月に吼える   作:maisen

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二話投稿の二話目。今日はこれだけです。


第十四話。

「わっ! わっ! すごい! てれびじょんに色がついて薄くなってる!」

 

「小竜姫様危険です! うかつに近づくと何が起こるか!」

 

「左のの言う通りです! 此処は一つ慎重に…」

 

 一方その頃、小竜姫達は、何十年振りかに見たテレビが液晶になって薄くなった事に大変驚いていた。

 

「一体何やってんのよあんたら」

 

「はっ! そうでした、天竜姫様を早くお探ししなくては!」

 

 数百年ぶりに管理すべき場所たる妙神山から降りてきた竜神とそのお供の鬼神達は、技術の発達とあまりの街の様子の変わり様に何処ぞのド田舎の住民さえも引くようなおのぼりさんっぷりを見せている。

 

 店頭のTVにかぶりつくスカートを履き、いかにも現代風の格好をしたその風体とはちぐはぐな行動をしている妙齢の女性だけならばともかく、その後ろから一緒になってTVを凝視する2人の黒いスーツを来たサングラス姿の2人の男性の姿もあっては、店員さんもビビる。

 

 液晶テレビから引き剥がされ、気を取り直してあたりを見回すも、其処には人人人の群。

 

 動きを見ているだけで目が回りそうでさえある。

 

「こ、こんな中で天竜姫様を探し出すことなどできるのでしょうか?」

 

「やらなくちゃなんないんでしょ? その子が危ない目にあってるって言うんだったら、さっさと保護する必要があるし」

 

「横島さ~ん」

 

「ほーら、おキヌちゃんもさっさと動く!」

 

 捜索活動を再開する美神たちではあったが、何せ半径5キロに絞っただけでも一体どれほどの人間がいるのやら。

 

「…全く。こういうのは探偵の仕事だっての」

 

 やはりあまりやる気が出ない美神は気だるそうに呟くと、その表情を引き締めて辺りに霊感のアンテナを伸ばし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、とりあえず此処まで離れれば問題はないでござろう」

 

「……ふへ~」

 

「どうしたでござるか?」

 

「……速かった」

 

 変態かどうかは知らないが、とりあえず話を聞いた限りでは天竜と名乗った少女は危険に曝されているらしい。そして気絶しているとはいえ実際に追っ手らしき2人組もいた。

 

 ならば他にもいるかもしれない、と天竜の前にしゃがみこみ、その背に少女を背負う忠夫。そのままお茶とお菓子をくれた皆さんに二人一緒に頭を下げ、全力で離脱開始。

 

 背中で背後に手を振りかえしているらしい天竜が落ちないように注意しながらではあったが。

 

 屋根を越え、塀の上を走り、川を飛び越え階段を一気に飛び降りる。

 

 そして気付けば美神除霊事務所まであと数キロといった所まで走り抜けていた。

 

 ちなみに天竜姫、その間中何も言わずにぎゅっと背中にしがみつきながら目を閉じていた。

 

 下手なジェットコースターよりもスピードはないが、そのかわり慣性の法則に喧嘩を売るようなその速度域での身体コントロールは、さすが人狼、といった所か。

 

「とりあえず美神おねーさんたちに相談するでござる」

 

「……おねーさん?」

 

「あ、本当のおねーさんではなく、ここで拙者が世話になっている方々でござる」

 

「……いいひと?」

 

「いい人でござるよっ! 昨日のご飯も美味しかったでござる!」

 

 記憶を失い、今までの付き合いが無かった事にされているとはいえ、とりあえず餌と住処をくれただけで簡単に信頼するのもどうかと思う。…いわゆる餌付け。

 

「ここで待っているでござる! いま呼んで来るでござるよ!」

 

 そう言って半人狼の少年は少女を部屋のソファーに下ろした後、飛び出していった。

 

「……柔らかい」

 

 指先でつつくと、ソファーは柔らかくその形を変える。

 

「……♪」

 

ぽふぽふぽふぽふ

 

