モリサマー「私はモリサマー。400年の時を生きる魔術師」
八幡「へー……。そうですか」
モリサマー「どうやら私の言う事が信じられないようですね」
八幡「ああ、うん。悪い。信じる信じないとか、そういうレベルの話まで至ってないから」
モリサマー「目を」
八幡「あん?」
モリサマー「私の目を見てください。言葉など、本来人が分かり合うためには不要なものなのです。己の有り様を真摯に示せば、それは伝わるもの。精霊はそう語っています」
八幡「あれ、それ精霊喋ってない? 言葉使ってない?」
モリサマー「精霊のはテレパシー的なアレです。なんか頭に直接入ってくる的なヤツです」
八幡(いきなり適当になったな……)
モリサマー「さぁ」ジー
八幡「……ハァ」ジトー
モリサマ「……」ジー
八幡「……」ジトー
モリサマ「うッ」サッ
八幡「え、今目逸らした? なんか耐え兼ねるよな感じで逸らしたよね今」
モリサマー「な、なんという濁りきった瞳……。まるで排水管に詰まったヘドロのような……!」ワナワナッ
八幡「ねぇ、初対面の人間の目をそこまで言えるとか、お前の神経どうなってんの?」
モリサマー「この私が直視出来ない程の闇……ハッ! まさか精霊たちが語っていた、灰色世界の不浄王とはアナタの事!?」
八幡「自分の失態を誤魔化すために変な設定でっち上げんのやめてくんない?」
モリサマー「腐敗の主よ、立ち去りなさい! クリスタルスプラッシュ!」バシャッ!!
八幡「ぎゃああああー!! 目がー! 目があああー!!」ゴロゴロゴロ!
モリサマー「その苦しみ様はやはり不浄の者!」
八幡「オマっ、フッザケンナよこれメンソールかなんか入れてんだろ! めっちゃ目がスースーすんだけど!」ナミダメ
モリサマー「愚かな。これは聖別した薬草を霊山の雪解け水で煮詰め、濾過したものです。人間にとっては万病に効く霊薬であり、これによって苦しみを受けるということはすなわち不浄の者の証――」
八幡「んじゃお前は平気なんだな」ヒョイッ
モリサマー「あ」
八幡「バルス」バシャッ!!
モリサマー「ぎゃああああー!! 目がー! 目があああー!!」ゴロゴロゴロ!
…………………………
…………
…
八幡「ねぇ、何で人が必死で気付かないフリしてたのを無駄にしちゃうの? お前の奇行に対して、ツッコミ我慢すんのがどんだけ大変だったか分かってる?」
丹生谷「ぐっ……アンタにだけは情けとか掛けられたくないのよ……!」
八幡「情け? ハッ。あんま俺を見くびんなよ」
丹生谷「ハァ?」
八幡「関わると面倒臭そうだから、話しかけなかっただけに決まってんだろうが」キパッ
丹生谷(殴りたい、このアホ毛……)プルプル
八幡「あとテンパったらすぐ手が出る癖もどうにかしてくんない? 昔っからだろソレ」
丹生谷「うぎぎぎぎ……」
富樫「知り合いか?」ヒソヒソ
七宮「うん、中学時代のね……」ヒソヒソ
富樫「仲悪そうだけど……」ヒソヒソ
七宮「そう見える?」クス
六花「……」ジー
凸守「……」ジー
八幡「ん?」
六花「貴方のその目……」
丹生谷「そいつの目、カラコンとかじゃなくて自前よ」
六花・凸守「「マジDE!?」」
凸守「これが自前とかどういうことDEATHか!?」グルグル
六花「すげー。超すげー」グルグル
八幡(……なんで俺包囲されてんの?)
凸守「濁りっぷりが半端ないDEATH!! 混沌を煮詰めたかのようDEATH!!」グルグル
六花「呪われてる。これ絶対に超呪われてる。視線向けただけで森とか枯れるレベル」グルグル
八幡(何これ褒められてんの? 貶されてんの? どう対応していいか分かんねんだけど。ていうか見ただけで森が枯れるってなんだよ。ディープドラゴンかよ。……って、ネタがディープすぎるネッ)フヒッ
六花・凸守「「――ッ!?」」ビクゥ!!
