月に吼える   作:maisen

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もう少しだけ、お付き合いください( ´・ω・`)


最終章
第壱話 『そして始まる夜の唄』


「タマモぉっ! そっち行ったでござるよーっ!」

 

「馬鹿犬、きちんと止めなさいよっ…!」

 

 振るわれる霊波刀の僅かな間隙を掻い潜った悪霊が、後方で構えるナインテールの少女目掛けて一気に迫る。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 月に吼える 第三部 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 更に前衛を突き破ろうと襲い掛かる数体を纏めて切り払った銀髪の少女は、しかし後ろを振り返る事無くむしろ前へと踏み込んだ。

 

 それは放置かそれとも信頼か、そんな今更な思考が僅かに過ぎり、タマモはほんの少しだけ口の端をあげる。

 

「ま…助けるつもりでこっちに来たら、纏めて焼いてたけどね」

 

 呟いて、後方に飛び退りながら口元に二本の指を当て、その間を通り抜けるように強く息を吹き込んだ。

 

 吐息は指の間をすり抜け、熱と轟音を持った妖火へと変わる。

 

「それくらいあいつも分かってるか」

 

 そして、優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色の炎に巻かれて消し炭となったそれを冷たい目で観察しながら、タマモは一人突き進む相棒に声をかける。

 

「シロ、大きいの行くわよ!」

 

「委細承知! とっととやるでござるよ!」

 

 蒼白い閃光が速度を増す。

 

 周囲を取り囲む霊達に斬られた事さえ気付かせず、駆け抜けたシロは奥に控える一際巨大な霊に切迫。

 

 その手に構えた己の牙を腰だめにしたまま更に踏み込み、相手が振り下ろした拳に合わせて、

 

「外れでござるなぁ」

 

 大跳躍。

 

 次の瞬間には、砕けた地面を尻目に巨大な霊の頭を跳び越していた。

 

 慌てた様子で悪霊が振り向き、それに追随するように周囲に残っていた悪霊達が集る。

 

「バイバイ」

 

 離れた場所からのその声は、悪霊達には聞こえるはずもない。

 

 聞かせるつもりこそないが、聞こえなくても関係無い。

 

 どちらにせよ、もう聞こえないだろうから。

 

 シロに向かう悪霊たちの更に外側から、いつの間にか浮いていた炎の塊が9つ纏めて降り注いだ。

 

 炎爆は全く同時に発生し、小さな悪霊達を残らず吹き飛ばす。

 

 支配下に置いていた悪霊達が偶然にも壁代わりになった巨大なそれは、体を焼きつかせる炎の激痛に悶え苦鳴を辺りに響き渡らせる。

 

「すこしは手加減しろでござる、あの馬鹿狐!」

 

 その声は、頭上から聞こえた。

 

 一瞬痛みを忘れ、振り仰ぐ。

 

 あちらこちらを焦がした少女の背中を視界に捉えたその瞬間、彼は気付いた。

 

 既に自分の体がバラバラに切り飛ばされている事に、気付いた。

 

 音も無く崩れる巨体の背後に着地したシロは霊波刀を一振り。

 

 生み出された風が、僅かに残る燐光をそっと押し流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、スーツ姿の依頼人を前に、笑顔の美神が小奇麗な部屋の真ん中で電卓をぱちぱちと弾いていた。

 

「依頼解決ですね。報酬のほうをよろしくお願いしますわ」

 

「だから何で拙者を巻き込むのかと聞いてるでござろうがぁっ!!」

 

「だから何で何時も何時も巻き込まれる位置にまで近づくのよあんたは」

 

 ホクホク顔で依頼人からアタッシュケースを受け取った美神の後ろでは、狐の少女と狼の少女が喧々諤々と騒いでいる。

 

 とは言っても服と髪の毛のあちこちに煤を付けたシロが、視線も合わせずに椅子に座って自分の髪の毛を弄っているタマモに文句を言っているだけであるが。

 

「あ、枝毛」

 

「話を聞けでござるぅぅぅっ!!」

 

 とうとう頭を両手でがしがし掻きながら天を仰いで叫びだしたシロを鬱陶しげに眺めながら、タマモは枝毛の少し手前に向けて指先ほどの狐火を作り出した。

 

 高温の炎は顕現した一瞬で髪の毛をぷつんと切り落とし、それ以外に何の影響も及ぼす事無く消え去る。

 

「だから、大きいの行くって言ったじゃない。何も問題ないでしょ」

 

「範囲が! 範囲が何時もより広かったでござるよっ!!」

 

「…ああ」

 

 言われてみれば、と顎に手を当て暫し黙考。

 

 そう言えば、今日がこっちに着てから初めての実戦で、気が昂ぶっていたような覚えがある。

 

