遭難!宇宙戦艦ヤマト!    作:エウロパ

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初めて携帯から投稿しました。
何か不備があったり間違いがあったら、すいません。



第七話  不穏な影

神奈川県横須賀市にある日本海軍の最大拠点、横須賀鎮守府。

その一室の暗い会議室では防衛省の閣僚幹部と海軍の長官、それと大元帥の三人が今後の軍の方針を決める会議を開いていた。

 

「グアム周辺の状況はそんなに不味いのか?」

 

海軍長官はテーブルの上に広げられた地図を何度か指さし大元帥の男に訪ねた。

 

「グアム海軍基地に駐留してる部隊の報告によると敵はかなり大規模な艦隊で現在も南方から護衛艦を伴った輸送ワ級の補給部隊が往復を繰り返しているそうです」

 

大元帥は手元の資料を見ながら言った。

 

「うむ。それで、アメリカの動きは?」

 

長官は一度頷くと防衛省の閣僚の方を向いた。

 

「アメリカ軍は依然、沈黙を保っています」

 

「いつもと同じか……それではアメリカのグアムにいる戦力は?」

 

長官の問いに防衛省の閣僚は首を横に振った。

 

「その件でしたらあなた方の方が詳しいでしょう?」

 

「確かにそうですな。年を取ると物忘れが多くなってしまって……と、冗談はさておき、それでどうなんだね?」

 

長官は思い出したように大元帥に聞いた。

 

「我々が確認しているグアムのアメリカ艦隊はイージス艦が数隻と強襲揚陸艦一隻、艦娘は駆逐艦、巡洋艦を多数確認しています」

 

大元帥の報告に長官は眉間にシワを寄せた。

 

「ん?前聞いたときはアリゾナやノースカロライナ、エセックスの艦娘が配備されていると聞いたが……」

 

「お忘れですか?確かにそれらの艦娘は配備されていましたが一ヶ月前の米豪海軍による南方海域制圧作戦の失敗で両軍の六割の戦力と共に今や海の藻屑です」

 

大元帥は首を横に振りながら言った。

 

「そうだったな……思い出したよ。なるほど、それで哨戒能力の落ちたグアム付近の島が敵の手に落ちたというわけか」

 

長官は考えるしぐさをして納得したようにした。

 

「やはりこれは……チャンスですね」

 

すると防衛省の閣僚が呟いた。

 

「これは防衛省が作成した作戦案ですが、このまま何もせず深海凄艦に島をヤらせるというのはどうでしょうか?」

 

「「…………」」

 

室内に沈黙の空気が流れた。

 

「そ、それはどういう……」

 

最初にまた喋りだしたのは大元帥だった。

それに対し、防衛省の閣僚は語り始めた。

 

「知っての通り、十数年前に深海凄艦が現れた時、日本は新日米安全保障条約を結んで深海凄艦に対抗しましたが、アメリカは日本を守るどころかハワイまで失い、海は深海凄艦に奪われました。それ以降、我が国に頼れる国があるとすれば、もっとも近く資源が豊富なロシアだけです。ですがロシアと親密になる事を嫌がったアメリカは我が国に必要な圧力をかけ日米関係はかつてないほどに悪化しています。そこで今回の深海凄艦の動きを防衛省は利用する方向で動こうとしています。」

 

防衛省の閣僚はニヤリと不適な笑みを浮かべた。

 

「まず、深海凄艦の艦隊にグアムを落とさせます。その時にアメリカへの便宜上グアムの駐留してる我が軍の部隊を動かしてグアムを守らせます」

 

防衛省の閣僚は地図のグアムの部分に赤いマジックペンで簡単に部隊の配置図を書いた。

 

「し、しかしこれではグアムが……日米両軍の戦力を合わせてもこれでは勝てませんよ?」

 

大元帥は困惑した顔で言った。

そう、防衛省の閣僚が言う作戦では戦力が少なすぎて深海凄艦に勝てないのだ。

 

「良いんですよそれで」

 

防衛省の閣僚は冷たくそう言うと地図のグアムを人差し指で叩いた。

 

「グアムはアメリカのアジアにおける補給の最重要拠点です。そのグアムが深海凄艦に奪われたとなれば日本本土にいる在日米軍は補給を全て我が国に頼らざる負えなくなります。そうなれば、自然と日米関係は改善し、アメリカが我が国に文句を言ってくることもなくなるでしょう。グアムにいる日本の駐留艦隊は――」

 

防衛省の閣僚は資料をめくりグアムに駐留してる日本艦隊のリストを見た。

 

「長門級2隻と潜水艦、それに駆逐艦ですか……残念ですが沈んでもらいましょう。全体の数は少ないとはいえまた、健造やドロップでもすればいいですしね」

 

「ちょっと待ってください!!」

 

大元帥は机を叩いて立ち上がった。

 

「さっきから聞いていれば何ですか!あなた、彼女達を――艦娘をなんだと思っているんですか!!」

 

大元帥は怒りを露にし防衛省の閣僚を怒鳴り付けた。

大元帥は防衛省の閣僚の艦娘に対する酷い物言いに腹をたてたのだ。

それにたいして防衛省の閣僚はうんざりしたような顔をした。

 

「何って……兵器ですよ。彼女達は確かに人間の様な姿をしていますが“あれは”人間ではありません。それに、どういう方法か知りませんが健造し作ることもできて深海凄艦を倒しても現れるではありませんか。戦艦長門も戦艦陸奥も日本中に何千もいるようですし、あなたの方こそ姿に惑わされているのではありませんか?」

