今回から投稿が30分はやくなりました。
予約投稿で一々30分に合わせるより00分の方が楽だったので。それだけですが。
「やっと捕まえましたぞ王・・・」
「くっ! 中々上手い手を使う・・・あとほんとに痛くて動けないから担架頼む…」
「全く! はやく天竜姫様の所に行って父として説得して頂きますぞ!」
「ぬぅ・・・すまぬな竜神王。お前への恩は忘れんぞっ! ・・・さて帰ろ」
鬱蒼とした森の中で、とうとう脛を抱えて動けなくなった竜神王は捕まってしまいました。最後に犬塚父を近くの繁みに放り投げて。
彼の目はこう言っていたそうです。
『また会おう!』と。迷惑だから止めて下さい。
「ええと、里は確かこっち・・・お、在った在った」
辺りに人影が無くなった事を確認し、再び竜神王の装具に残った力を使って飛び立った犬塚父。その本能と月の導きで、あっさり里を見つけ出す事には成功した。
「シロー!今父が帰るぞぉぉっ!」
ところがどっこい。
「へ? おおおおっ!?」
此処に来て竜神王の装具に不具合でも起きたか、里の真上で垂直落下。まぁ猿神の一撃をまともに食らった上に結界にぶつかったり、高速で移動中に脛に一撃を貰ったりしながらも竜神の王でも無い一人狼が無傷でいられたのはこの装具のお陰であるが、その神通力もこの一晩の無茶で流石にガス欠のようであった。
「なんのっ! 里の結界を上手いこと叩けばこの程度!」
どうやら結界を攻撃してその反動で落下速度を緩めるつもりのようであり、そして彼は思いっきり刀を振り上げ、目の前の結界を叩こうと峰を返した。
「わっはっは! 犬塚、ただいま帰ってきたぞー!!」
その時、彼の懐で何かが光った。
「では、次の問題じゃ」
「はいでござる!」
「いいからさっさとしてよね。お腹減った~」
「貴方の前にはお肉とお揚げを飾ってあるお店があります」
自分の想像に食欲を描きたてられたのか、夕食もまだの二人は小さくお腹を鳴らした。
「涎を垂らすな。さて、どうしますか?」
「狩りの時間でござる!」
「まって、シロ! これは引っ掛けよ! つまり罠!」
「なにっ?!」
「おそらく答えは・・・幻術を使って木の葉をお金に変えて!」
ドヤ顔で自信満々に答える子狐と、それを心底感心したように眺める子狼に、長老はハリセンのように平たく形を変えた霊波刀を一瞬で二人の頭に軽く振り下ろした。
霊波刀の制御と良い回避も許さぬ二連撃と良い、まさに無駄のない無駄な技術であった。
「ちゃんしたお金を使わんかい!」
「「・・・・そんなっ?!」」
「驚くなぁぁっ!」
怒鳴りつける長老と不満そうな二人の少女。だがしかし、次の問題を解く前に、もっと大きな問題が長老さん家に空から降ってきた。
「「「へ?」」」
風切り音が聞こえた3人が開かれた襖の外を見るも、音の発生源は真上だった為一瞬回避に遅れが生じ、その隙を突いてその物体は長老宅の天井を突き破り、3人のど真ん中、畳に突き刺さった。
「ごほごほっ。今度はなんじゃぁぁっ!!」
「あ~、長老。ただいま戻りました」
そう返答したのは、一応体勢を立て直したのか、足から畳に突き刺さった犬塚父の頭だけであった。同時に薄く輝いていた竜神王の装具は完全に只の装身具へと戻ったのであった。
「・・・で、父上は一体何をやってるでござるか?」
「通行手形が勝手に反応してな? 結界叩いて空振りやがんの! わっはっは!」
「シロ、鍬持ってきてくれ」
「長老?掘り出すのでござるか?」
「埋める」
どっとはらえ。
「美神令子っていう小さい女の子と、雷の直撃を受けて消える女性・・・ねぇ」
「そうっす。心当たりとか在りますか?」
ソファーに腰かけた楽な格好の美神に話しかける忠夫。美神の顔を見ながらも、何処となく別のだれか、まぁれーこな訳だが、を思い出しているような少し優しさの感じられる表情であった。
