月に吼える   作:maisen

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GS試験編エピローグ的な。みじけぇ!

ので、という訳でもありませんが艦これモノ一本書いてみた。脳味噌使わない感じでお暇なら作者のページからどうぞ。


第二十四話。

「ぐぬぬっ!」

 

「さ~て、そろそろ終わりの時間のようじゃなぁ?」

 

 竜神王は最後の手段であった犬塚父の不意打ちががあっさり破れたことに動揺してか、じりじりと下がっていく。絶対に逃がすものかとその間を詰めていく猿神。

 

 「アレ」を最後の手段とか思う辺り、既に末期である。

 

「おうりゃっ!!」

 

「うおっ?!」

 

 猿神は不意にその手に持った巨大な金剛棍を振り上げると、凄まじい勢いで地面に叩きつけた。

 

「こ、この馬鹿力がっ!」

 

 その余りの衝撃に、岩は砕け、地は裂け、辺りは地鳴りと共に大きく揺れ動き、そして巻き上がる巨大な土煙。

 

「――目上の者に対して馬鹿とは…やれやれ。もうちょっと躾けておくか」

 

 その声は、煙を突き破って一直線に飛んできた猿神が呟いた物だった。しかし竜神王の足元はいまだに罅割れ、揺れ動き、その翼を持って飛び立とうにも足場が不安定すぎてそれも不可能であり、そして、その戸惑った一瞬の隙で猿神には十分。

 

「ふっ!!」

 

 空気の壁さえも、いとも容易く打ち破りながら迫り来る金剛棍。直撃を食らえば痛いじゃすまない。

 

「なんのっ!」

 

「なにっ?!」

 

だがしかし、竜神王も然る者。避けられないと判断した瞬間に人間体へと化け、その一撃をかわしていた。

 

「三十六計逃げるにしかずーーー!!!」

 

 ダッシュ。全力であった。地面に着地したと同時に逃げだす竜神王。

 

「・・・はっ! こら待て馬鹿者がぁぁっ!!」

 

 竜神の王とは思えない、余りの堂に入った逃げっぷりに、一瞬固まる猿神であったが、とりあえず追撃に入り、僅かな遅れを歯噛みしながら加速に入る。

 

「はーっはっはっは!! 追いつけるもんなら追いついてみろーー!!!」

 

 竜神王は喜びの絶頂であった。様ぁ見ろと思いながら調子に乗りまくっていた。

 

だが、彼は忘れていた。確かに同じ体の大きさの時ならば、振り切れていただろう。しかし、今は縮尺が違うのだ。彼が100歩かかる所を、猿神は3歩で進めるのだ。つまり。

 

「・・・・へ?」

 

「ま、とりあえず、一回逝っとけ」

 

「のおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・」

 

 3歩で追いついた猿神は、思いっきり棍を振りかぶると、強振一閃。竜神王も先程犬塚父が飛んでいった方角へと、吹っ飛んだのであった。

 

「うわわわわわっ!!落ちる、落ちるって!!」

 

「暴れるなっ! 今ロープを下ろす!」

 

「将軍! あちらの割れ目に要救助者2名発見しました!!」

 

「だぁぁぁっ!! だからあのご老体に出陣願うのは嫌だったんだぁぁぁっ!!」

 

「なんのぉぉぉっ!」

 

「これしきぃぃぃっ!! ファ○トー!」

 

「「いっ○ぁぁぁぁぁつ!!」」

 

「真面目にやらんかぁぁぁっ!!」

 

 満足げに吐息を吐く猿神からほど近い場所では、武神の一撃で砕けた大地に巻き込まれて大変な事になっている部下達もいたりしたが。いやに救助活動が手馴れているのは、最早慣れるほどにこういう事があった、ということなのだろう。きっと。いや、間違いなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ぉぉぉぉおおおおおおおっ!! はぶっ!」

 

「おお、竜神王殿」

 

「おや、犬塚殿」

 

 隠蔽結界と言う名の四角いリング。というか金網デスマッチ。その壁に叩きつけられた竜神王は、同じように先に吹っ飛ばされた犬塚父と合流した。その余裕っぷりが逆に今現在進行形で悲鳴を上げている将軍達の哀れを誘う。

