月に吼える   作:maisen

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第十七話。

 天竜達が帰り、夜が明けて次の日の朝。

 

 早朝の新鮮な空気の中を、瘴気とさえ言えるような暗い雰囲気を纏ったまま歩いてきた横島を迎えたのは、教会前の掃除をしていたピートだった。

 

 虚ろな目のままふらふらと促されるままに教会内に入った横島は、傷を治してもらったおかげかもう普通に動けるようになり、身体の調子を確認がてら事務所のあった場所まで様子を見に行っていたおキヌと美神が帰ってきても教会の祭壇の前に体育座りのまま、殆ど動きを見せずにいた。

 

 唯一動いているのもと言えば、その口元ぐらいだ。

 

「……ぶつぶつぶつ」

 

「…おキヌちゃん?あのうっとーしいのどうにかなんない?」

 

「まぁまぁ美神さん、空き巣にあった直後なんですから」

 

「…俺の肉俺の家俺のTV俺の服…」

 

 誰が声を掛けてもまともな反応を見せず、体育座りで十字架を見上げて呟き続けていた横島だった。その呟きを何とか聞き取ったおキヌによると、どうも家が空き巣にでもあったようで帰宅するとひどい有様だったらしい。

 

 それもその筈、家に帰り着いた忠夫を向かえたのは、半壊した扉の立てかけてある玄関と、荒れに荒れた部屋の中。爪跡に引き裂かれた人狼の里で着ていた普段着に、替えの服2着。そして壊れたというか原型を留めていないTVと、空っぽの食料庫。

 

 彼は崩壊した部屋の窓と玄関から朝日が差し込んで来るまで呆然とした後、ふらふらと歩きながらいつの間にやら教会に到着。

 

 そうしてそんな様子の横島に慌てた様子で声をかけるピートと、騒ぎを聞きつけた美神たちが忠夫を発見するも、昨日見た姿とのあまりの落差に固まるばかり。ようやくGS協会に事後報告を済ませ、肩を叩きながら帰って来た唐巣神父もどうしたものかと腕を組んで溜息一つ。

 

 平日なのでミサ等はやって無いが、たまに来る客人や近隣住民が、もし、教会の中で救われない様子で十字架を見上げている少年を目撃した日には、神父の立場としては色々と不味かろう。

 

 そんな彼らを余所に、祭壇の前まで歩み寄った忠夫は、荒らされた部屋の中にただ一つ残されていた遺留品らしき物、怪しすぎる包丁を懐から取り出した。

 

 唖然とした様子で見守る他の面々の前で、彼はそれをおもむろに振り上げる。

 

「…斬る」

 

一言だけ呟き十字架に歩みはじめた。まるでその背中は処刑上に向かう聖人のようだった、とか誰も言わないが。

 

「「待てーーー!!!」」

 

 たまらないのはキリスト系の技を使う唐巣神父とその弟子ピート。なにせいきなり弟子の助手が教会の象徴を叩ッ斬ろうとしているのだ。

 

たとえ偶像崇拝が禁止されていたとしても、やはりそれは教会に通う人々にとっての心の拠り所。いきなり破壊されては困ったなんていうレベルの問題ではない。

 

 それより何より。高いのだ、アレは。

 

「お、落ち着きたまえ横島君!」

 

「一体全体何を考えているのですか?!」

 

「はなせぇぇぇぇっ!!  武士の情けでござるぅぅぅぅぅっ!!!」

 

 慌ててしがみ付く神父達を引きずりながら、一歩一歩目標に近づく忠夫。伊達に人狼の血を引いちゃいない。成人男性2人くらいなら軽々である。

 

「これは復讐でござるぅぅぅっ!! 神は死んでいるんだから良いでござろうがぁぁぁぁ!」

 

「教会関係者の前で吐く台詞じゃないわねー」

 

「そんなに大切なものでもあったんでしょうか?」

 

 頭を抑えながら止める気も無く、その様子を眺めるだけの美神と、のほほんと呟くおキヌ。

 

「拙者のお肉の仇ィィィッ!!!」

 

「それ、うちの教会とは絶対関係ないだろうっ?!」

 

