高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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第二十四話

 

 

鈴木「ふひゃひゃひゃひゃひゃ!! むらッ……むらさきッ……唇むらさきってwwww……ひー、ひー……な、何やってんのアンタwwwwww」ピクピクプルプル

 

佐藤「いや……私って病弱だから……」ヒクヒク

 

鈴木「そんな話聞いたことねーwwww!! クラスの大半がインフルエンザに掛かって学級閉鎖になった時も、あんたピンピンしてたじゃんwwwwwwww!!」

 

佐藤「………………」ビキビキビキ…

 

ソフィア「にーっはっはっは! まぁまぁ、何かのきっかけで体質が変わるなんてよくあることさ!!」

 

 

八幡「…………どうしてこうなった」ゲンナリ

 

モリサマー「いや、だから。貴方が原因でしょう……」ジトリ

 

八幡「俺が何したってんだよ……」

 

モリサマー「自分で考えなさい。……佐藤、貴方のその変容は霊的因果の可能性が見られますね。少し見せてください」スタスタスタ…

 

八幡「…………」

 

 

 

     ▽

 

 

 

八幡(俺のせい……何でだよ? 確かに佐藤の事はちょっと避け気味だったけど、それであんなキャラ作りまですることないだろ……)テクテクテク…

 

八幡(今まで、普通の女子は俺が話しかけただけで、あからさまに嫌な顔してたじゃねえか……。だから佐藤に対してだって……)

 

 

??「あれ、比企谷じゃん」

 

 

八幡「え? あ……お、折本……?」

 

折本「何その反応、ウケる!」

 

八幡(ウケねぇよ。つかクラスでもトップカーストのコイツが、何で俺に話しかけてきてんの……?)

 

折本「比企谷帰んの? ファミレスは?」

 

八幡「は? ファミレス?」

 

折本「うん。夏休み明けで久しぶりじゃん? だから、ちょっとファミレスで集まって皆で夏の思い出とか語ろって。結構クラスの全員にメール回ってたと思うけど、比企谷来てないの?」

 

八幡「いや……知らねぇけど……」

 

折本「ふーん。まぁでも同じクラスなんだし、来れば?」

 

八幡「い、いいよ……。呼ばれてもねえのに……」

 

折本「そう? んじゃあ次集まりがあったらアタシが連絡したげるよ。メアド交換しよ?」

 

八幡「え!? あ、ああ……」ゴソゴソッ

 

八幡(あ、あれ? 交換ってどうやってすんだっけ……?)カチカチ…カチカチ…

 

折本「何もたついてんの、ウケるんだけど! ほら貸してみなって」ヒョイッ

 

八幡「あ」

 

折本「……っと……ほい、交換完了」

 

八幡「あ、ああ……わりぃ」

 

折本「んじゃまたねー」ヒラヒラ

 

 

八幡「………………」ボー…

 

 

八幡(俺が……自意識過剰だったのか……?)

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

勇太「えっとまぁ、改めて……」

 

 

 コホンと一つ咳払いし、富樫は傍らに座る少女を指し示した。

 

 

勇太「妹の樟葉だ」

 

樟葉「は、はじめまして。よろしくお願いします……」ペコリ

 

雪乃「ええ、初めまして。雪ノ下雪乃よ。総武高校で奉仕部という部活の部長をしているわ」

 

樟葉「奉仕部……? ボランティアとかそういう事をする部活ですか?」

 

雪乃「似てはいるけど、本質は別ね。飢える者に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える。私たちがやっているのは、そういう活動よ」

 

六花・七宮(今の言い回し超カッコいい……)

 

勇太「へー、そういう部活だったのか」

 

樟葉「お兄ちゃんも知らなかったの?」

 

勇太「いや、俺もこないだ知り合ったばかりだし……。奉仕っていうから俺はてっきり……」

 

雪乃「てっきり……なにかしら?」

 

六花「…………」

 

勇太「あ、いや……何でもないです……」

 

 

 二人分の冷め切った視線に晒され、誤魔化す様に富樫は視線を逸らした。

 後に続く言葉は概ね予想できたが、まぁ追い打ちはかけまい。今富樫からの心証を悪くする行為など、自殺行為もいいところだろう。

 

 

八幡「まぁその、なんだ。さっきはすまなかった……」

 

樟葉「あ、いえ! 私も勘違いしちゃって――」

 

八幡「決してわざとじゃない、事故だったんだ。だから頼む、富樫。見逃してくれ……!」ズザッ

 

