「うぅ~~テレビつけてもニュースしかやってないよ~~」
グアム海軍基地の日本海軍駐留施設の休憩室でゴーヤはソファーの上に寝そべって退屈そうにリモコンでテレビのチャンネルを適当に変えていた。
休憩室にはゴーヤ以外誰もいない。
皆は任務に行っているのだ。
ゴーヤは例の報告のあと休暇を与えられ、そんな日が二日経過していた。
いくら休暇を貰っても最近が珍しく忙しいだけで普段は毎日が休みの様なものなのにそんな状態でただ一人休暇を貰ってもただ疲れるだけだ。
他の鎮守府の潜水艦は死ぬほど忙しいところも多いらしいが、ここでは暇な日ばかりだ。
そんな暇をもてあましているゴーヤの耳にガチャと扉の開く音が入った。
「ん?」
扉が開く音にゴーヤは反応し上半身を起こして扉の方を見た。そこにいたのは水色の長い髪の毛が特徴の少女だった。
「ただいまー。あれ?他のみんなは?」
「あっ五月雨ちゃんお帰りー。イムヤちゃんとはっちゃんと雪風ちゃんは、偵察に行ってるでち。」
入ってきたのは五月雨だった。
でも五月雨はどこか顔をムッとさせ怒っているようだった。
「……どうしたんでち?」
そんな五月雨の様子にゴーヤは首を傾げた。
「…………」
でも五月雨は俯いたまま黙ってしまった。
「あのー……」
ゴーヤは苦笑いを浮かべた。
自分が何か五月雨の気に障る事をしたのではないか、そう考えたのだ。
「…………き」
すると五月雨は俯いたままブツブツと何かを言い始めた。
「あのー五月雨ちゃん?」
ゴーヤの頬に一滴の汗が流れた。
ゴーヤの表情はますます固まる。
すると……
「き、聴いて下さいよぉ~!ゴーヤちゃ~ん!提督、提督が!!」
五月雨は涙目になってゴーヤの座っているソファーにダイビングしてゴーヤに抱きついた。
「い、痛いよぉ五月雨ちゃん。てーとくが、どうしたの?」
ゴーヤは身をよじりながら言った。
「て、提督が……私を差し置いてな、長門さんと喫茶店にぃ~」
「いつもの事でち」
取り乱す五月雨にゴーヤは率直な感想を言った。
だが、五月雨にとってはそんな率直に言えるほど簡単な問題ではなかった。
「いつもの事じゃいけないんですよぉ~!私は提督と一番古い仲なんですよ!昔は艦隊運用を二人で夜遅くまで話し合ったものです。それなのに……この基地に来てからは提督をビーチから連れ戻すだけの毎日……提督は私じゃなく長門さんを秘書艦にして私はおいてけぼり……うわあぁん」
五月雨はゴーヤの胸に頭を埋める形で泣いた。
「あー泣いちゃった……五月雨ちゃん!泣いちゃダメでち!ゴーヤが、てーとくに話しておくでち!きっと、てーとくも分かってくれるでち!」
ゴーヤは五月雨を元気づけようと自分が協力すると言った。
すると五月雨は泣くのを我慢するように止めムクリと起き上がった。
「ありがとうございます。ゴーヤちゃん……でもそれはいいです。提督に苦労はかけたくないですから」
五月雨は涙を浮かべながら無理に笑顔を作った。
「五月雨ちゃん……」
「それに……」
五月雨は固い表情をして、どこか遠くを見るようにして呟いた。
「提督がまた私達に隠し事をしてました。あんな顔は久し振りです。嫌な予感がします――」
一時間程前
「来たか……」
長門は喫茶店の前で腕を組んで駆け寄ってくる提督と五月雨を出迎えた。
「長門秘書艦!提督をお連れしました!」
五月雨は背筋をピンっと伸ばし、長門に敬礼をした。
「な、ながと……き、基地に居るんじゃ……」
すると遅れて提督がゼェゼェ息を荒げながら長門の前にやって来た。
「貴様がのんびりしているからだ。いつもなら基地まで走らせたい所だが……今日はこの喫茶店で話そう」
長門は呆れた様子で言うと喫茶店を指差した。
「分かったそうしよう」
提督は助かったと言わんばかりに同意した。
もし、ここから、基地まで走るとなると体力のない提督は具合が悪くなってしまう。
「やった♪」
一方の五月雨はとても嬉しそうだ。
長門は喫茶店の扉を開けると立ち止まり後ろを振り返った。
「五月雨、お前はもう帰って良いぞ」
「え?」
長門の言葉に五月雨は口をポカーンと開けた。
「私と提督は大事な話がある」
