乙女はアイドルになる   作:s.s.t

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木曜の朝にようやく書く時間取れたんですけどサーバートラブルで書けなかったんですよ。いやー書きたかったのになー(建前)
評価が嬉しく最近は執筆にかまけて私生活を疎かにしていたので埋め合わせしていました(本音)
他の方の作品にハマってそっち読むのに時間使ってました(真相)

正直なところ分不相応な評価を頂いている気がしていましたし、ちょうど良い機会だと思って無理のない更新ペースにします。
前に言った通り週1の更新が目標です。



通常の3倍

ランジェリーショップはビルの5Fに集中しているので1Fから順にいろんなブランドの店を冷やかして回っていたのだが、4Fに来たところでPさんが何かに気付いた。

 

「あら、あそこにいるのはウチのアイドルね」

「ははっこんな人の多い休日の渋谷にアイドルがいるとかワロス」

「いいから見てみなさい。あの3人組よ。変装してるけどよく見たらわかるでしょう」

「うーん?」

 

ぱっと見小学生か中学生くらいの背丈の子2人に、付き添いなのか高校生くらいの女の子が挟まれている。

髪の色がバラバラだけど姉妹みたいに仲が良さそう。服装がギャルっぽいし染めてんのかな?

 

しかし全く思い当たる人物がいない。

会ったことがあるならさすがに気付くだろうし、そもそも俺の知らないアイドルなんじゃないの?

 

「ちっちゃい子2人はCPにも参加していたアイドルよ」

「え、マジで」

 

CPで背の低い子なんてそんなに多くないじゃん。

黒髪の子は赤城みりあで確定として、もう1人金髪の子は……

 

「はっ! まさか杏ちゃんか?」

「杏ちゃんはみりあちゃんより小さいでしょ」

 

まあわかってたけどね。

ようやく俺にもわかったけどみりあちゃん以外の2人は城ヶ崎姉妹だ。

あまり詳しくはないが姉妹でアイドルやってるってことだけは覚えてる。

 

「というか私あの3人のことほとんど知らないですけど」

「顔くらいは知ってるでしょう。3人の変装もそれなりだけど、変装に気付いた上で誰かわからないのは有ちゃんが悪いわ」

「さいですか。まあ346所属のアイドルがプライベートでも仲良しだと確認できたとこでさっさと行きましょう」

 

万が一同行することにでもなったら地獄ですよこれは。

 

「待ちなさい」

「嫌だ! どうせあの子らも連れて行って私をからかうつもりなんでしょ!」

「違うわよ。邪魔をしたら悪いし私はわざわざそんなことしないわ」

「ほんとに?」

「ええ。ただ正体がバレないように気を付けてって念のため忠告しておきたいの。でも騒ぎを起こしたくないのよね」

「話しかけたせいで正体バレちゃったら意味ないですもんね」

「ということで、有ちゃんはこれを使ってさりげなく話しかけてきて」

「えー。なぁにこれぇ」

 

本気かPさん。こんなもので俺に行けと?

まあそこは命令遂行に定評のある小鳥遊としてやってみせましょう。

 

「それを美嘉ちゃんに見せるだけでいいわ」

「りょーかい。小鳥遊、いっきまーす」

 

まあこっちから大声出したり向こうを驚かせなければ注目も集まらないでしょ。

ていくいっといーじー。

 

なるべく自然に商品を見てますって感じで3人の横に移動、いかにも偶然気付きましたという体で話しかける。

 

 

「あのー。間違ってたら申し訳ないんですけどもしかして城ヶ崎美嘉さんじゃないですか?」

「え? あちゃー、バレちゃったか。はーい私が城ヶ崎美嘉です★ でも今プライベートなので周りには内緒でお願いしますね」

「わあやっぱり。私美嘉さんの大ファンなんですよ。お会いできて光栄です」

「なになにお姉ちゃん? ファンの人?」

「うわー! すごいキレイな人だね莉嘉ちゃん!」

「いやーそれほどでも」

「お姉さんが自分で言っちゃダメでしょ。莉嘉もみりあちゃんもお忍び中なんだから静かにしててね」

「はーい」

「はーい」

「はーい」

「うん、よろしい。あとお姉さんは返事しなくてもいいです」

「美嘉さんが大好きです。第一印象から決めてました。サインください」

「え、いや女の子同士だしそういうのはちょっと……サインならまぎらわしい言い方しないでください!」

「すまそ」

「まったくもう…………え?」

 

怒りながらもちゃんと色紙を受け取ってくれる優しさがあったかーい。

しかし残念だったな! それはPさんの罠だ!