勇太「何でいきなり土下座!? しかも俺に対して!?」

 

樟葉「ええー…………」

 

 

 俺が十数年の生涯を掛けて磨き上げてきた至高の土下座を前に、富樫兄妹は何故か揃ってドン引きの表情を浮かべていた。

 

 

八幡「え、だってお前今頭の中で『いかに俺を苦しめ抜いて抹殺するか』を考えてるんだろ……?」

 

勇太「考えてないよ! どういう思考回路でその結論に達した!?」

 

八幡「もし仮にお前が小町に同じ行動をしたとして、先ず俺が考えるのは『死体の処理方法』なんだが……」

 

勇太「怖い!? いやいや普通そんなこと考えないだろ……」

 

八幡「…………お前それでも兄貴か? ほんとに千葉県民?」

 

勇太「いやいや、ちゃんと生まれも育ちも千葉だか……ら? ……あれ? 千葉……だっけ? 千葉……うっ、頭が……!」

 

 

 急に呻き声を上げ、頭を抱えだす富樫。

 また中二ネタかよめんどくせぇなあと思いつつ目を逸らすと、丹生谷を初めとした銀杏学園の面々もなぜかしきりに首を捻り「千葉……のはずよね?」「まぁ、実際千葉にいるし……」「引越しした記憶ないし……」と、戸惑いの呟きを漏らしていた。

 何だろう、このネタはこれ以上引っ張っちゃいけない気がする。そう思った矢先、雪ノ下がわざとらしく咳払いを上げた。

 

 

雪乃「とにかく……ウチの部員――いえ、備品が迷惑をかけたわね。私からも謝罪するわ」

 

八幡「いや、せめて人間扱いはしてくれませんかねぇ……?」

 

 

 ひょっとしたら雪ノ下も俺と同様の思いを抱いたのかもしれない。少々強引な話の転換に、こちらも乗っかって突っ込みを入れる。

 

 

樟葉「いえ、ホントに大丈夫ですから。私も、今日人が来るって聞いてたはずなのに、忘れてましたし……」

 

雪乃「そう? 彼を訴えるつもりなら、良い弁護士を紹介するけれど」

 

八幡「何で鎮火し掛けてる火事を再燃させようとするの? 事故だって散々説明したよね?」

 

いろは「トラウマにとかなってませんかー? 先輩の目、見ても平気でいられます?」

 

八幡「いやお前、いくら俺の目が腐ってようがそこまで――」

 

 

 言いながら妹さんに目を向けると、ちょうど向こうもこちらを見ていたらしくパチリと目が合う。

 瞬間、ヒッと引き攣った様な悲鳴を上げ、真っ赤な顔で目を逸らされた。

 

 

八幡「………………」

 

いろは「………………」

 

 

 え、マジで? 俺の目って、トラウマにまでなる程だったの……?

 そして一色は、何でゴミを見る目でこっちを見てくるの?

 

 

結衣「樟葉ちゃん、大丈夫だよ。ヒッキーは別に怖くないから」

 

樟葉「え……?」

 

 

 そんな怯える少女の肩をポンッとたたき、優しく諭すように由比ヶ浜が声をかけた。

 おお、流石ガハマさん。空気を読み、調和を愛するアホの子。その慈愛に満ちた笑顔にうっかり惚れそうになっていると、何故か急速にその瞳から光彩が消え去り、スッと後ろ手に持っていたタッパを差し出した。

 

 

結衣「ほら、エサをあげてみて? すぐに大人しくなるから……」カパッ

 

八幡「お願いします、殺さないでください……」

 

 

 タッパから“タマゴヤキ”を摘まみ、恐る恐る差し出してきた富樫妹に対し、この日二度目の土下座が炸裂した。

 

 

 

     ▽

 

 

 

雪乃「会議を開きましょう」

 

 

 その言葉とは裏腹に、なぜか雪ノ下が立ち上がり由比ヶ浜と一色に目配せをした。

 二人はコクリと頷きを返し、スススッと椅子に座る丹生谷に近づくと、その腕を両脇からガッチリとホールドして立ち上がらせる。

 

 

丹生谷「え?」

 

雪乃「小鳥遊さん」

 

六花「うむ」

 

 

 名前を呼ばれただけだというのに、全て心得たと言わんばかりの表情で小鳥遊がリビング奥の部屋へ繋がる襖をスッと開いた。

 どういう事なの? お前らいつの間にそんな熟年夫婦みたいな意思疎通方法身に着けたの?

