高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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この話が台本形式とのハイブリッド的な書き方をされている理由の一つとして、『中学編と高校編を並行して描きたかったから』というのが有ります。
冒頭で話のテンポを損なわせず、中学時代の1シーンをスパッと描くのは、台本形式が一番だよなぁ、と。

ただまぁ、台本形式だけでは描けるシーンに限界があるので、高校編では割と節操無く地の文が差し込まれています。
商業作品では決して出来ないこの適当さ! けど、評価コメントで貰った「一人称パートとの繋ぎが雑」との指摘には正直返す言葉がありません! 反省!




第十三話

 

 

【図書室】

 

 

モリサマー「――この世には白の世界と黒の世界が合わせ鏡のように存在し、お互いに影響を与え合っているのです。白の世界とは今私達が存在している物質世界。黒の世界とh」

 

佐藤「ねね、モリサマ。換言の接続詞ってなんだっけ?」

 

モリサマー「“つまり”や“すなわち”などです」

 

佐藤「なるほどー」カキカキ

 

モリサマー「用法としてはこうです。黒の世界とは“すなわち”精神が存在する霊性世界のことです。……聞いていますか?」

 

佐藤「うんうん、聞いてるよー」カキカキ

 

鈴木「大丈夫だから勝手に続けてー」カキカキ

 

モリサマー「……コホン。原子の結びつきにより物体が形成されるのが物質世界であるなら、霊性世界は思想の結びつきにより概念が構成される世界と言えます。そう、精神とはすなわち概念なのでs」

 

鈴木「モリサマー。この主人公の心情を述べよって奴なんだけどさー」

 

モリサマー「……7行目の文章をよく読んでください。そこに書いてあります」

 

鈴木「おおー。さんきゅー」カキカキカキ

 

モリサマー「……あ、貴方達が常々語る魂とは、生物自らの思想により構成される精神、一人称概念です。しかし勘違いしてはいけないのは、生物以外の物質、何の変哲もない石ころなどにも精神は存在するということで……」

 

佐藤「へー」カキカキカキ

 

鈴木「ほー」カキカキカキ

 

モリサマー「…………我々生物が『あれは石である』と認識し、思考することにより、『石』にも精神が宿るのです。これを三人称概念と……」

 

佐藤「マジデー?」カキカキカキ

 

鈴木「パないわー。あ、辞書貸して?」

 

佐藤「ハイよー」

 

モリサマー「…………それはそれとしてメモゴメチン星人の話をしましょう。メモゴメチン星人は耳毛が異常発達したとても珍しい種族です。幼少期でも約1.5メートルほどの耳毛をツインテールのように垂らしており、成体ともなれば耳毛の長さは5メートルにも及びます。耳毛は自在に動かすことができ、食事や移動の補助、コミュニケーション等に使われています。性行も耳毛同士を絡ませあい、イッチョメイッチョメとヘッドバンキングしながら行うという、非常にユニークな生き物なのです」

 

佐藤「わーお」

 

鈴木「たまげたわー」

 

 

――ガシッ!!

 

 

モリサマー「は・な・し・を・聞きなさいよぉぉぉおおお!!!」グググググ!!

 

 

鈴木「うるせー! こっちは現代文の宿題で忙しいんだよぉぉおおお!!」

 

佐藤「ていうかモリサマ、あんたの腕力でこんなデカい長机ひっくり返せるわけないでしょ」カキカキカキカキ…

 

 

 

 

八幡(…………あいつ等ホントうるせぇ)ウンザリ

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 あの神社には昔、一匹の美しい鶴が居たのだと。そんな在り来たりな出だしから、ルミルミの話は始まった。

 

 それが本物の鶴なのか、はたまた容貌の美しい人間の娘に対する比喩なのかは分らないが、伝承にはただ一言、『鶴』と記されているそうだ。

 

 

留美「鶴は、自分が特別だと信じていたそうです。頭が良く、美しく、他者を引きつける魅力を持った自分は、神の御使であると」

 

