月に吼える   作:maisen

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第十六話。

 

 

 ふと美神が眼を覚ますと、そこは彼女がGS見習い時代にお世話になった部屋のベッドの上だった。はっきりとしない頭を押さえようと手を上げると、引き攣られるようにして脇腹のあたりから激痛が全身に走っていく。

 

「いたたたた!」

 

「美神さん! 気付いたんですね! 動かないでください…今、手当てしている所ですから」

 

「おキヌちゃん? え、えと…っ! あのクソおばはんッ!! いだだだだっ!!」

 

「あああ!だから動かないでくださいってば!」

 

「「小竜姫様ぁぁぁぁっ!」」

 

「…なんですかもう、うるさいですよ、鬼門。あ、あれ? ここは…っ! 天竜姫様は?! いだだだだだっ!!」

 

「あああ!小竜姫様も大人しくしてくださいってば!」

 

「…ううう。体中が痛いっす~~」

 

「横島さん! 起きたんですか!」

 

 一夜明けて唐巣神父の教会にて、あの後事務所を失った美神たちを運んだ忠夫はひとまず見知った彼を頼り、事情を話した後彼女達を預けて小竜姫達の捜索を開始。

 

 ボロボロになった服の着替えやら手当やらをおキヌにお願いし、ついでに天竜にもおキヌを手伝うように頼んだ横島は、説明を求める事も無く救急箱やベッドの準備に教会へ駆け戻っていく唐巣神父とピートに頭を下げたい気持ちになりつつも、姿の見えないままの者達を放っておくわけにも行かないと急いで走りだした。

 

それこそ神速といった速度で、彼女達を背負るやら首にしがみ付かせるやら肩を掴ませるやらとした非常に奇妙な塊が、深夜とはいえ都内を駆け巡ったのだから怪談の1つ2つ発生していそうである。 

 

 そして程なく事務所跡地で回収、そのまま駆け戻った所で、今度はガス欠に陥った忠夫がダウン。元が彼の力とはいえ、いきなりのその身体能力に体の方が慣れていなかった為か全身に激痛が走り、気絶。

 

 全員目が覚めた時に最初に放った言葉が冒頭のもの、となる。

 

 程なくして、朝の礼拝を済ませた唐巣神父がまるで野戦病院の一室と化したようなその部屋に入ってくる。

 

「おや、皆起きたようだね」

 

「あら、先生。すいません、いきなりこんなみっともない格好で」

 

「いやいや、かまわんよ。それよりも、一体何があったんだい? 美神君どころか、小竜姫様まで居られるじゃないか」

 

「それが、私にも何がなんだか…小竜姫様が此処まで運んでくれたのかしら?」

 

「いいや、横島君だよ。昨夜遅く、いきなり飛び込んできてね」

 

 体のあちこちに包帯を巻いた美神に対し、手に持っている朝食代わりの果物――近くの住民のおすそ分けである――を駆け寄ってきた天竜姫に渡しながらそう答える唐巣神父。

 

「へ? 横島君、ですか?」

 

「そうだが?」

 

「おっきい方の?」

 

「そもそも小さい横島君を私は見ていないのだがね? パイパーに呪われたという話は君からも聞いていたが、以前見た横島君だったよ。ほら、あそこ」

 

「へ?」

 

そう言われて見てみれば、そこには確かに元に戻った横島。

 

「……ん」

 

「いや、天竜。自分で食べられるから…」

 

「……ん!」

 

「…あーん」

 

「♪」

 

 なんだかほのぼのとした空間を作り上げていた。

 

 体がまともに動かないので、ベッドごと意外に元気そうだった鬼門たちに運んでもらい、ソファーに座りなおした忠夫を正面に美神と小竜姫。

 

忠夫の座っているソファーの前にあった机を挟んで置いてあった1人掛けのソファーを動かして、右に唐巣神父、左にピートが腰掛ける。ちょうど机を囲んだ形になる。鬼門達はベッドに体を起こした小竜姫の横に控えているし、おキヌはこちらも同様に体を起こした美神の隣に浮かんでいる。天竜はといえば、何故か忠夫の膝の上。

 

 懺悔を求める神父の視線が痛かった。

 