 

「竜神王殿、この結界壊せるか?」

 

「ふ、無論」

 

「では」

 

「せーの」

 

「「どりゃあぁぁぁっ!!」」

 

 意外や意外。竜神王、逆転逃げ切り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言われてもなぁ・・・」

 

「私たちは記憶無い訳だし・・・」

 

 怪我人にとりあえずの応急処置を施し、一息ついた美神たち。会場の救護室はさながら野戦病院のような有様となっていた。そんな中で、あちらこちらに包帯を巻いた白竜道場の2人組みに対し、GS協会からの尋問と言うか、調査は難航を極めていた。

 

「やはり、あのメドーサが全ての黒幕、と言うことになりそうですね」

 

「あいつの手がかりも掴めそうに無いし、あとは白竜GSの所に乗り込んだ先生達の帰還待ち、しかないわね」

 

 結局果々しいものは得られず、とりあえず白竜道場の2人組みに対しては保留と言う形で一旦しばらく放置、と言うことになったようである。

 

「横島さん!大丈夫でしたか?!」

 

「ああ、おキヌちゃん。平気平気!ほら、こーんなに元気!」

 

 

「横島・さん。霊波刀・振り回すのは・危険・です」

 

「あはっ、大丈夫そうですね」

 

 会場からボロボロの勘九郎と雪之丞を担いで出てきた忠夫が、式神ショウトラのヒーリングを受けている最中に駆けつけてきたのは、避難していたおキヌ。心配そうなおキヌに対し、新しく覚えた霊波刀までも使って無事をアピールする。

 

苦笑いを浮かべながらもうちょっと疲れてても良いんじゃないか、とか思ってしまうピートであった。

 

「・・・と、いう訳で。あれはおそらくメドーサに痛い目見せたじゃろうなぁ」

 

「・・・そんな危ない物、本人の承諾無しに使わせないで下さい!」

 

「む。以後気を付けるわい」

 

「・・・まぁ、メドーサに一応仕返しできたので、良しとしましょう。要するにばれなきゃ良いんですよ。ばれなきゃ」

 

 カオスはカオスで小竜姫のえらく殺気の篭った視線を受けつつも、飄々とした風情で反省の言葉をのたまう。問題は、全く反省しているように見えないところであろう。今回は少し意趣返しができたことで、小竜姫も少し吹っ切れたようである。吹っ切れすぎな気もするが。

 

「ああ! いたいた! おーい!其処の君達!」

 

「へ? 俺たちっすか?」

 

 そんな風にいつも通りの会話を楽しんでいた忠夫達の所に、どうやらGS協会の役員らしきスーツを来た男性が駆けて来る。

 

「横島忠夫君と、ピエトロ・ド・ブラドー君、それからマリアさんだね?」

 

「はい、そうですが?」

 

 戸惑いながらも応対するピート。忠夫も疑問を浮かべてその光景を見ている。事情聴取は美神に任せてきた訳だし、今更こんな状況で何のようだろう?と思っていた。

 

「今回のGS試験はこんな形で終わってしまったが、あのレベルの魔族が出てきたと言うのにこの程度の被害で済んだのは、間違いなく君達の尽力あっての事だ」

 

「・・・いや、なんちゅうか、成り行き任せって言うか」

 

「そこで、だ。我々GS協会としても、君達のような強力な霊能力者が、こんな形で失格になるのはもったいない、という意見が続出してだね」

 

と言うよりも、強力な戦力は管理しておきたい、と言う所が本音であろうが。

 

「・・・もしかして?」

 

「まさか?!」

 

「ああ。かなり無理やりな案ではあるが、君達の今回の活躍を持って、GS資格の取得を認めよう」

 

「「・・・・・・・」」

 

 その、振って沸いた幸運に、思わず絶句して向き合う忠夫とピート。その顔に理解の表情が広がると共にゆっくりと持ち上げられていく2人の手。

 

「やったじゃねぇか、ピート!!」

 

「そんな、横島さんこそ!!」

 

「俺は元々ついでだったから良いんだよ!! このこのっ!!」

 

