厄災の魔法師   作:無為の極

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第14話

 

模擬戦の会場から去った蒼以外の人間は未だに動く事が出来なかった。確かに十文字が間に入るには些か早すぎるのは誰にも理解できていた。なぜならばモノリスのルールでも直前に委員が試合を止める事は出来ず、その結果最後に判断するのが通例だった。

しかし、今回の模擬戦に関しては蒼が言う様に、ルールだと言い張った事で強制的に終わったものの、十文字とて九校戦の前に服部を失う訳にも行かず、その結果としての措置として判断していた。

 

 

「ルールで負けたなら、私の賭けは成立してないのよね?」

 

「七草。賭けとはなんだ?」

 

何気に呟いた言葉が届いたのか、何も知らない十文字は真由美に再度聞き直す。まさか聞かれたとは思ってなかったからなのか、何でも無いと今は誤魔化す以外に真由美は何も出来なかった。

 

 

「それはこっちの話。十文字君には関係ないわ。でも介入するとは思わなかったんだけど?」

 

「最初は傍観するつもりだった。あのままで終わらせるのは惜しいと思ったからな。それに九校戦も近い。こんな所で無駄に戦力を失う訳にも行かないだろう」

 

「そう言えば赤城君が最後に放った魔法ですが、十文字君はファランクスを展開したんですよね?」

 

真由美と十文字の会話に割り込む様に鈴音の疑問が十文字の耳に届いていた。確かにファランクスを服部の前に展開したが、まさか何も無かったかの様に透過したのは誰もが流石に驚いていた。

 

どんな原理かは分からないが、あの魔法に近い物は余りにも有名すぎる為にこの場に居る人間は確かに知っている。それがどうなのかは分からないまでも、今は服部のフォローを考える必要があると、一先ずはそちらに意識を向けていた。

 

 

「ああ、間違いなくファランクスを展開させた。まさかあんな事になるとは思わなかったがな。しかし、あの赤城の魔法はあまりにも特異過ぎる。実際にはCADは殆ど使っていないのと同時に最後のあれは何だったのかすら分からん。七草が苦労するのは無理も無いだろうな。得意の色仕掛けは試したのか?」

 

「何馬鹿な事言ってるの。そんな事したことなんて今までに一度も無いわよ」

 

重苦しい空気を拭おうと話題を変えたまでは良かったが、真由美の反論に頷ける人間はこの場には誰も居なかった。

確かに今回の模擬戦を振り返れば、前回とは違い札を多用していた。実際に達也が調整した魔法は2つだが、結果的には使ったのは1つだけで終わり、大半は札によってもたらされた戦闘内容ではあった。

確かに性格に難はあるかもしれないが、使いどころを間違えなければ確実に戦力になるのは間違いない。意識は既に夏の九校戦へと向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今度は俺に何の用なんだ?」

 

どこかで見た記憶のやり取りが出る頃、蒼は真由美に呼び出されていた。結果的には模擬戦の内容は非公開となり、それは模擬戦の前に交わした約定だからと、今の蒼が呼び出される様な道理はどこにも無かった。

 

 

「赤城君は授業に出ている訳じゃないから、教室に行っても無駄だと判断したから来て貰ったんだけど、少しだけ時間を頂けるかしら?」

 

「呼び出しておいて今さらだろうが。で、なんなんだ?」

 

授業に出ていないのは間違い無いが、決して校内で遊んでいる訳ではない。今は夏に向けての準備をすべく、各地の情報やCADのプログラミングなどやる事が何も終わらないからこそ校内の工房に籠っている。

実技に関しては仕方ないが、今は生憎とそんな時間帯ですらない。何の為に呼ばれたのかその理由が全く分からなかった。

 

 

「この前の模擬戦の件でなんだけど、赤城君は条件を提示した上で挑んだのよね。だったら賭けは私が勝った訳だから、こちらもそれを履行しようかと思ったの」

 

蒼自身が口に出した以上、それはある意味考える可能性の一つだった。お互いの条件を確認はしなかったが、真由美の言い分にも一理ある。今はそれどころでは無い事も影響していたのか、蒼は真由美が言いたい事をただ黙って聞いていた。

