高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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第十話

 

 

モリサマー「…………いたい」

 

八幡「俺だって痛かったわ」シャコシャコシャコシャコ…

 

モリサマー「もうちょっとゆっくり走ってくれない? 傷に響くんだけど」

 

八幡「二人乗りしてんだぞ? ある程度スピード出さねーとバランス取れないだろうが」

 

モリサマー「フッ。不浄王ともあろう者が軟弱ですね」

 

八幡「…………」クイッ

 

 

――ガタガタガタガタッ

 

 

モリサマー「あ、ちょっ、わざと舗装されてない道をあだだだだだ! 痛い痛いおしり痛い!」

 

 

     ▽

 

 

――キキッ

 

八幡「着いたぞ。降りろ」

 

モリサマー「ううぅ……」スタ…

 

八幡「足首はどうだ?」

 

モリサマー「足よりおしりが痛い……」

 

八幡「なんだ、捻挫じゃなくてちょっと捻っただけか」

 

モリサマー「そうみたいね……」フミフミ

 

八幡「態々乗せてくる必要もなかったんじゃねぇか……」

 

モリサマー「むっ……悪かったわね」

 

八幡「まぁいいや、小町は……居ないな、靴がない。騒がしくなくてちょうどいいか。取り敢えず、手当してくから上がってけ」

 

モリサマー「え? ええ……」

 

八幡(初めて同年代の女子を家に招くわけだが。……コイツ相手だと、ビックリするほど何も感じんな)

 

モリサマー(普通の家っぽいけど……どっかに秘密の地下室とか会ったりしないのかしら。コイツの目、絶対人間のそれじゃないし)キョロキョロ

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

留美「ウチにまつわる由来?」

 

八幡「ああ」

 

 

 ここじゃ寒いからと奥の茶の間に通され、俺達五人はコタツを囲んで座り込んでいた。

 畳の間にコタツと灯油ストーブ。そして籠に乗せられたミカンに煎餅と、冬における古き好き日本の茶の間が完璧に構築されている。

 

 さすが神社、侮れない。

 

 

留美「何でそんなの調べてるの……?」

 

 

 トポトポと急須のお茶を湯呑みに注ぎながら、訝しげにルミルミが訪ねてくる。

 ちなみに巫女服だけでは冷えるようで、今は肩に半纏を掛けていた。ちょうかわいい。

 

 

八幡「お前、冬の祭りの件ってなにか聞いてる?」

 

留美「……留美」

 

八幡「え?」

 

留美「こないだも言ったじゃん。ちゃんと名前で呼んで」

 

八幡「……ルミルミ?」

 

留美「キモい。留美」

 

 

八幡「…………る、留美?」

 

 

雪乃「通報しましょう」

 

丹生谷「そうね、一刻の猶予もないわ」

 

八幡「何でだよ!」

 

 

 普通に名前呼んだだけじゃん! そりゃちょっと気恥ずかしくてキモい感じにドモっちゃったけれども!

 

 後、お前らいきなり意気投合してんじゃないよ。

 

 

結衣「ヒッキー、マジキモい……」

 

 

 うるさいぞ由比ヶ浜。お前の「キモい」じゃ全然ゾクゾク来ないよ。むしろ、キモがり方が本気過ぎてちょっと泣きそうです。

 

 

留美「まぁ、お祭りのことは知ってる。今日もなんか話し合いがあって、帰ってきたきりお父さん寝込んじゃったし……」

 

結衣「え、あの中に神主さんも居たの?」

 

雪乃「まぁ、当事者ですもの。居てもおかしくはないでしょう」

 

留美「……?」

 

八幡「あー、つまりだ。俺らも今日の話し合いを見学してたんだよ。一色って奴から依頼を受けてな」

 

留美「一色って、町内会長さん?」

 

八幡「直接依頼を持ってきたのは、その孫娘だな。俺らの後輩だ」

 

留美「ふ~ん……後輩……」

 

 

 相槌を返しながら、お茶を注ぎ終えた湯呑みを「どうぞ」と俺達の前に置いていく。

 

 

結衣「ありがとー」

 

留美「いえ。ミカンとお煎餅も、好きに食べてください」

 

丹生谷「あ、いやいや。話し聞かせてもらうのはコッチなんだからお構いなくー」

 

八幡「え?」

 

 

 妙にオバサン臭い丹生谷の言葉に、既にミカンの皮を剥きだしていた俺の指が止まった。

 

 

丹生谷「アンタ……」

 

雪乃「賤しいわね……」

 

八幡「ばっかお前、だってコタツにミカンだぞ? 食べないわけには行かねぇだろうが。むしろ様式美的に、食べないと失礼に当たるまである」

 

雪乃「貴方の言っている理論が、全く持って理解できないのだけれど」

 

結衣「あははははは……」

 

 

 雪ノ下の横で笑って誤魔化してるけど、由比ヶ浜も煎餅に手伸ばそうとしてたのしっかり見てたからね?

 

 

留美「別に、遠慮しなくていいですから……。八幡、私にも一個頂戴」

 

八幡「ん? おう」

 

 

 丁度剥き終わったミカンを一切れ摘んで、ルミルミに差し出す。

 すると何故だかルミルミはキョトンと目を瞬かせた。そして僅かな逡巡の後、なにを思ったか俺の指から直接、パクリとミカンを頬張った。

 

 ……え、ヤダ何これ。何なのこの胸の高鳴り……。

 

 

丹生谷「もしもし、警察ですか?」

 

八幡「おいバカやめろ。やめてください本当にお願いします……」

 

留美「むぐ……籠から取ってって意味だったんだけど……」ハムハム…

 

 

 あ、そうだったの……?