 その手を音高らかに打ち合わせ、友と喜び合う二人。GS協会役員と、美神、おキヌ、小竜姫、マリア、カオスもそれを微笑ましそうに眺めていた。

 

「のう、マリア」

 

「イエス。ドクター・カオス」

 

「若さじゃなぁ・・・」

 

「老け込み・すぎです。ドクター・カオス」

 

「ところで、お前はなんでGS資格何ていうものが欲しかったんじゃ?お前の願いなぞ、初めて聞いたもんで、思わず年甲斐も無く頑張ったんじゃが」

 

「・・・年甲斐が・無いのは・いつもの・事ですが。それは」

 

「それは?」

 

「いつか・飼う為です」

 

「・・・・・・・・・・何を、じゃ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

にっこり。

 

 有無を言わさぬ迫力を持ったマリアの笑顔に、その母の笑顔を、戦慄と共に思い出したドクター・カオスであった。

 

「・・・・・げほっ!」

 

「すぴー。」

 

 そんなどたばた騒ぎの最中に。黒く煤けた唐巣神父と、その背に背負った眠りこける冥子が姿を現した。

 

「あっ、先生っ! やりましたよ!僕はGS資格を・・・って、先生がえらくボロボロに?!」

 

「か、唐巣さん?! やっぱり無理でしたか?!」

 

 現一番弟子と、置いて返ってきた竜神がその姿を見つけて駆け寄るも、まるで爆発に巻き込まれたかのように服のあちこちは破け眼鏡はひび割れ、散々な状態の唐巣神父は、冥子を傍らのソファーの上に下ろすと、

 

「暴走…」

 

そう呟いて、前のめりに倒れこんだのであった。

 

 

「先生?! 先生ぇぇぇぇえ!!」

 

 「・・・あちゃー」

 

「証拠・・・残ってるといいっすね」

 

「すぴー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――白竜道場、上空―――

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 呆然と中に浮かぶメドーサと陰念。その眼下には、廃墟と化した白竜道場。本格的な調査の手が入る前に、本拠地を移そうと此処に寄ったのであるが。

 

「「・・・・・・・・・・はっ!!」」

 

 そして、5分ほどもそのまま浮かんでいただろうか。慌てて、おそらく白竜道場の自分の部屋――メドーサは一緒に寝起きしていた訳ではないので、客室であるが――に向かって飛び降りるようにして向かっていく。

 

そしてしばらくして。

 

「あああっ!!俺のブルーワー○ーとアブフレッ○スとプロテインとセガ・ノ・ビール君がぁぁっ!!」

 

「私の、私の魔界酒「神殺し」500年もの・・・」

 

「うおおおおおぉん!」

 

「高かったのに・・・高かったのに・・・こんなことなら成功祝いなんかに取ってないでさっさと飲んでれば・・・・」

 

 そのまま小1時間ほど嘆きの声が聞こえたという。――GS美神除霊事務所に関った者は、不幸になるのだろうか・・・なるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~。あれが~忠夫君ね~」

 

「・・・おや、冥華お嬢ちゃんじゃないか」

 

「・・・善十郎の翁ではありませんか~~。どうしてこんな所に~?」

 

「そりゃこっちの台詞だ。約定を違えるつもりか?」

 

「まさか~。私は「たまたま」GS協会からの協力要請があったので~「知らずに」此処に居るだけですわ~~」

 

「ふん。「たまたま」か。聞き飽きたわい」

 

「あらあら~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場にて。唐巣神父の手当てに慌てる忠夫達を医務室の外から眺めていたのは六道家当主、冥華と、もっさりとした白髪頭、胸まで伸びた真っ白な髭、ぎらつく目を持った70絡みに見える大柄な男性であった。

 

 ――時は、一週間ほど遡る。

 

「ようやく見つけましたわ~」

 

「別に隠れちゃおらんがな」

 

「それならお屋敷で~ゆっくりされていれば良いのに~」

 

「ふん。わしらにはそういうのが性に合わんでな」

 

 富士山麓の樹海の中。3人用と思しきテントの前に、小さな火を灯してコーヒーを啜っていたのは、善十郎と呼ばれた翁であった。そこに、この森林の中をどうやって辿り着いたのやら、動きにくそうな和服のままの冥華が話し掛ける。

