食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 『F』の悲劇も後半戦に入りますが、今回は少し昔の話になります。

 とある人物の本性というかネタバレがあるのでご注意ください。


お嬢様は効率厨 その一

 ○月×日

 

 趣味として書いていた日記もこれで三冊目に突入した。

 

 今回も普段は他人に言えないような心中をここで吐露していきたいと思います。ま、誰に見せるわけでもないですけどね。日記を書いているのもただ単に私の場合ペンと紙を持って難しい顔をしているだけで仕事しているように見えるからですし。

 

 さて、今日から高等部に進学ですが、うるさい先輩もいなくなったことですし出来るだけのんびり働かない方向で行きたいですね。

 

 

 

 

 ○月□日

 

 あー、だるい。

 

 何がだるいかって、もうすでに自分の足で歩くことすらだるい。

 これでもこの細脚で去年は山を駆け回らされたので体力は付いたかと思いましたが、別にそんなことはなかったみたいだぜ。

 

 …………『だぜ』って、同学年の女の子が言っていたので使ってみましたが、私のイメージとは合いませんね。

 あれ、あっちは『だぜい』でしたっけ?ま、とりあえずこれはここに封印しましょう。

 

 どこかに自分で歩かなくてもいい魔法の道具とかないかな。

 そういえば、この前『三国志』とかいう漫画を後学の為と偽って暇つぶしに読んでいた時、蜀の軍師の人の座っていた動く椅子。あれはいいものだと思います。

 

 今度、アリスのお父さんにお願いして似たようなの作ってもらおうかな。

 

 

 

 

 △月○日

 

 面倒なことになりました。

 

 どうやらこの前話したあの椅子の件をアリスの父がお爺様に話してしまったそうです。

 本人としては私の体調が悪いのかと心配して相談したみたいですが、私は基本的に虚弱体質なだけで健康そのものなので心配はいらないと何度言えば。お陰でお爺様から雷が落ちてしまいましたよ。めんどくさい。

 

 何か欲しいなら結果で示せ。

 最もな言葉ですね。何もしたくないからその為の道具を寄越せと要求している私とは大違いです。

 

 しょうがない、働きましょう。

 

 

 

 △月□日

 

 久しぶりに働きました。

 

 ええ、働きましたよ。私は机に向かっているだけでしたけど。

 

 私には特別な才能がある。

 この日本人離れした翡翠色に輝く両の眼。元から視力はいいほうだったが、ある日を境にこの眼を通して料理を見るとその料理の味や成分がある程度わかるようになった。

 別に未来予知とか透視能力とかそういうのではありませんよ。人間に本来備わっている互換の内一つが極端に発達しているだけです。人間が料理を判断する上で最も精度がいいのは舌でその次が鼻と呼ばれています。その他の耳や触覚、そして目は限定的な場面では使えることがありますが基本的には美味しさを判断する際にはあまり重要視されません。

 

 その中で、私のこの才能は並外れた視力で料理の色やその中に入っている具材などや調理中ならば料理人の手の動きなどあらゆる角度から情報を細分化して分析し、頭の中に詰め込まれた食の技術と照らし合わせて限りなく正しい答えを導き出す。

 

 まぁ、要はよく当たって一応根拠もあるだけのただの勘です。

 同じく薙切で『神の舌』を持つと呼ばれる私の可愛い従姉妹(いもうと)と比べる程のものでもないただの特技。一応的中率は舌による完璧な分析が可能なあちらが200%なら私は100%といったところ。外れないならどちらを使っても構わないと周りに思われているようでたまに私のところにもそういう仕事が来るんですよね。食が太くない私としては料理の鑑定を見るだけで済ますので相手が半信半疑になっていろいろ言ってくることも少なくないので正直あまり評判はよろしくない。

 そもそもが他人の料理を評価するとか向いてないですしね。

 

 と、なると。

 私に出来ることは限られている。

 薙切として育てられる過程で詰め込まれた食の知識とこの眼による新たな料理の作成。料理には材料と調理法の数だけ可能性がある。それを一つ一つ試すでもなく殆ど正解に近い形で導き出す私の眼なら他の料理人が数年かけて作り出すモノを短時間、それこそ数時間単位で作れてしまう。