 ついでにこれが終わった後の報酬というかご褒美の話のせいで、シロもでもあるがかなり気合が入っていた気もする。

 

 そのせいで、ついつい5個で済ます筈の狐火をついつい倍に近い勢いでブチかました記憶があった。

 

「…なんで焦げたくらいで済んでるのかしら。自信なくすわねー」

 

「それが遺言でござるかぁぁぁ…!」

 

 無論、シロが無事だったのは踏み込んだ先にいた大将格の悪霊の体が壁になったお陰であって、彼女の炎が弱かった訳ではない。

 

 むしろそんな彼女の炎を、直撃とは言わないまでも至近で喰らったにもかかわらず消滅しなかった悪霊のほうがタフなのである。

 

 霊力の高まりを感じたタマモが慌てて椅子から飛び退くと、一瞬前まで彼女が居た場所を霊波刀が水平に薙ぎ払っていった。

 

 振り向いた彼女の目に入るのは、振り切った霊波刀を構えてじりじりと距離を詰める少女。

 

「もう枝毛なんぞ気にならないように、丸坊主にしてやるでござるぅぅぅ」

 

「ま、待ちなさいシロッ! そう、あれはちょっとした事故よ、事故!」

 

「きっぱりと人災でござろう!」

 

 両手をぶんぶんと振りつつ誤魔化し笑顔で少しづつ距離をとる獲物を、無表情で殺気を振りまく少女が部屋の隅へと追い詰める。

 

 どん、と背中に壁が当たり、慌てて左右を見渡して逃げ場が無いことを悟ったタマモは、ただでやられてなるものかと妖力を呼び起こし徹底抗戦の構え。

 

 その意気や、良し、とばかりにニヤリと笑ったシロは両足に力を篭め、真正面から飛び掛かり。

 

「毎度ありー。またのご利用をお待ちしておりますわー」

 

 その勢いのまま、横合いから首の辺りに突き出された神通棍に引っかかって動きを止めた。

 

 くえっ、と奇妙な声を出してくるりと半回転した彼女は見事に後頭部から床に落ちて良い音を立てる。

 

 へ? と疑問符を浮かべたタマモも、依頼人に笑顔を見せながら神通棍を突き出している美神が背中に隠して彼女だけに見えるように示された手の形を見た瞬間、今度は抗えるはずも無い脅威が発生したことに気がついた。

 

 親指を下に向けたその手には、怒りの為かしっかりはっきり怒りのマークが浮かんでいる。

 

「さ、あんた達も帰るわよ」

 

「ま、待って美神さん、話を聞いてっ?!」

 

「そうでござるっ?! お慈悲を、お慈悲をぉぉぉっ?!」

 

 必死で抵抗する二匹をずりずりと引き摺って去っていく美神を見送りながら、依頼人は噂通りの見た目によらない実力と質実剛健(スパルタン)っぷりに何度も何度も何度も頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううう、痛いでござる痛いでござるぅぅぅ」

 

「何で私までこんな目にぃぃぃぃぃ」

 

 事務所のソファーに蹲りつつ、頭にこさえたでっかいたんこぶを押さえてひんひん泣いている獣娘たち。

 

 その声を台所で聞きながら、エプロンを付けた美神は一人ため息をつきながら調味料の入った小瓶を手に取った。

 

「ったく、屋根裏部屋とご飯だけで使える戦力が増えると思ったのに」

 

『まぁ、彼女達も初めての依頼でしたから』

 

 何処からともなく聞こえる人工幽霊一号の声に鼻息を鳴らし答えて、小瓶の中身をぱらぱらと鍋に振り掛ける。

 

 ゆっくりとかき混ぜ更に別の小瓶を一振り。

 

 お玉に取った汁の味を確かめ、軽く頷くと火を止める。

 

「たとえそうでも依頼人の前でやるなっつーのよ。全く、何であんなのばっかりウチに増えるのかしら」

 

『類は友を――』

 

「あらこんなところにパイナップルが」

 

『すいませんでしたもう言いませんごめんなさいだからその手榴弾のピンを外さないでくださいオォォナァァァァァッ!!』

 

 分かればいいのよと笑顔で言い、炊飯器の裏から取り出した危険物にピンをから手を離す。

 

 レバーを外していないから着火はしないものの、建物に取り付いた幽霊にさえ知られないようにそんな物を隠さないでほしいと切に願う人工幽霊一号であった。

 

 オーブンから取り出した骨付き肉を皿に乗せ、鍋で煮込まれたお揚げを深皿に盛り付ける。

 

 真っ白な飾り気の無いエプロンを畳んで椅子に引っ掛け、二つを持って餌を待つ二匹の所へと。

 