勇太「なるほど、つまり中二病だな」

 

六花「むっ?」

 

 

 バカップルの片割れ――なんだっけ、富樫?――が、非常に身も蓋もない事を言って自分の相方に目を向けた。

 

 

八幡「いや、神の使いとか言ってるから、どっちかっつぅと……」チラッ

 

勇太「ああ、確かに……」チラッ

 

丹生谷「呪い殺されたいの……?」ヒクヒク

 

 

 あ、やっぱコイツ卒業しきれてないわ。

 

 

留美「ちゅうにびょう?」

 

結衣「のろい?」

 

丹生谷「うっ……」

 

 

 とっても純真な瞳で首を傾げる二人に居た堪れない物を感じたのか、誤魔化すような咳払いをして丹生谷は居住まいを正した。

 やはり一般人の前で本性をさらけ出すのは躊躇われるらしい。

 

 上手い事使えば牽制には持って来いだなとか考えていたら、スッと雪ノ下が俺と富樫の前に何かを差し出してきた。

 

 

八幡「……」

 

勇太「……」

 

 

 小皿に載せられた木炭クッキーであった。

 

 

八幡「おい、雪ノ下……」

 

勇太「あの……こ、これは?」

 

雪乃「どうぞ? お上がりなさいな」ニッコリ

 

 

 ハチマンたちは めのまえがまっくらに なった!

 

 

 

     ▽

 

 

 

雪乃「時間を無駄にしたわね。留美さん、続けて頂戴」

 

留美「あ、うん……」

 

 

 得体の知れない正露丸じみた風味と口内を蹂躙するザリザリ感にグッタリとする俺達に目もくれず、雪ノ下は続きを促した。

 

 丹生谷のザマァwww面が非常に鬱陶しいです。

 

 

留美「えっと……実際に鶴はとても聡明で、何度か周辺の村を助けたこともあり、多くの村人達から慕われるようになります」

 

六花「うむ。その辺りの事は我らが見つけた死海文書にも記されていた」

 

留美「し、しかい……?」

 

六花「世界弾劾図書館の最奥、死せる知識と歴史の海に沈められてあいやすいません何でもないですごめんなさい」

 

 

 クッキーの箱に手を伸ばしかけた雪ノ下の姿に、眼帯娘は即座に言葉を引っ込めた。

 

 効果抜群過ぎでしょうよ、そのクッキー……。

 

 

六花「あの、これ、図書館で見つけた郷土資料です、はい……。なんか、土砂崩れを予見して村人を避難させたとか、野盗を口八丁で追い払ったとか書いてました。あと、亀退治とか……」

 

結衣「亀退治?」

 

留美「神社のすぐ麓、今の亀治公園がある池に住んでいたという、嫌われ者の亀の事です」

 

結衣「へー」

 

留美「全身を苔に覆われた不気味な姿をしていて、村人たちから除け者にされていたそうです。けれど亀自身は気にした風もなく、どんな悪口や暴力を受けても、堅い甲羅の中に引きこもってやり過ごし、のうのうと呑気に暮らしていたと伝えられています」

 

 

一色「はーなるほどー。嫌われ者の……」チラッ

 

結衣「除け者にされた……」チラッ

 

丹生谷「引きこもりの亀……」チラッ

 

雪乃「…………」ウズ…

 

 

八幡「ねぇ、何こっち見てんの? おい、雪ノ下クッキーは? これもクッキー食わせるべきじゃないの?」

 

雪乃「鶴見さん。話の続きを」

 

 

 ちくしょう、スルーしやがった! 

 自分もこのネタ弄りたくてちょっとウズウズしてたくせに!