「…横島君、犯罪だよ?」

 

「横島さん…そんな、子供に手を出すなんて。自首してください」

 

 そう苦しげな声で忠夫に語りかける唐巣神父とその弟子ピート。

 

「て、天竜姫様?! あああ、また不祥事がーーー!」

 

「「お、御気を確かに!」」

 

頭を抱えて取り乱す小竜姫と、その横で慌てる鬼門達。

 

「おキヌちゃん。すぐに警察に通報…は、色々面倒くさいわね。神通棍と玉葱を」

 

「はいっ!」

 

 そして冷静に見える美神がおキヌに指示を出す。迷わずそれに従うおキヌ。

 

「ってちょっと待ていっ!! 俺が一体何したッちゅーんや!! …お、ありがと天竜」

 

「「「「「自分の姿をよく見てみなさい」」」」」

 

「あうあうあう」

 

「……♪」

 

 慌てて突っ込むも、膝の上に天竜を乗せ、彼女手ずから剥いたでこぼこの林檎を「食べて」とばかりに突き出されている格好である。しかも天竜姫の表情が満足げであるというこれらの素因は、忠夫の発言権そのものを著しく磨り減らしていった。

 

 しかし忠夫もこのままでは犯罪者の烙印を押される所か、正面の上司と膝の上の少女の護衛によってこの世から消されてしまう。

 

「ち、違いますよ!天竜は友達であって「天竜姫に対して無礼なっ!」―――うわわっ!」

 

 そう否定の言葉を発するも、小竜姫が何処からか取り出した神剣を一挙動で確実にこちらの頭部に向かって投げつけてくる。

 

「あっぶなー!」

 

「か、片手で止めますか今のを…」

 

「……お~」

ぱちぱち

 

 正に目にも止まらぬ速さで投げつけられた其れを、完璧に見切って柄の部分を握りとめる忠夫。唖然とするのはむしろ其れを見ていた周りの者達であった。

 

 無理に動いたせいで体中に走った激痛に必死に痛みと涙を堪える小竜姫と、横島の膝の上で拍手する天竜姫は除く。

 

「いや、実は―――」

 

 とりあえず場の空気が変わった事を利用して、ようやく昨夜の説明に入る忠夫であった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの後、そんな事になってたのね…」

 

「くっ! 武神ともあろう者が…」

 

 メドーサに言い様にしてやられた美神と小竜姫たちは悔しげに呟きながら布団を握り締める。

 

「え”…じゃあいままで霊力無しでアレだけの事やってたんですか?!」

 

「君はつくづく非常識だね…」

 

 こっちはこっちで頭痛を堪える仕草をする唐巣達。

 

「あ、あの、ありがとうございました」

 

「……ありがとう」

 

「いやいや、俺もおキヌちゃんと天竜の声が聞こえなかったら頑張れなかったわけだし」

 

「それは私達のために頑張ってくれたってことですよね?だったら、やっぱりお礼を言わないと…」

 

「……その通り」

 

 そしてなんかフラグでも立ったか?というような反応をするおキヌと天竜姫にひたすら戸惑う忠夫。

 

「「わしら、結局何もしてないのう……」」

 

そして部屋の隅っこでその巨体を縮めて黄昏れる鬼門達。

 

「でも、よかったよ」

 

「ええ、皆無事に帰れた訳ですし、横島さんのおかげですよ」

 

「ん?ああ、それもあるけど」

 

 そう呟いて、皆を見回す忠夫。

 

「…あんな馬鹿みたいに強い奴から、護れたんだなぁって思って、さ」

 

 その視線には、確かに誇りと、そして大きな喜び、それよりも大きな安堵がある。

 

「……あ」

 

最も近くでその表情を見た天竜姫は、心の底から湧き出てくる感情に戸惑いを感じていた。

 

「へぇ…いい顔をするようになったじゃないか、横島君」

 

「へ?」

 

「どうやら、君にとっても得る物の多かった一夜となったようだね」

 

 そう言い残し、唐巣神父は立ち上がる。

 

「さて、これから依頼が入っているのでね。夜まで出かけさせてもらうよ。行こうかピート君」

 

「はい、先生」

 

 そして彼らはそのまま出て行った。

 