 危うく攫われかけた後だと言うのに、楽しげにソファーの上で軽く飛び跳ねて遊びだすあたり、こっちの少女もなかなかに太い神経を持っているようでった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふーん? 目撃情報によると、この辺りでおそらく天竜姫が見つかったらしいわね」

 

 電話で知り合いの情報屋に連絡を取ると、小竜姫達を連れ歩いている間に意外にあっさりと求める者は見つかった。

 

 蛇の道は蛇。いかに優れたGSとはいえ、ダウジングや占いを得意とする一部を除いて、専門分野でもないのに人探しが得意と言う訳がある筈も無い。だが、必要な情報を素早く得る事ができるツテを持っているというのも、一流GSと言う彼女の価値を高める一因となっていることは間違いないだろう。

 

「どのあたりですか?!」

 

「待って…結構距離があるわね、車でも回したほうが速いかも」

 

「先に行きます!」

 

「あ、ちょっとっ!!」

 

 美神の前に広げられた地図を見て、大体の方角と目印を確認した小竜姫達は美神の呼び止めにも答えぬまま、焦ったように地面を蹴って空へと飛び立つ。 

 

「ああ、もうっ! 迷子の子供がいつまでも同じ場所にいる訳ないじゃない! もうちょっと待てば、追加で情報が集まるって言うのに!」 

 

 情報は時間がたてばたつほどにその価値を失うとはいえ、今回は探し物が動いているのである。あっちで見つかったからすぐに行く、と言うのは下策ではないが上策ではない。ましてや、小竜姫には美神たちと連絡を取る手段がないのだ。これでは単なる分断である。

 

「しょーがないわねっ!おキヌちゃん、一旦事務所に戻って車を回すわよっ!!」

 

 こうなってしまえば、生身では空を飛ぶことのできる小竜姫たちには追いつくことができない。しかも目撃地点に行くのならばどっちにせよ足が必要であると判断した美神たちは、とりあえず事務所に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「美神おねーさん達居ないでござるなー。これでも飲んで、まっとくでござる」

 

「……わぁ」

 

「れーぞーこの中にあったおれんじジュースでござるよ。甘くておいしーんでござる」

 

「……ありがとう」

 

「いやいや、困っている人を助けるのは武士の役目でござるからな」

 

 事務所の中には、オレンジジュースを飲みながら談笑する子供達の姿。傍の窓から下を覗けば、さきほど忠夫が轢いたはずの2人組が今にも事務所の中に入ろうとしているところが見えただろう。

 

「……ま、間違いないんだな。匂いはここに入っていってるんだな」

 

「よし、とっとと目標を確保するぞ」

 

 そしてそこから更に視線を飛ばせば、こちらに向かって駆けて来る亜麻色の髪をなびかせた女性と紅い袴をはいた幽霊少女が。

 

 

 そして、事務所に程近いビルの上からは、その全てを視界に収める全村をフードで覆った何者かの姿が。

 

 

 第一幕の準備は、着々と整って行き。

 

 

「なんでござるか?!」

 

「…みつけたぜ、天竜姫様。だまってこちらに来て貰おうか?」

 

「お、大人しくしていれば危害は加えないんだな!」

 

 

 

 

 そして、開幕のベルは鳴り響く。

 

 

 

 

 事務所の中では、今、謎の二人組がその内部に突入した所であった。入ってすぐの応接室にあるソファーと年季の入った机。そしてそこに立ちすくむ少女と、その少女を庇って立つ少年。

 

「小僧、邪魔をするんじゃねぇ。怪我したくないだろう?」

 

「…た、たのむから大人しくしていて欲しいんだな、別に殺そうって訳じゃないんだな」

 

 その言葉を聞き、震える少女の前に立つ少年は、

 

「ふざけるなでござるっ!! そう言われてほいほい退く侍なぞ居るかっ!!」

 

 そう吼える。

 

「ちっ、しょうがねぇ。おいイーム、あんまりひどい怪我させるんじゃねぇぞ」

 

「わ、わかってるんだな兄貴」

 

 その言葉に反応し、その2人は、

 

「人外かっ!」

 