 

 作り出した料理をレシピとして世に出し、私はその際に入ってくる莫大な利益でのんびりと余生を過ごすことができる。

 これぞ夢の印税生活! 全ニートの憧れ! 労せず大金を掴みましょう。

 

 しかし、いくら結果が分かっているとはいえ、なんの実績もなければ広まるものも広まらない。

 当たる占いも他人を占わなければ噂にはなりませんからね。

 

 ふむ。

 レシピの実証ついでに少し動きますか…………

 

 

 

 △月△日

 

 実験は成功。

 講義などでペアになった生徒などにその場で思い浮かんだレシピを使わせ、最高評価であるA評定を取らせることで少しずつだが私のレシピが拡散されつつある。あまり私の仕業だと思われるのも面倒なのであくまでギリギリA評定を取れる程度のものにレシピの質を抑え、ペアになった子達にもさも自分の実力だったかのように錯覚させておく。

 私は講義中基本的に何もしない。背があまり高くないので大きめの調理台には届かないし、実技では四六時中技を磨いている遠月の真っ当な学生達に勝てないからだ。そんな中で、出来るだけ足で纏いになるように振る舞い、私個人ではなくレシピに対する評価が上がるように調整する。

 

 ゆっくりと、しかし着実に学園中を私のレシピが広まっていく。

 基本的にその通り作っていれば最高評価を出せるように作っているのでそれなりに見る目があるものは最近高評価を取り続けているものを発見し、その理由が彼らの技術の向上ではなくレシピによるものだと気づくだろう。しかし、レシピを持っている生徒は頑なにそれを認めない。何せ、自分達の評価がレシピによるものだと周りに知られれば折角優越感に浸っていたのに周囲からの評価がひっくり返ってしまいますからね。ええ、そういう子達を選んだのは私ですよ。だって、そのほうが操りやすいですし。

 後は正義感が強い子やら、不正等が許せない子達が動き出して一悶着起こることでしょう。

 

 そうなれば私の勝ち。

 少しでも噂が広まり、食戟ででも奪い合ってくれるものならそれで良し。私の目的はレシピが少しでも強いものに渡る事。あくまでバラまいたのは誰かに超えられるための踏み台としての価値しかないものばかり。それなりの性能を持っていて作り手の実力がある程度ありさえすれば最高クラスの料理を作れるが、別に私は自分のレシピが常に一番だとは思っていない。例えその時点では最高だとしてもそれを越える者が現れるのが世界の常。

 この学園にはそれが出来る料理人がそれこそ腐るほどいる。誰も彼もが何百何千人に一人の天才ばかり。薙切の最終にして決して到達できないと呼ばれる目標のためだけに作られたこの箱庭には多種多様な才能を持った者達が集められている。

 

 私が作ったそれこそ、日々進化を続ける彼らに喧嘩を売りつけるようなレシピをきっと超えてくれる者達がいるだろう。

 さてさて、かわいい子供がどれだけ進化して帰ってくるか。タップリと期待して待っていましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠月学園第八十七期生達に起こった悲劇。

 そう言われる事件の発端はとあるレシピだった。製作者不明のレシピを使った生徒達が国内だけではなく、世界的にも難問なこの遠月学園の課題を次々最高評価で突破していく異常事態。

 これは初め、高等部に進学後に若き料理人たちが次々と頭角を現し始めたためだと思われていた。

 

 数週間して一部の生徒達の成績がある一分野のみにずば抜けている事態に学園側が気づいたことによって事態は一変する。

 それだけならまだその分野に特化しているということで処理される問題だったが、彼らのあまりに尖りきった成績に異常を感じた講師達が個別に調査するととんでもない事実が発覚した。

 

 彼らには確かに才能はあった。

 だが、それはとてもこの遠月学園で最高評価を得るに足るものではなかったのだ。

 

