済まないんだけど、今の話を総括すると、蒼は選手として出るのか?」

 

ここが食堂だった事を失念していたのか、不意にレオが放った言葉で漸く説明してなかった事に蒼は気が付いていた。今回の選手の登録には一年の二科生が登録されている事は既に校内では知らない者は誰も居ない。ただ、名前は公表されていなかっただけの話であって、それが目の前に居る人物である事に誰も気が付いていなかった。

 

 

「らしいな。何に出るかは知らないが、それは間違い無いらしい。俺としてはもう少し有意義な夏休みを送りたかったんだがな。って言うか、達也は深雪から何も聞いてないのか?今もここには居ないが」

 

「深雪は生徒会の件でここには居ない。いくら兄妹とは言え、そう四六時中一緒では無いんだ。ましてや家族と言えど、生徒会の重要案件をおいそれと口にはしない」

 

「そうなんだ。いつも一緒ってイメージがあったから、意外って感じだけど?」

 

「エリカちゃんの意見には同意したいですね。確かにそんなイメージがありますから」

 

達也の言葉に意外だとエリカも美月もツッコむも、それほどまでに一緒のイメージが強いのかと今さらながらに達也は今後の事も考えているのか、それ以上の事は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、赤城君の件なんけど、どの競技に出すのが一番効率が良いのかしら?」

 

食堂で気楽に話をしている蒼達を他所に、生徒会室では選考競技をどうするのかを考えていた。今年は3連覇がかかった大事な大会であると同時に、三高には一条の嫡男とカーディナルジョージが同学年で居る以上、この二人の存在は脅威だった。

新人戦は本戦のポイントの半分とは言え、今年だけ勝てば良い訳では無く、今後の事も考えれば簡単に決めるのは無理だと考えていた。

 

 

「あの、会長。一条さんの件なんですが、赤城君は知り合いらしいのですが、いかがしますか?」

 

「深雪さん。それって本当なの?」

 

「はい。赤城君だけではなく四条さんからも聞いてます。何でも後見人になってるとの事です」

 

深雪の何気ない一言で真由美だけではなく、摩利と鈴音も頭が痛くなりそうだった。蒼の人となりは理解したつもりでも、後見人である以上は事実上の身内と何も変わらない。今までにそんな情報が無かったのであれば間違い無く将輝にぶつけるつもりではあったが、今の話を聞いた時点でその選択肢が消えた事は間違い無かった。

 

 

「深雪さん。その事を知ってるのは他に誰が居ますか?」

 

「同じクラスの北山さんと光井さんですが。あとはお兄様のクラスメートでもある千葉さんと西條君、柴田さんです」

 

鈴音の質問に疑問を持つ事も無く深雪は答えていた。ただでさえ一科と二科の混在したグループだけにとどまらず、そこに蒼とアヤが居る以上、目立たない道理はどこにもない。

ましてや蒼自身が十師族の関係者となれば話が大きく変わってくる。未だ本人が公言しない以上、問題は無いのかもしれないが、万が一レセプションでその関係性が分かれば競技そのものにクレームが付く可能性もあった。

 

 

「となれば、改めて一からのやり直しは間違い無いですね」

 

「なんでもっと早く言ってくれないかな。こっちがこれだけ苦労してるのに……」

 

呪詛ともとれる呟きは隣に居た摩利には聞こえているのかもしれないが、相当なストレスが溜まっているのは間違い無かった。入学当時のいざこざから今に至るまでに、蒼と対峙して精神が休まる事は今までに一度も無かった。

 

正論で返されるほど反論に厳しい物は無いのは今に始まった事ではない。そんな中で新たな爆弾を放り込まれた事により、真由美の理性の限界値は残す程では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤城君。君は一条家の人間なんですか?」

 

放課後になり、またもや蒼は真由美に呼び出されていた。昼の話はあの場に居た人間しか知りえなかったが、今は生徒会役員だけではなく部活連の会頭でもある十文字までもがこの場に居た。

 

 

「一条の家の事か?別に血縁では無いが。剛毅さんの好意で後見人になって貰っているだけだから、関係ないはずだろ?」

 

「お前はそう思わなくても、世間はそうは考えないのが普通だ。なぜそれを早く言わない?」

 

一条家の現当主の事を普通に名前で呼んでいる時点で真由美は嘘が無いと判断していた。それだけは無い。十文字に至っては師族会議で十文字家の代理として出ている事もあり、一条の当主の事は知っている。だからこそその状況を何も言わない蒼の事を訝しんでいた。

 

 

「普通、入学の際に後見人が居ればそれは記入してるだろうが。ましてやそれ以外に聞かれもしない事を言いふらす様な悪趣味は無いからな」

 

血筋が全てと言えるのであれば、それを自慢する人間はこの学校にも幾らでもいた。事実1-Aの森崎に至ってはそれが当然だと言わんばかりの捨て台詞まで吐いている以上、そんな繋がりがあれば一般的には無名とも言える人間であれば、公言する可能性の方が高かった。

 

 

「そんなに頭を抱えるなら将輝に聞くからそれで良いだろ?ちょっと待ってろ」

 

そう言い残し、蒼は携帯端末からどこかへアクセスしていた。この話の流れからすれば相手が誰なのか言わずとも理解できる。今はその話が終わる事を見ている事しか出来なかった。

 

 

「将輝か?悪いが選考の段階でお前の身内だと同一競技がどうだとか言ってるからお前が出る競技が何か教えてくれ……ああ。……それは大丈夫だろ?真紅郎にも迷惑はかけないから……ああ、じゃあ当日だな」

 

「で、何に出るって言ってたの?」

 

「将輝はモノリスと棒倒し、真紅郎はモノリスとスピードシューティングだ。因みにこれはこの場限りのオフレコだな。口外した人間は証拠があろうが無かろうが俺が処分する」

 

まさか本人から聞くとは思っても無かったのか、あまりの大胆は行動に誰もが何も言えなくなっていた。しかし、それと同時にある程度の戦略を練る事も不可能では無い。この事実を一端棚上げする以外に、この場は何も出来ないままだった。

 

 

 

 

 


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