厄災の魔法師   作:無為の極

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入学編
第1話


 

2092年8月

銃声が鳴り響く中で一人の足がおぼつかない少年が人間だった物をかき分けるかの様にただ歩いていた。

ここは佐渡。今この場には僅かな島の住民と現在侵攻している新ソ連の軍隊。それと防衛の為に来ていた国防軍の軍人しか居ないはずだった。

 

 

「貴様!そこで何をしているんだ!」

 

一人の少年を見つけたのはどの所属の軍人なのか、この少年にはどうでも良かった。

拳銃を構えながら一歩一歩近づいてくる。このままここに留まれば、この少年の命は簡単に消し飛ぶはずだった。

 

 

「ぐぁあああ!」

 

僅かな悲鳴と共に目の前いた軍人の頭がはじけ飛ぶ。まるで血の詰まった風船が破裂したかの様な光景は、ここが少し前までここに住んでいた場所なんだろうか。それともここは地獄なんだろうか。一体自分は何をしたんだろうか。そんな取り止めの無い感情だけが残っていた。

 

 

「大丈夫か?」

 

目の前には先ほどの軍人を倒したかと思わる同じ年代の少年が黒いアーマースーツを着て佇んでいた。突然起こった出来事に何がそうなっているのか理解が追い付かない。

それでも今はただ見ている事しか出来なかった。

 

 

「俺の名前は一条将輝だ。お前の名前は?」

 

「ぼ…くの…な…まえは」

 

名乗ろうとした瞬間、いくつもの銃声が2人を襲っていた。同じ年代の子供に囚われていた事もあったのか、それとも幼いが故に周囲の警戒を怠ったのか、先ほど一条と名乗った少年と虚ろな表情をした少年は数発の銃弾の前に鮮血をまき散らしながら横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様!俺を裏切ったな!」

 

「裏切ったのではない!お前のその存在が全てを狂わせたんだ。これは全部お前のせいだ!このまま虚数の海へと沈め!」

 

大きな黒い塊が周囲を覆いながらに襲い掛かる。一人の青年は抵抗しようとするも、すでに右腕と左足が吹き飛んで無いのか、これ以上抵抗する事が出来ないまま、その黒い塊へと吸い込まれていた。

 

 

「いつか貴様を殺しに俺はここへと戻ってくる。それまで待ってろ」

 

「無駄な足掻きだ。虚数の海から出られた物は神代の世界より誰もいない。せいぜいもがき苦しめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として倒れた少年の脳内にまるで映画の様に映像が流れ込んでくる。臨死体験だと思うにはこんな光景は今までに一度も見た事は無い。これは一体何なんだと考えた瞬間だった。

数発の銃弾が貫いた身体が突如として再生したかの様に傷口から食らった銃弾がポトリと落ちると同時にみるみると塞がっていく。気が付けば先ほどの軍人が異様な光景に驚いたのか再び銃を構え、その少年に向かって引鉄を引いていた。

 

 

「無駄だ」

 

少年の身体に銃弾が届く前に消滅したかの様に消え去っていく。まるで先ほどとは別人の様な表情だけではなく、まるで悪魔の力が働いたかの様に少年の周囲の物が次々と浮かび上がっていた。

 

 

「ば、化け物め」

 

軍人ではあるまじき恐慌状態になったのか弾が無くなるまでひたすら引鉄を引き続ける軍人をまるで虫けらでも見るかの様な目で一瞥した瞬間、先ほどの浮かび上がった物が今度は銃弾の代わりの様に次々と襲いかかっていた。

 

 

「この身体だと、今はここまでが限界か。仕方ないが時間をかけて元の状態へと戻すしか無さそうだな。そうだ、ついでにこれも治しておくか。幸いにもここなら材料に困る事はない」

 

少年は左手を先ほど倒れた少年にかざすと、同じ様に時間が逆回転するかの様に元へと戻る。破れた服さえ見なければ、何も変化は無い様に見えていた。

 

 

「おい。いつまで寝てるさっさと起きろ!」

 

未だ意識が回復していないのか先ほど一条と名乗った少年の頭を叩きながら意識を覚醒させていた。

 

 

「う…ううっ」

 

「おいお前。今から俺の意識は途切れる。お前を治したのは俺だから、この身体を速やかに保護しろ。良いな」

 

