未知の攻撃に再び窮地に陥った一行は、突如として黒咲のデュエルディスクと共鳴した魔道書を媒体に出現した英霊と共闘することになる。
「ジャンヌゥゥゥゥゥゥ!!!!」
と、叫んでいたので生き別れの恋人だろうと予想した榊奴と同じく妹を『アカデミア』に攫われた黒咲は奪われた仲間は必ず奪い返すと約束し、黒衣のキャスターを味方に加え融合次元打倒の決意を強くするのだった。
次回、食戟ファイターARC-V
第四話「融合次元の瑠璃」 おまえわたしをなめているのか!
前話は少々やりすぎた感があるので今回からは普通の描写に戻そうと思います。(番外編はそのままです)
榊奴操の調理は異常だった。
四宮が創り上げたルセットを本人の目の前で自らの作業と照らし合わせながら調理していく。それでいて輪唱のように数手遅れではあるが、一瞬の動作の違いもなく食材をその魔術で料理へと変化させる。
(噂には聞いていたが…………)
実際に見ると料理人として薄ら寒さすら感じるほどの正確性だった。
しかし、榊奴操の調理にそんなものは存在しない。
四宮が現場の中で掴んだ無駄の無い動きを榊奴は目の前のルセットを参考にするだけで寸分狂わず実行する。その動きを見るとまるで今までの経験を積み重ねて完成した自分の動きが正しいものだと遠回しに答え合わせされている気すらする。
「四宮さん、シンデレラって知ってますよね?」
「…………何だ、薮から棒に」
「いえ、継母達に虐げられていたシンデレラって可哀想な少女は魔法使いの魔法によって純白のドレスとかぼちゃの馬車を手に入れた。これって、俺達料理人に当てはめると面白いと思いません?」
飄々とした口調ながらもその手は数瞬前の四宮と一切差異無く動き、その目は真剣にこれから作ろうとしている料理のルセットと食材に注がれながら、榊奴は同意を求めるように四宮に語りかける。
「魔法使いが料理人と言いたいのか?」
「ええ。それでシンデレラやかぼちゃが食材で魔法がレシピといったところです。魔法使いは
「何が言いたい?」
要領を得ない会話に若干の苛立ちを覚えながら、四宮は次の食材の調理に入る。この九種の野菜のテリーヌは使用するそれぞれの野菜が主役であり、それぞれの味に優劣が付かないように同時進行で調理をする必要がある。それはたった一つのミスでコース全体の動きを損ねるフランス料理の縮図であり、四宮をしても会話中に手を止めるという愚行は致命的になるほどだった。
「簡単な話です。どうして王子はシンデレラを見つけられなかったのでしょう?舞踏会に来ていたどんな美女よりも魅力的に感じられた美女を彼女にガラスの靴をはめるまで確信が持て無かった。俺の解釈はこうです。”魔法使いの魔法が完璧すぎた”。元から美しかったシンデレラを夜空に輝くたった一つの月へと変えてしまえるレベルでね」
「はっ、そいつは結構な話じゃないか。お前の言う通りの解釈だとすれば魔法使いのルセットは王子を虜にするような料理を作り出した。それの何が問題ある」
「俺が言いたいのはシンデレラじゃなくかぼちゃの馬車の方ですよ。アレの元になったのは民家にあったかぼちゃとネズミですよ?元から素材のよかったシンデレラとは訳が違う。レシピってのは前提としてそれに見合った食材と設備が存在する。かぼちゃとネズミが魔法使いのレシピの材料として最初から存在してたんですか?」
榊奴の手が数秒前に西宮が下処理に入ったカリフラワーへと伸びる。だが、同じなのはそこまでだった。
この勝負で明確な勝敗が付くとするならそれは料理人の腕以上に食材の優劣となってくる。その中で四宮のものに対し既に痛み始めているカリフラワーに榊奴は全く別の処理を加える。
「だから、俺は――――――
「”ワインビネガー”だとっ!?」
レシピに沿って料理を作るというのは料理人にとって誰にでもできる才能ですらない基本的なことであり出発点だ。
誰でも最初は誰かが作ったレシピを参考にする。そして、その中でも才能のあるもの達はそこから前に進み自分だけのレシピを作っていく。
料理というのは料理人から料理人へのレシピという魂のバトンリレーであり、今日の美食社会があるのは一重に未知への挑戦という、料理人達の弛まぬ努力と研鑽の結晶である。
