高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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第一話

モリサマー「あなたの瞳には邪精が取り憑いています」

 

八幡「はぁ?」

 

モリサマー「邪精とは人の悪意により変質してしまった、哀れな精霊の成れの果て。人に取り憑き、人に害を成す。放置しておけば肉体と精神を蝕まれ、やがて人ならざる者へと変質してしまいます」

 

八幡「……そうっすか。じゃあ帰ってホットアイマスクでもしときますね、それじゃ」スタスタスタ…

 

モリサマー「お待ちなさい」ガシッ!!

 

八幡「ぐえぇ!!」

 

 

モリサマー「ホットアイマスクで邪精は祓えません」

 

八幡「お、おま……襟が伸びんだろうが……」ゲホッゲホッ

 

モリサマー「案じることはありません。正しき精霊の加護を受ければ、貴方のその目も元の輝きを取り戻すことでしょう」

 

八幡「いや俺が案じてるのはシャツの襟なんだが」

 

モリサマー「襟も戻ります」

 

八幡「マジでか(精霊パネェ……)」

 

モリサマー「私が調合したクリスタルポーションを授けましょう。これを使えば貴方の目はもとより、襟の弛みも霧吹きで吹きかけてアイロンがけすることであっという間に元通りに……」

 

八幡「あ、キャッチセールス?」

 

モリサマー「違います」

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

八幡(ってな感じで、中学時代やたら付きまとって来た女子に良く似た奴と、偶然電車で隣同士になったわけだが……)

 

丹生谷「…………」ダラダラダラダラ

 

八幡(本人……か?)チラッ

 

丹生谷「ッ!」ササッ

 

八幡(あからさまに目、逸らしたな。これは決まり――ってそういや俺、クラスの大抵の女子からも目ぇ逸らされるんでした。テヘッ♪ 由比ヶ浜にさえ、近距離で目が合うと逸らされるまである)

 

丹生谷(気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな……)ダラダラダラダラ

 

 

八幡(カマ掛けてみるか……)

 

 

八幡「もりさ――」

 

丹生谷「ッ!!?」ビクゥッ!!

 

八幡「んちゅうって、最近あんま三人で活動してねぇよなぁ……(どうだ?)」チラッ

 

 

丹生谷「~~~~~~~~ッッッ」プルプルプルプル

 

八幡(あ、コレ本人だわ間違いないわ。船堀コール受けてる船堀さんみたいな顔なってるわ)

 

 

八幡(さてどうしたもんか。まぁ、普通の奴らなら「わぁひさしぶり~、懐かし~、元気してた~?」とか言って適当な近況報告でお茶を濁すんだろうが……)

 

丹生谷「」ガクガクブルブル

 

 

 

<次は~、○○駅~、○○駅~

 

 

 

八幡(ぼっちは交流を――求めないッ。と言うか俺ほどのぼっちになると報告するための近況が無いレベル。何より相手の話しかけるなオーラが半端無いしな。比企谷八幡はクールに去るぜ……)スクッ

 

丹生谷「……ッ」スクッ

 

 

八幡(って、こいつもココで降りるのかよッ)

 

丹生谷「ッ――!?」ガクゼン

 

 

八幡(愕然とした顔してますね。そうですねやっと逃げられると思ってたんですもんね。

   ほら、今からでも遅くないから椅子に座り直しな――)

 

丹生谷「」オロオロ ←携帯チラ見

 

八幡(ああそうですか、待ち合わせがあるんですか。……う、うろたえるんじゃあないッ。千葉県ぼっちはうろたえないッ。慌てず、騒がず、電車から降りるんだ。こちらが気付かないフリをしている限り、向こうからは話しかけてこな――)

 

 

――ガツッ!

 

 

八幡(痛てぇ! オイなんで同時に降りようとすんだよ!?)

 

丹生谷「~~~~ッ!?」ハワワワワワワワー!

 

八幡(なんなのコイツ、どんだけテンパってんの? 俺のスルースキルにだって限界あんだよ? もういいよ、そっちが先に降りなさいな)スッ

 

丹生谷「ッ!」バッ! スタタタタタッ

 

 

八幡(そうそう、いい子ねモリサマー。森へお帰り。モリだけ――)

 

 

――ビュンッ!

 

 

八幡(――に?)

 

 

凸守「隙ありDEATH!!」ズザァァァッ!!