 

 

「実は今回の九校戦なん……」

 

「断る。俺はそんな事に時間を取られたくない。それ以外ならば多少の考慮はしよう」

 

九校戦の一言で蒼は何かを察したのか、それ以上言葉を出させるのを制止していた。ただでさえ夏休みの前半を使うだけではなく、夏の時間で調べるべき事が山積している為に時間の有用性を考えれば、結果を聞くのは構わないが、参加や見学ともなれば時間の無駄以外に何も無い事だけは理解していた。

 

 

「それはダメよ。どんな内容だとしても、お互いの条件を提示しないまま物事が進んだ以上、それでは筋が違うと思うの。お互いが公平でなければそもそも無意味でしょ?」

 

既に決定事項だと言わんばかりの物言いに、蒼は少しだけ考えていた。確かに詳細については何も考えていなかったのは事実。模擬戦そのものも元々負けるつもりが無かったのも影響しているのか取り決めをしなかったのは珍しい失態だった。

 

 

「で、何を望むんだ?内容にもよるが?」

 

「そうこなくっちゃ。実は九校戦に出場してほしいのよ。あれは確かに十文字君が止めた事で決着はついたのは事実なんだけど、私達としては周りはともあれ君の実力は見込んでいるの。だからぜひ参加してほしいのよ」

 

真由美の提案は考える中での一番最悪な物だった。競技に出るのであれば間違い無くその間の訓練に時間を取られるのは間違い無い。時間はどんな人間にも平等である以上しわ寄せが来るのは考えるまでも無かった」

 

 

「俺はともかく周りの一科生は黙ってないんじゃないのか?そんな茶番に出る程暇は無いんだが?」

 

「その辺りは事前に説明をするから問題ないわ。だから、今日の放課後に改めて顔を出してくれない?」

 

既に決定事項として話している以上、何も言っても無意味な事に変わりは無かった。今日の予定は大幅に修正になる事を考え、一先ずは渋々ながらに了承する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜお前がこの場に居るんだ?今日はここで九校戦の登録の打ち合わせがあるのは知ってたと思ったんだが?」

 

選手の選考会場となった部屋へ蒼が入ると、森崎が一番最初に声をかけていた。自身が選ばれたからなのか、どこか忌々しげな口調とその他の視線がいくつも突き刺さる。部外者はこの場から去れと言わんばかりの言葉が聞こえそうだった。

 

 

「そうだな。森何とかの言う通りだ。俺は帰るから、この後に来る七草にも言っておいてくれ。場違いな邪魔者は排除しましたってな」

 

これで大義名分が出来たとばかりに蒼はこの場から立ち去ろうとしている。このまま森崎のせいにしてこの場を去れば、今度は誘われたとしても大義名分が立つ以上、口出しをさせる事は無い。ほくそ笑みながらドアを開けようとすれば、丁度来たばかりなのか真由美とその背後には十文字が立っていた。

 

 

「赤城君。あなたはどこに行くのかな?ここに来るように言ったはずだけど?」

 

「ああ、丁度良かった。今この場にいる連中全員に部外者は立ち去れと言われた所だから、俺は部外者だと判断した結果だ。だから俺はこのまま帰る」

 

「ちょっと待って。あなたは戦力としてここに呼んだの。誰が何と言おうが私は一言もそんな事言ってないわよ」

 

真由美の言葉に先ほど蒼に対し、文句とも言える言葉を放った森崎は一瞬にして顔色が悪くなっていた。真由美は確かに戦力と言っていたが、一体何をどうやってらそんな結果になるのか理解出来ない。

何時もであれば間違い無く反論するも、この場には真由美だけではなく会頭の十文字も居る事からそれ以上口に出す様な人間は誰も居なかった。

 

 

「あの、お言葉ですが、なんでこんな二科の一年が九校戦での戦力なんですか?理由があるのであれば教えて欲しいのですが」

 