 GS美神除霊事務所における初めての除霊ということで、成功したらちょっと値の張るお揚げと骨付き肉を買ってやると約束はしていたが少々勿体なかったであろうか。

 

 それでも成功は成功だし、少しは反省しただろうからまぁ良いか、と苦笑いを浮かべつつ人工幽霊に扉を開けてくれるように頼もうとして。

 

「大体兄上があーなのに、何で拙者達は駄目なんでござろうか?」

 

「…分かってないわね。つまり美神さんも結局はライバルって事よ」

 

「…やっぱりでござるか?」

 

 全力で扉を蹴り開けた。

 

 人工幽霊の悲鳴が聞こえたような気もするが、無視。

 

 目の前でかたかたと震えつつ怯える二匹の目の前にゆっくりと笑顔で皿を置く。

 

「さぁ、食べなさい」

 

「み、美神殿?」

 

「き、聞こえた?」

 

「何が、かしら?」

 

 首を捻りつつも心底安心した様子で、しかし食欲をそそる良い匂いを立てる大好物に意識の半分以上を持っていかれながら、視線を逸らさぬままで恐る恐る骨付き肉とお揚げに手を出す二人。

 

「おキヌちゃんも学校だし、私が作ったけど文句は無いわよね」

 

「へぇ、美神さんって料理も出来るのねー」

 

「い、頂ますでござるっ!」

 

 タマモは何でも無かったかのように努めて冷静に振舞いつつ、ほこほこと湯気を立てるお揚げに箸を伸ばす。

 

 シロは冷や汗を一筋流しながらもボロを出さないうちにとお肉に齧り付いた。

 

 この辺りが真っ正直なシロと演技に長けたタマモの差であろう。

 

 ともあれ、タマモも箸で摘み上げたお揚げが醸し出す『極上品オーラ』にごくりと生唾飲み込み、熱々のそれを口の中へと――

 

「――最後の晩餐よ。楽しんでね?」

 

 ぎちりとカラダが固まった。

 

 己の本能が叫んでいる。

 

 やばいヤバイ逃げろいやむしろとっとと諦めろ――諦めたら駄目じゃんっ?!

 

「き、聞こえてたの?」

 

 無言で笑顔のままの美神が、ゆっくりとひとつ頷いた。

 

 目が全く笑っていなかった。

 

 かたかたと震え始めたタマモの箸の先からお揚げが滑り落ち、深皿の中に戻って沈んでいく。

 

 何とか、何かしないと――!

 

 そう必死で考えたタマモの視線が、隣で肉に噛り付いたまま硬直しているシロに止まった。

 

 彼女はタマモの視線にも、美神の負のオーラにも気を取られた様子を見せずゆっくりと口の中の肉を咀嚼する。

 

 そして、齧られたお肉を皿に置くと、いきなり立ち上がってこう叫んだ。

 

「餌付けでござるかぁぁぁぁっ?!」

 

「はぁ?」

 

「美神殿っ!!」

 

 あっけに取られた美神に迫り、下から責めるような視線で睨み上げる。

 

 僅かに腰を引いた美神に、畳み掛けるように言い募る。

 

 タマモはもしかしたら助かるかもしれないと何時でも逃げ出せるように体勢を整え、しっかりお揚げを口に放り込んだ。

 

「この骨付き肉の味はっ! 誰かの為に! 誰かを想って! その誰かの舌にだけ合うように作られた物でござるっ! この犬塚シロ、肉には一家言あるでござるよっ!!」

 

「…? …っ?! だ、誰かって誰よっ?!」

 

「あふ、あふいっ、おいひいっ! 汁が、汁ふぁおいひいけどあふいっ!!」

 

 シロの言葉に一瞬戸惑った表情を浮かべた美神であったが、何時も誰に骨付き肉を食べさせてやっているのかを考え、ふと浮かんだ顔にぼひゅっと音さえ立てて耳まで真っ赤にしながら反論する。

 

 タマモは口の中で暴れるジューシーなだし汁に喜びと苦しみの悲鳴を上げていた。

 

 どたばたと騒ぐ2人と、現状も忘れてお揚げにかぶり付く一人。

 

「餌付けでござるなっ?!」

 

「なっ?! 誰が横島君を――」

 

『あの、オーナー?』

 

 騒ぎの間にも何か言いたげな人工幽霊の声が混じる。

 

 が。

 

「語るに落ちるとはこの事でござるな! 誰も兄上のことだとは――」

 

「もうひとつ、もうひとつだけ…!」

 

『オーナー、報告が――』

 

「そ、そもそもたかが骨付き肉でそんな事分かるわけないでしょっ?!」

 