 角の生えた、人の形をしながらも、鱗と角、縦に割れた瞳を持った竜族へとその存在を変えた。

 

「しゃっ!」

 

 それでも人であった頃のように、短躯と長身の影からは、未だ殺気は無く、だがそれゆえに敏感な感覚を持つ少年を僅かに動揺させる。そして、その一瞬で全ては、少年の手をすり抜けた。

 

「…きゃっ!」

 

「しまった!!」

 

 長身の竜族から伸ばされた手は、その長さを明らかに倍以上に伸ばし、隙を見せた少年の後ろから少女を掻っ攫う。慌てて腰の木刀を抜き飛び掛るも

 

「邪魔だ」

 

 短躯の竜族の角から放たれた力により弾き飛ばされ、届かない。

 

「がっ!」

 

 弾き飛ばされた少年は宙を舞い、そのまま背後のテーブルを巻き込みながら地面へ叩きつけられる。

 

 そして、少年が再び動かないことを確認した二人組は、そのまま事務所を出て行こうとして、しかし、その眼前で黒い光りが収束した。思わず足を止め、天竜を庇うように動きながら、その光りを警戒する二人。

 

「――ご苦労。イーム、ヤーム」

 

「旦那っ!」

 

 だがしかし、場に突如として現れたのは、先ほど遠い所から舞台を眺めていたはずのフードを被った何者か。

 

「へ、へへへ…ご希望どおり、竜神王陛下のご息女、確保いたしましたぜ」

 

「……んっ」

 

 2人組のうち、天竜姫を捕まえていたイームが怯える少女をその人物に向かって差し出す。その少女を受け取ったその存在は、その口元を妖しく吊り上げた。

 

「…確かに、天竜姫ご本人だ。報酬だったな?」

 

「だ、旦那ッ!!」

 

「これが報酬だ…」

 

 左手に天竜姫を抱え、その右手に禍々しい力を集めると、それを驚愕に身を固めたヤーム達に向かって放つ。

 

「天竜を…はなせぇぇぇぇぇっ!」

 

「なっ!? くっ!」

 

 しかし、何時の間にか起き上がっていた半人狼の少年は、一足で先程とは比べ物にならない速度で飛び掛り、腰から抜いた仕込み刀でその左腕に斬りかかった。

 

 慌てて回避するが、不意打ちに応じきれなかった為にフードはその一部を切り取られ、思わずその手に持っていた天竜姫を放してしまう。

 

 そのままの勢いで刀を振るった腕と反対の右腕で少女を抱きしめると、一塊になって反対側の壁に突っ込みながらもその身を挺して少女を衝撃から庇う。

 

「無事か、天竜!」

 

「……ん、大丈夫」

 

 少女を掻っ攫い返した少年は、まず少女の無事を確認し、ローブを被ったままの人物と、殺されそうになった事で一時的に動きの止まっている二人組を見渡し、ローブの方が危険度の高そうな相手と判断。

 

 同時に、自分の力量では敵わぬ相手と言う事も、その本能が伝えていた。

 

「何者かは知らぬが、その振る舞い! 其方を敵方と判断するでござるっ! 犬飼忠夫、吶喊!」

 

 ゆえに、横島はそう叫ぶ。

 

「――後ろに向かってっ!!」

 

 当然ながらやり合うには分が悪すぎるので、少女を背負って全速力で5階の窓から飛び出した。

 

「…え? …はっ! 逃がすかっ!」

 

「てっ、てめえっ! 最初っから俺らを切るつもりだったのかっ!!」

 

 残されたのは、あまりの鮮やかな逃げっぷりに、僅かにだが動きを止めたフードの人物と、捨て駒であることを分からされた竜族達。

 

「ちっ! 屑どもが、要らぬ手間をっ!」

 

「舐めるなぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その頃になってようやく美神たちが事務所の入ったビルへと辿り着く。

 

 その目に入ったのは、光を反射するガラスの破片と一緒に事務所の窓から捜索対象を背負って飛び降り自殺敢行中の忠夫と、その後を追いかけるように広がる、明らかに魔力を伴った爆風、そして爆音であった。

