食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 えー、お久しぶりです。
 他の作品を書いたり、それすら止めたりと長らく更新しておりませんでしたが、本当に申し訳ありませんでした!

 『F』の悲劇編ですが、流れは考えているのですがこれどう考えてもあと数話じゃ終わらないよね? という感じになってしまい、長々とオリジナル編を続けていても自分と皆様のモチベーションが繋がらないと思い、一旦中止し今回から合宿編を再開する事にしました。

 まあ、何が言いたいかというと早く連体食戟編をやりたいというのが本音です。そこまで行くのにどれだけかかるかわからないですが、一先ず連載は不定期ながら再開させていただこうかと思います。

 長々と本当に申し訳ありませんでした。
 お詫びと言っては何ですが、今回の合宿編では主人公の能力が明かされた時から感想欄で話題になっていたあのキャラとの絡みがあります。個人的にソーマの中でもかなりお気に入りのキャラなので気合を入れていきたいと思います。


宿泊研修 後編
夢の続きへ


 ―――夢を見ていた。

 あれはそう。高校一年の時にやったスタジエールの光景だった。我ながら馬鹿な事をしたものだ。あの後俺は無謀にも水原さんに食戟を挑み、見事なまでに完敗した。

 

 今も治らぬ悪い癖だ。

 他の事だとそうでもないのに料理の事になるとついつい引き際を見失う。

 

 あの時もあの時も、そして今もそうだ。

 

「…………て、寒っ!?」

 

 現在の室温マイナス六十℃。食べ物の新鮮さを保つのに最も適しているといわれる温度だ。この超低温下ではタンパク質の酵素分解も脂肪の酸化もほぼ停止する。勿論、厄介な微生物の繁殖もだ。

 流石は天下の遠月リゾートが誇る超巨大冷凍室。徹底した温度管理が施されている。息が凍るとかそんな次元では無い。あまりの寒さに一瞬気を失ってしまっていたらしい。慌てて体内の気の流れを調整し、周囲の食材に影響を与えないよう最大限気を配りながら暖を取る。

 

「それにしても、まさかこんな所に調理セット一式があるとはな。流石は遠月。まんまと罠に引っ掛かってしまったよ」

 

 次の課題で使う食材を取りに来たはいいが、何故かその場に用意されていた食材と調理器具達に導かれるままに料理人の本能に従って手持ちのレシピを使った低気温下での調理実験を始めてしまったのが全ての始まりだ。そのままついつい熱中してしまい、生命活動に最低限必要な体温を手放してしまったのが運の付き。どうやらそのまま寝てしまったらしい。この合宿中、色々忙しくて寝ていなかったのも要因の一つだろう。

 

「幸い、次の課題までにはまだ時間がある。急げば間に合うか。……俺の時計が壊れて無ければだけど」

 

 因みにここでいう課題とは俺のではなく、他の先輩達によるものだ。

 先日の一件とタキ先輩達後続組の到着により元々臨時の講師という立場だった俺は完全に裏方に回ることになった。うん、いつもとかわらない。やっぱり裏方は落ち着くなぁ。あはは、やっぱり遅れたら殺されるんだろうなぁ。

 

 その手に獲物を持ち、眼から怪しい光を放つ『レギュムの魔術師』以下数名の姿が頭に浮かぶ。

 何か扉に鍵が掛かっているようだが、この際しょうがない。あの天下の大泥棒と呼ばれた大怪盗直伝の鍵開け技術を披露する事にしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてすみませんでした!」

 

 開口一番、全力で土下座をする。

 本日の講師はあの四宮シェフ。そう、つい先日盛大な啖呵を切っておいて食戟の結果を有耶無耶にしたあの『レギュムの魔術師(四宮さん)』だ。ぶっちゃけ超怖い。

 

「おい、俺は昼過ぎまでに食材を取って来いって言ったよな」

 

「はい……」

 

「今、何時だ?」

 

「じゅ、十一時半です」

 

「じゃあ、なんで謝ってんだ?」

 

「いやあ、それはそのー」

 