 

「フミさんの所動かして~、こんなに時間がかかるなんて~思ってもみませんでしたわ~~」

 

「知らんな」

 

「あら~、冷たいですわね~」

 

「お前さんに会うと碌な事が無い」

 

「昔は~あんなに優しくしてくれたのに~」

 

「おじいちゃん、おじいちゃんと懐いてきた頃はまだ可愛げがあったがなぁ。六道の所の女衆は、いつも面倒ばかり持ってきよる」

 

「長い付き合いですものね~」

 

「・・・いっそ切れたら楽なのじゃがなぁ」

 

 会話だけを聞けば、彼は一体幾つなのだろうか。彼と彼女の間には、緩やかな空気が流れつづける。

 

「で、用件はなんじゃ」

 

「単刀直入に聞きますわ~」

 

「ふん?」

 

「『横島忠夫』という名をご存知でしょうか~?」

 

「耶の小倅か」

 

「ご存知なのですね~?ちょっと聞きたいことが~「当主。善十郎の名を持って告げる」・・・っ!」

 

「どうした?続けよ『六道家当主』」

 

「・・・六道家当主の名を持って~、その言の葉、承る~~」

 

 ―――空気が一変する。善十郎が告げたその一言に、どれほどの意味があったのか。青ざめながら、それでもその言葉に返答する冥華。

 

「犬飼忠夫に、干渉すること許さず。放っておけ」

 

「・・・っ!」

 

 その言葉に、今度こそその顔から血の気を失い、青を通り越して白く見える程に驚く冥華。

 

「返答はいかに?」

 

 しかし、善十郎は止めない。冷徹に、その返答を求める。

 

「・・・その子に~それだけの価値が「返答はいかに?」」

 

 その疑問さえも途中で遮り、更に温度の下がった視線で冥華を捕らえる。

 

「六道家当主・冥華~。確かに承ります~~」

 

 いまだに納得の行かない様子でありながらも、その声を絞り出す。

 

「・・・ふん。干渉するな、と言っても六道家として、だ。後は好きにせい」

 

「・・・六道家と~、貴方達の契約~。12神将を作り出す協力をしてくれた~、貴方達への~お礼である~、たった一度の六道家へ対する絶対の貸し。そんな使い方で~、周りの人たちが五月蝿いですわよ~?」

 

「知らん知らん。ほっときゃいい」

 

「・・・羨ましいですわね~、その軽さ~~」

 

「わしじゃからな」

 

「貴方らしいと言えば~らしいですわね~~」

 

 ――そして時は現在へと至る。

 

「で、見た感じどうじゃったかの?」

 

「・・・半人狼~ですわね~」

 

「沙耶の息子らしくないじゃろう?」

 

「ええ~。全く~」

 

「くっくっく・・・。あれも結構な親馬鹿じゃからなぁ」

 

 そう楽しげに含み笑いをする、そんな彼に探るような視線を向けていた冥華は。

 

「・・・はぁ~~~」

 

 久しぶりに娘以外のことで溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ」 随分と久しぶりに顔を合わせたね。

 

「血の繋がり」というのは、ああ見えて結構厄介な物でね?世界のどこかに自分にそれを伝えた者が居て、さらにそれに伝えた者がいて。更に、更に、更に―――。

 

 人間たちは、とても儚く短い存在。だからこそ、何かを残したがる。

 

 血の繋がりは、命の繋がり。命の繋がりは、その命に宿った時の繋がりだ。

 

 伝えて、受け取って。またそれを伝えて、そして受け取って・・・。

 

 なんとも不安定な繋がりだ。だが、運び手たる人間があそこまで脆いと言うのに、その流れは留まることを知らない。

 

 神や、魔には無い物だ。娘、眷属、作り出した命。―――大抵が一代限りの、いや、伝える事を考えていないのだから、当たり前だがね?

 

 だが、不安定であっても、脆くても。

 

それは流れ、だ。

 

そして、流れる、ということは、いつか終わると言うことでもある。

 

その終わりに、一体何を見せてくれるのかな?

 

―――それでは、良い夜を。

 


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