 

色紙にはすでに文字が書き込まれていてサインをする余白がない。この時点で対象は混乱し、色紙を渡してきた俺の顔と文字を往復するように何度も見つめる。

 

色紙にはシンプルに一言。

『後ろを見なさい』とだけ書かれていた。

 

文字の意味を理解して背後へと振り向くも時既に時間切れ。俺との会話、そして色紙と俺に対する注目は致命的な隙となりPさんに回り込む時間を与えてしまった。

 

 

「はあーい美嘉ちゃん。元気してた?」

「ひゅっ」

「あ、叫んじゃダメよ? ゆっくり息をして落ち着いてね」

 

 

その口から漏れたのは悲鳴とも呼べないような声で、俺の脳裏にはああいうのが息を呑むという表現にぴったりなのかもしれないなどという場違いな思考がよぎっていた。

この空間を支配しているのは間違いなくPさんである。表情には笑みしか浮かべていないが対象に明らかな恐怖を与えていた。

対象は必死に息を整えようとするも、焦りがさらなる焦りを生んでしまい思うように呼吸が出来ていない。

 

「あ、あの。おひ、お久しぶりです、増田さん」

「ほんとに久しぶりよ〜。昔はあんなに可愛がってあげたのに、最近の美嘉ちゃんは全然接点ないんだから」

「いえ、その、ちょっと……い、忙しくて」

「そうねー。最初の美嘉ちゃんじゃ考えられないくらい人気者になったものねー」

 

 

空気が重いって現実に体感できるものなんだね。

この2人に昔何があったのかは皆目見当もつかないけどPさんが怖いってのは大いに同意できるよ、うん。

 

だからそっちも俺がこの場から逃げようとする気持ちをわかってくれるよね。

 

というわけでさっきまでPさんの接近に気付きつつも姉ヶ崎さんの指示通り静かにしてた莉嘉ちゃんとみりあちゃんに合流させてもらおう。

 

 

「あっちが怖いんでお2人に私も混ぜてください」

「うんいいよー。いきなり増田さんが来たからびっくりしたよね! おねえちゃんはすごいビビリモードだし」

「お姉さんも増田さんの知り合いなんですか?」

「はい、小鳥遊有と申します。実を言うと私も最近事務所に入りまして、莉嘉さんとみりあさんの後輩ということになります」

「そうなんだ! たしかにキレイな顔だもんね!」

「よろしくお願いします有さん!」

「こちらこそ」

 

いやー良い子たちだわー。

初対面の大人をあっさり受け入れてくれるなんてちょっと心配するほど素直だわー。

 

「ねーねー有ちゃんって呼んでもいい?」

「り、莉嘉ちゃん。大人の人には失礼だよ」

「えー大丈夫だよ。有ちゃんってなんかノリ良さそうだもん!」

「そんな勝手なこと言ったら有さん困っちゃうよ」

「かまわんよ」

「ほらーいいって言ってるじゃん」

「な、なんでー!?」

 

坊やだからさ。正確にはお嬢ちゃんだけど。

やっぱ子供相手に敬語は使うのも使われるのも疲れるよねー。

 

「みりあちゃんも敬語なんて捨ててかかって来い!!」

「う、うん。わかった」

 

子どもが大人相手に気を遣うもんじゃないぜ。まして俺なんて(精神的に)大人かどうかも怪しいし。

 

「ところで莉嘉ちゃんのお姉さんはなんであんなにPさんを怖がってんの?」

「そうそうそれ! アタシも気になって聞いたことあるのに教えてくれないんだよ!」

「私はちょっとだけ教えてもらったよ」

「えーウソ! なんて言ってたの?」

「知っているのかみりあちゃん!」

「えーとね。昔一回だけ “やんちゃ” しちゃったことがあって、その時にすっごく増田さんから怒られたんだって」

「もーたいしたことないじゃん! なんでアタシには教えてくれなかったの!」

 

妹相手にかっこわるいところ見せたくなかったんじゃん?

しかし『やんちゃ』と一言にされてはいるけど意外と深い闇がありそうで怖いなー。触れんとこ。

 

 

 

てきとーに雑談しながら莉嘉ちゃんたちがいた店の商品を眺めているとようやくPさんと姉ヶ崎さんの会話が終わったようである。

 

「うう。やっと解放された」

「おねえちゃんやっと来た。何話してたの?」

「変装が未熟って増田さんに言われちゃった。もっとうまく変装するか、トラブルに備えてプロデューサーみたいに頼れる人も連れて行けって」

「3人とも今じゃ売れっ子なんだから当然ね。行動はなるべく制限したくないけど危機感は持ってちょうだい」

「Pさんへの危機感は常に抱いてますが」

「じゃあ緊張を保てるよう定期的に試練を与えてあげるわ」

「大魔王再臨」

 

助けて勇者ー。あ、勇者もPさんだった。

 

「増田さん、この人は?」

「有ちゃんっていうんだよおねえちゃん」

「さっきなかよくなったの!」

「小鳥遊有でーす。さっきはごめんね★」

「え、なんで私のマネしたの? ファンだから?」

「あなたのファンだと言ったな。あれは嘘だ。あと★は元々使ってましたー。いくらカリスマギャルだからって自意識過剰じゃないですか姉ヶ崎さん」

「ご、ごめんなさい?」

 

本当に元々使ってたんでそこんとこよろしく。

☆じゃなくて★を使うのは白星より黒星の方が負け犬っぽくて自分に合っている気がするからである。

でも莉嘉ちゃんたちから姉ヶ崎さんのことも聞いたけど自他共に認めるカリスマなんだってね。完璧な勝ち組なのになんで敗北アッピルしてんのこのカリスマギャル。

 