 

「「……へっ?」」

 

「ふっ、二人だと高過ぎかもしれんでござるぅぅぅぅっ!」

 

「……きゃっほう♪」

 

 自由落下をはじめたお子様2人は、そのまま街路樹へと突っ込み、その根元に着地。辺りを見回せばその爆音に驚いたかどんどんと集まってくる野次馬達。

 

「いたたっ! 無事でござるか天竜!」

 

「……ちょと楽しかった」

 

「ならよしっ!」

 

「良くないわよっ! 一体何がどうなってんの?! 三行で!」

 

「ああ! 美神おねーさん!

 お菓子貰った!

 敵の後にもっとやばそうな敵が来た!

 後の敵が前の敵を裏切った!

 ばーかばーか! アホ間抜けー!

 でござるよっ!」

 

 その慌てる様子と、事務所での爆発、そして背負った天竜姫。突っ込み所は山ほどあるも、とりあえず非常事態真っ只中と判断。

 

「良く分らなかったから後できっちり説明してもらうわよっ!!」

 

 そう一声叫ぶと子供達に向かって手招きし、隣のビルの空きテナントへと駆け込んでいく。全員がビルの中に入ると同時に既に原形をとどめていない事務所の窓から飛び出すローブ。

 

「…っちぃ!! 見失ったか!」

 

 しばらく宙に浮かびながら辺りを探していたが、もはや周囲には野次馬だらけで、これ以上探すには不安要素が多すぎると判断し、その姿を消すのであった。

 

「「ぷぁっ!!」」

 

 その姿が消え、消防車両が現場に到達し始めた頃、瓦礫の中から顔を出した2体の竜族の事は、今は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、野次馬の中には『彼ら』の姿があった。

 

「ふむ、中々面白そうなことになっておるではないか、のう、マリア」

 

「イエス。ドクター・カオス」

 

「あの小僧、久方ぶりに見てみればえらく面白い事になっておる。さてはパイパーとでもやり合って解呪しそこねたな?」

 

「データベース・検索……ヒット。6日前・国連・データベース内・悪魔バイパーの賞金・支払済みに・変更してあります。悪魔パイパー・敗北の確率・98,7%。先ほどの少年の・骨格・霊波調・『犬飼忠夫』との一致率・99%。犬飼 忠夫本人と・判断します」

 

「やれやれ。『世界』に好かれるというのも、楽ではないようじゃのう」

 

「回答・保留・します」

 

「ふははははっ! さて、すこ~し、引っ掻き回してやるとするか。ちっとは楽しませてもらいたいもんじゃ!」

 

「――イエス。ドクター・カオス」

 

「この程度で終わらんよなぁ、小僧?」

 

 言葉を交わした老人と、ロングコートの女性はそのまま人込みの中へと消えていく。女性のその手に、トイレットペーパーと近所のスーパーのビニール袋が合ったのがなんともはや。

 

 

 

 

 

 

 

「全くもう、えっらい散財だわ! 事務所の中にあった除霊道具代分、絶対に後悔させてやる!」

 

「臭いでござる~~。鼻が曲がるでござる~~」

 

「…美神さん、何でビルの地下にこんなものがあるんですか?」

 

 空きテナントに滑り込んでみれば、其処にあったのは緊急用非難シュート。そのままその中を滑ってみれば、到着したのはいつか見たような東京地下下水道。そして其処に浮かぶ一隻のボート。

 

 実は、事務所のほうにも入り口が合ったらしく、こっちは事務所自体がもしものことに巻き込まれた時用の、非常口の非常用。いくら転ばぬ先の杖とはいえ、此処まで用心する辺り流石と言うかなんと言うか。

 

「ちょっと報酬が払えない顧客からゴニョゴニョ…っとね」

 

「……かっこいい」

 

「あら、わかる? 中々値が張るのよ、これ」

 

 美女と女児で微妙に判断基準がずれている。

 