「さすがっすね~」

 

「え? なにがですか?」

 

「夜まで帰ってこないってから、それまでに唐巣神父に聞かれちゃまずい事があるんなら相談しておいて、それから協力できる事があるならそれを話してくれれば協力するって事だよ、おキヌちゃん」

 

「へ~、そうなんですか横島さん」

 

「…あんた、ちょっと変わった?」

 

「へっ?」

 

 神父の心遣いを弟子である美神と同じ程度に正確に受け止めた、ということに少々納得はいかないものの、それでもやはり子供になる前とはちょっと違う。そう考えると、やっぱり変わったようにも思うし、前からそうだったようにも思えてくる。

 

 ――成長した、というのだろうか。

 

「それで、どうやってあのメドーサって名乗った奴を追い払った訳? あんたがなんかやったんでしょ?」

 

「メドーサっ?! 竜族ブラックリストの中でもトップクラスの奴じゃないですか!」

 

「あー、やっぱりそんな奴でしたか。ええ乳しとったのに残念やなー」

 

「で、死にたいのか喋るのかどっちかにしたらどう?」

 

「……むー」

 

「横島さん?」

 

 正面と真下から突き刺さるような視線を受け、おキヌの輝く黒い笑顔を直視した忠夫は慌てて意識を過去の映像から引き戻す。

 

「ええっと、どうやってといわれましても…ただのハッタリなんすけど」

 

「「「はぁ?!」」」

 

 実際の所、忠夫が背後に回ったとして一撃で、しかも反撃の暇さえ与えずに仕留めることができるか、と言われれば答えははっきりと「ノー」である。霊力に目覚めたとはいえ、その力はあくまでも身体強化。内向きの力なのであるから、霊的な存在である魔族に対して効果的な攻撃を繰り出せたか、というと無理だ。

 

 身体強化で可能なのは拳や足を使った物理的な攻撃のみ。相手が霊的な存在である以上はこちらも霊的な攻撃を行なわない限り多少のダメージとはなっても致命傷とはなりえない。つまり、あの時点で忠夫は手詰まりになっていたのである。

 

「ですから、こっちにもまだまだ切り札はあるぞー、って思わせることで、なんとか痛み分けっていう形で引いてもらったようなもんですよ。逆に相手が損得勘定のできない馬鹿だったら死んでましたねー」

 

「…なんと言う無茶を」

 

「…馬鹿はあんたよ」

 

そう呟き再び頭を抱える美神と小竜姫。

 

「なんせ初めて使ったわけですからねー。おかげでもう体中ボロボロ」

 

 忠夫の体、本当の所は結構ヤバイ状態である。今も人狼としての超回復が働いているとはいえ、昨日酷使した足は動かすことさえ辛い状態。いくら軽いとはいえ天竜姫も結構な負担になっているはずであるが、そこを顔に出さない辺りが意地という奴である。

 

「……ごめんなさい」

 

「天竜?別に気にするこたぁないぞ」

 

「……でも」

 

「え、え、え?」

 

 その言葉を聞いていたたまれなくなったのか、瞳から涙を零す天竜姫。それを見て慌てて周囲に助けを求める視線を飛ばすが、誰も彼も見てみぬ振りをするばかり。諦めたように「ふぅ」と溜息をついた忠夫は天竜姫を抱えなおし、自分の目線と合わせて優しく語りかけた。

 

「女の子が泣いちゃだめだろ?俺は天竜が笑って居られるようにがんばったんだから、さ」

 

「……でも」

 

「天竜はまだまだ子供だろ? …それなら、大人になってから恩返しでもしてくれればいいさ」

 

 言葉とともに涙を拭き取る忠夫。その表情に嘘偽りの色は一欠片もなく、ただ、照れくさそうに笑っているだけ。

 

「……あ」

 

 彼の手から伝わる暖かさ。言葉に篭った気恥ずかしさ。表情に表れる優しさ。そんなものを受けた天竜姫の心から溢れきった感情は頭の角の部分から零れ出し、彼女の頭に新たな角を生み出していた。

 

 ぽとん、と落ちた天竜の角と、目の前で一瞬で生え換わった新たな角。

 

