月に吼える   作:maisen

39 / 129
第三十八話。

 美神達が雷撃に打たれ消えたその後で。

 

「――駆動系、反応無し。霊力回路、完全封鎖。体表面有機素材、組成もわからん何かで覆われて完全に変化。だが、一部のセンサーとブラックボックス、メタソウルと思われるコアだけがごく僅かに活動中・・・正に、繭だな」

 

 動きを止めたマリアをカオスの研究所へと運び入れ、予備の、現在作成中のM―666用の調整ベッドに寝かされたそのボディを、簡素な検査機器で調べる芦の目には、その機体に対する純粋な畏敬の念があった。

 

「チッ! 碌でもない事だけ教えて、とっとと自分の殻に篭るとはそれでも私の製作物か!」

 

 対してカオスは、そちらに目を向けることさえせずに、壁に背を預けて腕を組み、ひたすら愚痴めいたことを呟いている。

 

「そう嫌うな。分かっているのだろう?この機体に行なわれている、間違いなくお前の物である完璧な調整は――」

 

「そうだ。確かに私が思いつくであろう技術の先だ!」

 

 

 叫ぶようなカオスの声。

 

 技術の癖、それがどういった物から派生して、どのように磨かれ洗練されて行ったかが手に取るように分かる。今だ分からぬ部分もあるが、この機体の製作者が己自身であるからこそ、分かる。

 

 

「だからこそ、か」

 

「もう黙ってくれ。頼むから・・・」

 

 

 若きカオスは両手で顔を覆い、嘆きを吐きだすように視線を落とす。知りたくも無い未来を仄めかした、マリア姫と同じ顔をしたこの人形に対して、それでも呪詛を吐けぬ己の未練に戸惑いながら。

 

 ――己が、どれだけの愛情を注いだのか、いや、注ぐのか、と言う事が。

 

 ――そして、この感情は、この胸の内でくすぶるこの想いは、決して届かない物だという事が。

 

 

「それでも、人形のままで捨て置く事が出来なかったのか。弱いな、私は――」

 

「・・・それも、君だ。ドクター・カオス」

 

 

 ほろ苦い視線は、互いをすれ違って重ならず。

 

 

 彼が、それを知るのはまだ先の事である。

 

 芦が「また、縁があれば」とだけ言い残して旅立ち、マリア姫がヨーロッパの魔王の名を不動のものとしたカオスに対する想いを秘めたままこの世を去り、そして、その魂が、未来の己が禁忌と知りながらも行った行為を、苦悩と懊悩の末に自分も行うと決心した彼に、メタソウルを構成する最後のパズルのピースを与えた時。

 

 実に百年近い時の流れを超えて――人造人間M―666は、彼が娘と呼べる「マリア」となったのだ、と言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横島さん、美神さん?!」

 

「ようやく帰って来たか。・・・うん?マリアはどうした?」

 

 二人は、唖然とした表情で其処に現れた。

 

「あ、え、なんで?」

 

「マリア・・・え?」

 

 それでも、ようやく事態を理解した二人の目に、意思の光が戻った瞬間。

 

 

「うわー!!マリア置いてきてもーたー!」

 

「あ、こら馬鹿もうちょっと落ち着いてからー!!」

 

「なにぃぃぃっ?!」

 

「えええええええっ?!」

 

「「あ」」

 

 舞台は一瞬にして嵐の中へ。

 

「マァァァリィィィィアァァァァァッ!!!」

 

響き渡るカオスの絶叫。何時もの冷静さは何処へやら。

 

「美神さん早く早く早くっ!」

 

 TVのコンセントを引きちぎり、その帯電したコードを美神に押し付けようとする忠夫。

 

 美神がスタンガンを喰らったせいであんな事になったと思っているようだ。

 

 8分がた正解だが。

 

「あ、あんたじゃないんだから下手すりゃ死ぬわよっ?!え、でも、イヤやっぱり死ぬわっ?!」

 

 迫る忠夫を神通棍―――カオスの改造入りのキッツイ奴―――で吹き飛ばしながら、それでも如何しようか迷う美神。

 

「ととととりあえず、みみみ皆さんお茶でも飲んでってああっ?!」

 

 動揺しながらそれでも必死で落ち着こうと、ぐらぐらと煮立った熱湯を、茶葉も入っていない只のポットから湯飲みに注ぎつつ、うっかり手を滑らせてそれを落とすおキヌ。

 

