相当亀更新で申し訳ありません。
でも物語の流れは大体決まりました!
それでは第二話お楽しみください。
先日、奉仕部という部活に強制的に入れられ、目の腐った男・比企谷八幡と出逢った。
でも正直、あの空間は嫌いじゃないわ。
ただ一つ面倒なことは「『他人を頼る』ことを覚えろ」という平塚先生からの命令。
それなのに昨日さらに面倒事が増えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
────1日前
私はいつも通り部室に行き、本を読んでいた。
少し離れたところには比企谷君が座っており、彼もまた本を読んでいる。
ガラッ
「失礼するぞ」
平塚先生が部室に入ってきた。
それにしてもここの部屋の訪問者はまだ平塚先生しか見たことがないのだけれど、依頼者は来ないのかしら。
「平塚先生、ノックしてませんよ」
「君もしつこいな。そろそろ諦めたまえ」
そう言いながら平塚先生は煙草をくわえた。
「ここ禁煙ですよ。てか校内が禁煙ですよね」
「いいんだよ。君達しかいない時間ぐらい肩の力を抜かせてくれ」
平塚先生はこう言っているが、この学校にはなぜか『平塚先生には煙草を注意しない』という暗黙の了解があるようだ。
事実、職員室でも煙草を吸っているが誰も何も言わない。
「それで、平塚先生はどんな御用でいらっしゃったのかしら?」
「そうだそうだ、本題を忘れるところだったよ。では早速。明日、君達の元に迷える子羊を導く。君達はそれぞれ自分のやり方で問題解決に努めたまえ。しかし君達には私からの依頼もある」
「それぞれの更生も視野に入れて依頼者の奉仕をしろ。ということですね」
「そういうことだ。ただ、普通にやっても面白くない。よって、どちらが先に相手の更生を完遂できるか競ってもらう。判定は私が下す。どちらかが更生したと私が感じとれれば勝負は終わりだ」
やれやれ、このままだったら勝負することが決定されてしまうわ。
どうにかしないと。
「先生、勝手に話を進めないでいただきたいのだけれど。競ったところで私たちにメリットはないわ。それに勝っても同じくメリットがない。よってその勝負をする必要はないわ」
「雪ノ下の言う通りだ。何より面倒だ」
先生は口角を吊り上げ、話を続けた。
「競うメリットはある。競うことによりお互いの更生が早くなることだ。だが士気がなければ競い合うこともできないと思ったのでな、死力を尽くして戦うために君達に条件を一つ用意した」
平塚先生は指を鳴らし、私達を指差した。
「勝った方が、なんでも一つ負けた方に命令できる。という条件でいく!」
「なんでも!!!?」
比企谷君が気持ち悪い声を上げた。
本当に気持ちが悪い。
「この男が相手だと貞操の危険を感じるのでお断りします」
私は比企谷君から身を退け言った。
「偏見だ!男子高校生は卑猥なことばかり考えているわけじゃないぞ!」
「何を必死になっているのかしら。ますます怪しいわよ、気持ち悪い」
ここで平塚先生が口を挟んできた。
先生はニヤつきながら、挑発するように私を一瞥した。
「ほー、あの雪ノ下雪乃も畏れる物があるのか。そんなに勝つ自信がないかね?」
少し癇に障る物がある。
確かに捻くねた心根を変えることは難しい。
しかし、その捻くれた心根を持つ男に負けるなど冗談じゃない。
私はこう見えて負けず嫌いなのだ。
今の言葉は聞き捨てならない。
「いいでしょう、あなたのその安い挑発に乗るのは癪ですが、受けて立ちます」
先生は小声で「決まりだな」と言った。
「先程も言ったが、勝負の裁定は私が下す。基準は私の独断と偏見だ。勝負に熱中して依頼の方を疎かにしないよう、善処したまえ」
そう言い残すと平塚先生は私と比企谷君を残して教室を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
本当に厄介なことになってしまったわ。
平塚先生があんなに面倒な人だとは思わなかったわ。
放課を報せるチャイムが鳴り、生徒各々がそれぞれの場所へ足を運んでいた。
サッカー部はグラウンド。
バスケットボール部は体育館。
生徒会は生徒会室。
帰宅部は校門。
そして私は特別棟の空き教室。
その教室のドアを開けると、いつものように目の腐った男が一人座って本を読んでいる。
「よう、もう来ないかと思ってたぞ」
比企谷君は本から目を離さないまま話しかけてきた。
「私は貴方のような、性根が腐りきった人間ではないわ。入部した以上、サボるなんて愚かなことはしないわ」