 さらに数日後、有志による調査の結果当該の生徒達が全員出自不明のレシピを使用していたことが明らかになる。

 これはハッキリ言って異常であった。

 世界中のあらゆる食に対する知識が集められたこの学園で、良くも悪くも不揃いな生徒達が例外なく最高評価を撮ることができるレシピ。そんなものが一体どこから来たのか。学園講師陣は見えない恐怖に駆られながらもこの事態を引き起こした犯人を探すことを決定した。

 

 しかし、講師陣はそのレシピの脅威を正確には理解していなかった。

 料理人一人一人の技量に関係なく試験を突破する事の出来るレシピ。少数精鋭教育を行い、多くの生徒が卒業どころか進級する事無く切り離されるこの学園でそのレシピが持つ意味を。

 

 奪い合いはすぐに始まった。

 卒業できるものがひと握りであるこの学園では自分以外全ての者が敵だと考える生徒は少なくない。持ち主に関係なく力を与えてしまうレシピが広まれば今までそれによって甘い汁を吸ってきた生徒達のアドバンテージは失われる。当然、レシピの秘匿が始まった。それは同時にレシピを求める者や腕試し感覚で興味を示す者、そして今回の件で遠月の歴史や自分達の努力を踏みにじられたと感じる者達との争いの始まりだった。

 

 レシピを奪い合い、時には食戟に発展する状況の中。

 一部の生徒達がその才覚でレシピを持つ者達を圧倒する場面が散見されたが、衆人の目に晒されたレシピの拡散を防ぐ事は出来ず、ある講義では実に生徒の八割が全く同じレシピを使ったなどという事態が発生。この自体に遠月側では異例の学期内での講義内容の連行とそれに伴う一部のレシピの使用を規制という措置を取らざるを得なくなった。

 

 長年遠月学園で講師を務め、厳格さと公平さで職務を全うしてきたシャペル講師にとっても苦肉の策だったという。

 生徒達がその完成と才覚で新たな地平を切り開いていく際、極端に偏った知識や技術を共有することはその後の彼らの成長の妨げになると学園側は危惧したそうだ。

 競い合い、ライバルや友と邂逅することによって己を構築するという本来の学園の狙いからそれほどまでに当時の状況はかけ離れていた。周囲の者が皆同じレシピを使う個性無き世界。誰が一番優れた料理を作るかではなく、誰が一番上手くレシピを扱えるか競う世界などこの遠月学園にとって悪夢以外の何者でもない。

 

 この状況を作り出した元凶は誰なのか。

 それが判明するのはもう少し先のことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八十七期生の悪夢と呼ばれる事件。

 その最初の引き金となったレシピを巡る騒動は学園側が動いたことによって一応の収束を迎えた。

 

 しかし、それは表向きのこと。

 上から規制されたからといって当事者達が納得するわけがない。

 何者かによって意図的に仕組まれたレシピの奪い合いのトーナメント。バラ撒かれたレシピを己が才で打ち破り実質的な勝利者となった少年は持ち前の正義感と使命感から事件解決後も単独で動き、ついには黒幕の元までたどり着いてしまった。

 

 学園中を混乱に陥れ、少年が信じる料理と誇りある遠月学園を侮辱した罪は大きい。

 例え相手にどんな意図があるとしても決して許せるものではなかった。

 

「君が、あのレシピを作ったんだね」

 

 黒幕だけに分かる合図で呼び出したのは学園にいくつもある調理室の一つ。

 そこに入ってきた人物は少年に気づくと、見蕩れるような完璧な作法と共に礼を尽くしたお辞儀をする。

 

「ごきげんよう。今日はいい天気ですね」

 

 そこに入ってきた黒幕。

 この学園の総帥と同じ姓を持ちながら、同学年の中でも落ちこぼれと称されていた黒髪の少女はこれだけの事件を起こしたにも関わらず、悪びれもせず世間話でもするかのように話しかけてきた。

 

「君のやったことは多くの料理人を侮辱した。理解しているのかい?」

 

「ぶじょく、ですか?」

 