「とりあえず落ち着いてください横島さぁぁぁぁぁん!」

 

「…ほんとに何があったのかしらねぇ」

 

「横島さん、微妙に幼児退行起こしてますねー」

 

「今の拙者は神でも斬れるぞぉぉぉっ!!!」

 

「「斬るなぁぁぁぁつ!!」」

 

 ・・・要するに八つ当たりである。

 

 ひとまず錯乱する忠夫をフルパワーの神通棍でシバキ倒し、「何かあったのなら家でだろう」と当たりをつけた美神が様子を見に行って見れば、そこにあったのは荒れ果てた忠夫宅。

 

「……」

 

「これは…酷いですね」

 

「…なんでこんな金の無さそうな所に?」

 

 結局全く原因不明ではあったが、面倒くさくなって引き摺ってきた横島を部屋に放り込み、置手紙に「明日朝十時教会前集合」とだけ書いた紙を額に張り付け。とりあえず元に戻るまでは放置して教会にてもう一夜を過ごすことにした美神たちであった。

 

 次の朝、教会に訪れた横島は会話もできたし眼も虚ろではなかった。

 

しかし、なんだか雰囲気が荒んでいた、とだけ言っておこう。

 

 内心鬱陶しいと思いながらも、まぁ役に立たない訳ではないのだから、と昨日横島が引きこもっていた一日の内に現金一括で購入してきた車に乗り、事務所の崩落に巻き込まれながらもなんとか無事だった霊具の数々と一緒に目的の場所へ出かける一行であった。

 

「とりあえず、昨日の妙な奴の紹介してきた建物は此処ね」

 

「ほえ~。おっきな建物ですね~」

 

「大きいには大きいけど…大分ガタがきているみたいよ。まぁ、場所自体は一等地だから手を入れれば結構――」

 

 瞬間、美神の霊感に違和感が走る。

 

「お待ち―――して――おりました。美神除霊――事務所の皆さん――」

 

 その声に振り向けば、確かに昨日この話を持ち込んできた全身を覆うコートに顔が見えないほどに大きな帽子を被った人物の姿。

 

 こちらに危害を加えようと言う意思は感じられない事に美神は警戒のレベルを一段落とす。

 

 が、何時でも即対応できるように緊張の糸は切らない。特に、突然誰も居なかった筈の場所に出現するような怪しい人物が相手ならば。

 

 こちらが警戒しているのを嘲笑うように、或いは全く気にも留めていないように、その人物は相変わらず途切れ途切れの聞き取りにくい言葉で話しかけてくる。

 

 

「約束の時間ちょうどのはずだけど? …それより、本当なんでしょうね?」

 

「――ええ。この建物の――最上階に―権利書を――用意してあり――ます」

 

「で、そこまでたどり着ければこの建物が私の物って訳ね」

 

「御自分――達の力で――とってこられたら―という条件付で―――すが。それでは―――御武運を」

 

 最後の一言だけを明瞭に喋り、そのコートは中身が無かったかのように地面に崩れ落ち、そしてその中からは案の定何も見つからなかった。

 

「いやに霊波の単純な奴だったわね…まるで人工の幽霊みたい」

 

「人工の幽霊、ですか?」

 

「ええ。私も実物を見たことは無かったけど…戦前、そういった研究をしていた人がいたって話よ」

 

「ええっ?!」

「確か名前は――渋鯖男爵、とか言ったかしら」

 

 振り仰げば、そこには先ほどまでは無かった存在感を誇示する洋館。まるで先程まで居た人物が乗り移ったかのように、平坦な霊波を発し始めたその建物が、軋むような音を立てた。

 

その音の発生源を探して視線を下げれば、ぽっかりと開かれた扉が手招きするかのように僅かに動いている。

 

「ふん、さっさと入って来いってか。面白そうじゃない、行くわよ、あんた達!」

 

 そう言い残し颯爽と開かれた扉に歩み寄る美神。

 

「横島さーん! 美神さんが呼んでますよー!」

 

「…へーい」

 

 そして未だ立ち直りきっていない忠夫を引きずりながらそれを追いかけるおキヌ。

 

こうして旧渋鯖男爵邸の冒険は幕を空けたのだった。

 