「あっぢゃぁぁぁぁっ?!!!」

 

 美神に吹き飛ばされた所がその湯飲みの着地点。熱湯をモロに被って絨毯の上を転げまわる忠夫。

 

 

 パニック。

 

 

 とは言え。

 

 それをやっているのがたったの四人である以上――人工幽霊は、その騒ぎを傍から眺めていたので落ち着いてしまった――その体力が尽きれば自然と騒ぎも収まる訳で。

 

「・・・まぁ、そんな訳で。あの子が何を考えてるかは分からないけど」

 

「・・・自分から残った様にしか思えんな。しかし、何故ワシはそれを知らぬ?」

 

 一応の成り行きを説明はした物の。

 

 忠夫は今だ虎視眈々とコンセント片手に美神に電撃を繰り出す隙を伺っているし、美神は美神で左手に練り山葵チューブ、右手に玉葱の体勢で、そんな忠夫を横目で見ている。

 

 おキヌはそんな忠夫に冷たいお絞りを当てて治療中だ。ほっといても治るのだが。そして、カオスはその話を聞いて、不愉快そうな感情をその顔に浮かべていた。

 

「とりあえず、わかった事から説明してやろう。簡単にいえば、美神」

 

「なによ?」

 

「お前は、時間移動能力者だな」

 

「・・・へ?」

 

 一番最初に出てきた言葉が、一番とんでもない物だった。

 

 呆ける美神と、その一瞬を狙う忠夫。だが呆けながらも正確に鼻先に突き出された山葵を避ける事も出来ず直撃し、忠夫は悶絶しているが。

 

「お前の血縁に、雷、いや、電力とは限らんが・・・そういったものを使って突然消えたり現れたりする者はおらんかったか?」

 

「えーと?」

 

「ああ、ひゃぶんあれっふね。ほら、みふぁみさんと同じなまふぇのおんなのふぉ」

 

 鼻を押さえながらなので聞き取りづらい事この上ないが、言いたい事は何となく分かる。おそらく、ハーピーとかいう魔族の襲撃の事だろう。

 

「まさか、ママが?!」

 

「・・・ふむ。やはり、か。お前ら、マリアから何か預かっておらんか?」

 

 納得しながらのカオスのその言葉に、顔を見合わせた美神と忠夫は、何かを思い出したような顔になると慌てて忠夫が懐を探る。

 

「爺っ!これ、これなんだっ?!」

 

「・・・そうか。あれは、やはりマリアなのだな」

 

 

 忠夫の懐から取り出されたその円筒は、マリアが受け取ったと気の鈍色の輝きではなく、内から滲み出る、脈打つような白銀の輝きを発している。

 

「それは、マリアのメタソウルの欠片じゃよ。お主たちを無事に此処まで導いてくれたのも、そのマリアの欠片のおかげ、じゃな」

 

 それを受け取ったカオスは、愛しげにそれを懐に収めると、マントを靡かせ立ち上がる。

 

「付いて来い。今回は、お前らも当事者じゃ」

 

 そして、すたすたと事務所の玄関に向けて歩き去るカオス。付いて来いといいながらも、付いて来なかったとしてもその事を待ったく気に止めないだろうことは確実な歩みで。

 

「ちょっとまったー!俺は行くぞっ!」

 

「報酬報酬っ!」

 

 慌てて手に持った火花を散らすコンセントを放り出し、駆け出す忠夫に遅れまじと、目をギラギラと輝かせた美神も一緒に走り出す。

 

 

 後に残ったのは。

 

 

『水ーっ!あの馬鹿狼ーっ!!』

 

「横島さんのバカーっ!」

 

 コンセントの火花が着火した燃え上がるカーテンを、その手で叩き消火する全身鎧と、半泣きでバケツに水を汲みに行く幽霊少女だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、付いたぞ」

 

「此処が、か?」

 

「何にも無いけど・・・」

 

 事務所を出た三人組が到着したのは、都内のとある小さな公園の砂場の上。辺りを見回す美神と忠夫の目には、人気の無い遊具と寂しく灯る電灯が映るのみ。

 

「此処は入り口の一つじゃ。ほれ、ポチっとな」

 