八幡「うん?」
丹生谷(アイツ、自分の脳内ギャグで笑ったわね……。キモいのよねぇアレ……)
凸守「な、なんDEATHか? 今の邪悪な笑みは……」ガクブル…
六花「底知れない不気味さを感じた……。やはり、只者では無いッ」ジャキンッ
八幡(はちまん、知ってるよ。悪意の無い無邪気な言葉こそが、真に人を傷つけるんだって……)トオイメ
丹生谷(あ、地味に傷ついてる)
七宮「にーっはっはっは! 流石だね邪王真眼! 一目で彼の実力を見破るとは!!」
六花「ソフィアリング・SP・サターン7世! と言うことはやはり……」ド ド ド ド ド
七宮「そう。白でも黒でも無い、本来存在する筈のない灰色の世界に唯一人住まう孤高の主。三千世界に遍く腐敗の種を振りまく不浄王――」ド ド ド ド ド ド ド
八幡「俺、中二設定の中でもぼっちなのな……」ボソッ
七宮「彼こそはノスフェラトゥ・キング!! キヒヴァレイ!!!」ッバーン!!
六花「ノスフェラトゥ・キング!?」ズキューン!!
凸守「キヒヴァレイ!?」ズキュキューン!!
八幡(……帰っていいかな?)
六花「なるほど……。生も死も一緒くたにして腐敗させる不死者の王……相手にとって不足は無い……」ス…
凸守「マスター!?」
七宮「やる気なの?」
六花「当然。同じ魔眼の使い手として、見過ごす訳にはいかない」
八幡「なぁ、どっかその辺に『俺の意志』とか言うの落ちてない? 最近色々削られてるとは思うんだけど」
丹生谷「知らないわよ」
八幡「ハァ……めんどくせぇ……。まぁ、いつも通りの対応でいいか……」
七宮「そう……。でも油断しないで。不浄王の言葉には強力な言霊が宿っているの。精神が脆弱な者はその声を聞いただけで――」
六花「問題無い。邪王真眼は最強。爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! パニッシュメント・ディs――」
八幡「邪王真眼ってカッコいいねっ。なんのパクリ? 飛影?」ニコッ
六花「グハァ!!」ドシャッ!
凸守「マスタァァァァアア!?」
六花「……パ、パク……パクリ、ちゃう……ちゃうもん……」ピクピク…
凸守「マスター! シッカリしてくださいマスター!! な、なんという禁句を……お前は悪魔DEATHか!?」
八幡「ああ、なんか不浄なる者とかそういうのらしいな」シレッ
凸守「くぅ……マスターの敵は、サーヴァントである凸守が討ちマス!!」ガバッ
七宮「イケない凸守早苗! 迂闊に突っ込んだら――!」
凸守「案ずるなDEATH! 凸守の武器はミョルニルハンマー! 元ネタの北欧神話は様々な話で引用されているポピュラーな題材!! 胸を張って『オマージュDEATH』と返してやるDEATH!! 喰らえッ、ミョルニル――」ギュルルルルルル!!
八幡「その口調って多分、英語の『DEATH』と『です』を掛けてんだろうけど、冷静に考えるとソレ単なるオヤジギャグだよな」ニゴッ
凸守「デゴぉ!?」ズシャア!!