遠月学園はそんな食の未来を作り出すたった一握りの玉を生み出すための箱庭であり、言ってしまえば新たなレシピを作り出す
しかし、レシピ通りの料理というスタート地点をただ一人、がむしゃらに極めたものがいた。
「操―――――」
判定員のひとりであるイタリア料理店「リストランテ エフ」という城を持つ遠月が求めた玉の一人、水原冬美は三年前のスタジエールにてエフにやってきた一人の学生について回顧する。
遠月学園の伝統的な行事であるスタジエールは学園を出て実際の食の戦場で今まで培った学生たちの実力を発揮するという建前を持って行われる一年生が本当の意味で遠月学園の生徒として認められる為の最後の試練である。
秋の選抜という一種の祭りが終わり、学年のトップクラスの実力が明らかになった中で選抜に出ることの出来なかった生徒や結果を残す事の出来なかった生徒をふるい落とすことで学園の方針である少数精鋭教育をスムーズに進める。
そして、一見店に順応し、卒無く仕事をこなす少年もその候補の一人だった。
このスタジエールはただ与えられた仕事を行うだけでは決して突破できない。
研修先の店に何を与えられるか。
それこそが真の目的であり、「エフ」という水原の集めた一流のスタッフが犇めく魔境はスタジエールの本来の目的を考えると殆ど攻略不可能な城塞だった。
何せ既に世界に名を連ねるほど完成された調理場は学生と異物を容易に弾き並の学生ならば対応する事すら出来ずに終わる。例え対応できたとしても学生レベルの実力で既に一流の職場に何を与えられるだろうか?
少年はそれでもよくやったほうだった。
一週間という短い期間を理解し、無理矢理にでも二日目には店の作業を並程度にはこなせるようになっていた。
三日目には調理の一部を任すようになり。
五日目には一人で数品を作り上げるほどになる。
七日目にはスタッフの何人かを実力で抜くまでになった。
スタジエール最終日までなって少年の抜ける穴というのは次の日には何事もなく塞がる程度のものでしか無かった。
「どちらが勝ちますかね?」
「順当に行けば間違いなく四宮」
隣に座るドナートの質問に答えながら水原は自分の身体が小刻みに震えていたことに気づく。
当時の恐怖が蘇る。
遠月において
他人が作り上げたレシピを完全にコピーし、あらゆる状況に対応することの出来る万能さとレシピに本来記されない実際の火入れのタイミングや切った野菜の大きさまでもコンマ単位で読み解く才能。
この二つの才能は似ているようで全くの別のものである。
榊奴操という料理人が行うのはただレシピ通りに料理を仕上げるだけ等という生易しいモノではない。どれだけ道化を演じて調理風景などで観客を喜ばせようとその先に待つのは料理人としての栄光の終わりでしかないのだ。
(そう、”この”食戟は間違いなく四宮が勝つ。でも、その後は―――――――)
その少年がスタジエールの数カ月後、一年生ながら第十席の頂きに到達した事を知った時にはオーナーシェフの水原以外の全料理人が再起不能の事態に陥り、それまで来ていた固定客の離れた
食戟中なせいで視点が主人公から移り変わるにつれドンドン化けの皮が剥がれていく。いよいよ次回あたり主人公が天才でありながら愚才と呼ばれる理由が明らかになります。
水原シェフ、トラウマを植えつけたりしてすみません。
なお、当時の主人公はスタジエールの意図に全く気づいてなかった模様。
一日目「やべー、ここ水原先輩のところじゃん!俺殺っていけるのかなぁ。でも、”あの人”が一生懸命やれば大丈夫って言ってたし………よし、頑張ろう!」
三日目「ふう、ひとまず仕事は大分覚えてきたな。水原さんの役に立てればいいけど………。そう言えば暫く学園戻ってないけどタキちゃん大丈夫かなぁ」
五日目「お、俺が料理を!?どうしよう、まずはレシピを見直して、先輩達の動きも覚えなきゃ!」
七日目「あっという間の一週間だった。俺ちゃんと役に立てたかなぁ?スタッフの皆さんとは役に立てたし、水原さんは可愛いし、俺卒業できたらここで雇ってもらうんだ!」
↓一ヶ月後
水原「どうしてこうなった」