「…ん? んん~・・・。やっぱり無いわねぇ」
「美神さんに良く似た匂いではありましたけど。てっきり親戚かなんかかな、と」
「さぁ?ママはもう居ないから、良く知らないのよね、私の血縁とか」
「・・・すんません」
「え?ああ、気にしないで良いわよ。それなりに心の中で整理ついてるし」
美神が精霊石を幾つか手に入れ、ほくほく顔で帰国したその日。忠夫は先日起こった件の報告をしていた。――結論から言えば、良く分からない、と言うことになる。
「それより、その雷で」
尋ね返そうとした美神の言葉を遮るように、古ぼけた黒電話が音を立てて鳴り響く。ふぅ、と溜息をついた美神だが、気を取り直すと視線を忠夫から外して此処には居ないおキヌに向かって声を掛ける。
「電話みたいね。おキヌちゃーん?」
「はーい。――もしもし、こちらGS美神除霊事務所・・・あ、唐巣さん」
そして、今回はこの一本の電話から始まった。
「うっわー。こりゃ見事にぼっろぼろだなぁ」
「こんな教会荒らしても、なーんにも無いのにねぇ」
「君達ねぇ・・・もうちょっと、こう・・・いや、もういい」
「先生・・・泣かないで下さい」
「ピート君。これは心の汗なのだよ・・・」
唐巣神父からの連絡を受けて、その教会を訪れた美神と忠夫が見たものは、見事に荒らされに荒らされた教会内部。長椅子は砕け、祭壇は打ち壊され、綺麗に並んでいた燭台も、バラバラになって其処此処に転がっている。惨憺たる有様である。
「んで?警察には届けたの?」
「いや、それがだね・・・」
昨夜遅く。除霊の仕事を終えて帰宅した唐巣とピートは、教会の前で立ち止まった。何かが砕けるような音と、それらの原因となった者達が蠢く気配を、教会から感じたのである。
「先生、これは・・・」
「この邪悪な気配は・・・どうやら、物取りの類ではないようだね」
そのまま声を潜めて教会の扉の前に左右に散る。
「行くぞ・・・気をつけたまえ」
「はいっ!」
「何者だっ?!」
扉を蹴り開け、真っ暗な内部に向けて声を張り上げる唐巣。返答はなく、まるで獣のような咆哮が響いた。
「なにっ?!」
「ゴァァァッ!」
「うわっ?!」
「ピート君!!」
蹴り開けると同時に、内側から飛び出してくる影。それに吹き飛ばされた扉と、とっさに唐巣を庇い、進路を塞いだピートへの一撃であった。何とか防御が間に合い身を守ることには成功したものの、飛び出た影は、そのまま制止を聞く事も無く深夜の街へと消えていった。
「――と、言う訳なのだよ」
「・・・ふーん。で、教会の中はこの有様だった、と」
「そりゃ災難だったなピート」
「いえ、幸い怪我も大した事ありませんでしたし・・・」
昨夜の出来事を語り終えた神父の眼には、何時に無く深刻な色が見え隠れする。
「ここは確かに教会だが・・・ああいった輩が入って来れないように、それなりの結界は敷いてある」
「それを破り、探していたのは一体なんだったのか・・・と言うことですね」
「とりあえず、現場検証と行きますか。横島君!」
「はいっす!」
「あんたはとりあえず怪しい匂いとか、変な後とかが無いか外を調べてきて頂戴。私と先生、ピートで内部を調べるから」
「了解しましたー!」
追跡能力については半人狼の忠夫にもそれなりの自信はある。伊達に森の中で獲物を追い掛け回しちゃいないのだ。まぁ多少は劣るのは仕方ないと思ってはいるが。
「・・・とは言ってもなー。シロや長老ならともかく、昨日の匂いは――」
外に出た忠夫は、とりあえずあたりの匂いを嗅ぎまわってみる。だが、いくら狼の鼻とはいえ、此処は都会。車はひっきりなしに通るし、人通りだってそれなりにあるのだ。昨夜から随分と時間は経っているし、朝から夜まで人が活動しているような場所では匂いが残る事も、それを辿る事も難しい。