 状況を理解できない横島達の眼に、言葉も出ないほどに驚いて口を開け閉めしている小竜姫達が見えた。

 

「へっ?」

 

「……これで大人」

 

「へっ?」

 

「りゅ、竜神族の角の生え変わりは大人になった証とされます。生え変わりとともに神通力などが使えるようになるのですが、こんなに突然…」

 

「……だから、皆に恩返し」

 

 そう言葉を残し、忠夫の膝から降りていった天竜姫は、そのまま小竜姫のいるベッドの傍らまで歩いていく。

 

「……小竜姫、心配かけて御免なさい」

 

「いっ! いいえ、そんなもったいないっ!」

 

「……我は誓い告げるもの。武を司る竜の癒しをもって、天なる竜の謝意とする」

 

 頭を下げた天竜が、体を起こし告げた祝詞に導かれるように、その体から舞い上がった光の粒が小竜姫に降り注ぐ。

 

「こ、これは…」

 

 全ての光の粒子が小竜姫に降り注ぐと共に、小竜姫の体からは全ての傷が跡形もなく消えていた。そのことに驚く小竜姫を余所に、今度は美神の所に歩み寄る。

 

「……ボート、楽しかった。ありがとう」

 

「…いいけどね」

 

 そんな理由なのか、となんとなく納得のいかない表情であるものの、美神もその言葉を受け止める。

 

「……我は誓い告げるもの。強き乙女の癒しをもって、天なる竜の感謝とする」

 

 再び天竜の体から舞い上がった光の粒子が、小竜姫と同様に美神の傷を癒しきる。そして最後に忠夫の所に駆け寄った天竜姫はソファーに座る忠夫の横に飛び乗る。

 

「お、俺にもやってくれんの?」

 

「……護ってくれて、ありがとう。遊んでくれて、嬉しかった。だから」

 

 にこりと笑ってそう告げると、再び天竜姫は祝詞を唱える。

 

「……我は誓い求めるもの。人と狼の狭間の者への誓いを持って、天なる竜の想いとなれ」

 

「「「ああああああああっ!!!!!」」」

 

「へっ?」

 

祝詞が終わると同時に、忠夫の頭を引き寄せて、その唇を奪った少女は、にっこりと微笑むと再び忠夫の膝の上に陣取った。

 

 後に残されたのは何が起きたのかわからないと言うか、わかりたくないと言った様子の忠夫と、その様子を見て「不祥事です不祥事です不祥事です…」と頭を抱えて呟きつづける小竜姫。

 

相変わらず部屋の隅で膝を抱えている鬼門達。「あらあら」と果てしなく恐ろしい笑顔を浮かべながら横島達を眺めるおキヌ。それを見て怯えてベッドの上で体を縮めながら「あっちゃー」という感じで顔に手を当てる美神。そしてにこにこと笑う天竜姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また」

 

「お、おう」

 

「全く、えらい散財だわ」

 

「…竜神王陛下になんとご報告すればよいのやら」

 

「あらあら」

 

「「…俗界の女性も変わったのう」」

 

何があったかは定かではないが、真っ青な顔をした忠夫を前に天竜達は別れの挨拶をしていた。

 

「ええと、それでは、今回のご協力に感謝します」

 

「感謝はいいから報酬の方お願いね」

 

「はぁ…」

 

「……落ち着いたら迎えに来る」

 

「いや、あの、犯罪者になっちゃうんですが」

 

「へ~、まだ犯罪者ではないとおっしゃる?」

 

「お、おキヌちゃん?」

 

 最後の最後まで嵐を巻き起こしながら、彼女達は空へと消えていったのであった。

 

「さて、事務所は無くなっちゃったし、次の事務所を探さないとねー」

 

「どうするんすか?」

 

「ま、とりあえず適当に不動産屋でも当たるわ。あんたも今日は帰んなさい」

 

「ういーっす」

 

 答えると忠夫は家路に着く。その後姿を見送っていた美神に、背後からかけられる声。

 

「GSの――美神―――さんで――すね?」

 

「そうだけど?」

 

「―――事務所は――お入用では―ないです――か?」

 

 ロングコートと顔を隠すつばの広い帽子。

 

 片言と言うか、途切れ途切れに聞こえる言葉。

 

 どうしてこうも厄介そうで、でも霊感的にも断るに断れないような依頼ばっかり続くのか、と美神は一人こめかみに指を当てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上、遅いでござるなぁ」

 

「おなか減った」

 

――おおっと、クリーンヒット!ボールは転々と転がって

 

ぱたぱた。×3

 

――ショート素早く送球っ!アウトッ!判定はアウトですっ!