 少女の両の眼に輝く翡翠の目が不思議そうに少年を見つめてきた。

 まるでその意味を理解していないかのように無邪気で、優しい笑顔。一瞬本当にこんな少女があの悪夢のような事件を起こしたのかのかわからなくなる。しかし、この一ヶ月で食戟を行って集めた証拠が彼女を犯人だと言っているのだ。この事件で決して少なくない生徒が退学に追い込まれてしまった以上、ここで引くことは少年には出来なかった。

 

「そうだ。あのレシピのせいで多くの人に迷惑が掛かった。学園がこのひと月、どんな状況だったか君も知っているだろう?」

 

 強く、糾弾するかのように自然と声色が強くなっていく。

 それに押されたのか少女は浮かべていた柔和な笑みをしまい、どこか困ったような表情になる。

 

「何故、こんな事をしたんだい? イタズラにしてはタチが悪い。自分の作ったレシピがまさかこんな事になるとは思わなかったとでも言うつもりかい? 例えそうだとしても、名乗り出てくれれば…………」

 

「名乗り出て、どうするんです?」

 

「…………君が名乗り出ても何も変わらなかったかもしれない。でも、君には騒動を起こした人間としての責任というものがあった筈だ」

 

 確かに、あのレシピの存在が学園中に広まってしまった時点で制作者が名乗り出てももう遅かったかもしれない。何の意味も無かったかもしれない。だが、それでもその責任をこの少女は果たすべきだった。少なくとも、少年はそう信じている。

 

「そう、ですか。では、私に人柱になれと言う事ですね。この責任を取って皆さんの前で謝罪し、今まで作ったレシピを含めて全て焼却しろと」

 

「待て、他にもレシピがあるのか?」

 

 その言葉を聞きのがす事は出来なかった。

 彼女が謝罪するのはいい。それが正しい判断だ。しかし、その際に彼女が創ったレシピが万が一表に出てしまいでもしたらまずいことになる。流石に今回のようなものは無いだろうが、物が物だ。責任ある人間が管理するべきだろう。

 

「そのレシピは僕が預かろう。学園に広まらないように確実に保管する」

 

「正義感が強いんですね。ですが、今回の件は私の不用意な行動が原因です。他のレシピは償いとして私が責任を以て処分しましょう」

 

「…………それは出来ない。言っては何だけど、君には前科がある。また同じ過ちを犯すとも限らない。それに、処分したとしてもレシピを作った張本人が居るんじゃ何の意味も無いじゃないか。それなら、対処しやすいように誰かが管理するべきだ」

 

 もう二度とこんな事は起こらせない。

 その覚悟を以て今回彼女を呼び出したのだ。少しでも再発の可能性を潰すために全力を注ぐつもりだった。

 

 そう、彼女は信用できない。

 この場で最初に会った時にそう直感した。そして、その感情は今も尚強くなっていっている。

 

 そんな少年を嘲笑うかのように少女の表情が変わるのは一瞬だった。

 

「ふふふ、面白い事を言うのね」

 

「何が可笑しい。これは当然の――――」

 

「当然の判断? それはどうかしら。もし、私を本当に止めたいのなら講師陣や十傑、それこそ学園そのものに今回の件を話せばいいでしょう?」

 

 そういった少女は先程とは違う、どこか蠱惑的な笑みを浮かべ近づいてきた。

 

「どうして自分で管理するなんて言うの? ここまで来たご褒美にそうしてあげてもいいけど、私のレシピを使わずに今回勝ち抜いたあなたにあれは不要でしょう?」

 

「ご褒美だと。ふざけているのか! 一体君がどれだけの事をしたのかッ――――」

 

 まだ、この少女は理解していないのか。

 自然と語気が強くなるのを感じながらも責めずにはいられなかった。

 

 少年の怒りを感じ取ったのか、少女は少しだけ怯えた様子を見せながらも心中を吐露し始め。

 

「私はただ、真剣に授業に出ていただけですよ? 知っての通り私はとてもじゃないですが、他の方々と比べて勝っていると思える点がありませんからね。だから、必死に編み出したのがあのレシピです。講義などでペアを組んだ人に責めてもと渡していたのですが、それがいけなかったのですね。まさかこんな事態になるなんて―――――――と、でも言えばいいんですか?」