 

 

結衣「ヒッキー……」

 

雪乃「本気で塀の中に入りたいのかしら、ペドヶ谷君は……」

 

 

 由比ヶ浜と雪ノ下の視線が、過去最大の冷たさを記録していた。

 

 はい、そうですね……。今のは僕も、本気でイケナイ思いを抱いてしまったと反省しております……。

 

 

雪乃「まぁいいわ……話を戻しましょう。鶴見さん、私達が受けた依頼は、今回のお祭りにおける争いの解消よ。争いの原因は聞いているかしら?」

 

留美「まぁ、大体は……」

 

雪乃「ならそこは省いて、まずは私達の考えた解決案を話しましょう」

 

 

 そうして雪ノ下の口から語られた俺達の案に、ルミルミはいくつか質問を返しつつも、最終的に納得したように頷いた。

 

 

雪乃「私達が神社の由来を調べているのは、そういう理由からよ。なので出来れば、話を聞かせてもらいたいのだけど」

 

留美「ん……私も、一応聞かされてはいますけど……。そこまで詳しく覚えてるわけじゃないから……」

 

結衣「そっか。でも神主さんは寝込んじゃってるんだよね」

 

留美「帰ってきてからずっとうなされてます」

 

 

 どうでもいいけど、何で他の奴には敬語なのに、俺だけタメ口なんだろう。

 

 

雪乃「そう……。では日を改めた方が良いわね」

 

留美「あ、でも、これから年末年始に向けてバタバタするから……」

 

結衣「ああ、神社だもんねぇ」

 

雪乃「となると、話を聞けるのは三箇日を過ぎてからかしら……」

 

丹生谷「それだと、流石に遅くない?」

 

八幡「まぁ、ちょい厳しいな……」

 

 

 次の会合も、おそらく三箇日を過ぎてから間を開けずに行われるだろう。

 だとすれば、それまでに案を纏めるというのは難しくなる。

 

 

留美「今日の夜、お父さんにもう一度詳しく聞けば、私からでも話せると思う」

 

 

 

 ルミルミの言葉に、俺はフムと考え込んだ。

 

 どうせ聞くなら、他の奴ら全員で聞いたほうがいいだろう。

 となると場所が問題だ。年末年始の準備があるのなら、またここにゾロゾロ来られても迷惑だろう。

 

 公民館の小会議室は、明日すぐ貸してくれと頼んでも難しいだろうか……。そもそも金とかかかんのか? 借りたこと無いからわからんな。

 

 

八幡「奉仕部の部室って、冬休み中でも使えんのかね?」

 

雪乃「どうかしら。平塚先生の許可さえ降りれば、大丈夫だとは思うけれど」

 

八幡「おま……じゃない。あー、留美。うちの高校まで来てもらうことは出来るか? 勿論、送り迎えはちゃんとするぞ」

 

留美「平気。八幡の高校って、総武高でしょ? うちのお母さんが勤めてる学校だし」

 

八幡「え、そうなの?」

 

結衣「あ、もしかして家庭科の鶴見先生?」

 

 

 由比ヶ浜の言葉にコクリと、ルミルミは頷いた。

 

 なんとまぁ奇妙な縁ではあるが、好都合だ。それなら、勝手にうちの娘を連れ出しただの何だの問題になる事もないだろう。

 

 後は平塚先生の許可さえ降りれば、と雪ノ下を見やれば、既に電話をかけて何やら話をしているようであった。

 

 流石、行動が早い。

 

 

雪乃「はい……はい……。分かりました、では詳細な時間が決まりましたらまた連絡します。はい、有難うございます」

 

 

 ピッ、と携帯を切り、雪ノ下がこちらに向き直る。

 

 

雪乃「許可が降りたわ。問題ないそうよ」

 

八幡「おー。んじゃあ、丹生谷。そっちの連中にはお前から連絡頼むわ」

 

丹生谷「わかってるわよ。雪ノ下さん、連絡先の交換してもらえる? コッチから行ける人数が決まったら連絡するから」

 

雪乃「え? ええ……」

 

 

 丹生谷の言葉に、雪ノ下が珍しく戸惑いの表情を見せた。

 

 さもありなん。俺と匹敵するボッチ力を持った雪ノ下だ。連絡先の交換などロクにしたこともあるまい。

 

 

丹生谷「赤外線は受け取れる?」

 

雪乃「せ、せきがいせん? 受け取る?」

 

結衣「はいはーい。ゆきのん、ちょっと貸してねー」

 

 

 と、あからさまに狼狽え出した雪ノ下に、由比ヶ浜がすかさず助け舟に入った。

 携帯を手渡し、こっそりと胸を撫で下ろす雪ノ下。雪ノ下雪乃の貴重な安堵シーンである。

 

 あ、やべ、見てんの気付かれた。超睨まれたんですけど……。

 

 

結衣「はい、オーケー。丹生谷さん、あたしとも交換しよ」

 

丹生谷「ええ」

 

 

留美「八幡。迎えに来るんでしょ?」

 

八幡「ん?」

 

留美「来る前に連絡欲しいから、アドレス交換して」

 

八幡「え゛?」

 

留美「LINE使ってる? それなら『ふるふる』が楽なんだけど」

 

 

 ライン? ふるふるってなぁに? なにを振るの? ふられるのなら超得意なんだけど、それじゃダメなの?

 

 もうスマホ渡すか? いや年下の女子小学生相手にそれは流石に……あ、畜生雪ノ下目ぇ逸しやがった!

 

 ……た、助けてー! ガハえも~ん!! 

 

 

 


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