 カオスが懐から取り出した掌サイズの装置を弄ると、砂の中から燐光が立ち昇る。それは、一瞬にして忠夫達の視界を奪い、次の瞬間には―――

 

「「うわ」」

 

「我が研究所へようこそ。初めての来訪者よ」

 

 辺りの景色は一変しており、目の前には巨大な鉄の扉と切り立った崖。背後には鬱蒼と茂った森。そこは、カオスの「秘密基地」の正門前であった。

 

「こっちじゃ」

 

 すたすたと、未だに呆ける二人を残して歩き出す。しばしその非常識な規模に驚いていた二人も、慌ててその背中を追いかける。

 

 

 扉をくぐり、シャッターを開き、階段を下りて通路を歩き。辿り着いたの扉には、「M―666」と刻まれたプレートの上から、粗末な、だがどこか温かみのある本人手作りの「マリア」とかかれた木の札が掛っていた。

 

「入るぞ」

 

 音も立てずに開くその扉の中に、彼女は居た。

 

「マリア?!」

 

「え、でも確かにあの時代に置いて」

 

「落ち着け。こやつは、な」

 

 カオスは、マリアの傍らに歩み寄るとその懐から白銀色に脈動する円筒を取り出し、マリアの胸に押し当てる。

 

「親を心配させた、わしより年上の愛娘じゃよ」

 

 その瞳はあきれ果て、それでも優しく彼女を見る。

 

「・・・メタソウル・起動値まで・確保。再起動します」

 

 そして、彼女は700年の時を超えて、再び美神と忠夫の目の前に現れた。

 

「先程は・帰還の挨拶も・遅れ、申し訳・ありません。ドクター・カオス」

 

「馬鹿もん。こう言う時はまず、ただいまじゃろうが」

 

 

 

「―――ただいま・戻りました」

 

「―――お帰り。我が娘よ」

 

 

 

 それは、確かに暖かい家族の繋がりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけじゃ」

 

「「何がなんだか」」

 

「お久しぶりです・横島さん」

 

 目の前で行なわれた一連の出来事に、すっかり蚊帳の外になっていた美神と忠夫。得意満面に振り返るカオスの言葉にも、碌に反応が返せる訳も無く、それでも、マリアは。

 

 その顔に笑みを浮かべながら――忠夫に抱きついた。

 

「へ?何?・・・よ、嫁ですか?」

 

「横島・さん」

 

 きゅっと忠夫を抱きしめながら、幸せそうに目を閉じるマリア。忠夫はそのマリアとは思えない大胆な行動に混乱し。

 

「ま、マリアっ?!」

 

 カオスは顎ががくんと落ち。

 

「・・・なーんか、苛つくわね」

 

 美神は半眼で睨みつけながら爪先で地面を抉り。

 

「フリーズ」

 

 うろうろと彷徨わせていた腕を、一念発起してマリアの背に回そうとした忠夫の後頭部に、小さな影が銃口を押し当てる。

 

「・・・はい?」

 

 慌てて両手をホールドアップした忠夫の視界に、残念そうなマリアの表情が映るが其処はぐっと堪えてとりあえずの危険を確認。

 

 

 背後に居たのは、マリアに良く似た、額にαと刻印された小さな少女。何処にでもいる、と言う訳でもないが、状況とその手に持ったごっつい拳銃と、冷たい視線が全ての雰囲気を塗り替える。

 

「えーと、どちら様で?」

 

「私の・メタソウルから・生み出された・私の・子供「達」・です」

 

 両手を挙げたままでそう問い掛ける忠夫に答えたのは、少しむくれたような感じを受けるマリア。彼女は、そのまま忠夫の背後にいるその少女に対して――

 

 

「α・彼は・貴方達の・父です」

 

「了解しました・母」

 

 爆弾発言をぶちかました。

 

「マリアァァァッ?!」

 

 とうとう爆発に巻き込まれた形で誘爆するカオス。となりの美神爆弾は既に霊力ぎんぎんだ。

 

「よろしく・お願いします。父」

 

「・・・・・お、俺妻子持ち?!」

 

「トチ狂うなこのばかったれぇぇぇっ!」

 

 ―――起爆。

 

「マリアッ!お前のヴァージョンアップ前の機体を、そんな事に風に設定する娘に育てた覚えは無いぞォォォッ?!」

 

 どうやら彼女、いや、此処に居ない彼女達の機体は有機体のボディを手に入れたマリアの前の機体を再利用して作られた物のようである。

 

