食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 長らくお待たせしました。
 原作の登場機会の少なさから園果のキャラが掴めず難産でした。一向に再登場もする気配が無いですし。
 これから彼女とタキちゃんには出番が増える予定なので原作からかけ離れたキャラになる可能性もありますが、どうかご了承ください。

 さて、今回はそんな彼女の能力の詳細が…………。あ、止めて! 薊顔連発のクソコラは止めて!


『F』の悲劇 強敵

 ここはエフの厨房。

 一度は逃げだした戦場。その中心で俺は覚悟を決めて敵に立ち向かおうとしていた。

 

 但し、今回は一人じゃない。

 

 

『卒業生支援制度?』

 

『そうだ。おかしいとは思わないか? 遠月学園は在籍したという事実だけで料理人としての箔が付き、限りなく狭い道を潜り抜けて卒業にまで漕ぎ着けた者は必ず大成する。でも、卒業生の殆どが一年足らずで自分の城を持てるってのは流石に変だろ? 過去のデータを調べてみると卒業生の約八割は遠月から巣立って三年以内に何らかの結果を残している。それは遠月の過酷さとその地獄を突破した彼らの規格外さからくるものかもしれない。でも、もしそれ以外の要因があるとしたら…………?』

 

『過去のデータって……。全く、毎回どこからそう言うの調べてくるんですか。…………ま、いいですよ。私は何をすればいいですか?』

 

『いいのか? もしかしたら、今回の敵は―――」

 

『どうせ、いつものように私に拒否権は無いんですよね? 榊奴くんの無茶苦茶には慣れましたよ私も!』

 

『いや、今回は流石に危なそうだから木久地には出来るだけ関わらないようにしてもらいたいんだけど』

 

『そういうのは先に行ってください。いいですよ、もうその気になっちゃいましたから。…………それに、今の私達はパートナーですから』

 

 パートナー。

 園果にそう言われた瞬間何か憑き物が落ちた気がした。

 

 今までの学園生活、間接的に競い合う事があってもこいつとはいつも協力して乗り越えてきた。と言っても、過酷な遠月の課題の中で俺に出来るのはサポートくらいで殆ど園果の才能と実力により生き残っていたようなものだ。

 そして今回、この『エフ』という闘技場に閉じ込められたときその協力関係は意味のなさないものになったと思った。一定の基準を満たせばいい今までの課題と違って、今回はどうやっても比較される。『エフ』の従業員に、この店を訪れた客達に、そして園果自身に。そうなれば勝ち目はないと思ったからこそ俺は逃げだした。生き残るために料理から逃げ出して、他の自分の得意分野で結果を出そうとした。

 

 それなのに、恐らくこいつは最初からそんなこと考えていなかった。

 俺が散々悩み抜いて後悔した選択はこの女には通用しなかった。だって、だってこいつは最初から。

 

『パートナー、か。そうか。そうだよな』

 

『ど、どうしたんですか!? いきなり笑い始めて―――ハッ、まさかまたとんでもない事をやろうとして! だ、ダメですからね! 今の私達は『エフ』に出向している状態なんですからあんまり酷い事は!』

 

『悪い、多分無理だぜ今回は。でも、パートナーなんだからついて来てくれるよな、園果?』

 

『え? 今なんて言ったんですか?』

 

『なんだよ、聞き返しても変わらないぞ? パートナーなんだから』

 

『い、いえ、そうじゃなく今私の事名前で―――』

 

 なんだそんな事か。

 

『気持ちの変化だよ。前にタキ先輩の事苗字じゃなく名前で呼び始めた時微妙な顔してただろ? ま、あの人も音弧さんに反抗して名前で呼べって言ってきたわけだけど』

 

『そういう事ですか……』

 

 なんか目に見えて落胆している。今の発言はまずかっただろうか。でも、本当はパートナーとして距離を詰めてみようとした結果なんてのは言いずらいしな。

 

『わ、悪い。戻した方がいいか?』

 

『別に。いいですよ、そっちの方が呼びやすいでしょうし。それに、今はこっちの方が重要ですよ。…………()()()?』

 

『そ、そうか。なら、このまま言わせてもらうからな? …………と、もう開店か。さあ、いくぜ? 何せ今回の敵は、遠月だ』

 

『はい! って、ええええええええ!!??』

 

 なんだ、気付いてなかったのか。

 でも、俺言ったよな。今回はヤバそうだって。

 

 

 

 

 

 

 

「新入り、下準備は!?」

 

「出来ています。次のオーダーに取り掛かります」

 

「…………はええじゃねえか。よし、問題ない。次だ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 合格のサインをもらい僅かな時間安堵する。

 でも、それは本当にほんの一瞬。今、褒められて喜ぶような時間は正直言ってない。

 

 今日任されたのはこの店の調理体系となっている料理の旅団(ブリゲード・ド・キュイジーヌ)の中でも新入りが最初に担当する場所であり、同時に最も過酷と呼ばれる研修生(アプランティ)と呼ばれる役職だ。その名の通り見習いとして掃除や料理の下準備を行い、その合間に先輩料理人の動きを学ぶ事を求められる。本当によくできたシステムだと思う。各人員に決まった役職を振り分け、仕事を限定しそれに集中させることで厨房を一つの生き物として動かす。それが()()()()()()()で料理の旅団と呼ばれる所以。

 各人が己の役職を完ぺきにこなせば一人一人が掛け持ちで複数の作業を行うことの多い日本料理界と違い、限りなくミスを無くしつつ最高のサービスを届ける事が出来る。

 