―――玄関―――

 

 扉をくぐって中に入ってみれば、確かにそこら中痛みは見られるものの、ほとんど埃の積もっていない床。

 

「…ふん」

 

 辺りを一通り眺めた後、鼻を鳴らし歩みを進める美神と、その後に続く忠夫達。

 

「――返すつもりは無いってわけね」

 

 そして全員が扉をくぐると同時に閉じる玄関。おそらくこの屋敷の裏方は、簡単に開くような仕掛けはしていないだろう、と思ったが、美神は頭を一度振るとその考えを捨てる。

 

 何せ相手の目的がなんなのかは不明だが、こちらの目標は最上階の権利書を獲る事。

 

 目的地までの邪魔はされるかもしれないが、こちらが無理だと判断して逃げ出したら、それはそれで特に何もされずに脱出する事が出来るような気がしたのだ。

 

「いや、結構簡単に開くかもしれないわね…まぁ、ここまできたら、進む以外の事をするつもりはないけど」

 

 玄関から視線を外し、再び前を見ればそこには何時の間にか一体の全身鎧の姿。

 

「…へ?」

 

『第一の関門です。その鎧を倒してください』

 

 機械的な音声が何処からともなく響き渡る。その残滓が消えると同時に動き出す全身鎧。

 

 その鋼の小手に包まれた手が腰に下げたロングソードを抜き放つ。

 

 瞬間、風を切り裂いて鋭い剣閃が美神に襲いかかった。慌てて後方に飛びのき、しかしそれでは足りずにもう一度横っ跳びに避ける。と、先程まで美神がいた場所の後ろにあったソファーが真っ二つに切り捨てられた。

 

 その鈍重な見かけからは思いもよらない連続攻撃に、慌てて神通棍を伸ばし応戦にはいる美神。

 

「プロの剣捌き?! 冗談じゃないわよ! 横島君!」

 

 そちらが剣士ならこちらは侍、とばかりに横島の名を呼ぶが。

「ケッ、ケッ、金持ってやがんな、何か高そうな絵じゃねぇかオイ」

 

 その横島は恨み辛みがぶり返して来たのか、壁に掛けられた不気味な絵に向かってひたすらに現実逃避気味に愚痴っている真っ最中であった。

 

「あああ! まだやってたんかっ!!」

 

 美神が意識の外に置いていただけで、彼は玄関をくぐってからずっとそうである。

 

 

 

「きゃあっ!」

 

 突っ込みで意識を逸らした美神の眼前すれすれで通り過ぎていく前身鎧の剣。

 

「や、やばっ! ――横島君!」

 

「横島さんっ! 美神さんが危ないんですってばぁー!」

 

 が、どうにも反応が芳しくない。おキヌがその肩を掴んで必死に揺さぶっているがまるで根を張ったように動かない。

 どうも軽くトラウマと言うか精神に傷を負った状態になっているようで、外部からのなまなかな刺激には反応しづらくなってしまっているようだ。

 

 あるいは急に目覚めた霊力のせいもあったかもしれない。それまで無かった物が急にある、という感覚を一晩中、或いは目覚めてからこれまでずっと慣れない感覚、違和感として感じていたのだから、本人も大きなストレスを感じていたのだろうが、空き巣にあったと言うインパクトと混じり合ってこのタイミングで爆発したらしい。

 

 いままでストレスなんていう物とは無関係な生活を送ってきた本人と、どう見てもストレスなんて感じそうにない、お腹一杯ご飯食べて寝れば元気フル充電になるような性格としてとらえていた周囲が気づかなかったというのが致命的だったのかもしれない。

 

 が、現状ゆっくりとカウンセリングを受けさせている時間も余裕も無いのだ。

 

「ぶつぶつぶつぶつ」

 

 だから、美神はとりあえずストレス発散がわりに生贄でも差し出してみる事にした。

 

「あんたの部屋を荒らした犯人は、この屋敷の一番上にいる…気がするわ。多分、いる」

 

 美神の一声が、忠夫を変えた。

 

 それまで横島の肩を揺さぶっていたおキヌさえ気付かぬうちに、美神にもかろうじて見えるくらいの速度で、横島の姿が消える。

 