 それはともかく。ひとしきり考えた後アホな結論に達した忠夫に一撃くれた美神は、マリアに凶眼を向けながらいい加減にしろ、と言った感じで凄む。

 

「説明しなさいっ!」

 

「・・・ちょ、ちょっとした・ジョークです」

 

「・・・そ、そのちょっとしたジョークで痛い目見るのは俺なのね」

 

 視線を泳がせながら美神にそうのたまうマリアを横目に、美神はギロリと忠夫を睨む。

 

「全く!良いからあんたも少しは冷静になりなさい!そこの爺もっ!」

 

 カオス、壁に向かってマリア姫に愚痴っていたりする。αはそのカオスの背を撫でてたりするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずαを下がらせ、一端無理やり雰囲気を落ち着けてから。

 

「眠ってたぁ?」

 

「イエス。ミス・美神」

 

「700年もかぁ・・・」

 

 ようやくマリアから聞きだした話を整理すると、こうなる。

 

 始まりが何かは知らないし、分かる事も無いのだが。

 

 まずは、マリアが一人取り残された。

 

 そのマリアは、自分に搭載された機能である、長期の潜伏を目的としたそれを使い、正確無比なタイマーでもって、700年後の自分が過去へとすっ飛ばされたその時の直後まで眠りつづける。

 

 この時、すれ違う形で「これから」取り残されるであろうマリアにメタソウル同士の共振を使った情報の提供で、過去に置いて行かれる事を防ぐ・・・と言う訳では「ない」。

 

 もし、その通りにやってしまえば、同じ時間軸上にマリアが二人、という矛盾が生じてしまう為、どのような現象が起きるか分かったもんじゃない。僅かな、瞬間とも言えるほどの時間でも、その危険はついて回る。

 

 休眠中はメタソウルの活動を完全に停止させる事と、蓄積された経験が僅かなりとも差異を生み出している事に賭けて、彼女は何時も眠りにつく。

 

 「たまたま」起こっているメタソウルの減少―――魂とも呼べる、彼女達の存在証明が、その行き違いの作戦を可能にした。これにより、より無理の無いすれ違いが可能になった。

 

なにせ、その時点で全く同じ魂を持った存在が、その魂を目減りさせている為に、違うモノ同士という要素を手に入れたのだから。

 

 ―――そして、彼女達は必ず、過去に残る事を選ぶようになった。

 

「彼女達」が一つのプランを作り出したからだ。ある事象の調査、と言う物が可能になる点でそのプランは大変に魅力的だった。

 

居ない筈の彼女がいる。しかも、当時の製作者さえ分からないブラックボックスを抱えたままで。

 

そして、その調査は見事に功を相し、彼女は、長い旅からようやく帰りついた、という訳である。

 

 

「・・・えーと、あっちがこう来てつまりそっちで?」

 

「で、その調査っていうのは何よ?」

 

 ぶつぶつと呟きながら情報を整理する忠夫はさておいて。美神は、その中でもっとも気になった事―――700年と言う時間を費やしても、得なければならなかった情報の事を尋ねる。

 

 マリアは、ちらり、とカオスに視線をやる。その視線を受けたカオスは、話してもいいぞ、と言った感じに頷くのみ。此処まで来て何も知らないで帰ってくれるほど目の前の女性は甘く無い。

 

 それなら無駄な事は省いてさっさと進めたいようだ。

 

「マリア姫の、魂の・行き先と」

 

 この時点で、音を立ててカオスの腰が椅子から浮いた。

 

「――ドクター・カオスの・記憶を奪った者の・特定です」

 

 そして、この言葉で美神が椅子を蹴立てて立ち上がる。

 

「ちょっと待ってよ!あの頃のカオスの記憶を奪うですって?!そんなとんでもない事、そう簡単にできる事じゃないわよ?!」

 

「マリア姫の魂の行方じゃと?!彼女の魂は、間違いなく輪廻の輪に帰ったのではなかったのか?!」

 

 マリアに詰め寄るカオスと美神。カオスが自分の事よりマリア姫の事を言う辺り、なんともはや。

 

 

 

「―――1つ目。マリア姫の・魂ですが」

 

 

 

 視線で、「冷静に」と告げながら、マリアは淡々と先を続ける。

 