 だが、そのシステムは形式を重視し決まったルールの中で食事をとる事を美徳として受け入れられるフランス料理に特化したものだ。

 基本的にみんなでワイワイ騒がしく食事をする事が望まれるイタリア料理と何より木久地園果という料理人には相性が悪い。

 

「こっちの作業は完了! 次、行きます! 待たせたな!」

 

「こっちはいつでも準備は出来ています。待っていましたよ?」

 

「言ってくれるな。それじゃ、俺の集めてきた情報に腰を抜かすなよ?」

 

 俺は自分の作業と同時進行で園果のサポートを行う。

 今回の目的は第一条件として他の従業員に自分達と同格だと認めされること。その為には自分の仕事を完ぺきにこなしつつ研修生(アプランティ)以外の職務も行わないといけない。一人で行おうとすれば決まった方以外の行動を嫌う料理の旅団(ブリゲード・ド・キュイジーヌ)から最悪弾き出される可能性があるが、今はコイツが居る。

 

 天才料理人木久地園果の実力。

 その大部分は彼女の人柄が関係してくる。

 

 いつもほんわかとしていて、弄られやすい。それでいて、他人の事を自分の事のように心配できる。そんな彼女だからこそ、その皿には強い想いが宿る。

 そう、木久地園果は自らの皿に気持ちを載せる事が出来る。他人に対する思いやり。全てを包み込むような圧倒的な包容力。

 

 仮に、作った人間の顔が見えると言う事を必殺料理(スペシャリテ)の定義とするのなら、木久地園果の料理は全てが必殺料理へとなり得る!!

 

「次の卓。先月子供が生まれたらしい。男の子だそうだ。奥さんも来ているから、出来るだけ体力の付くものがいい」

 

「わかりました!」

 

 収集した客の情報を伝える。出来るだけ丁寧に、相手が想像しやすいよう一見料理と関係の無いものまで細かく。

 別にそれで出されたオーダーと変えると言う事はしない。ただ、この情報は木久地園果という料理人にとって何物にも代えがたい力となる。

 

 今まで遠月の授業では作るべき客が目の前にいた。

 日々の授業、夏の研修、秋の選抜、食戟だってそうだ。いつだって思いを届けるべき相手はそこにいて、真っ直ぐに思えば思うほど皿は輝く事が出来た。

 

 そして、今回。

 遠月の試験としては殆ど初めてとなる。直接客の顔の見えない厨房。きっと力を出し切れてなかっただろう。慣れない場所で今までと違う条件で働くというのは本人の想像以上にストレスを伴う。

 きっとコイツはコイツなりに俺とは別方面で悩み、傷ついていたのだろう。

 

 料理の旅団(ブリゲード・ド・キュイジーヌ)では、一度就いた役職から移動するのに決して少なくない時間を要する。恐らく通常の方法では一週間限定の部外者である俺達は最初に就いた役職から移動する事は出来ないだろう。実力も定かでない相手に重要な部分を任せる事は普通しないし、安定を求めるなら作業に手慣れてきたとしてもそのまま同じ場所をやらせるはずだ。今の俺達は遠月からのゲストではなくあくまで従業員。どう扱うかはその店が決める。

 

 その結果、園果は本来の実力を発揮できない役職に押し込められた。その性格では意見を言う事も出来なかったのだろう。ただ真面目に自分に与えられた仕事を一生懸命にこなそうとして何度か失敗した。

 

 だが、今日は違う。

 

「安心しろ。お前の知りたい情報。客の好み、人柄、どうしてこの店に来たのか。俺が知っている情報でお前を全力でサポートする! だから、お前はお前の料理を作れ!」

 

 俺が今日この日まで厨房では無く、直接客と触れ合うホールで働いていたのは決して無駄な事では無い。

 客達の言葉やスタッフとの情報交換、噂話まで全てはこの時の為に集めてきた情報だ。

 

 そして、園果もまた今日までしてきた事を、自分が何度もした失敗という()()を無かったことにするような人間じゃ無い。

 普段はおっとりしているが、料理人としてはそんなに甘くない。

 

 今まではそれがコンプレックスになっていた。

 合宿でも、秋の選抜でも、そして今回も、勝てない事が当たり前だと思っていた。後ろに付いていくことが精一杯で追い抜く事さえ考えていなかった。

 

 でも、違ったんだ。

 追い抜く事は出来なくても隣に並び立つ事は出来る。少なくともこいつはずっとそう思っていてくれた!

 

「確かに、俺じゃお前には勝てないかもしれない。でも、それで協力できないと言う事は無い。俺達でやるぞ。この『エフ』に、遠月の学生としての実力を認めさせるんだ! その為に、俺はお前の隣に立つ!」

 

「操くん…………。やりましょう、私達二人で!」

 

 どれだけ臆病者と呼ばれても構わない。

 それで最後に勝てるなら、それで誰かを笑顔にできるなら喜んで臆病者になろう。一番やっちゃいけないのは躊躇して何も出来ずにいる事だ。

 

 だってそれが、ライバルの役割だ。

 主人公に慣れなくても、ライバルになる事は出来る。木久地園果という主人公の隣に立ち、互いに意識し合い高みに上り合う関係。それくらいは俺にも出来るはずだ。

 そして、それこそが今の『エフ』に、水原冬実という料理人に足りないもの。

 

(いい加減気付いているんでしょう? ()()()の幻影を追いかけてもダメなんですよ、水原さん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

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