 暗に認めているような気がする台詞である。

 

 睨み合って騒ぐ美神とシロも、お揚げに夢中のタマモも人工幽霊の声はスルーした。

 

 だが、人工幽霊もこの事務所に宿る存在として、ここで負けるわけにはいかない。

 

 ボリュームを上げて、聞こえるように今度こそ。

 

『オーナーッ! 報告があります!』

 

「五月蝿い黙れっ!!」

 

「素人は静かにしてるでござる!!」

 

 最近扱い酷くないですか、とか。

 

 一体なんの素人なんですか、とか。

 

 あと空っぽの皿を指をくわえて見ている貴方はついさっきまで逃げようとしてませんでしたか、とか。

 

 色々理不尽なことを感じつつ、人工幽霊は出現させた全身鎧を部屋の隅でいじけさせる事にしたのだった。

 

 芸の細かいことである。

 

『良いですよ良いですよ。どーせもう間に合いませんし』

 

 誰も聞いちゃいないのである。

 

 そんな全身鎧の声に答えるように、部屋の扉ががちゃりと開く。

 

 ひょこりと飛び出した頭が事務所の中を一通り眺め、当てが外れた顔をすると、小さな声で呟いた。

 

「…相変わらず、ここは賑やか」

 

 その少女の頭には、二本の角が生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い通学路。

 

 秋の日は釣瓶落としの言葉通りに、日も落ちて西に僅かな赤い光を残すのみとなった夕暮れ。

 

 日中の暖かさを攫う風が吹き始め、アスファルトの熱も失われつつあった。

 

 灯り始めた電灯の下を、二つの人影が歩いている。

 

「こ、腰がいてぇ。愛子も少しくらい加減してくれりゃ良いのによー」

 

「もう、横島さんそんな事ばっかり言ってたら愛子ちゃん怒りますよ」

 

 腰を軽く叩きながら猫背で歩く学生服の青年の隣を歩く三つ編みの少女は、そんな彼を見ながらくすくすと笑っている。

 

 気合を入れて腰を伸ばした青年の腰から枯れ木を纏めて折ったような音が響き、思わず蹲った彼に慌てて駆け寄って後ろから腰を優しく撫でた。

 

「うぅ、すまんのぅ…」

 

「い、いえ…」

 

 お礼の言葉に僅かに頬を赤らめつつ、立ち上がる忠夫に手を貸した。

 

 小鳩の手を握って立った彼は、今度はゆっくりと背中を伸ばす。

 

 気持ちよさそうな唸りを上げる彼の背後では、離れた手を名残惜しげに眺める小鳩が何度も手のひらを閉じたり握ったり。

 

「ったく、愛子先生モードは骨まで響くよなぁ――小鳩ちゃん?」

 

「え、あ、はい!」

 

 振り向きながら掛けられた声に、小鳩は思わず慌てて眺めていた手を背後に隠した。

 

 不思議そうな目で忠夫がこちらを見てくるが、何でも無いと首を振って誤魔化す。

 

「愛子先生になったら机の中で時間を気にせず授業ですからねぇ」

 

「ん、それがキッツイ。小鳩ちゃんも付き合わなくても良かったんだぜ?」

 

「…二人きりだと止める人が居ませんし」

 

 小さく呟いたその言葉が聞き取れなかった忠夫が疑問を浮かべて顔を覗き込んできたが、鉄壁の笑顔で誤魔化した。

 

 時間制限がほぼ無しの、しかもほぼ密室空間に二人きり。

 

 デンジャーなのだ。

 

 事務所まで押しかけて忠夫に学校へ来るように説教し、その成果を十二分に生かそうとした愛子。

 

 しかも放課後に先生方に根回しした事により、愛子先生として補習授業を受けさせることまで成功する。

 

 だがしかし、一緒に帰ろうと誘いに来た小鳩が参加を表明。

 

 初めは渋々と受け入れた愛子であったが、貧乏ゆえの奨学生を取る努力のお陰で優秀な生徒である小鳩と駄目駄目ながらも元々の頭はそこまで悪い訳でなく、実際の所結構教えがいのある生徒の忠夫――無論それだけでもないが――相手に生き生きと授業をしたものだ。

 

 今は一緒に帰っていく二人の背中を発見し、黒板で一人○×ゲームの真っ最中であるが。

 

「くすん…小鳩ちゃんのちゃっかり者…」

 

 そんな呟きが誰も居ない教室に響いたり。

 

 心の奥で愛子に謝りつつ、遠くに見え始めた安アパートの明かりに小鳩は残念な思いを抱く。

 

 遅くなってからの女の子の一人歩きは危険だから、と一緒に帰ってきた忠夫であるが、未だお隣さんが小鳩であることを知らない。

 