 

ぱたぱた・・・ぱた。×3

 

「む、やはりやきうは楽しいでござる忠夫は里では見せてくれんからな」

 

「そうやって尻尾を振るから怒るんだろーが」

 

「しかし、こればっかりはどうしようも―――

 

―――カキーン!

―――おおきいっ!こ~れ~は、おおきいっ!

 

ぱたぱたぱたぱた。×3

 

「しかし、もう肉は無いのでござるか」

 

「お前が食べ過ぎだって犬飼」

 

「いや、お前の方が食べておる」

 

「そんなのどっちでもいいでしょ…」

 

「いや、これは――」

 

 突然、人狼の親父達の額に閃光が光る(イメージ映像)。

 

「な、なんでござるかこの悪寒はっ!父上っ!」

 

「…久しぶりに感じたな、犬飼」

 

「ああ。これは間違いなく」

 

「な、なによ?」

 

「「チョウロウが現れた」」

 

「長老でござるか?」

 

「――逃げるぞ!犬飼っ!シロもそこの娘も遅れるな!」

 

「――この気配…あちらから来るぞ。拙者が殿をつとめる」

 

「ちょっと、説明しなさいよ!」

 

「心配するな!見れば分かる!!」

 

「きたぞっ!」

 

遠吠えと共に現れたのは、半獣化した、人狼の里において、長老と呼ばれる老いた人狼であった。

 

「き~さ~ま~らぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「ひぃっ!!」」

 

「「後ろに向かって全速前進!!」」

 

「「な、なんでござるか(なのよ)あれはっ!!」」

 

「…長老が本気で怒ると結構危険なのだ」

 

「この前は、里が半壊したからなぁ」

 

「あ、あれは天災って言ったではござらんかぁぁぁぁっ!!」

 

「ああ。そりゃ嘘だ」

 

「ちちうえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

「ま~て~えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 窓を蹴り破って逃げ出していく4人組を追いかけて、ナマハゲもかくやと言った様子の長老が追いかけていく。

 

 

 

 

 

 暴虐の嵐の後、程なくしてコンビニで買い物を済ませた家主が帰ってきた。

 

「な、なんじゃこりゃ…」

 

 後に残されていたのは、扉のぶっ壊れた玄関と、溜め込んでおいたはずの燻製肉が一欠けらも残さず消滅している開け放たれた押入れ。所々に巨大な爪跡の残った畳や壁と、部屋の中心に残された、黒いオーラを放つ風呂敷包み。

 

「ゴッド。俺なんか悪いことしましたか?」

 

 彼は呆然と立ちすくむしかなかった訳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ」 再び此処を訪れてくれたようだね?そんな君に、今回はこんなお話だ。

 

平行世界は知っているね?

 

そう、今自分が存在している時間軸を一本のレールとするならば、その隣に無限に並ぶレールたち、というのが近い表現かな。

 

レールはその先々で分岐していて、その世界はどんどんと分かたれていく訳だ。

 

このレールの分岐点、もちろんそれこそ無限に近くある訳だが、時に大きな分岐にぶつかることがある。そのとき、そのレールの上には必ず、世界に選ばれた存在って言うのが、いるんだよ。

 

 世界が滅びるかどうか、というまさしく己の死活問題に対して世界が干渉する唯一の方法。それが「選ぶ」ということなんだよ。彼らは世界の鬼札。時に救い、時に滅びの要因とさえなる。

 

それでも世界は選びつづける。彼ら、という表現はちょっと違うが、世界と言うのも中々難儀しているのかもしれないよ?

 

だから、そう。

 

―――そんなに憎むもんじゃないのかもしれない、とだけ覚えておいてくれたまえ。

―――ふふふ、それでは

―――よい夢を。

 


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