 

 

留美「亀は、鶴が村人から慕われるようになった後も、ただ一人彼女を認めることなく、反発し続けます。鶴のやる事に事あるごとに難癖をつけ、邪魔をし、そして最終的には野盗とともに村を襲い、鶴と村人たちの手によって退治されます」

 

誠「へー。ホントに嫌な奴だったんだなぁー」

 

 

留美「これが、“村人たち”によって綴られた鶴のお話です……」

 

勇太「村人たちに?」

 

 

 富樫のあげた疑問の声に、ルミルミはコクリと小さく頷いた。

 

 

留美「神社にはもう一つ、鶴自身の手によって綴られたとされる手記が残されているんです」

 

 

 

     ▽

 

 

 

 その後一旦休憩ということになり、俺はマッカンを買いに部室を出た。のだが。

 

 

八幡「…………なんで付いて来てんだよ?」

 

勇太「ジュース買いに行くんだろ? 俺たち場所知らないからさ」

 

誠「あと、女子比率高すぎて残されると正直辛い……。雪ノ下さん、なんか怖ぇし」

 

八幡「あっそう……」

 

 

 まぁ、その気持ちは正直分らんでもない。

 

 

勇太「なぁ、比企谷……あ、呼び捨てでいいよな? あそこって部室なんだろ? 何の部なんだ?」

 

 

 何こいつ、中二病患ってるはずなのに何でこんなコミュ力高いの? 新種かなにか?

 中二病から進化して高二病へ至ったはずの俺はご覧の有様であるというのに、この差は何なのだろうか。

 

 

八幡「……奉仕部だ」

 

 

勇太「…………ほ、奉仕部?」

 

誠「え、何なのそれ、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんも部員なんだよな? ど、どういった意味でのご奉仕なので……?」

 

八幡「……そんなにあのクッキー食いたいのか?」

 

誠「すんません自分調子こきました!」

 

勇太「なぁ、あのクッキーの風味、まだ口の中に残ってるんだけどさ……。どうやったら、あんなの作れるんだ……?」

 

八幡「聞くな、そして想像するな……」

 

 

 人が触れてはいけない領域というものが、この世には確かに存在するのである。

 

 父ちゃんの財布の中とかな。あんだけ社畜ってあの中身ってマジ絶望しか感じない。

 

 

 

     ▽

 

 

 

――Side Girl's

 

 

七宮「キヒヴァレイも、ちょっと変わったかな? でも根っこはおんなじだね」

 

丹生谷「アイツの性根が、そう簡単に変わるわけ無いじゃない」

 

結衣「きひばれいって、ヒッキーのこと?」キョトン

 

七宮「うん、私も中学同じだったからね!」

 

いろは「あ、じゃあじゃあ折本先輩って知ってます?」

 

 

 

雪乃「……」ピクッ

 

結衣「……」ピクッ

 

 

 

丹生谷「折本ぉ?」イラッ

 

七宮「知ってるけど、なんで?」

 

いろは「クリスマスイベントの時会ったんですけどぉ、なんか先輩と妙な雰囲気だったんで。何かあったのかなぁーって」

 

丹生谷「あぁいや……それは、そのぉ……」

 

七宮「キヒヴァレイが告白して振られたんだよ」キパッ

 

 

雪乃「」

 

結衣「」

 

いろは「……はい?」

 

 

丹生谷「ちょ!? アンタ何あっさりバラしてんのよ!!」

 

七宮「え、何が?」

 

丹生谷「そういう事、軽々しく他人に話していいものじゃないでしょ!」

 

七宮「そうかな? 本人大して気にしてないと思うけど。別に本気で好きってわけじゃなさそうだったし」

 

丹生谷「そりゃそうだろうけど……」

 

 

留美「あの……八幡て、好きでもない人に告白したんですか?」

 

丹生谷「…………自分や他人の感情を、勘違いしやすい奴なのよ。アイツは」

 

七宮「どうでもいい相手には、割と適当だしねー」ケラケラケラ

 

いろは「なんかそれだけ聞くと、凄い最低男なんですけど……先輩……」

 

 

 

雪乃(ああ、なるほど……)

 

結衣(なんか、すごい納得が……)

 

 

 

丹生谷「まぁ、気の迷いってやつでしょ。実際、アイツの好みとは全然違う相手だったし……」

 

 

――ガタッ

 

 

結衣「…………丹生谷さん」グイッ

 