 大分遅くなった事であるし、何と言っても育ち盛りの若い青年男子である。

 

 お腹もぺこぺこ、時間的には自宅で母が夕食の支度を終えているだろう。

 

 つまり、大チャンスである。

 

 ご飯で釣って、家族の団欒に巻き込んで、ゆくゆくは――。

 

「そ、そうだ! 横島さん、ご飯――」

 

 なんとも心細そうな表情でお腹を擦る忠夫に向かい、小鳩がその言葉に辿り着くより僅かに早く。

 

『ぎゃーっ?!!』

 

 何かがその先から飛んで来た。

 

 派手なメキシカンハットを被ったそれは小鳩の横を通って忠夫に着弾。

 

 一緒くたになってごろごろと道路を転がり、数回転して漸く動きを止めた。

 

『きゅう』

 

「よ、横島さん?! 貧ちゃん?!」

 

「うお?! 貧乏神じゃねーかっ?!」

 

 完全に目を回した貧乏神。

 

 飛んで来た先に目をやれば、そこにはふよふよと空を飛んでくる人影。

 

 紫色の髪のその少女は、一瞬小鳩に視線を止めた後、興味を失ったように横を通り過ぎて忠夫の元に。

 

 刺又で服を引っ掛け持ち上げると、あっさり身を翻して安アパートへと沈黙したまま戻っていく。

 

「こらーっ! メドーサーっ! 俺の穏やかな青春にヴァイオレンスを持ち込むなーっ!!」

 

「五月蝿いねぇ。早く帰らないと飯が冷えちまうだろうが」

 

「放してーっ! お願いだから私を解き放ってーっ!!」

 

「そりゃ山犬だろーが。あんたはTVの見すぎなんだよ」

 

「俺は狼じゃーっ!! それにお前だってしっかり影響されとろーが!」

 

 あれも何回目の再放送だろうか。

 

 新作が出るたびに同系列が流れされては「どうせ一年後には…」と思って映画館で見る気も――話を戻そう。

 

 呆然と見送った小鳩は、足元で呻き声を上げる貧乏神を拾ってため息ひとつ。

 

『うう…違うねや。ちょっとどころじゃなく怪しい気配がしたからのぞきこんだんや…。痴漢と違うぅぅぅ』

 

「貧ちゃん。身内から犯罪者は許しませんからね」

 

『誤解やぁぁぁぁ』

 

 ぴしゃりと言い放った小鳩の言葉に、貧乏神はただただ涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外に、本当に意外に何とか食べれる物でした。

 

 何時ぞやの海で出会った妖怪変化の3歩奥みたいな物体ではなく、それなりに料理の皮を被っていた事が心底意外な忠夫であった。

 

「…魔鈴さん、ありがとうございました」

 

 そうしみじみと呟き、アパートの階段を降りてすぐに彼女のレストランがある方に向かって土下座をする青年が一人居たとか居ないとか。

 

 口の中に僅かに残る奇妙な違和感と闘いながら、お腹を軽く押さえて駆け出す忠夫。

 

 少し離れていただけなのに、何時の間にか成長したんやなぁ、と何となく嬉しいような寂しいような感慨に耽りつつ、彼は事務所へと地面を蹴る。

 

 高く打ち上げられた身体を包むのは、すっかり暗くなった街を通り抜ける乾いた風だ。

 

「さぶっ?!」

 

 夜風を割いて屋根の上に着地する。

 

 僅かに聞こえるTVの音と、家族の談笑の声。

 

 邪魔をするのは野暮だろうとでも言うように、降りた足の裏は微かな音さえ零さなかった。

 

 そのまま大きく身体を跳ね上げる。

 

 瓦に残った衝撃が、僅かな音を残して消え去る前に、忠夫の足は次の屋根へと降りている。

 

「うう、もうジージャンにTシャツ一枚は無謀かもしれん…」

 

 かと言って他に服がある訳でもなく、仕方ないなと財布の中身を思い出しながら両肩を押さえながら道路を飛び越え次の屋根へ。

 

「…くうっ、風も冷たきゃ懐も寒いなっ!」

 

 特に色々と使った訳でもないのに、家賃と電気代とガス代と水道代を収めた彼の財布の中には夏目さんは不在で福沢さんが一枚だけ。

 

 生きていくだけで出て行くものは出て行くし去る者を引き止めても振り向きもしやがらねぇ。

 

 それが都会に生きる者の宿命なのだ…!