 

丹生谷「ほわぁ!?」ズデンッ

 

 

 

八幡(……わぁ水色、とってもサマーだね。……いや、今冬だけど)

 

 

 

凸守「ふふん、遅いのDEATH! マスターを待たせるとは何事DEATHか、偽モリs」

 

 

――ガシッ!

 

 

凸守「ふがっ!? ふがふがもが!」

 

丹生谷「それ以上喋ったら……殺す……」メキメキゴキ

 

凸守「」

 

 

 

八幡(やべぇアイツ目がマジだ……)

 

 

 

六花「シュバルツシルト!!」ジャキン!

 

丹生谷「あいたっ」

 

 

 

八幡(またなんか出てきた……)

 

 

 

凸守「マスター! 助かったのDEATH!」サササッ

 

丹生谷「クッ、なにすんのよ小鳥遊さん」

 

六花「サーヴァントを守るのもマスターの務め。貴方こそなぜこのような凶行を? はっ、まさか古の魔術師モr 丹生谷「ほあー! ほああー!!」 マーとしての記憶がよみがえり混乱を!?」

 

凸守「マスター、奴は偽物DEATH! 本物のモr」

 

丹生谷「喋るなっつってんでしょうが」ギロッ

 

凸守「ヒィッ!? (なんかいつもと違う……)」

 

 

 

八幡(早くどっか行きたいんだけどなー。階段の前からどいてくんねーかなー……)ウロウロ

 

 

 

富樫「おーい、なにやってんだよー」

 

くみん「凸ちゃーん。六花ちゃーん」

 

七宮「にーっはっはっはー!」

 

 

 

八幡(げっ、魔王魔法なんたらまでいるじゃねぇか。……あれ、魔法魔王なんとかだっけ?)コソコソ

 

 

 

くみん「あ、もりさm」

 

丹生谷「てい!」ペチンッ

 

くみん「あた! な、なにするのー……?」フエェ…

 

丹生谷「いいからちょっと黙ってて!」

 

六花「気をつけて、くみん。彼女は過去の記憶との混同により、正気を失っている」サッ

 

七宮「な、なんだって!? ということは、宿敵ノスf 丹生谷「それも言うなぁぁあ!!」nグに掛けられた封印が解けかけているの!?」

 

六花「ノスフェr 「ソイヤソイヤァ!!」の 封印とはどういうこと? モr 「ウララララー!!」の過去にいったい何が?」

 

富樫「ど、どうしたんだ丹生谷。本気で危ない人だぞ?」ドンビキ

 

丹生谷「うっさいわよ!!」

 

凸守「コイツがおかしいのは元からDE」

 

丹生谷「ア゛ァ?」

 

凸守「ヒィッ、何でもないDEATH!!」

 

七宮「今こそ語る時が来たようだね。かつてモリs――」

 

丹生谷「うっがぁああああ、だから! モリサマー言うなっつってんでしょうがぁああああああああー!!!」

 

 

 ああー……あぁー……ぁぁー……。

 

 

 冬の透き通った空に吸い込まれるように、長く尾を引いてその叫びは響いた。

 

 その後を追うような心持ちで、空を見上げる。

 

 視界の端で、モリサマーがゼンマイ人形の様にギシギシと首をこちらに回しているのが映った。

 

 ほぅ、と吐息をひとつ。諦めの溜め息ではない。

 

 虚空を一瞬だけ白く染めて消えていくその様に、俺は唯一の理想を見たのだから。

 

 ならば後はそれを実行すれば良い。

 

 慌てず、騒がず、いつも通りに。ポケットからiPodのイヤホンを取り出し、耳につける。

 

 ハイ準備オッケー、音楽スタート。

 

 

<日の○ちるーこ○ーへーやー、そっと○ーを○ーつーよー♪

 

 

 

 

 

八幡(いやー、音楽聞いてたから周りの声とか全然聞こえてねーわー。ッべーわー、マジ何も聞こえねーわー)スタスタスタスタ

 

 

 我がボッチ道に一点の曇りな――

 

 

丹生谷「って、そこまであからさまに知らん振りされたら流石にムカつくわ!!!」

 

八幡「ぶほぉ!!」

 

 

 横合いからバッグを投げ付けられ、敢え無く俺はホームに沈んだ。

 

 

 

 

 


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