 

 小馬鹿にするように少年を笑っていた。

 一瞬、信じてしまいそうな涙ぐむ演技が神経を逆なでしてくる。

 

「ッ、ふざけるなよ。僕にも我慢の限界がある」

 

「そうですね。そうしたらいいんじゃないですか? 怒りに身を任せて私に手を出してみればいいんじゃないですか。そうすれば、私のレシピは貴方のモノになりますよ?」

 

「僕にそんなものは不要だ。君のレシピなんて無くても僕はこの遠月で勝ち抜いて見せる」

 

「そうですか。そうですね。貴方は私の試練を突破しましたし、その資格は有りますか。…………では、新しいのをあげましょう」

 

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 まるで自分を試していたかのような少女の口調に違和感を覚えると同時に用意していたとでもいうかのように手渡されたそれを見て固まる。

 

「どうしたのですか? さあ、受け取って下さい。今回の報酬ですよ?」

 

 その言葉に、歓喜する自分が居た。

 まるで、言いつけを守ってご褒美をもらえると思った子供のように。今までお預けを喰らっていて、久しぶりに餌を与えられた獣のように。

 少年の視線は目の前のレシピに釘付けになっていた。

 

「ご苦労様です。よく頑張りましたね。私のレシピをここまで育ててくれてありがとうございます」

 

「ち、違う。これは、僕のだ。僕が、僕が考えついたものだ」

 

「いいえ、違いますよ。そう思い込んでいるだけです。私が思いついたレシピをあなたが一番うまく活用した。それだけでしょう? なんなら、今自分が使っている料理のレシピをいつどうやって思い出してもらって構いませんよ」

 

 視線がレシピから少女の翡翠の眼へと誘導される。

 その眼には確かに見憶えがあった。

 

『今日はよろしくお願いしますね』

 

 一度だけ、講義で組むことになったあの日。

 一体何を作ったか。あの時この少女は何をしていただろうか。

 

「嘘だ。これは僕が考えた、僕だけのものだ。誰にも渡さない。誰にも渡してたまるか!」

 

「それでいいですよ。今回もそうすればいいんです。今日の事は私と貴方しか知りません。私は知っての通り落ちこぼれですし、方や貴方は今回の騒動を自力で勝ち抜いた英雄。周囲がどちらの言葉を信じるかなんて一目瞭然でしょう? さあ、手を取って下さい。私は日陰者、貴方は日に当たる世界を歩く。これまでも、これからもそれは変わらないでしょう?」

 

 少女の言葉に、ゆっくりと少年はその手を伸ばし―――――。既にその呪縛から逃れられないほど縛られていることを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □月△日

 

 実験は成功。

 今日は使い勝手のいいテスターも手に入った。それにしても、人間の記憶って本人の思い込み次第で都合良く書き換えられるんですね。

 

 一番私のレシピに依存していた子に呼び出されたと思ったら、自分を正当化して私に罪を償えとか言ってきましたよ。私がレシピを処分するとか言ったら眼の色変えて止めに来ましたけどね。

 

 それにしても、あの程度のレシピにどうしてそんなにむきになるんでしょうか。

 彼が行ったように、ある程度進化できるように拡張性を残したものなのでそこまでの完成度は無いですし。うーん、一から作るのが面倒だからとかですかね。確かに土台があるのと無いのでは全然違いますしね。

 

 取り敢えず、今回学園中にばら撒いて生徒達それぞれが手を加えたレシピをワンランク上げたモノを今度は適当に外の顧客に売りましょうか。学生よりも高値で買い取ってくれますし、学園内でこれ以上動くのも面倒ですからね。

 

 それにしても、ちょっと放っておくだけでこれだけの成果が出るなんてやっぱり何事も一人でやるよりみんなで協力した方が効率がいいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おまけ バレンタインその一