丹生谷「……な、なに?」

 

結衣「ヒッキーの好きなタイプとか、知ってるの……?」

 

丹生谷「いや、本人に直接聞いたわけじゃないけど……予想は付くというか……」

 

結衣「どんな?」

 

丹生谷「え?」

 

結衣「どんな人がタイプなの?」

 

丹生谷「え~っと……」

 

七宮「……」ニマニマ

 

留美「……」ジー

 

六花(話に入っていけない……)

 

 

丹生谷「…………ハァ。まぁ、アイツのタイプなんて決まってるでしょ」

 

 

雪乃「……」スススス…

 

いろは(あ、なんか雪ノ下先輩も寄ってきた……)

 

 

 

丹生谷「手の掛かる、めんどくさい女よ」キパッ

 

 

 

結衣「手の掛かる――!?」ピシャーン!!

 

雪乃「めんどくさい女――!?」ピシャシャーン!!

 

 

 

いろは「えー? なんですかそれ、わざわざそんな女好きになる人居るんですかー?」

 

 

結衣「言われてみれば確かに……!」チラッ

 

雪乃「心当たりがありすぎるわね……」チラッ

 

 

いろは「え、なんです? 何でコッチ見てるんですか?」

 

 

丹生谷「本人は否定するでしょうけど、アイツが進んで関わろうとする女って、大抵そういう人間よ。ま、私とは正反対のタイプね」

 

 

 

六花「くみん。我が魔術結社一めんどい女が何か言っているのだが、コレは突っ込んだほうが良いのだろうか?」

 

くみん「むしろ、突っ込んだら負けってやつじゃないかなぁ~」ホワンホワン

 

 

 

雪乃「そ、そう……。由比ヶ浜さんはともかく、私には全く当てはまらないわね。一安心といったところかしら……」

 

結衣「何言ってんの!? ゆきのん、めっちゃ手がかかるじゃん!!」

 

雪乃「は?」ピキッ

 

結衣「方向音痴ですぐ迷子になるし、神経質で細かいし、負けず嫌いですぐ挑発乗るし! あと意固地で意地っ張りで我が強くてところどこ一般常識が抜けててうぎゅ!」

 

雪乃「私の名誉を毀損する悪い口はこの口かしら……」ギチギチギチ

 

結衣「うぐぐぐぐ……じ、自分で自分を可愛いって言ってる時点で、めんどくさくないわけないもんー……!」プルプルプル

 

 

留美(手の掛かる女……年下だから、わがままとか言ってもそれなりに……)ブツブツ…

 

 

 

――ガララッ

 

 

八幡「うー、さむさむ……」

 

誠「うえ、何だこのコーヒー!? めちゃくちゃ甘ぇ……」

 

八幡「は? 何お前、マッカンdisってんの?」

 

勇太「イヤでもコレ、クッキーの味消すのには丁度いいな……」

 

 

結衣「あ、ヒッキー!!」ダッ

 

八幡「うお!? な、なんだよ……」

 

結衣「ヒッキーの周りで、一番面倒で手の掛かる女の人って誰!?」

 

八幡「は? 何を急に……」

 

 

雪乃「……」ジー

 

留美「……」ジー

 

丹生谷「……」プイッ

 

 

八幡(何だこの雰囲気……?)

 

 

結衣「いいから、誰!?」

 

八幡「いやまぁ……面倒で手が掛かるっつったら、小町か、一色か……」

 

 

いろは「ッ!」

 

 

八幡「――あ、いや違うな。ダントツが居たわ」

 

結衣「だんとつ!? それって誰――」

 

 

 

 

 

八幡「平塚先生」

 

 

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

 

 

八幡「だから、平塚先生だよ。正直、あの人の人生が今後どうなるか俺、気が気じゃねえんだけど。早く誰か貰ってやってくんねぇかなぁ……。このままだと、俺が貰っちゃいそうでホント怖い……」

 

 

 

 その後しばらく、部室内はなんとも言えない空気に包まれた。

 

 

 

 


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