 

「現実逃避しても始まらんな。せめて紫式部(にせんえんさつ)さんでもいりゃ良いのによ」

 

 残存している筈なのに殆ど見ない、そんな都市伝説めいたお札の姿を夢見つつ、電信柱の頂上を蹴ってビルの上に大きく跳ねる。

 

 とん、とん、と着地の衝撃を殺しながらリズムを取って、少し離れたスーパーの屋上に滑り落ちるように着地。

 

 動きを止めずに再加速。

 

「美神さんも美神さんだよなぁ。ナルニアに行ってた時の分は時給に換算してくれないっつーし」

 

 コンビニエンスストアの煌々とした白い輝きを眼下に納めつつ、その先のビルの窓に足の横を引っ掛け横に蹴り出す。

 

 直線で行くには目の前の壁は高すぎるが、隣のビルとの間には隙間がある。

 

 進行方向にある別のビルの壁に足を当て、身体を斜め前に蹴り飛ばす。

 

 跳ねた先にある別のビルを更に蹴り飛ばし、三角跳びで隙間を軽く擦り抜けた。

 

「っと。そーいやシロとタマ、ちゃんと仕事やってんのかなー?」

 

 ビルの間隙を抜けた先にぽつんと存在している公園に着地。

 

 そのど真ん中で宴会を開いている浮幽霊達が気付いて声をかけてきたので手を振り返し、ジェスチャーで事務所の方を指差し横を駆け抜ける。

 

 頑張れよ、と囃し立てながら親指を立てる数十人にサムズアップを返して道路に抜ける。

 

「到着、っと」

 

 暫し道沿いに駆け抜ければ、すっかり見慣れた事務所がそこにある。

 

 ゆっくりと減速しながら一人ごち、ベルも鳴らさず扉を開く。

 

 人工幽霊が宿るこの建物には無用であるし、そもそも今更だし。

 

「こんばんわーっす! しろー、タマー、真面目にやってっかうぉあっ!?」

 

 元気一杯告げた忠夫は、次の瞬間細い腕に引きずり込まれた。

 

 見た目の繊細さとは裏腹に、抵抗も許さない力で引っ張られた忠夫が身構えるよりも早く、それは彼に襲い掛かる。

 

 美神の神通棍とは全く違うベクトルで、痛みも無いしたんこぶもできない。

 

 だが、それは確かに彼に巨大なダメージを与え得る筈であった。

 

 それは、忠夫を柔らかくも暖かく受け止めた。

 

 具体的には、ぱふって感じに。

 

「…犬飼君、おひさし」

 

「……」

 

 あれ? と小首を傾げる女性が居た。

 

 幼いその行動とは不釣合いなほど、大人な見た目のヒトだった。

 

 長い黒髪は腰までせせらぎのような清らかさをもっていた。

 

 頭からは立派な角が二本生えており、ほんの少し寄せられた眉根は細い月の様。

 

 身に纏った簡素な和服が、逆にその見事なスタイルを際立たせている。

 

 身長は忠夫と同じかやや高いくらいだろうか。

 

 少なくとも前に体勢を崩した彼を胸元に抱え込めるくらいには。

 

 そう、彼は今、その女性の胸の間に顔を突っ込んで抱き締められているのである。

 

「あ、ああああああああっ?!」

 

「何やってるでござるかぁぁぁぁっ!!」

 

「…役得。自分に頑張ったご褒美をあげてる」

 

 忠夫の鼓膜を揺らす、妹分二人の声とけたたましい足音。

 

 酷く焦っている様子であるが、声の調子と足音からすると元気が無いとか怪我をしたとかいう雰囲気でもないので安心した。

 

 そんな判断ができるほど、彼は、忠夫は冷静だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと抱き締める手を剥がしつつ身を起こし、目の前の女性の肩に手を置く。

 

 きょとんと此方を見返す女性には、あの少女の面影がしっかりと見て取れる。

 

 前に会った時には見た目妹分達くらいの年齢だったのに、彼女は確かに彼の好みど真ん中ストライクの綺麗な年上お姉さんへと変わっていた。

 

 だが、それが彼には悲しかった。

 

 彼の外聞の為にはっきりと明言するが、忠夫はけしてロリコンではない。

 

 成長した事が悲しかったのではなかった。

 

 大きな胸が悲しかったのでもなかった。

 

「天龍…」

 

「…何?」

 

 真剣な瞳で見つめる忠夫に驚いたように姿勢を正した天龍は、自分でも気付かぬ内にこくりと咽を鳴らしていた。

 

 背後の二人も何時に無い忠夫の様子に戸惑ったようで、完全に沈黙してこちらを見つめる視線だけが感じられた。

 

「嘘は駄目だぞ」

 

「…何で?」

 

 疑問は嘘が駄目と言う言葉の理由を問う物ではなかった。

 