 

「貴様!!」

 

大元帥は今にも飛びかかる勢いでテーブルを叩きつけた。

確かに防衛省の閣僚の言う通りに艦娘は同じ艦娘でも健造やドロップといった現象で同じ艦娘が現れることは良くある。

だが、それでも彼女らは人間とほぼ同じ体を持ち、個々に自我もしっかりと持っているのだ。

 

「ふ、二人とも落ち着いて。落ち着いて。ね?」

 

すると長官が両者の間に割って入った。

 

「とにかくお互い冷静に話し合いましょうよ大元帥」

 

「長官はこんなこと言われて悔しくないんですか!?」

 

大元帥はそれでも怒りが収まらず長官に言った。

 

「そ、それは……確かに悔しいが今は会議中……冷静に話し合わないと……」

 

長官は下に俯いて言った。

大元帥はそんな長官の堂々としない姿に違和感を覚えた。

 

「まさか……長官は知っていらっしゃったのですか!?」

 

大元帥は大声を上げ、長官に詰め寄った。すると防衛省の閣僚が手を上げた。

 

「長官。そろそろ、例の件を教えた方がよろしいのでは?」

 

防衛省の閣僚は長官に向かって得意気に笑みを浮かべた。

 

「あ、ああ、分かっているとも……大元帥、実はな……政府の要請で今回の作戦は――」

 

長官は俯いたまま大元帥に静かに言った。それを聞いた大元帥の顔は真っ青に染まった――。

 

 

 

次の日

 

「――ああ、分かった。それじゃまた」

 

男は無線機を地面に置いた。

 

「はぁ~、めんどくさい事になっていそうだな……」

 

雲が殆どない快晴のグアム。

そのグアムのタモンビーチの浜辺にアロハシャツを着て、頭には海軍の制帽というアンバランスな格好をした日本人の男がビーチパラソルの影でビーチチェアにだらしなく座っていた。

 

「て~とく~」

 

すると遠くから、この誰も他に客のいないビーチをこちらに向かって走ってくるセーラー服を着た青髪のロングヘアーの少女の姿がある。

 

「ん~?何だ~五月雨~」

 

五月雨から提督と呼ばれた男はだらしなく答えた。

 

「もぅ、何だ~じゃありませんよ?またこんな所で仕事サボって」

 

五月雨は駆け寄ってきて呆れた様子で言った。

 

「さぼってないよ、海を監視してたんだよ」

 

提督はコップを持つとストローをくわえてココナッツミルクを飲んだ。

 

「それをサボりっていうんですよ」

 

「そう?アハハハ……」

 

提督はわざとらしく笑った。

彼はこの島に派遣されてからよくこのビーチに来ていた。

 

「それで五月雨、私を呼びに来たということは何かあるんだろ?」

 

提督は面倒くさそうに言った。

 

「はい、長門秘書艦に提督を呼んでこいって言われました」

 

「そうか分かった。それじゃあ行こうか……」

 

提督はそう言うとココナッツミルクと無線機を持って基地へと向かった。

 

 

提督と五月雨は殆ど廃墟と化した町を基地に向かって歩いていた。

基地に行く途中にある町、タモン。

第二次大戦後、観光業で栄え沢山の高層ホテルが建設された観光の町。

だが、海が深海凄艦に支配されてからは観光客は一切来なくなり観光業は衰退し崩壊した。

今では一部のホテルをアメリカ政府が買い取り帰国できなくなった外国人に無料で提供している。

そんな悪い意味で静かなこの町だが、この日は違った。

 

「あの提督、今日は何かあるんでしょうか?」

 

五月雨は車道の方を見ながら言った。

車道には沢山のアメリカ軍の戦車や牽引砲を運ぶ軍用トラックがエンジンの爆音を上げながら提督達と逆の方向、つまり先程のビーチの方向へ走っていた。

 

「さぁ?何かの演習かも?」

 

提督は首を傾げた。

だが五月雨は立ち止まり提督の目をジーっと見た。

 

「な、何だよ?」

 

提督は苦笑いを浮かべた。

 

「いえ、何も……」

 

五月雨は不機嫌そうに言った。

 

「……」

 

「…………」

 

しばらく、微妙な空気が続き二人は一言も交わさず歩いていると五月雨が突然、立ち止まった。

 

「あっ長門秘書艦」

 

五月雨は反対側の歩道を見て言った。

 

「えっどこ――本当だ」

 

提督は一瞬、目を游がしたが遅れて五月雨が見ている方向を見て気がついた。

すると長門はこっちに来いとジェスチャーを出した。

 

「はぁ、向こうに行けってか――」

 

提督はため息をした。

道路はいつもなら車など気にしないで渡ることができるが今は米軍の車両がひっきりなしに走っていて渡れそうにない。

しかも、今も生きてる信号がある横断歩道は百メートル以上先だ。

 

「仕方ない、めんどくさいが走るか五月雨――あれ、五月雨?」

 

提督は五月雨の居た方を見たが五月雨はそこに居なかった。

 

「てーとく!何やってるんですかー!信号が青になっちゃいますよー!」

 

提督の耳に五月雨の声が聞こえた。

だが、その声は遠くからだった。提督は五月雨の声がした方を向いた。

 

「えー……」

 

五月雨はいた。だが、五月雨はすでに百メートル以上先の横断歩道の前で手を振っていた。

 

「い、いつの間に……仕方ない走るか」

 

提督は長門のもとに走り出した――。

 

 

 


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