突然言われた言葉に理解が追い付かない。一体どう言う意味だと一条将輝は自分の身体を触っていた。先ほど撃ち込まれた銃弾は体内には無く、まるで何も無かったかの様になっていた。

一体何が起こったのかを理解する間も無く、その隣で先ほど言った少年は倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将輝!どうしたんだその子供は」

 

「父さん。この子が俺を助けてくれたんだ。さっき銃撃を受けたけど何故か治ってる。詳しくは分からないがこの身体を保護してくれって」

 

佐渡へは義勇兵として参戦していたはずだった。新ソ連は宣戦布告もする事無く佐渡へと侵攻した事により一気に戦端が開かれていた。相手は一般軍隊ではあるが万が一の事も考えて、今の場所から近い一条家は佐渡へと参戦していた。

 

 

「…それでアーマースーツに穴が開いてるにも関わらず身体が無事なのか。まぁ、民間人の保護だ。それは当然だろう」

 

そう言いながら将輝の父親でもある剛毅はこれも義務だと、そのまま保護を決めていた。

時間が経つにつれて少しづつ戦局は悪化し始めていた。当初はいち早く駆けつけた一条家の力によって戦線は押し上げられたが、新ソ連も魔法師を投入した事から徐々に悪化し始めていた。

 

用意周到に計画された物であれば多少の想定外は覆す事が出来る。魔法師の投入はまさにそれだった。

既に口には出さないまでもこのままでは数の論理で押し切られる。そんな最悪の可能性がその場にいた人間の脳裏を駆け巡っていた。そんな矢先、先ほどまで眠っていた少年の目が突如として開く。

本来であれば誰かが気が付くはずだが、今の状況下でそれに気が付いた者は皆無だった。

 

 

「律儀に護ったか。ならばその恩は返す事にしよう」

 

気が付いた少年は医務室にいたのかベッドに寝かされたまでは良かったものの、ここがどこなのか理解出来ない。ただ、自分の状態がどうなのかを確かめ、今後の行動をどうするのかを考え出す。そんな僅かな時間の後で倒れる前に治療した少年が医務室へと来ていた。

 

 

「目が覚めたか。ここは一旦陣営を移動させる事になった。悪いが一緒に来てくれ」

 

「それよりも、ここは今どんな状況だ?戦場なのは理解したが概要が分かる場所へ俺を連れてけ」

 

遠慮すらしない物言いに将輝は顔が引き攣るも、今は戦時中だからと自分を言い聞かせ、取敢えず状況が分かる場所へと連れて行く事にした。

 

 

「将輝。彼が例の?」

 

戦闘指揮所(C・I・C)に連れてきた途端、その少年は戦場を直ぐに理解していた。沿岸部から侵入されたものの、数に押し切られているのか戦線が徐々に下がり出している。これ以上の事はどうなるのかは素人の目にも直ぐに理解できた。

 

 

「ここの部隊長は誰だ?」

 

「お前、少しは遠慮しろよ!今はそんな事言ってる状態じゃないだろ!」

 

「お前は確か一条とか言ってたな。そんなくだらない事よりもここの部隊長は誰なんだ?」

 

こんな中でも物怖じしないのは余程の大物なのか、それとも真正の馬鹿なのか、父親でもある剛毅が名乗り出ていた。

 

 

「将輝の父だ。ここでは俺が部隊長をしている。何か策でもあるのか?」

 

「策?なんでそんな面倒な事をする必要がある。物量には物量だ。今から俺が出るから、一気に戦線を押し上げろ。それがこの身体を護ってくれた礼だ」

 

何を言ってるのか正しく理解した者はこの場には誰も居なかった。物怖じしないのは良いが、十師族の一員でもある一条の総帥に対して放って良い言葉では無い。そんな事を考えている周囲を他所に、その少年は直ぐにこの場から飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん。少しは回復したか。これならば大丈夫だろう」

 

「ちょっと待て!何する………」

 

後ろから慌てて走ってきたのは将輝だった。文句の一つも言ってやろうかと思った瞬間、次に出るはずの言葉は出なかった。

 

 

『大いなる力の源泉でもある冥府の扉よ。その扉から漏れしその力。今ここに我の力を依代とし、その力をここに表わせ』

 

 

それが呪文である事だけはかろうじて理解出来ていた。この時代においての魔法の定義とは明らかに異なる。しかし、今目の前の起きている現象は紛れも無く魔法。

これから何が起こるのか誰も予測出来なかった。

 