「無理だな、こりゃ。霊波の匂いでも嗅げりゃ別だけど、そっちは鈍いしなー」
あっさり諦めて、今度は辺りを見渡してみる。やっぱり何も無い。いや・・・
「――ん? なんだこりゃ? なんだか・・・変な匂いが「あのぉ・・・」はい?」
妙な匂いを嗅ぎつけ、鼻を鳴らす忠夫に話し掛けてきたのは、眼鏡をかけた一人の女性。
「あそこの教会の方ですよね? 預かり物があるんですけど・・・」
「へ? ええと、あ、ありがとうございます」
「これなんですけど」
その女性が手渡したのは、細長い包みに包まれた、結構な重さのある何かだった。
「それじゃ」
「どーもー。さてさて」
女性は荷物を渡すとさっさと去っていった。視線が扉が吹っ飛んでいたり、ガラスが割れていたりする教会に不審気に向いていたので、厄介事に巻き込まれる前に、と素早く撤退したようである。正しい反応だろうな、と思いながらも、とりあえず受け取った他人あての包みを開けてみる忠夫。良い子は真似をしてはいけない(戒め)。
「・・・なんだこりゃ。って、うわー、こりゃやばい」
包み紙の中から現れたのは、一M程の、時計の長身のような針。一見すると只の鉄の棒の様でもあった。ただし、
「すっげー血の匂い。気分悪くなりそ」
凄まじいまでの血の匂いがこびり付いている事を除けば、だが。
「うお?!」
しばらくその針を眺めていた忠夫だが、突如聞こえてきた爆音に慌てて落としそうになる。
「な、なんだぁっ?!」
「―――てっ!」
「――――のせいだっ!」
「―――――どいっ!そんな事言う人嫌いよっ!」
その騒音の先に目をやる忠夫の耳に、ちょっと前に聞いたような声が言い争いながら近づいてくる音が聞こえた。
「気持ち悪い事言うんじゃない勘九郎!!」
「そんな雪之丞も結構可愛いかも♪」
「あいつ等の前にお前がぶっ飛べーーー!!」
「だから俺の話をきけぇぇぇっ!!」
「あ、この前の3人組と・・・なんだありゃ」
爆音を立てて忠夫の前を走り去っていったのは、先日GS試験で会った元白竜道場の面々と、ベレー帽と変な仮面を被ったごっつい男達だった。
「へ?」
その集団は、忠夫の前を50Mほど過ぎ去った辺りで急ブレーキをかける。陰念と雪ノ丞、二人分の血走った視線は忠夫が持った鉄の棒に釘づけである。
「「その針をよこせーーーっ!!」」
「私と一晩付き合わない?」
若干一名、勘九郎は忠夫のお尻を見ていたり。思わず警戒して後ずさる忠夫であった。
「「お前はだまってろぉぉぉっ!!」
そしてそのまま、忠夫に向かって大暴走。
「ちょっとまてぇぇぇぇっ!!」
当然、忠夫も大逃走。おもに尻を見る男の視線が怖かった為。
うららかな昼下がり。街は、喧騒に包まれた。
「ぜはっ!ぜはっ!」
「ふー。やっと振り切ったか」
「あらあら、雪之丞もまだまだ鍛え方が足りないわねー」
「て、手前等が異常なんだっ!」
何処をどう走ったやら。気付けば忠夫、勘九郎、雪之丞は結構な広さを持った、人影の無い公園に辿り着いていた。どうやら、陰念たちは振り切られたようである。
「んで、お前ら一体なにやってんだ?」
「ぜー。ぜー。そ、その針だよ・・・」
「これか?」
そう言って逃走中もしっかり持っていた針を改めて見る。元は何だったのかが分からないくらいに血に染まって危険な気配を醸し出すそれは、確かに危険物と言って間違いないだろう。
「そう、それよ。実は私たちは「とある人物」からの依頼で、今ちょっとした厄介ごとに巻き込まれてるのよ」
「・・・さっき陰念もいたみたいやけど?」
「察しが良いわね。その通り、相手はメドーサ。どう、厄介でしょ?」
