高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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土曜日なのでもう一話オマケで更新。
今回は冒頭の中学編はありません。


第六話

 

 

一色祖父「えー、現状決まっていることを今一度まとめたいと思います……。去年までは神社周辺でのみ行っていた出店の通りを、範囲を伸ばして稲毛北小学校まで繋げます。そして小学校の校庭を利用し、えー、大規模なイベントを行いたいと思っているんですがー……。えー、そのイベントの案が現状二つ出ておりまして……1つが雪ノ下さんが提案している……そのまぁ……『SAS○KE』です」

 

 

 ……え? なんだって?

 

 

 聞き間違いかと思い左右を見回してみると、由比ヶ浜や丹生谷達も揃って目を点にして固まっていた。

 

 唯一、雪ノ下だけが頭痛をこらえるようにこめかみを抑えている。

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 

 雪ノ下さん――ややこしいな。陽乃さんでいいや――はさぞかしドヤ顔を浮かべているのだろうと顔を向け……あれ? なんか黄昏れてる?

 

 そんな表情も一瞬のこと。いつもの強化外骨格笑顔を張り付かせて、陽乃さんはおもむろに立ち上がった。

 

 

陽乃「初耳の方もいらっしゃるかと思いますので、詳しくは私から。SAS○KEとは勿論、T○Sのスペシャル番組などで放映されているあのSAS○KEです。それを学校の校庭内に設営します」

 

 

 ……ちょっと何言ってるのかわからないですね。

 

 

陽乃「そんな事が出来るのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、テレビで放映されているSAS○KEのセットは、もともと私ども雪ノ下建設がテレビ局からの依頼を受け製造した物になります。各パーツの保管、放送当日の組み立て作業等も、すべて弊社及び弊社の下請け業者に一任されていますので、それを借りることが可能です」

 

 

 

八幡「……マジで?」

 

雪乃「事実よ。うちのアミューズメント事業部が請け負っているわ」

 

結衣「ゆきのんのお家って、ホントに凄いんだね……」

 

雪乃「金額的には、そう大した案件でもないのだけれどね……」

 

 

 確かにそうなのかもしれないが、俺のような庶民の感覚からしてみれば、テレビ局と繋がりを持っているというだけでかなりのインパクトだ。

 

 というかコレ、町内祭りの企画だよね? 毎年神社の周りに申し訳程度に出店が並んで、ショボイ花火が十数発ほど上がるあの祭りだよね? どんだけー。

 

 

 

陽乃「既にテレビ局には話を通し、セットの使用許可も頂いています。設営については全てこちらで行いますので、金額面についても何も問題はありません。テレビで行われているアトラクションに実際に挑戦できるとなれば、かなりの反響を期待できるでしょう」

 

 

 誰も、何も反応を示さない。それも仕方のない事だろう。

 

 企画のスケールがでかすぎて、どう反応を示せばいいのかも解らない状態だ。

 

 しかしその中で唯一、小さな手が上がった。

 

 

凸守「少し、よろしいですか?」

 

陽乃「どうぞ?」

 

 

 言葉を受け、もう一人の主役が立ち上がった。

 

 周りから視線を向ける大人たちに対して上品に会釈を返し、ニッコリと口を開く。

 

 

凸守「安全面の問題については、どうお考えなのでしょう? テレビではコースから落ちた際には水に落ちるため、そこまでは危険はないでしょうが、まさか校庭を掘り起こすわけにもいかないでしょう。それにテレビで見る限り、あの障害物はかなり難易度の高いものに思えます。町内の方々が挑んだところで、攻略できるものでしょうか? 挑戦者の大半がろくに進めないとなっては、いくら人を呼び込めたとしても拍子抜けのイベントとなってしまいかねません」

 

陽乃「勿論その辺りも考慮しています。もともと校庭の広さでは、テレビと同じ規模のアトラクションは設営できません。ですので、難易度が高いものは省き、安全上でも問題の無い障害物をピックアップして、テレビとは違うオリジナルのコースを作り上げます」

 

凸守「口だけでそう申されましても、どこまで信じて良いものか疑わしのですが」

 

陽乃「そうですね、もっともな意見です。ですので、具体的な設営案を資料として用意しました。……皆さんにお配りして頂戴」

 

 

 言葉を受け、背後に控えていた黒服の二人が、鞄から取り出した資料を参加者に配っていく。

 

 こっちにも回してくれねーかなーと思っていたら、黒服が前を通りかかったところで、雪ノ下が声をかけた。

 

 

雪乃「資料が余っているようなら、こちらにも貰えるかしら?」

 

黒服「む……っと、ゆ、雪乃様?」

 

 

 気付いていなかったのだろう。黒服は面食らった表情で、慌てて残っていた資料を持ってきた。

 