「うぅ~分かりました……」
五月雨はそう言うと提督にお辞儀をして残念そうに基地の方へ去っていった。
「長門、いくらなんでも可哀想じゃないか?」
提督は五月雨の後ろ姿を見ながら言った。
だが長門は動じようとしなかった。
「確かに可哀想だが今、彼女に聞かせるわけにはいかない」
「そう……だな」
提督はそう言うと長門と一緒に喫茶店に入った。
店内に入ると喫茶店のマスターにコーヒーを二つ注文し受けとると席についた。
「早速だが、二時間前に海軍最高司令部からきた電文だ」
長門は一枚の書類を提督にわたした。
提督はその書類を深刻そうに見つめた。
その表情に先程までのたるんでいた様子はない。真剣そのものだ。
「……一週間後か」
提督はしばらく書類を見るとテーブルにそれを置いた。
「ああ。海軍最高司令部は一週間後に敵が攻めてくると分析したらしい。これは我々の見立てと同じだ。問題は……」
長門は腕を組みながら言った。その表情はいつもと変わらないが事態の深刻さがにじみでている。
「死守か……」
提督は押し殺した声で言った。
書類には米軍と協力しグアム島を死守せよと記されていた。
「予想はしていたが……まさか、ここまでとはな」
提督は苦笑いを浮かべた。
「提督、知っての通り深海凄艦の戦力は我々を遥かに凌駕している。それに対して、こちらの戦力は戦艦が私と陸奥の二隻、駆逐艦が五月雨と雪風の二隻、潜水艦が伊58、伊168、伊8の三隻だけだ。我々だけでは勝てん。あとの頼みの綱はアメリカだが、こちらには一切情報が入ってきていない。調べてきたんだろ?」
「ああ、もちろんだ。あとアメリカの防衛計画も入手した」
長門の問いに提督は頷いた。
「アメリカの協力者の話ではアメリカ軍はかなり追い詰められているらしい。アメリカ海軍の艦娘部隊が主力を失っているのは知っていると思うが、協力者によると、その被害は我々が思っていたよりも酷い。アメリカ軍の防衛計画では空軍とアメリカの残存艦娘、イージス艦、それと我々の艦隊を合わせた艦隊をグアムの近海に配置し第一次防衛線を構築、ギリギリまで防衛させ、敵が突破したらグアム各地に展開しているアメリカ陸軍を最終防衛線として一斉攻撃を行い敵を一掃する計画だそうだ」
「そうか……」
提督の説明に長門は残念そうに言った。
これから勝ち目の無い戦いに挑もうとしているのだから当然だ。
「だが一つだけ腑に落ちん。なぜ最高司令部は我々に死守命令を?時間稼ぎなら分かるが他の鎮守府にはグアム周辺の敵を殲滅できる艦隊がいくつもあるではないか」
長門の疑問は最もだった。
長門の言う通り日本各地の鎮守府にはグアム駐留日本艦隊など足元にも及ばない程の戦力が存在する。
それらを動かせばグアム周辺にいる深海凄艦など多少手間がかかるだろうが確実に撃破できるはずなのだ。
「そ、それは……」
提督は難しい顔をした。
「俺たちが、いよいよ本格的に司令部から見捨てられたからに決まってるだろ……」
「「…………」 」
そのあとしばらく無言が続いた。
「……とりあえず」
最初に沈黙を破ったのは意外にも長門だった。
「一週間後までに何ができるか考えよう。ここでグダグダ言っててもしょうがない」
長門はテーブルに置かれたコーヒーのマグカップをもち平然と一口飲んだ。だが、平然を装っているが明らかに長門は“あらためて”言われた事実に動揺していた。
「そう、だな……コーヒーをさっさと飲んで基地に戻ろう作戦会議だ」
「だな」
提督と長門はコーヒーを飲み干すと代金をマスターに支払い店をあとにした。
そんな二人の後ろ姿を喫茶店のマスターは悲しげに見つめた。
そしてマスターは電話の受話器を取り、とある場所へ電話をかけた――。
――グアム全体が不穏な空気に包まれる中、グアムの遥か上空、地上から5万メートルの超高高度に一機の深海凄艦でも“この地球上”の何処の国の物でもない戦闘機が異常な速度で飛行していた――。
次回はヤマト達が登場する予定です。
最近忙しくなったため、今月の投稿はこれで最後にします。
次回の投稿は10月か11月になりそうです。
すいません。