 

 

丹生谷「え、なに? ちょっ、なんなの……!?」ズルズルズル…

 

 

 訳が分からず戸惑いの声を上げる丹生谷を問答無用で引き摺っていく雪ノ下たち。

 四人はそのまま奥の部屋へと消えていき、ピシャリと襖は閉じられた。

 

 

八幡「………………どゆこと?」

 

六花「そっちは知らなくていい話だから」

 

 

 無意識に漏れた疑問の声も、即座に小鳥遊にシャットアウトされる。

 襖の奥からは微かに「さきほ……樟葉さん……ん応について……」「たぶ……吊り橋こ……的な……」「未経験の出来ご……一時的に意識……るだけ……」「いや、な……私までここに……」「今そういうの良いから……」といった声が漏れ聞こえてくるが、流石に断片的過ぎて詳しい内容は分らなかった。

 

 

誠「あー……どうする?」

 

八幡「いやまぁ……時間もねえし、俺らだけで考えるしかねえだろ……」

 

勇太「だな……」

 

樟葉「お兄ちゃん。結局これ、どういう集まりなの?」

 

勇太「ああ、毎年冬に鶴御神社で祭りがあるだろ?」

 

樟葉「うん」

 

勇太「色々あってその祭りでやるイベントを考えることになってな。ただ、お祭りの由来になってる鶴と亀の話があって、それに合わせたイベントがなかなか決まらないんだ……」

 

樟葉「あ、その話なら知ってるかも。小学校の時、郷土研究の授業で聞いた覚えあるよ」

 

六花「甘いな樟葉。学校で教えられる歴史など、所詮仮初のモノに過ぎない」

 

樟葉「かりそめ……?」キョトン

 

六花「うむ。というのも……」

 

 

 人知れぬ真実を語るという、中二的に美味しいポジションを虎視眈々と狙っていたのだろう。富樫妹に対して、この間ルミルミから聞いた伝承をノリノリで語りだす小鳥遊。テンションが若干ウザったいが、中二病に対する抑止力が別室に引っ込んでしまった以上、会議を引っ掻き回されるよりは大分マシだろう。

 あちらは放っておいて、改めて現状残っているイベント案を見直してみる。

 

 まずコンサート。一番無難で、一番面白みのない案である。伝承を元にした歌でも作ってやれば、一応の体裁は整うだろう。それが盛り上がるかどうかはさておいて、だが。

 

 次にリアル鬼ごっこ。まぁ、大人数が参加できるようルールを工夫してやれば、子供も気軽に参加できてそれなりに盛り上がる気はする。準備も楽そうだし、そう悪い案ではないだろう。伝承とどう絡めるのかという案は全く思い浮かばないが。

 

 あと、大告白大会。伝承において、鶴が亀との関係を隠していたせいで起きた悲劇だ、ということを考えれば、無理やりつながりを主張することはできるかもしれない。しかし俺としては、そこはかとないリア充臭が感じられるこの案はあまり通したくない。爆発しろ。

 

 リアル脱出ゲームは、個人的に一番興味をひかれるイベントだ。最近よく耳にするようになった体験型エンターテイメントで、要は謎解きゲームと思っていい。閉じ込められた部屋の中に隠された様々な暗号やパズルを見つけて解き明かし、制限時間内に部屋から脱出を目指す、といった感じのものだ。

 参加は基本的にグループ単位、という俺にとって致命的ともいえる制限のおかげで、実際にやったことはないが。

 ただまぁこれに関しても、いったい何から脱出すんだよって話である。

 宝探しも同様だ。面白そうではあるが、伝承との繋がりがない。話の中で分りやすいお宝でも出てきてればちょうどよかったのだが……いっそその辺をでっち上げるか? いや、それはさすがに――

 

 

六花「――というわけだ。コレがあの神社に纏わる鶴と亀の真実」

 

勇太(凄い端折ってたけどな……)

 

樟葉「へー。そんな物語が隠されてたんだ……」

 

 

八幡「――あ」

 

 

 富樫妹が何気なく漏らした言葉が、最後に残ったパズルピースのようにピタリと嵌まり込んだ。

 あー、そうかそうか。何も見つけてもらうのは、『物』じゃなくても良いんだよな。

 

 

八幡「イベント案、思いついたわ」

 

 

 俺が挙げた言葉に、その場にいた全員が「え?」と振り返った。

 

 

八幡「謎解きと、宝探し。参加者には『物語』を探し出してもらおう」

 

 


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