 最早残像でさえ捉え切れるか、と言った速度で美神の横を駆け抜けた横島は、その懐から一本の包丁を取り出し、眼前の西洋鎧に躍りかかる。

 

 不意打ち気味の横島の攻撃にも全く怯む様子を見せずに剣を振り下ろす西洋鎧。

 が、その剣が地面を抉るよりも、その身体が間接ごとにバラバラにされて吹き飛び、壁に叩きつけられて甲高い音を立てる方が早かった。

 

「ふ、ふふふふふふふふふふっ!!」

 

「――かも、しれないわよー。って聞いちゃいないわね」

 

「み、み、み、美神さんっ!!!」

 

 いつの間にやら再び取り出した怪しすぎる包丁は、そのぬらりとした輝きを一層増しながら忠夫の手の中で目覚め始めた。そして彼がふらり、と地面に突き刺さった金属で出来ている筈の剣の隣を通り過ぎると同時に、それは見事にばらっばらとなってあたりに散らばった。

 

「俺の肉とTVと服と部屋をカエセェェェェッ!!!!」

 

「…壊れたかしら」

 

「横島さぁぁぁぁん!!」

 

 残像を残し、床でなく壁さえ走りながら特攻する忠夫を見送りながら、「ちょっと失敗しちゃった、かな?」などと他人事のよーに呟く美神であった。

 

 程なくして。

 

上のほうから響いてくる爆音という以外に表現の仕様の無い音と、狼の遠吠え。

 

「あれ?」

 

「…美神さん。この建物、残ってると良いですね」

 

『ちょっと待った――!!』

 

 まさか此処までとは思っていなかった忠夫の身体能力に、計算が狂った感じの美神。ちょうど幾つか関門とやらを壊した後で力尽きてくれるはずだったが、何気に建物を更地にしそうな勢いである。慌てるのは謎の声。

 

『あ、あの方は一体なんなんですかっ!!』

 

「うちの助手」

 

『どんな助手がここまで破壊活動を繰り広げるって言うのですかー!!!』

 

「あんなのが」

 

「さすが横島さんですよねー…あはは」

 

 半分諦めたように、残り半分で呆れたように呟く二人。若干遠い目になっているのは御愛嬌と言うやつか。

 だが、二人揃ってそう言いながらもじりじりと玄関に向かって後ずさりを始めている辺り、この建物の末路を予想しており、それが二人とも一致しているのは間違いないだろう。

 

『ああああああっ!!! ダメだこの人達ぃぃぃぃっ!!!』

 

 気付くのが若干遅かった。

 

『ああっ!! それは男爵が大事にしていた高価な壷――「ちょっとまったぁ!!」』

 

 しかし、謎の声の一言が、その場の空気を一気に変えた。

 

 それまで重心が後ろにかかっていた美神の姿勢が、まるで駈け出す直前の肉食獣のように前傾になり、霊力が体中から噴き出し始めている。

 

 そして何より、眼が\マークだった。

 

「壷?! いくら位の?!」

 

『相場は知りませんが、歴史的にも貴重な―――ああっ! その絵画だけはーー!!』

 

 瞬間、横島に引けを取らない、いや、先程の横島を超える速度で消える美神。

 

 

 再び響く爆音と、今度は幾度か聞いた狼の悲鳴。

 

「美神さん…」

 

 大体何が起きたか察したおキヌは、ほろりと涙を零しながら、とある半人狼の冥福を祈る様に疲れた溜息を吐いたのだった。

 

『…もういいです。これ以上破壊を広げる前に、とっととその椅子に座ってください』

 

 おキヌが美神とミンチ寸前の忠夫に追いついたのは、最上階のおそらく最も中心部。そして疲れたように投げやりな声が響く。

 

 周囲はボロボロに破壊しつくされており、辛うじてその部屋の中心部にあったデスクと椅子が無事なくらいだった。

 

 横島と美神は知らないが、本来ならばここには一歩歩くごとに年齢を重ねさせる特殊なトラップが仕掛けられていた。

 