榊奴「今日はバレンタイン。それは作ったチョコを合法的に配り、みんなを笑顔にすることができる日! よし、作るか」


 木久地園果の場合

園果「いろいろ大変ですけど、日頃お世話になってますし――で、でも、やっぱり直接渡すのは。こ、ここはタキ先輩にお願いして―――」

榊奴「お、こんなところにいた。いつもありがとう。これはバレンタインのチョコだ。あ、ホワイトデーも別でクッキー作るからよろしく」

園果「あ、あの榊奴くん? こ、これよかったら―――――って、いない!?」


 角崎タキの場合

榊奴「あ、タキ先輩。これ、バレンタインのチョコです。いつもお世話になってます」

タキ「お、おう。―――わ、私からも実はな」

榊奴「いやー、よかった。タキ先輩が相手だと受け取ってもらえないんじゃないかと―――あれ、どうかしましたか?」

タキ「それは、私にチョコが似合わないってことか? いい度胸だな、後輩」

榊奴「いや、ビターにしたんですけど、もう少しかわいい系の方が良かったかなと。でも、それだと恥ずかしがってもらってもらえそうに――――」

タキ「お前の中の私がどうなっているか一度しっかり聞いといたほうが良さそうだなァ?」

 
 水原冬美の場合

水原「操、これ。この前のスタジエールのお礼」

榊奴「こ、これ水原さんのレシピじゃないですか! いいんですか!?」

水原「こっちのほうが役に立つでしょう?(何か嫌な予感がするし、チョコを渡すのは今度の方が良さそうね)」

榊奴「ありがとうございます! あ、これお礼と言ってはなんですが―――」

水原「チョコ? 最近は男の子も作るのね。ありが」

榊奴「最近って、別にそんな年食ってるわけじゃ―――あの、どうしてそんな怖い顔をしているんです?」

水原「…………女性に年齢のことを面と向かって言うのはダメ」


 矢成音孤の場合

音孤「みーさ、バレンタインで色んな研究会が試作品作ってるらしくてさー。私のチョコいなりを差し入れしてまわろうぜー」

榊奴「完全に地雷っぽいのに滅茶苦茶美味いアレですか。他の研究会の人のプライドが粉々になるんでやめといたほうが」

音孤「しょうがないねい。それじゃ、私は薙切えりなの所に行ってよからぬ知識を植え付けてくるぜい」

榊奴「お、それはいいですね。面白そうだし、俺も行きます。あ、これチョコです。えりなちゃんと秘書子ちゃん、後いればアリスちゃんと黒木場くんにも渡さないと」

音孤「おし、いこうぜい!」


榊奴「あ、チョコの味どうでした?」

一同「普通」

 
 榊奴操。
 彼は基本的に誰にでも親切にするので好感度が上がりやすいが、料理の事になると空気が読めなくなり肝心のチョコも渡す相手が各上揃いなので定期的に好感度がリセットされる。


 
 薙切せりかの場合

榊奴「疲れた。あ、チョコ渡すのに夢中で今日結局一個ももらっていないや」

せりか「あ、みーくん。昨日渡したレシピですけど」

榊奴「あ、せんぱい。早速作ってみましたよ。ちょうど渡す予定だった全員分あったんで助かりました」

せりか「そうですか~。それはよかったです」

榊奴「あ、でも。渡す予定がなかった子がにも渡す機会ができたんで、慌てて作りましたけどね」

せりか「ほう、まだ増えますか。…………その子の名前と外見と好み。わかる範囲でいいので後で教えてくださいね」

榊奴「いいですけど、本人の許可がないとあまり詳しく教えるのは」

せりか「いいですよ~。ある程度分かれば。それと今日はご苦労様です。これ、今日一日頑張ってくれたご褒美ですよ」

榊奴「あ、ありがとうございます!」

せりか「因みにみーくんは今日チョコ何個もらったんですか?」

榊奴「いやー、恥ずかしながらせんぱいからもらった一個ですよ。渡すのに夢中で」

せりか「ふふふ、そうですか~」






 興味の無いものにはとことん無関心。
 それが薙切クオリティ。

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