「鬼灯様~八幡様~掃除終わりました~」
「茄子、お前少しは敬語を使えよ」
二人の小柄な鬼が閻魔殿で書類整理をしていた鬼灯様と八幡に駆け寄ってきた。その二人の鬼はツリ目で優等生というかクラス委員長の様な小鬼と、三本角のたれ目でマイペースそうな小鬼だった。
「唐瓜、敬語ってなに?」
「お、お前、本当に学校で何やっていたんだよ!」
「あ~唐瓜、俺には敬語で話さなくていいぞ。俺の方が仕事に関しては後輩だからな」
八幡は苦笑しながら唐瓜に言う。
「ほら、こう言ってるんだから唐瓜も普通に話そうよ」
「バカ! それでも役職が俺達より上だろうが! ほんと、すみません」
茄子にどなった後、八幡に頭を下げる唐瓜をみて『気にしなくていい』と再度声をかけておいた。
「そうです唐瓜さん、三途之川の掃除はどうでしたか。前の様なことはそうそう起こらないとは思いますが」
以前、三途之川の主の蛇が咽に重傷を負い緊急入院した事があった。原因は蟹だったらしく、偶然にも茄子が目撃していた。
「え、あ、茄子、今日なんかあったか?」
「今日? なにもなったよ~」
「俺も、特に気がついたことはありませんでした」
「そうですか。毎回、毎回、何か起きてもらっても困りますから。何もないというのは私としてもありがたい」
話しながらも二人は黙々と手を動かし片づけるべき書類を片付け終わり、閻魔大王に話しかけていた。
「閻魔大王、本日はこれで終わりにいたしましょう」
「うん鬼灯君に八幡君、お疲れ様。唐瓜君と茄子君も御苦労さま」
唐瓜は茄子の頭を閻魔大王に向かって下げさせ、次の仕事に向かって行った。
「では、私達も行くところがありますので」
「あ、白澤君のところだね」
「ええ、少々薬が心もとなくなってましたから」
「八幡君、二人のことは頼んだよ」
「閻魔大王、無茶を言わないでください」
本当に心の底から疲れた表情を閻魔大王に向け、二人は閻魔殿を出ていった。
「桃タロー君、今日寒くないかい?」
「え、そうですか? 特にいつもと変わりませんが」
「と、言うことは……嫌な予感がするね。桃タロー君、今日は店を閉めようか」
「ちょ、白澤さん、急に何を言っているんですか!」
「桃太郎さんの言う通りですよ」
「おま、どこから現れやがった!」
いきなり現れた鬼灯様に驚き一瞬にして警戒モードに早変わりした白澤様。
「あ、鬼灯さんと八幡君お久しぶりです」
「桃太郎さん、お久しぶりです」
あとでゆっくりと歩いてきた八幡も合流し、桃太郎と八幡は挨拶を交わしていた。その頃、鬼灯様と白澤様はいつものようにいがみ合っていた。
「二人は相変わらずみたいですね」
「八幡君が来てから二人を押さえるのが楽になったけど、あの二人が仲良くなることはないと思うな」
「まぁ、そうでしょうね。いきなり金棒をぶん投げていましたから」
「あ~そうだったね。今日はどの薬がなくなったんだい」
「えっと、このメモ通りにお願いします」
「すぐ準備するよ」
八幡は桃太郎に薬の種類が書かれたメモを渡し、桃太郎は慣れたように薬を集めていった。
八幡が地獄で鬼灯様の補佐になって驚いたのは、桃太郎など昔話に出てくる人物などに実際に合った事だった。
鬼灯様にスカウトされ、数日間は鬼灯様に連れられ地獄中を巡ってどういう場所かを見せると同時に顔合わせをしていた。全ての鬼や獄卒は鬼灯様を信用していて快く八幡を受け入れていた。
あとから来た人間が自分達の上司になるということを受け入れる事はないということを常識として得ていた八幡としては、信じられない物を見ているような感覚だった。そして、八幡は自分ではなく鬼灯様がそれほどに信用されているんだろうと答えを出したが、鬼灯様が信用しているということは結果的に八幡も同じように信頼されているという事には至らなかった。それは、十数年足らずの経験則によって可能性の段階から切り捨てられていた。
その顔合わせの中でたびたび目を丸くしながら御伽噺に出てきキャラだったり、歴史上の人物に出逢っていた。余談だが、八幡が一番目を丸くして驚いたのが『鬼灯様のムツゴロウ王国』だった。
一番初めにつれていかれたのは実のところ、桃源郷だった。これから鬼灯様の遣いとして一番多く行く可能性が高いという事だったのだが、はてさて、ただ単に因縁をつけたかっただけなのかもしれない。
「はい、八幡君。必要な薬は全部揃っていると思うから、あとで鬼灯様に確認してもらえるかな」
八幡も鬼灯様に教えてもらい一通りの薬の知識を持っているので、袋の中身を一通り確認し終えた後大事に受け取った。
「いつもありがとうございます。鬼灯様、薬をもらいましたので戻りますよ」
袋を抱え、金棒を白澤様に振り下ろしている鬼灯様に声をかけた。
「そうですか、では帰りましょう」
鬼灯様が返事をしたのを確認した後、金棒を白刃取りしている白澤様に声をかけた。
「白澤様もありがとうございます」
「いやいや、お礼としてまた今度一緒に飲みに行かないかい。君がいるとたくさんの女の子と飲めるんだよ」
そんなことを言う白澤様に苦笑しながら礼をいい、二人は地獄へ帰っていった。
「ああ、そうです。八幡さんもそろそろ現世への視察に行きましょうか」
「本当ですか!」
「ええ、本当に有能ですよ、貴方は」
「ありがとうございます。それで、視察はいつですか」
「明日にしましょう」
「唐突じゃないですか!」
「一応私もご一緒しますが、あまり姿を見られないようにしてください」
「分かりました」
ようやく八幡は現世への視察に行けるようになりました。