「結論から言って・彼女の・魂は・何者かに・その道を・塞がれています」

 

 カオスは、その体を硬くする。

 

「彼女の・魂が・肉体を離れた・時点からの・調査になりますが。天に昇ろうとしていた・魂が・その途中で・何者かに・囚われた所までを・確認しました。正体は・完全に不明・魂への干渉・直後に・魂と共にロスト」

 

「・・・ふざけた事を」

 

 カオスの手が、怒りで真っ白になるほどに硬く握り締められる。同時に、その瞳には、それまでに無い負の感情と、自分に対する怒りが篭められていた。

 

「二つ目。ドクター・カオス。あの時代の・協力者の名前を・思い出せますか?」

 

「ん?協力者じゃろ。ええと・・・所で、「ストップ」・・・如何した、マリア」

 

「成る程ね・・・記憶が奪われたっていうよりも、途中で別の方向に曲がるように強烈な封印がかけられている訳、か」

 

 カオスは、彼の名前を思い出す直前までその頭脳を使い、そしてその名が形になる瞬間にその表情が僅かに焦点を失ったかと思うと、もう別の事にその意識をとられていた。

 

「イエス。ミス・美神。これが、私達を・過去に残らせる切欠となった・項目です」

 

「自身では分からんが、『ヨーロッパの魔王』が何たる体たらく。情けないのぅ」

 

 複雑な顔で、そう呟くカオス。自分にそんな得体の知れない封印が施されている事は大変気に入らないが、それでも攻略し甲斐のある対象を見つけて喜んではいる、と言ったところであろうか。

 

「んで、そっちの方は目星はついてんのか、マリア?」

 

 情報の整理は一段落ついたのか。忠夫が不図マリアに話し掛ける。しかし、暗い表情のマリアは頭を振ると、否定の意を示す。

 

「こちらも・不確定です。「協力者」の意図が・見えないことも・無いのですが・・・一つだけ・気になる点が」

 

「なんじゃ?」

 

「・・・「傍観者」。その言葉が・キーワード・です」

 

 それで通じ合うのは2人だけ。美神と忠夫は何の事やら分からない、と言った表情だが、カオスにはそれで充分であるようだ。

 

「あやつか・・・何故接触してきたのか、何を目的として動いているのか。流石にこのわしも図りかねる所があるからの」

 

「その存在との・接触以降・協力者は・ドクター・カオスの口から・その名を聞く事が・ありませんでした――と言っても・私が・生まれる前・ですが」

 

 其処まで聞いて、腕を組むカオス。

 

「情報が足りん、な」

 

「怪しい所だけで、協力者に傍観者、それから魂を捕らえた妙な存在・・・」

 

指折り数える忠夫を見やり、その眉間の皺を深めるカオス。

 

「とは言え。これで終わるとも思えん。何の為に姫の魂を捕らえたのか、わしの記憶に封印をかけたのは誰か。どちらにせよ」

 

 カオスは立ち上がり、その目に怒りを滾らせる。

 

「―――たっぷりと、後悔させてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、まだ居るの?」

 

「イエス。全部で・四人・です」

 

「・・・大家族。ええ響きやー」

 

「あんたらねぇ・・・もうちょっとシリアスさせたげなさいよ」

 

「「ジョークですよ」」

 

「こ、後悔させてやるっ!」

 

 ちょっと力が抜けかけたのはご愛嬌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ」・・・ふふふ。彼も、ようやく此処まで来たのかい。

 

 私も、無目的に動いている訳ではないよ?

 

 この世界のレールは、既に大きな分岐点に差し掛かろうとしている。

 

 分岐の片方は既に私達の動きでその役割を果たす前に朽ちようとしているし、その先にあるものこそが、私達が求めるものだからねぇ。

 

 だから、そう、疑念を抱くのも当然だね。

 

 正直に言おう。私は、彼を利用している。正確には、彼の周りも巻き込んで、だ。

 

 ああ、勘違いしちゃいけない。カオスの事ではないよ。彼は重要なファクターという訳でもないが、それでも無視するべき物ではない、ただ、その程度だ。

 

 誰が利用され、何に利用され、何故利用されるのか。

 

 速く答えを出したまえ。できれば、「我ら」が望む物である事を、期待しているよ?

 

―――それでは、良い夢を。

 

 

―――この、囚われのお姫様にも、その願いが届くといいねぇ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。