 言えない。

 「貴方に怒られるのが怖くて昨日の食戟が終わってからずっと冷凍室でスタンバってました」なんて言える訳が無い。しかも、他の事に気を取られてそのまま寝落ちしたなんて死んでも言えない。例え時間には間に合っても社会人として、料理人として上司の欲しい時に必要なものを用意できないようではまだまだなのだ。

 

「っち、まあいい。解凍は出来ているようだな」

 

「ええ、言われた通り食材の質を落とさないよう最大限注意を払いました!」

 

「当然だ。確か、「客に対しどんな状況でも最高の料理を出すのは『最低条件』だ!」だっけか? この俺に偉そうにそんな当たり前の事を説教した奴がまさかこの程度の事でミスをする訳がねえよなァ?」

 

「ソ、ソウデスネ」

 

 やばい、この人超根に持ってる!?

 水原さん達から聞いてはいたけど、想像以上にめんどくさい人なのかもしれない。

 

「おい、今なんか失礼なこと思ったろ?」

 

「ソ、ソンナ、メッソウモナイ!」

 

 そして、トンでも無く勘がいい。これは予想通りだけどまぁ、その、物凄くやりにくいです。はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故俺が四宮さんとペアになったかというと端的に言うと昨日の罰ゲームだ。

 

「おはよう。79期卒業生の四宮だ。この課題では俺が指定する料理を作ってもらう。ムッシュ榊奴、ルセット(レシピ)は行き渡ったか?」

 

「はい、俺が全員手渡しで行き渡らせました!」

 

「よろしい」

 

 有耶無耶になったとはいえ、実力的には俺の完敗だ。それはあの場にいる誰もが理解している事だろう。結果的にはそれで創真くんと恵さんの退学が無かったことになったので万々歳だが、それはそれ、これはこれ。食戟に負けた者は相手の要求に従わなければならない。今回の場合辛うじて負けてはいない上に非公式と言う事で中立的立場である審査員も含めた面々でちょっとした罰ゲームが考えられた。

 それが今日一日四宮さんの元で雑用係をやる(記念写真付き)事だった。最後のカッコの中の内容を考えたのは勿論日向子さんである。微妙に四宮さんに対する罰ゲームにもなっているような気がするが、勝負の内容を踏まえた上での公平な判断らしい。そう、椅子に縛られたまま自前のデジカメを渡してきた本人が言っていたのだから間違いない。

 

(それにしても……)

 

 お題は昨日と同じ9種の野菜を使ったテリーヌだ。この合宿では課題の内容は講師に一任される為、その内容は千差万別だが、こうして同じ内容の課題を組が違うとはいえ連続して出すのは珍しい。日向子さんや俺の様になんでもいいから好きなもの作っていいというのなら別だけど、食材とレシピが用意してあってそれを作れという内容の課題は事前に他の組から聞いていれば対応できてしまうからだ。いくら回り全員がライバルな状況とは言え、今回に限れば生き残る事が最優先。その為の情報収集は例え蹴落とす相手同士であろうと必要だ。

 

(ま、卒業生(俺達)はそれを知っているから敢えてフェアになる様に微妙に内容を変えるんだけどね)

 

 因みにこれもある意味伝統と言えるもので、去年この合宿に参加した上級生などに聞けばわかる事だ。勝負は合宿が始まる前から始まっている。この合宿を生き残れるのはそんな風に始まる前から入念な準備をしてきた者とそんな事をしなくても持ち前の知識と経験と対応力で課題を自力で突破してしまう天才達だけだ。因みに俺は前者、四宮さんを含めた卒業生の大半は恐らく後者だ。現実という者は厳しい。

 

(あれ、じゃあ、毎回課題の内容を変えるのは天然? まさか、ただの嫌がらせじゃあ……)

 

 情報収集をしなかった天才組が講師達が毎回課題を変えるなんて知っているはずがない。そりゃあ、何年も連続で参加した人なんかは知っていて当たり前だけど四宮さんは俺と同じで今回が初めての筈だ。それに確か聞いた話じゃ、一日目と二日目の課題の内容は全く別物だったらしい。ところが今回は昨日と同じ課題。まさか改心したのか?