富樫「凸守ぃぃいい!?」
凸守「お、おや……おやじ……ぎゃぐ……」ピクピク…ピクピク…
六花「ちゃうねん……ホンマ……ホンマちゃうねん……」プルプル…プルプル…
七宮・富樫「「む……酷い……ッ」」
八幡(えー? そんなひどいこと言ったかなー? アタリマエのことしか言ってないと思うけどー? ハチマン、ヨクワカラナイヤッ)
丹生谷「相変わらず、性格腐ってるわね……」
八幡「バッカお前、熟成してるって言え。基本暗所に押し込められてるからな。醗酵して深みが増してんだ。てか、そういうお前はどうなんだよ?」
丹生谷「なにがよ?」
八幡「卒業したって聞いてたんだけどな? モリサマー」
丹生谷「したわよ。この連中には色々あって巻き込まれてるだけで……。だから、もうモリサマー言うな」
八幡「他にどう呼べってんだよ」
丹生谷「普通に名前で呼べばいいでしょうが」
八幡「いや、俺お前の本名知らんし」
丹生谷「はぁ!?」
八幡「なんだよ?」
丹生谷「し、知らないの?」
八幡「だってお前、俺に名乗ったことないだろ。クラスも違ったし」
丹生谷「え、いや……そう、だっけ? いやでも……だって……」ボーゼン…
八幡「どうでもいいけど、俺そろそろ行くぞ」
丹生谷「え!?」
八幡「もともと映画見に来たんだよ俺。もうすぐ始まるし」
丹生谷「ぐ……か、勝手にすればいいでしょ」
八幡「ああ、そうするわ。じゃ」スタスタスタ…
▽
丹生谷「…………」
富樫「良かったのか?」
丹生谷「なにがよ?」
富樫「いや、何がって聞かれても困るんだが。……なんとなく」
丹生谷「はんッ。別にもう会うこともないでしょ。私達もさっさと行きましょ」スタスタスタ
富樫「あ、おい! ……なんなんだよ、一体」
七宮「まぁ、色々と複雑なんだよ」
富樫「七宮……。中学時代なんかあったのか? あの二人」
七宮「ノスフェラトゥ・キングの封印」
富樫「え?」
七宮「さっき言ったでしょ? ……魔術師モリサマーはね、彼に封印されたんだよ」
くみん「凸ちゃーん、六花ちゃーん。だいじょーぶー?」ツンツン…ツンツン…
凸守「だ、だいじょうぶDEATH……。あ、いや、だいじょうぶです……」←大丈夫じゃない
六花「じゃ、邪王真眼の力を舐めるなよぅ……ッ」←ヤケクソ
▽
深夜も回り。布団の中で微睡んでいた俺の耳に、不意に携帯の着信音が届いた。
部屋の寒さと、布団の中の温もりに抗いがたいものを感じながらも、半ば無意識に腕だけを伸ばしてスマートホンをたぐり寄せる。
薄目を開けて画面を見やれば、一通のメールが届いていた。アドレスが直接表示されているということは、電話帳に登録されていないということだろう。
本来であれば、スパムメールか何かだろうと無視してそのまま布団をかぶり直すところなのだが、生憎とそういうわけには行かなかった。
そのメールアドレスは、見覚えのあるものだった。
中学卒業と同時に、関係と共に全てをリセットしたアドレス帳。そこに登録していた中でも一際――いや、唯一か――記憶に残っている、曰く付きのアドレスだ。
八幡「アイツ、なんでこんな時間に送ってきてんだよ……」
ガシガシと頭を掻き毟り、画面を睨みやる。
少しの間逡巡した後、俺はメールを開いた。
――――――――――――
丹生谷森夏よ
――――――――――――
メールにはただ一文、それだけが書かれていた。
八幡「名前知らなかったの、そこまで気にしてたのかよ」
思わずため息が漏れる。
つーか、モリサマーの由来を今更ながらに知ったわ。ん? ということはキヒヴァレイも……ああ、なるほど……。ワンパターン過ぎんだろ、アイツ……。
どうしたもんかね、これは。別に無視してもいいだろう。また会う可能性も少ないし、向こうだって俺がそういう人間だという事は承知しているはずだ。
しかし、いつもなら容易く行えるはずの割り切りに、どうにも躊躇してしまう。
過去のものとして放り捨てようとするたび、逆に思い出される中学時代の記憶。
綺麗な思い出ではない。それこそ、水溜りの奥底に沈殿している、泥のようなモノだ。ただその中にも、削られたガラス片程度の代物も確かに有って。
波紋を立てるたび、極稀に光を反射して色を放つ。
そうしてウダウダと悩んでいるうちに、いつの間にか時計の針は夜中の二時に差し掛かろうとしていた。
はぁ、なるほど。つまりは、アイツがこんな夜遅くにメールをした理由も、こういう訳なのだろう。
その理解とともに半ば諦めの境地でもって、俺はスマートフォンに指を走らせた。
――――――――――――
From:比企谷
――――――――――――
覚えとく
――――――――――――
取り敢えずキリのいい二話まで。
何もなければ、しばらくは一日一話ずつ投稿していくと思います。