「飛びっきり厄介なんだよ。全く、妙な家来と一緒に追っかけまわしやがって・・・息つく暇もありゃしねぇ」
そう言って漸く息を整えた雪ノ丞は、膝に着いていた手を離して背中を伸ばす。多少疲れた様子は見えるが、それでも余裕は取り戻したようであった。
「ふーん。てことは、唐巣神父の教会を荒らしたのも、」
「俺たちだよ。正確には、そこの兵隊だがな」
「「「っ?!」」」
が、落ち着く間もなく、トラブルは向こうからやってきた。何時の間に現れたのか。周囲には、先程のベレー帽を被った男達。
「全く。同門のよしみで手加減してりゃ、よくもまあ逃げ回る」
「「陰念!」」
そして、先程までの人間の擬態を解いた、陰念の姿。
「さぁ・・・とっととそれを渡せ。今なら見逃してやる」
「ちっ!いい気になりやがってっ!」
その身を魔装術で鎧う雪之丞。勘九郎は只警戒した面持ちで眺める。忠夫は――何かごそごそやっている。
「こうなりゃ本気で「やるだけ無駄さ」っ!」
「がぁぁっ!!」
「雪之丞!!」
雪之丞がその手に霊力を湛え、それを打ち放つ予備動作に入った瞬間、陰念は既に雪之丞の背後にいた。そのまま左手を突き出し、その手から放たれた魔力砲は、雪之丞を吹っ飛ばす。背後からの直撃に踏み止まる事もかなわず、公園の樹木を何本もおり砕きながら土煙の向こうに姿を消し、そのまま沈黙する雪之丞。
「なるほど・・・伊達に魔族には堕ちていないようね」
「ふん。わかったらとっとと針を渡しな」
睨みあう勘九郎と陰念。だが、今の状況では勝ち目が薄いと判断した勘九郎は、小さく舌打ちすると、諦めたように吐息を吐いた。
「…ふぅ。しょーがないわね。たしか、横島君だったかしら?」
そう呟くと、忠夫に向かって視線を飛ばす。
「あれ?」
―――正確には、先程まで忠夫がいたところに向かって。
「厄介事は勘弁――!!」
叫び声が聞こえたほうを見れば、其処には雪ノ丞が起こした土煙の中を通り抜け、何時の間にか出口へとダッシュで駆け抜けて行く忠夫の姿が。
「・・・あっ! 待てこの野郎!」
「待てといわれて待つアホがおるかぁぁぁっ!!」
「そりゃそうよねー」
「ちっ! ええい、お前らいくぞっ!!」
包みを持って走り去っていく忠夫を追いかけていく陰念達。そして、其処に残ったのは勘九郎と、少々ボロボロになった雪之丞。
「・・・っててて! 陰念の野郎!」
フラフラになりながらも魔装術を解き、起き上ってきた雪ノ丞が忠夫と陰念を追いかけようと駆けだすも、その襟首を捕まえて持ち上げる勘九郎。体格差もあってかあっさりと宙に浮いた雪ノ丞を呆れたように見ながら、漸く自分に視線を向けた雪ノ丞を、勘九郎はゆっくりと下して立たせた。
「猪もいい加減にしなさい。横島って子の方が、まだやる事やってるわよ?」
「なんだとっ?」
「ほら、そこ」
そういって勘九郎が指差した所には、ついさっき埋め立てられたような湿った土。
「・・・これがどうした?」
「・・・ふぅ。つまりね」
頭に血が上っていた陰念と雪ノ丞は気付かなかったが、只一人冷静に周囲に目を配って逆転の目を探っていた勘九郎だけが、こっそり穴を掘っていた忠夫と目があっていた。そして、布だけを持っていた彼は、土煙と折れた樹木の間を駆け抜け、そして抜けた時には布の中には確かに何かがあった。間違いなくあの土煙の中で機の枝でも拾って布を巻きなおしたのだろう。
「こういう事、よ」
「・・・あいつは手品師かなんかか?」
だから今、勘九郎の手には、先程まで確かに忠夫が持っていた筈の針がある。自分が空の袋を持って囮になることで、勘九郎たちに配達人を任せたのだ。
「ああいうのは、ペテン師って言うのよ」
「キッ!」
「見つけたか!」
所変わってこちらは追手の陰念達。部下のベレー帽の報告によれば、先程見失った忠夫を発見したとのこと。