 とりあえず非常用の缶詰を皆で食べながら、情報を聞き出す美神。この際周囲の環境にまで気を配って入られない。腹が減ってはなんとやら。確実に来るであろうもう一戦を乗り越える為には栄養補給が必要である。

 

 彼女の結論としては、直接追いかけていた2人組みはどうやらただの捨て駒であり、最後に出てきたフードの人物がその黒幕である事。これは横島と天竜姫の証言からのほぼ確定した推測である。

 

 そして、決定的な場面になるまで静観していただけにも係らず、最後の最後は自分の手で直接殺そうとした事。そこから導かれる答えは、相手が他人を信用しない、単独で動くタイプのプロであること。

 

ということは。

 

「間違いなく、もう一回来るわね。今度は本人が」

 

 そう呟き、手に持った空き缶を握りつぶす美神。

 

「まず狙われるのが、貴方よ天竜姫」

 

「……?」

 

「いや、不思議そうにしてる場合じゃなくて。…まぁいいわ。とりあえず、小竜姫と連絡つけたいところだけど、あの竜神様も何処行っちゃってるのやら」

 

 ぼやく美神と、缶詰に顔を突っ込んでモグモグしていた横島が、同時にその視線を下水道の奥へと向けた。

 

「美神おねーさん」

 

「…ええ、早速来たみたいね。まったく、仕事熱心ねー。皆、乗って! ここじゃ埒があかないわ!補給も済んだし見通しの効く場所まで一気に行くわよっ!」

 

 そう言葉をかけながら、ボートに駆け寄ると、運転席に飛び移りエンジンを始動させる。

 

 薄暗い下水道に、獣の咆哮にも似たエンジン音が反響し、排気筒からは狼煙の如く黒煙が吐き出される。

 

「さぁて…誰に喧嘩売ったか、教えてあげるわっ!!」

 

 そして、それらを超えて覇気の籠った声を放つ美神。

 

――第二幕 反撃、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むう、おかしいでござるな。確かに百合子嬢から聞いた住所は此処のはず」

 

「ん、どれどれ? …間違いないな、ここであってるはず」

 

「…兄上の匂いが薄いでござる。どうもここ4・5日は帰っていないようでござるが」

 

「……引っ越したんじゃない?」

 

 それから暫く後、人狼+αが居るのは、現在住人の居ないアパートの忠夫の部屋の前。

 

 いい加減面倒くさくなった彼らはとりあえずそこらを歩いていた、組長と呼ばれていた人物とその護衛から刀をピトピトと頬に当てて恐か、いやいや、交渉の末、(物理的に)意識を失った相手から衣服を強だ、いやいや、快く譲って頂き、変装。刀は一応3本纏めて落ちてた代紋付の風呂敷で巻いてカモフラージュしてある。

 

 意外にも侍姿が印象深かったらしく、警戒中の警官達に怪しまれはしたもののあっさりタマモの幻術で切り抜け、ようやく目的地に到達していたのである。素っ裸のオッサン達が捕まったとかなんとか聞こえたが知らないったら知らないのである。

 

 ところが尋ね人本人が不在。それもそのはず彼は子供になって事務所で寝泊りしていたのだから、当然その生活臭も薄くなっている。

 

「とりあえず届け物をしておくか」

 

「待て、犬飼! これは…」

 

 やおらあたりの匂いを嗅いだかと思うと、いきなり忠夫宅の扉をぶち破り不法侵入をかます犬塚さんちのおとーさん。

 

「父上っ! いったいなにを――それはっ!」

 

 そのまま部屋に突っ込んだ彼が「スパンッ」と開いた押入れの中には

 

「む、あやつめ、こういうことは得意でござったな」

 

「もぐむぐ。む、うまい」

 

「あー、ずるいでござる! 拙者にもーー!」

 

 忠夫が作った燻製肉がこんもりと新聞紙の上に積んであった。

 

「「「もぐもぐ。うまうま」」」

 

「…あんたらねぇ」

 

 結局何しに来たのよあんた達。横島の使っていた枕を抱えてこっそり布団に潜り込みながらタマモは思った。

 


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