 表情を堅く凍らせた天龍は、僅かに震える舌に言葉を乗せる。

 

 短い、たった3音で構築されるその言葉には、何故分かったのかと聞く意味合いだけが乗せられている。

 

「俺には」

 

 後方のシロタマも、扉を開いてこっそり覗いているおキヌと美神も、忠夫の真剣な雰囲気に飲まれたかのように沈黙を守っている。

 

 いきなり成長して、しかも無いっすバディから文句無しのナイスバディへと変貌を遂げた少女の何が嘘なのか。

 

 何となく視線が一箇所に集中してるけど。

 

 ともあれ、たっぷり溜めて、忠夫は言葉の続きを放つ。

 

「――美神さんの乳があるからぐげらっ?!」

 

 効果音で表すと、ぐわらごらごきーん、だ。

 

 フルスイングの神通棍は、強烈なライナーを道路に向けて放ち、夜だというのに何故か門前の掃除をしていた全身鎧に直撃させて見事な団子を形成させた。

 

 夜じゃないと色々近所の方々に幽霊屋敷の噂を立てられるんじゃないかと言う人工幽霊の何かを決定的に間違えた気使いだったのだが、今更であろう。

 

「これは私のっ!! あと理由になってない!」

 

「…納得」

 

「すんなっ!!」

 

 一瞬で扉を蹴り開け忠夫に襲い掛かった犯人は、ぜはぜはと息を荒げながら羨ましげに一点を見つめる少女の独白に突っ込んだ。

 

 しょんぼりとした彼女が溜め息をつくと、あっという間に美女から美少女にクラスチェンジ。

 

 胸元の寂しさも元通りである。

 

「ま、人狼の超感覚持ちだしねぇ。シロも分かってたんでしょ?」

 

「むぅ…やはり天然物の強さでござるか」

 

「ふぅー。人狼ってこー言う集団だったわね」

 

 聞いた私が馬鹿だった、と頭に手を当てかぶりを振るタマモと、何度も何度も頷くシロ。

 

「美神さん…ずるいです」

 

「あのねぇおキヌちゃん? おキヌちゃんまでそっち側に行っちゃうと色んな所に申し訳が立たないからとっとと戻ってらっしゃいな?」

 

 両手を合わせて骨を鳴らす美神の視線は、とてもとても冷たかった。

 

 変な方向に育って、万が一にも氷室神社の神主とかそこの神様とかにばれると後が怖いので美神も手段を選ぶ気は無い。

 

「ま、そー言う事だ」

 

「…御免なさい」

 

「謝る事ないって。俺は楽しみが増えたしな!!」

 

 何時の間にか天龍の頭を撫でている忠夫に突っ込む気力は美神には無かった。

 

 両手はおキヌの矯正中であることだし。

 

「ふへーん! 美神さんウメボシは、ウメボシは駄目ですぅぅぅっ?!」

 

 じたばたもがく少女を捕えながら、後5分、と容赦無く時計を見上げてカウントを進める美神である。

 

「…折角お爺ちゃんの伝手で教えてもらったのに」

 

「へ? 老師にか?」

 

「…違う。お父さんのお父さん」

 

 肉体的な成長を促すのは負担が大きい。

 

 だったら見た目だけでも変えてしまえば不利な点は無くなるんじゃなかろうか、と言う先代天竜王の甘い言葉に乗せられた彼女は、少し遠出してとある神様に教えてもらいに行ったのだと。

 

 とても幻術が上手な神が居る、との言葉で言った先には。

 

「…月が七つ」

 

「待て待て待て待て!」

 

 忠夫の脳裏に警報発令。

 

 慌てて止める忠夫の制止も、残念ながら一歩手遅れ。

 

「…息継ぎ無しでとっても笑うひとだったの。確か、物語と幻影の神シャステ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか拙者がこんな役を振られるとは思わんかったでござる」

 

「口は災いの元よねぇ」

 

「…あーれー」

 

「結構余裕やなー。頑張ってこいよ天龍ー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫しの後、大きなたんこぶを二個抱えた竜神族の王女が、ソファーの上で恨みがましい視線をシロとタマモに向けていた。

 

「…痛い」

 

「抜け駆けは禁止の筈でござろう?」

 

「そうそう。せめて後5…いや2年待つべきだわ」

 

「…500年にまけて欲しい」

 

「却下でござる」

 

「あの忠夫が我慢できる訳ないじゃない」

 

 何気に人格を否定するタマモに半眼の視線を送りつつ、天龍の隣に腰掛けている忠夫は美神から今日の話を聞いている。

 

 おキヌが淹れてくれたお茶に外を駆けた体が芯から温められる幸せを感じ、お代わりを所望した彼に微笑みながら急須を傾ける少女のコメカミはほんのりと赤い。

 