少年が真上に掌をかざした先に小さな魔法陣と思われる物が出現したした瞬間だった。黒い光が頭上へと上がったかと思った瞬間に次々と周囲に対して落雷が起こったかの様に降り注いでいた。

雷の様にも見えるが黒い光がそれを否定する。気が付けば敵の師団は壊滅していた。

 

 

「ふはははは。ざまぁねえな。おい!さっさと突き進むぞ!ボケっとするな」

 

そう言うと同時に少年は走り出す。これが初めてあった時の同じ少年なのかと将輝は考えながらに走る先を追いかけている。これから何が起こるのか想像すら出来ないまま走り去っていた。

 

 

「さてと。リハビリ代わりに暴れるか」

 

大胆不敵とも言える笑みを浮かべ、先ほどとは違い今度は敵兵に向けて掌をかざしていた。

 

 

『神の御名の元にその力ここに示さん』

 

短い呪文をつぶやいた瞬間、今度は幾重の光の様な物がホーミングしながら敵兵を次々と貫いていく。突如として放たれた黒い光をかわそうとしたものはそのホーミングによって貫かれ、障壁で防ごうとした者は障壁ごと貫かれていた。

 

 

「お前の魔法はなんなんだ?」

 

将輝はあまりの出来事に僅かな言葉しか出す事が出来なかった。今まで一条の次期当主と呼ばれ、自身も爆裂の魔法を行使しながらこの戦場を移動していた。しかし、この目の前に行使された魔法は、今まで自分がやってきた物が陳腐に見える程の殺傷力と圧倒的な物量を秘めていた。

 

事実この場で聞こえるのは敵兵の悲鳴のみ。降伏の証でもある白旗は用意した瞬間燃えだし、降伏は一切許さないと思わせる程だった。

 

 

「見ての通り魔法だが?それがどうかしたのか?」

 

「そんな事は分かってる。お前が使ってる魔法を俺は知らない」

 

「一々五月蠅い。ここは戦場だ。つべこべ言わずにお前もさっさとやれ!出来ないなら俺一人でやるぞ」

 

「な……お前、俺が助けなかったら死んでるはずだろ!少しは感謝しろよ」

 

「だから身体を治しただろうが。これ以上は黙れ」

 

将輝の事はまるで居なかったかの様な振る舞いと同時に、今どこまで出来るのかを試しながら少年はこの時点での限界を測っていた。自分が今どの状態なのかを知らないままに魔法を行使する訳には行かない。それならば丁度良い物があったと、まるで玩具をあたえられた子供の様な笑みと同時に目標を定めるかの様に遠くを見ていた。

 

 

『冥界の扉よ、燃え盛る極炎をこの地へと呼びよせ我が名の元にその力この場に置いて召喚せよ』

 

唱えた瞬間、揚陸艦と思われる船の全域を魔法障壁らしきものが覆う。この場から詳細は見えないものの何となく丸い物が多い被せている事だけは理解していた。

 

 

『冥界の炎よこの場の全てを滅せ』

 

その一言がキーとなったのか、多い被せた物は数秒の内に消えていた。それだけではない、ほんの一瞬ではあったが周囲の海水が蒸発した事により周囲の視界は一気に塞がれていた。

 

 

「これで終わりだ」

 

その瞬間、火災旋風が巻き起こったと同時に、まるで生き物の様に動きながら、周囲に炎をまき散らす。既に逃げ場がない敵兵はあっと言う間に焼かれ、辺りには肉の焼け焦げる臭いだけが充満していた。

 

 

新ソ連の侵攻は結果的に義勇兵でもある一条家の力によって撃退された事になったが、実際には違っていた。揚陸艦はおろか、戦場に乗り入れたありとあらゆる物が破壊され、それと同時に白旗を振った人間でさえもが蒸発したかの様に一陣の広域エリア型の極大魔法に巻き込まれていた。

 

これが人間が行った物であれば非難は出るが、あいにくと自然災害だからと無理やり位置付けた事で事態の鎮静化を図ると同時にこの場に居たすべての国防軍に対し緘口令が敷かれる事になった。

 

当初軍部としては問題化する話も出たが、結果的には降伏した事実は無いとの公式見解を持って真実は闇に葬られる事になった。

 

 

 

 

 




他の小説の合間にネタ的に振って湧いたので書いてみました。
ご都合主義ではありますがお付き合いください。

連載はどこまで続くかは……未定です。

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