「俺だってサボらずに来てるだろ」
「・・・・」
「・・・・」
他人から見たら息苦しい空気なのだろう。
でも私はこの短い会話と長い沈黙が心地好い。
私は比企谷八幡のことを、あまり好いていない自負がある。
認めている部分もある。
しかし、短い間だが付き合ってみると、出会った日に感じた、あの感情は間違いだったのかと思う時がある。
「一つ聞きたいのだけれど、いいかしら?」
「何だ?」
彼はまだ本から目を離さない。
「貴方って友達はいるのかしら?」
「関係ないだろ」
「関係はなくても知る権利はあるわ。これから部員として関わっていく以上、貴方のことを知っておく必要もあるわ」
比企谷君は「わかったよ」と言いながら本を閉じた。
「結論から言えばいねーよ。俺は昔から冷めた人間だとか言われてな。人が寄り付かないんだよ」
「そう。貴方も大変なのね」
「でも仕方ねーよ。人がまとまるためには敵の存在が必要だ。それに俺が選ばれただけで、誰しもが選ばれる可能性はあったんだ。俺のお陰でクラスとして成立していると言えるまである。『比企谷と仲良くしたら次は俺もハブられるかも』と考え、俺に関わる奴は誰もいなくなる。そうやって集団に属している人間は、自分の本意でもないことをするんだ。他人に流されて己自身を殺すわけだ。だから俺みたいな、どこにも属さない人間は自分らしく生きられる。不思議なことに『ぼっち』だの何だの言われてる俺みたいな人間の方が生きやすいんだよ。この世界は。」
そう言うと比企谷君は再び本を開いた。
おそらく、彼はもうすでに見限っているのだ。
自分と自分以外を。
きっとそれを隠して、協調して、騙し騙し自分と周囲を誤魔化しながらうまくやる事は難しくない。
最初はそうしていたはずだ。
けれど比企谷君はそれをしない。
人間の醜さを目の当たりにしたのだろう。
結局、人間は自分が一番可愛い生き物だ。
その醜さに気付き、見限ったのだ。
それは私と同じだ────
「ねえ、比企谷君。」
一瞬言葉に詰まる。
しかし自然に口は動く。
私が感じたことは間違いではないと、そう証明するために。
「貴方がよければ、私と友だ────」ガラガラッ
「失礼しまーす。あのー平塚先生に言われて来たんだけど・・・」
扉の方を見ると髪の明るい少女が立っていた。
女の子は私達の姿を確認すると驚きの表情を浮かべた。
「え!何で雪ノ下さんがここにいるの!?しかもヒッキーまで!?」
一通り驚いた後、少女は落ち着いて笑顔で呟いた。
「そっかあ。私の勘違いだっんだ・・・」
比企谷君と目を合わせるが、比企谷君も首を傾げる。
どうやら少女の言葉の意味が分からないらしい。
もちろん私も分からない。
「椅子を用意するわ」
私は一度考えるのをやめ、依頼者であろう少女の対応をすることにした。
椅子を私と対面する形で用意し、話を聞く準備をした。
「それでは、依頼の話をしましょうか」
私も椅子に座り、ついに最初の依頼人と話を進めようとするが、彼は本を開いたまま、少し離れたところに座り、参加しようとしない。
「えーっと、そのー・・・あ、まずは2-Fの由比ヶ浜結衣です!えーと、今日はー・・・そのー・・・・」
「貴方と同じクラスみたいよ比企谷君」
「マジか。そう言われれば見たことあるかもな」
依頼人の少女は比企谷君の言葉に過剰に反応し、彼を睨みつけた。
「酷いしヒッキー。覚えてないとかサイテー。きもい!」
比企谷君は本を閉じ、頬杖をついて、言い訳めいた言葉を並べた。
「俺は必要のないことは記憶しないことにしてるんだよ。文句は俺の脳に言ってくれ。あとヒッキーってやめろ」
全く救いようのない性格だ。
なぜこういう場面では嘘を吐かないのだろう。
いつもは息をするように嘘を吐くような人なのに。
「それで、そろそろ本題に入ってもらってもいいかしら?」
私がそう言うと由比ヶ浜さんは顔を赤くして比企谷君の方をチラチラと見た。
するといきなり彼が立ち上がった。
「俺、飲み物買ってくるわ」
「そう。なら私にはレモンティーをお願いするわ」
「私、抹茶ラテ!」
「サラッとパシんのやめてくんない。後で金は払えよ」
そう言って比企谷君は教室を出ていった。
「意外と気が利くのよ、彼。それで、依頼は何かしら?男の人がいると話し辛いことなのでしょう?」
すると由比ヶ浜さんは顔を赤くした。
「えーっと、私の依頼なんだけど・・・・
私、ヒッキーと仲良くなりたいの!」
はい?