 回ってきた資料を見ればなるほど、クリフハンガーなんかの高い腕力を要求する障害物はほとんど排除されている。コレなら運動神経がそこそこ有れば、運次第でそれなりに進めるだろう。

 

 安全面でも、下にマットを敷き詰める他、アトラクションの上にワイヤーを張り、挑戦者に命綱をつけることで対処する案が提示されている。

 

 問題らしい問題は見当たらないな、と思っていたのだが――

 

 

凸守「……しょっぱ」

 

 

 ボソッと凸守家令嬢が漏らした言葉に、会議室内が凍りついた。

 

 

陽乃「……なにか?」

 

 

 表面上はニッコリと、陽乃さんが問い返す。

 

 

凸守「失礼、思わず……。しかし、半分近いアトラクションが削除されているのですね」

 

陽乃「校庭の規模を考えれば、妥当なところだと思いますけど」

 

凸守「ええ、そうですね。ただSAS○KEの名を聞いて訪れたお客さんにとっては、少々拍子抜けといいますか……。SAS○KEの名前を大々的に広告で打ち出しては、名前負けしそうだなと思ったものですから」

 

陽乃「書面で見ればそう思われるかもしれませんが、実際のアトラクションが校庭に設営されているものを見れば、かなりのインパクトを受けると思いますよ?」

 

凸守「そうですか? だと良いのですけど」

 

陽乃「ええ、私が保証しますよ」

 

 

 ウフフ、ウフフフフ……と、二人の穏やかでいてひたすら薄ら寒い笑い声が、しばらく会議室内に響き渡る。

 

 はい、皆さんドン引きのご様子です。

 

 

 

八幡「なぁ、アイツほんとに駅で会ったデコッパチなんだよな……?」

 

丹生谷「しつこいわね、何度もそう言ってるでしょうが」

 

八幡「だってお前……あの雪ノ下姉と真っ向から対等にやりあってんだぞ? 信じられるわけねぇだろ……」

 

雪乃「早苗さんは、少なくとも学力面では私や姉さんと同等の筈よ」

 

八幡「……ホントかよ」

 

丹生谷「学年でもダントツの成績ってのは聞いてるわね……」

 

雪乃「それに凸守家の一人娘ですもの。それなりに仕込まれているのは当然でしょう」

 

丹生谷「普段は、単なる中二バカだってのに……頭痛いわ……」

 

結衣「中二……ねぇヒッキー。さっきも中二とおんなじとか言ってたけど、どういうこと?」

 

八幡「そのまんまの意味だよ。材木座みたいに変なキャラ作ってる痛い子ってことだ。駅で会った時は、実際にそうだった」

 

雪乃「私としては、そちらの方が信じられないのだけど……。全く想像がつかないわ」

 

八幡「面識あんの?」

 

雪乃「社交界で何度か……」

 

 

 なるほど。最低限のTPOは弁えてるって事か。

 

 

 

一色祖父「え、えー……さ、先に進んでも……よろしいですか?」

 

陽乃「ええどうぞ?」

 

一色祖父「で、では、もう一つのイベント案を……。こちらは凸守さんの提案で……着ぐるみイベントを行うというものですが」

 

 

 あ、コッチは割とまとも――

 

 

一色祖父「メインは、50匹のピカ○ュウ大行進になっています」

 

 

 こいつら馬鹿なの? 死ぬの?

 

 

雪乃「凸守家は、システム開発を主軸に添えたIT企業よ。系列にはゲーム開発を行っている会社もあるわ」

 

八幡「任○堂の下請けもやってんの……?」

 

雪乃「そうなんでしょうね……」

 

 

凸守「それについては追加でひとつご報告が」

 

一色祖父「はい? な、なんでしょう?」

 

凸守「ふ○っしーさんのオファーが取れました」

 

一色祖父「は?」

 

 

 ピキッと。陽乃さんの強化外骨格がハッキリと引き攣った。

 

 

凸守「ですから、ふ○っしーさんです。オファーを出したところ快く引き受けてくださいまして。お祭り当日のイベントに参加してくださるそうです」

 

陽乃「質問、よろしいですか?」

 

 

 笑顔だけをそのままに、ドス黒いオーラを漂わせながら陽乃さんが立ち上がる。

 

 周りの大人達は、もはや頭を抱えて身を震わせるばかりだ。

 

 代理戦争っつうか、コレもう怪獣大決戦じゃね?

 

 

 

     ▽

 

 

 

 結局、その後も雪ノ下、凸守双方の言い合いに終始し、結論の出ないまま会議は終わった。

 

 つーかあの二人以外、ほとんど発言してないし。完全に萎縮してしまっている状態だ。クリスマスイベントの時とは真逆の意味で、会議の体を成していない。

 

 まぁ俺達の出番はこれからなのだが……コレ、ホントにどうにか出来んの?