真由美の討論会での真実から以前の様な雰囲気は多少弱くは無くなったものの、それでも魔法師としての実力が劣るからこその二科生が九校戦に出場ともなれば他の一科生も黙っていないと考えたのか、それを聞いたのは三年の一科生だった。

ただでさえ今年は前人未到の3連覇がかかった大事な大会である以上、多大とも言える不安視はある意味当然の事だった。

 

 

「だろ?だから俺には関係無いっていっただろうが。ボンクラどもが何を騒いだ所で物事の本質が見抜けないんじゃこの先は知れてるだろうが」

 

「一年の癖に何いってる。先輩に向かって言える言葉じゃないだろうが!」

 

「ボンクラにボンクラと言って何が悪い。客観的事実だろうが。それとも何だ?相手の能力も分からずに批判できるなら、貴様はさぞ偉いんだろうな。それとも威勢がいいのは口だけか?」

 

この場の空気を悪くしてこのまま退散したいと考え、敢えて煽る言い方でここから排除される様に仕向けるも、その状況を既に予想していたのか真由美ではなく鈴音の一言ですべてが沈黙していた。

 

 

「赤城君はここでは後輩かもしれませんが、進学先によっては貴方方の先輩になる可能性があります。ましてやここに来たのは我々だけではなく部活連からも有望だと判断した結果です。各自の成績や能力を考慮した上で来て貰っていますのでそれ以上の反論は各自の上層部にして下さい」

 

二年と一年には鈴音の言っている意味が今一つ分かっていなかったが、三年にはこの言葉が効いたのか、それ以上の言葉を出した者は居なかった。討論会に出ている人間から聞こえた話なのか、それともその場にいたからなのか、噂程度ではあるが、今年の新入生の中で一人特異な生徒が居るのは聞こえていたが、鈴音の進学先の一言でそれ以上の事を言うつもりは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくまぁ、あの服部が了承したな」

 

選考会はやはり一番の問題は蒼の存在だった。二科であれば実力は格段に劣るからと真由美や鈴音が説得を試みるも、多勢に無勢だったのか、それとも十文字の眼力による結果なのか、結果的にあのモノリスの模擬戦を見せる事になった。

 

当初は服部の実力を確認する程度のつもりで見ていたが、内容は誰がどう見ても蒼の常時優勢なままに事が運ぶと同時に最後に至っては横槍とも取れる内容で強制的に終了させた事が一番の要因だった。

 

一度でもモノリスを見た事があればそれがいかに早すぎたタイミングであった事は間違い無い。それが理解出来たからなのか、選考会場の中はお通夜の様に静まり返り、蒼を批判していた者は沈黙を貫く以外には何も出来なかった。

 

 

「はんぞー君は自分の事が客観的に見れたのかも。でもあの映像はあの場以外で他の人間には見せるつもりは無いわよ」

 

「って事はあの時点から既にこの結果が予測できたって事か。随分と俺を買い被っている様だが、俺が手を抜かない可能性は考慮しなかったのか?」

 

そもそも学校の威信やプライドなどどうだって良いと考えている蒼からすれば、こんな物程度の認識しかなかった。もちろん参加するならば最初からそんな事をするつもりは無いにせよ、まさか甘い考えを持ているのではないのだろうかと蒼は鎌をかける様に言ってた。

 

 

「その点は大丈夫よ。ちゃんと深雪さん経由でアヤさんから赤城君の事は聞いているから」

 

達也の時ほどでは無かったが、まさかここでも身内からのリークだと考えて無かったのか、蒼は少しだ天を仰ぐように視線が空中を彷徨っていた。

 

蒼としてもアヤにどうこう言うつもりは無かった。一番最初に友人になったと聞いた際には奇縁だとは思っていたが、まさかそんな込み入った話までしているとは考えても居なかった。

仮に思惑がどうであれ、アヤの友好関係が広がる事に蒼は一切口を出すつもりは無いのと同時に、普段からも食事の際には話題に出る以上、ある意味当然の事なんだと自分に言い聞かせる以外に何も無かった。

 

 

 

 


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