 

 生徒達はよほど今回の課題を恐れていたのか多くの者が情報収集をしていたらしく昨日の課題と同じ内容のレシピを見て胸を撫で下ろしていた。そりゃあそうだ。いくら厳しいとは言え、作るべきものは決まっていてその為のレシピもある。そして、ここにいるのは入学しただけで天才と言われる遠月学園の生徒達だ。それだけの条件がそろっていればいくら厳しいとは言え、決して攻略できないものでは無い。

 心なしか四宮さんの顔もどこか穏やかで昨日までと違い、あの張り詰めたような空気は感じられない。

 

 昨日の食戟の後、堂島さん達が失っていた者を取り戻した敵な事を話していたが、もしかしてこの事だったのか。どうやら、四宮さんはずっと失っていた()()()()()()()()を取り戻したらしい。

 

「四宮さん!」

 

「――フ、俺も丸くなったもんだな。後輩達の事を考えるようになるとは。さあ、制限時間は三時間。あまり時間は無いぞ、さっさと始めろ」

 

「「はい!」」

 

 見た事も無いような優しい顔で開始の合図をする四宮さん。

 生徒達の表情もどこか明るい。

 この調子なら、今日の脱落者は少ないだろう。もしかしたら初の全員合格もありえるかもしれない。

 

 俺も死ぬ思いをして半日近くマイナス六十℃の室温に耐えた甲斐が―――。

 

(ん? 確かあの食材って―――)

 

「ああ、ひとつ言い忘れてた」

 

 とある恐ろしい事実に気付く。

 確かに現代の冷凍技術は凄まじい。昔なら日持ちしなかった食材も数か月単位で保存がきくようになり、季節を選ぶ事無く料理を提供する事が出来るようになった。しかし、それでも完全に取れたてそのままという訳にはいかない。特に食材の味や見た目をそのまま引き出す今回のルセットのような料理では―――。

 

「その食材はたった今解凍し終わったばかりのものだ。ここまで残った才能ある諸君ならこの意味が解るとは思うが、残念ながらこちらの不手際でそのルセットには対処法が載っていない。本当は昨日の夜の内に追加しようと思っていたんだが、色々あってな。だが、まあそれはこっちのミスだ。当然君達に落ち度はない。だから今回は特別だ。昨日までなら俺のルセットに手を加えるなど許さなかったが、こちらに不備があるならしょうがない」

 

 何かとてつもなく嫌な予感がしながら四宮さんの方を見てみるとそれはもう邪悪な笑みを浮かべてあちらもこっちを見つめ返してきた。

 

「し、四宮さん?」

 

「――フ、俺も丸くなったもんだな。いやあ、ほんと丸くなったわ。ついこの前も後輩に大事な事を教えられてな。そいつ曰く、客に対しどんな状況でも最高の料理を出すのは『最低条件』だ。でも、それは料理人にとっていつまでも考え続けなければならない『最大案件』らしい。誇りある遠月学園の生徒達ならこの意味が分かるな? いやあ、どこの誰かは言わねえけど、本当にいいこと教えてもらったわ。オレも当たり前すぎて忘れていたぐらいだしなァ」

 

 思いっきり四宮さんがこっちを向いているため、それに誘導される様に生徒達の冷たい視線が何故か俺に刺さる。

 

「あ、あの四宮さん? それ生徒達に言ってるんですよね? 俺に言ってるわけじゃないですよね? み、皆ァ、騙されるな! 悪いのは俺じゃない! 性格が悪いのはあの人だ! ちょ、見んな! こっちを見るんじゃない!?」

 

 違うんだ。この試験を考えたのは俺じゃないんだ。そこの鬼畜メガネなんだ! みんな騙されてはいけない!

 

「それでは諸君、今まで培ってきた知識と技術をこの勉強不足な先輩に見せてくれ。どうした? もう課題は始まっているぞ?」

 

「や、やっぱりこの人最悪だ! 天然とかじゃない、素で性格が悪いだけだったよ!?」

 

 その後、サポートに回っていた俺はどうにかして四宮さんの気を逸らす事に尽力しながら最低限公平になる様に必死に生徒達にヒントをあげながら地獄のような三時間を過ごすのだった。

 

 




と、いう訳で四宮先輩との和解(?)でした。
この後も主人公はちょくちょく扱き使われることになります。

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