 が、美神と追い立てられた横島が扉をぶち破って侵入した事により、声の主はトラップを発動させる為の霊力を切ったのだ。別に彼らの事を思ってやったのではない。

 

 中心部たるこの部屋を彼らの破壊行動から守る為、残り少ないエネルギーをトラップに回すよりも、防御と修復に回さないと、彼と彼女が老いて動けなくなる前に自分の存在自体が消えてしまうかもしれない、と思ったからだ。

 

 そして結果として回せるだけのエネルギーを回したにもかかわらずのこの部屋の荒れようであり、二人を止めてくれたおキヌに言葉では言い表せないような感謝の気持ちを抱えつつも、それを超える疲れの籠った声で漸く落ち着いたらしい二人に話しかけたのだった。

 

「え? あら? いつのまにこんな所に…」

 

「――っは! ここはどこっすか?!」

 

そして限定的とはいえ霊力に目覚めた忠夫は――いや、おそらく関係ないが――あっさりと復活を果たす。どうやら現世復帰も果たしたようだ。

 

「ええと…ここに座ればいいのね?」

 

『そうですよー。それが玉座ですよー。これで貴方はこの事務所のマスターですよー』

 

 拗ねたような声と共に、いかにも倒壊寸前だった建物は光と共に新品同然へと変化していた。まぁ、仕掛けも関門も全部ぶっ壊されりゃぁそりゃ拗ねたくもなるだろう。

 

「いいのかしら? もうちょっとこう、なんかトラブルとか無いの?」

 

『これ以上私の中を引っ掻き回さないでくださいぃぃぃぃっ!!!』

 

 どこか不満げな美神の問いに、悲鳴が答えとして帰って来た。

 

「…まぁいいか」

 

そして美神は忠実な僕と、あらたな拠点を無事手に入れたのだった。めでたしめでたし。

 

『一体何処で間違えたんだろう…』

 

 はじめの一歩目からである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、とある空き巣の四人組。

 

「ぜぇ、ぜぇ」

 

「はっ、はっ、はっ」

 

「も、もう走れないわよ・・・」

 

 昨夜遅くに襲撃を受けた人狼三人と狐の少女は、そのまま逃避行を開始。何時の間にかあたりは鬱蒼とした森となっていた。

 

「ち、父上は何処でござるか?」

 

「さ、さぁ、拙者も逃げるのに必死でござったからなぁ…」

 

「きゅ~~」

 

しかし、どうやら犬塚父とははぐれた様子である。

 

「で、此処は何処でござるか?」

 

「わからん。本能の命ずるままに走ったでござるからなぁ」

 

「…あんた達ほんとーに無駄にタフよね~」

 

 まだ疲れが抜けていないのか蹲ったまま動けないタマモに対し、人狼達は既に息も整い普通に会話している。

 

「とりあえず、この森を…む、何奴っ!」

 

がさっ

「あれー?ポチさんにシロちゃん、何時里に帰ってきたんですかー?」

 

「「「へっ?」」」

 

 本能は本能でも帰巣本能だったようだ。そして―――

 

「み~つ~け~た~ぞぉぉぉぉっ!!!」

 

「「「「げっ!」」」」

 

結果報告。チョウロウ―――戦果:人狼二人と狐一人。その後、力を使い果たし気絶。

 

     シロ――――――振り出しに戻って一回休み。

 

     タマモ―――――同上。

 

     ポチ――――――なぜか無傷。

 

     名も無き人狼――ポチに盾代わりに使われた。長老を見ると体が震える。

 

 一方もう一人の人狼。

 

「ふぅ、なんとか逃げ切れたよーだな。お、いい匂いじゃないか」

 

 犬塚父は他の皆とはぐれた後、いまだ東京にて潜伏中。

 

「こりゃまた懐かしい。赤提灯の屋台かぁ。もう無いと聞いていたんだが」

 

「うぉぉぉぉん~」

 

「…ふぅ、どこにでもまなーのなっていない奴はいるもんだなぁ」

 

 そしてその前にはいわゆるガード下の赤提灯。その椅子に座って浴びるように酒を飲んで涙を滂沱と流しているのは、頭にやけに立派な角を持った、良い歳した渋めの長髪のおっさんだった。

 


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