「――ここか」
報告のあったのは、一軒の廃ビルの中。隠れ場所としては申し分なさそうだ。
「お前とお前は裏から回れ。後の者は入り口を固めろ。中は俺一人で十分だ」
そう言い残してビルに入っていく陰念。程なく―――
「・・・あれは」
ビルの中ほどにある広い空間の真ん中に、ぽつんと転がる包み。
「・・・罠か?」
警戒しつつ包みに手を伸ばす。
「なにぃぃぃっ?!」
それは手の中であっさり折れた。
「や、やべぇっ?!」
慌てて中身を確認する、が、当然中から出てきたのは探し求めていた鉄の棒では無く。
「・・・ふっざけやがってぇぇぇぇ・・・」
只の木の枝。陰念、怒り心頭である。
「あの野郎! 次会ったらぶっ殺す!」
その後、ビルの屋上から肩を怒らせて部下を連れて撤退していく陰念をこっそり見下ろしながら、
「うーわ。怒ってる怒ってる」
のーんびりとそう呟く忠夫がいたという。
「へぇ・・・つまりこれが」
「そう。貴方達に協力を求めた理由って奴よ」
「なぜ、私たちに?」
「・・・クライアントからの要請さ。とりあえず、今は秘密って奴だ」
「・・・まぁ、悪い人たちじゃないんでしょうけど」
勘九郎たちはあの後直ぐに唐巣神父の協会へと移動。美神たちと合流すると、そのまま強力な結界のある美神の事務所へと移動していた。そのまま今回の騒動の発端と大体の流れを説明した所である。
「原始風水盤・・・とんでもないこと考えるわね、あのおばはんも」
「確かに。第二の魔界を作り出す事さえ可能な、恐ろしい物だよ」
原始風水盤。強力な地脈に干渉する能力を持った、秘儀中の秘儀。製作に膨大なエネルギーと生贄――何人もの優秀な風水師の血――を必要とする為、そして、その扱いをひとたび間違えれば世界を破滅させることさえ可能なその危険性の為、発覚すれば使用どころか準備だけで物理的に首が飛ぶ、凶悪で危険な代物である。
「魔界のオカルト技術ってーのも、舐められた物じゃないわねー」
「そこで、だ。あんたらに協力して欲しい事ってのは・・・」
「そいつを、ぶっ壊すんでしょ? 報酬は?」
「クライアントは、十分な額を保障するそうだ」
原始風水盤を使って何を企んでるか、なんて、分かる訳も無いが、黒幕はあのメドーサ。クライアントは私が報酬無しでは動かないことを知っている。その額も。ということは―――
「ま、いいでしょ。小竜姫にはちゃんと報酬払うように言っといてねー」
「あらあら、お見通し?」
「そうやって直ぐに鎌かけに引っかかってちゃ、情報なんてダダ漏れよ」
「確信してる相手に無駄な事はやらない主義なの」
結構、面白いことになりそうね。
「ところで、ピートとか言ったな」
「なんだい?」
「横島とかいう変な奴、一体何者だ?どれくらい強い?」
「段々君の考え方が分かって来たような気がするなー」
「んじゃこんど全力で喧嘩しような!」
「何の脈絡も・・・もういい。分かった。なんとなく無駄だってことが」
「やぁ」
君は、彼女のことをどう思った?
己の娘のことしか考えないなんて醜い? 己の娘の為に全てを投げ打つ姿は美しい?
愛しい者の目の前に、獣が二匹。方や地に落ちた鳥。方や血に塗れた狼。それは、どれほど危険な物に見えたのかな。事実は一つでも、真実は人の数だけ。
どちらが正解な訳でもない。どちらが間違っている訳でもない。
愛情がなべて美しい物であるとも言わないし、憎しみが全て醜いものとも限らない。
他の全てを削ぎ落とし、練磨に練磨を重ねた感情は、黒かろうが白かろうが、正に宝石のような輝きを宿し魅了する。
だが、アレは―――そう、あえて言うのならば。
壮絶な覚悟。あの母親「達」は、それを持っていた。
―――さて、今日はもうこんな時間だ。
―――それでは
―――良い夢を。