 まだちょっと痛いそれを表に出さずに笑顔を見せる、それもおキヌの強さであろうか。

 

「へー、意外に二人ともちゃんとやれたんすねぇ」

 

「ギリギリ及第点かしら。ま、あんたも学校いかなきゃならないしねー」

 

「愛子に百合子さんへの連絡先を知られたのが致命的っすよ…」

 

 保護者への連絡先を確保した彼女は、それが一番の特効薬である事に気付いていなかったが。

 

 此処に連絡すると言えば万難を排して登校せざるを得ない、そんな凶悪な物なのだ。

 

「明日は土曜日だしゆっくり休めますけどねぇ」

 

「当然依頼入ってるわよ」

 

「あ、やっぱし?」

 

 湯飲みを啜りながら片手でひらひらと書類を振る美神に、忠夫は苦笑いを浮かべて答える。

 

「なーに? 嫌な訳?」

 

「違いますって。食い扶持増えてんすから頑張るっす!」

 

 疲れた様子も見せずに力瘤を作る忠夫に、何となく笑いを誘われた。

 

 くすくすと零れる口元を隠しながら、美神は楽しげに目の前の半人狼を見つめてみる。

 

 頼りなさそうなのに、何とかなるかなとも思わせる彼に、気持ちのままにやや演技過剰の台詞を贈る。

 

「ま、頑張りなさいな。お父さん?」

 

「美神さんがお母さんになってくれればぼかーもうげきゅ」

 

 とち狂って飛び掛ってきた阿呆をパンチで撃墜し、くしゃくしゃになった書類を机に置いた。

 

 途端に突き刺さる幾つもの視線。

 

 顔を向ければ、半眼とジト目が4つほど。

 

 ちょっと腰を浮かせかけた美神の目の前で、額を寄せ合い討論開始。

 

「やっぱり餌付けでござったか」

 

「どーするのよ。現有戦力じゃ正直キツイわ」

 

「…弱点を突くのが定石」

 

「まだ大丈夫です。美神さん意地っ張りですし」

 

 聞こえよがしにぼそぼそと囀る4つの頭を睨み付けながら、どーしてやろうかとこめかみを擦りながら、とりあえず神通棍を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――和やかな夜は、そこまでだった。

 

 

 ――そして、暗い夜が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れ伏していた忠夫が跳ね起きた。

 

 神通棍を振り上げていた美神の動きが止まった。

 

 徹底抗戦の構えを取ったシロとタマモが、一瞬で顔を蒼褪めさせた。

 

 クッションを両手に持ったおキヌが、ぽとりとそれを床に落とした。

 

 ソファーの陰に隠れて忠夫に接近していた天龍の瞳が、窓から覗く夜空に釘付けになった。

 

 

 

 

 

 

 

――世界が震える、夜が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、世界の全ての意思あるものが、ナニカの悲鳴を耳にした。

 

 霊力の有る無しに関らず、感覚の程度によらず、勘が鋭いかどうかさえも意に介さず、誰もが何もかもが全てが、それを魂で感じ取った。

 

 

 

 

 ――何かが、来た。

 

 

 ――嵐が、来た。

 

 

 

 

 

 

 それだけが、はっきりと、分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人狼の里で――。

 

「長老、長老っ?! あれが、何で?!」

 

「退け、退くのじゃ!!」

 

「女子供を最優先に! 闘える男は刀をとるでござるっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙神山で――。

 

「…猿爺。ありゃ、なんだ?」

 

「ヒャクメ、分析できるか?」

 

「出来ればとっくにやってるのねぇっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨーロッパの魔王の根城で――。

 

「侵入者・あり。防衛装置・3割まで・破損」

 

「…気分の悪い物を見せよるわ」

 

「浸透・阻止成功率・12%――防衛装置破損率・5割を超えました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オカルトGメンの一室で――。

 

「そうだ、直ぐに出てくれ! 現状の把握を最優先に!」

 

「西条先輩! 内閣府からですっ!」

 

「回してくれ! はい、西条で…は? …馬鹿な、なんであそこが最初に狙われるんですかっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

とある基地で――。

 

「警戒態勢を取れ! 総員直ぐに叩き起こせ! 命令が下ったら即動けるように…何だ今の爆発はっ?!」

 

「司令、倉庫が、倉庫内の動ける奴が全てやられましたっ!」

 

「…何が、起こってるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満遍なく、夜が降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、始めよう』

 

『ここが、これからが、終結だ』

 

『長い長い一日が、幾星霜を重ねた一瞬が、答えを導く夜を呼ぶ』

 

「夢の終わりの、始まりだ――」


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