 

 

八幡「……どうするよ?」

 

雪乃「取り敢えず、二人と話してみるしか無いでしょう」

 

八幡「はぁ、ラスボスと直接対峙か……。気が進まねぇな……」

 

雪乃「……その認識、改めておいた方が身のためよ?」

 

八幡「は?」

 

陽乃「雪乃ちゃん、ひゃっはろー!」

 

 

 魔王襲来! やだなぁ、このイベントスキップできねぇのかなぁ。どうせ強制敗北イベントでしょコレ?

 

 

陽乃「比企谷くんもガハマちゃんも、久し振りだね」

 

結衣「あ、はい。お久し振りです」

 

八幡「うっす……」

 

 

雪乃「姉さん」

 

陽乃「わかってるよ。隣の小会議室取ってあるから、取り敢えずそっち移ろうか?」

 

 

 小会議室を? いやに準備がいいな。

 

 

八幡「俺らが来ること、知ってたんすか?」

 

陽乃「まさか。いつも会議が終わった後使うから、取ってるだけだよ。早苗ちゃん、いいよね?」

 

凸守「はい」

 

六花「凸守……」

 

凸守「マスター達も、一緒にお願いします……」

 

富樫「ああ。そのつもりだけど」

 

 

 二人に連れられるまま、俺達は隣の部屋に入っていく。

 

 黒服四人を残して扉が閉められた瞬間、陽乃さんはクルッと俺に振り向き――

 

 

陽乃「さて比企谷くん。早速で悪いんだけど、次の会議で持ち前のヒールっぷりを爆発させて、このお祭りを破綻に追いやってくれないかな!」

 

 

 とってもいい笑顔て開口一番そう言った。

 

 

八幡「はい?」

 

凸守「マスター! 助けてくださいマスター! 今こそ邪王真眼の真の力を開放して千葉に終末をもたらすときDEATH!!」

 

六花「で、凸守?」

 

凸守「ダークフレイムマスターでもいいDEATH!! 暗炎竜を召喚して総武線沿いに破壊の限りをつくすDEATH!!」

 

富樫「お、おい! ちょっと、落ち着けって……!」

 

凸守「限界DEATH! もう限界なんDEATH!!」

 

 

 見れば向こうも、さっきまでのお嬢様キャラを投げ捨ててバカップル二人に泣きついている。

 

 何これ、いったいどういうこと?

 

 

陽乃「ていうか早苗ちゃぁ~ん……。なに? ふ○っしーってなに? どゆこと?」ピキピキ

 

凸守「うぅ!」

 

陽乃「言ったよね? こないだ二人で話し合ったよね? とにかくコレ以上規模を広げるのだけは止めようって」

 

凸守「し、仕方ないじゃないですかぁ! お母さんが思いつきで言い出して……コッチだって本気でオファー取る気なかったんですよ! 形だけ依頼を出してすぐ諦めるつもりだったのに、向こうが『ちょうどスケジュール空いてるからいいなっしよー』って凄い乗り気で……」

 

陽乃「そんな事態になったら、こっちにもテコ入れ指示が来るに決まってるでしょ? どうすんの? こっちもケ○ン・コスギとかにオファー出しちゃうよ? タレント招集合戦に発展するよ?」

 

凸守「やめてくださいしんでしまいます」

 

陽乃「先に密約破ったのはそっちでしょ!?」

 

凸守「うわーん! うわぁーーん!!(マジ泣き)」

 

 

 何だこの地獄絵図……。

 

 

雪乃「見なさい比企谷くん。あの姉さんが取り乱しているわ」

 

 

 誰もが戸惑いの表情を浮かべる中、唯一雪ノ下だけが、キラキラとした至福の表情で自身の姉を見つめていた。

 

 その顔は無邪気な少女そのものであり、同時にラピュタの古代兵器を地上にぶっ放して大はしゃぎするムスカのようでもある。どうしよう、こんな嬉しそうな雪ノ下初めて見るんだけど。

 

 

八幡「結局コレは、どういうことなんだ……?」

 

雪乃「姉さんたちは、結局下っ端の尖兵でしか無いということよ。黒幕は母」

 

八幡「えぇー……」

 

 

 何その、バラモスを倒して世界が平和になったと思ったら、実はゾーマがいましたって感じの事実。

 

 陽乃さんが単なる中ボスとかどういうことだよ……。

 

 

雪乃「だから言ったでしょう? 認識を改めておいた方がいいって」

 

結衣「ヒッキー……これ、どうしようか」

 

八幡「俺に聞かないでくれ……」

 

 

 どう足掻いても絶望って、こういう時に使うんだろうなぁ……。

 

 

 


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