「有ちゃんはコミュ障ぼっちだからちょっと言動がおかしいけど許してあげてね。これでもニートとアイドルの素質はあるのよ」

「それほどでもある」

「褒められて……ないよね? いや有さんがそれでいいならいいけど」

「私は一向にかまわん。Pさんが怖い仲間として姉ヶ崎さんとは仲良くしたい所存」

「仲良くするのはいいけどアタシのことPさんに売ったことスルーするのは面の皮が厚いよ」

「まあまあ落ち着いて姉ヶ崎さん。それには深い理由があるんだぜ」

「増田さんが怖いからって言ってたよー」

「私たちのところに逃げてきたんだって」

「正直姉ヶ崎さんは後で怒られるとしても怖くなかった」

「もー! 莉嘉もみりあちゃんも結局助けてくれなかったしみんな薄情すぎ!」

 

 

怒らせちゃったぜ。

ほんとはPさんだって姉ヶ崎さんのことを想って叱ってくれたんだっていう正論でうやむやにしてごまかそうと思ってたんだけどね。

ちびっ子たちの純粋無邪気パワーで俺の策略が破壊されてしまった。

 

 

さて、姉ヶ崎さんの心証が多少悪くなったところでこのまま解散する流れになってほしい。お互いの買い物があるんだから別行動する方が自然なはずだし。

 

「有ちゃんたちはこの後どこ行くの?」

「私一緒にお店回りたいな!」

 

きた! ここでさりげなく断るんだ!

幸いPさんは3人を邪魔するつもりはないって言ってたし、いけるはず。

 

「すまんけどこの後予定があるんよ」

「有ちゃんったらこの年までブラジャー着けたことないっていうから買いに来たのよ」

「ブラ買いに行くの? アタシも新しいのほしいから行く!」

「有さんその年でノーブラはヤバイよ。アタシたちもついて行くからちゃんとしたの買おう?」

「あのね、ブラジャー着けるのは恥ずかしいことじゃないんだよ。私も最初は知らなかったけど、女の子の体を守る大事なものなんだって」

「なん……だと……?」

 

ここまでの流れ完全に無視?

Pさんの一言で盤面がひっくり返ってしまった。まるでこうなることがわかっていたかのように。はっ!

 

「謀ったな、Pさん!」

「ふふ。有ちゃんも頑張ったみたいだけどまだまだ甘いわね。もちろん3人が言い出したことだから私は邪魔してないわよ」

「なぜだ。なぜこんな仕打ちを!」

「坊やだからよ」

 

ああ確かに、この場に坊やは俺だけだもんね。

どうやら姉ヶ崎さんを罠にかける段階から全てPさんの計算だったらしい。

つまり本当に窮地へ陥れられていたのは俺だったということか。

 

死地へ赴く兵士ってこんな感じか。不思議な気持ちだぜ。

恐怖も高揚もない。これから起きることを認識してただ静かにその時を待っているんだ。

 

俺もいっぱしのアイドルとして覚悟が出来てきたってことかな。きっとこれが成長ってやつなんだ。

いや自分でも何言ってるのかわからんけど。

 

 

「下着買うなら5Fのあの店だよね!」

「いい有さん? 胸が小さい人でもブラしなくていいわけじゃないんだからね」

「私カワイイやつがほしいなー」

「現実逃避してないで早く来なさい」

 

 

ヤメロー! シニタクナーイ!

 

 




通常の3倍のスピードで城ヶ崎姉に接近するPさん。
通常の3倍の言い訳をする前書き。
三倍満を和了がられそうな最後の主人公の叫び。

初対面のアイドルとのやりとりを書くたびに話進まないなーと悩んでます。すっぱりカットした方が良いんでしょうか。


人物紹介のコーナー。城ヶ崎姉は次回。

●赤城みりあ(アカギ)
アイドル界の闇に降り立った天才。麻雀が強い。
偽物が出現したこともあるが無様な断末魔の叫びと共に消えた。

本当は元気いっぱいの正統派アイドル。パッションのくせに色モノ感がない。
逆に普通すぎて作者はアニメの彼女に対して天真爛漫以外のイメージが残ってない。しまむらの方が目立ってた気がする。
ゲームでも純粋さや元気さは小学生組ならだいたい標準装備なので特出した個性はないように思う。
どちらかといえば城ヶ崎姉妹と交流があったり、蘭子語が理解できたり、千枝ちゃんと共演が多かったりと他アイドルとの関わりで個性を得ているのではないだろうか。

目上の人相手なら敬語を使える子だが、主人公に対しては目上という感じがしないし本人の言葉もあったのですぐに打ち解けた態度で接するようになった。

●城ヶ崎莉嘉(じょうがさきりか)
城ヶ崎姉妹のカブトムシが好きな方。姉に憧れてギャル文化に染まっているがシール集めが趣味だったりカブトムシ好きだったりと小学生らしいところもある。
しかし実際は中学1年生で実年齢よりも幼い疑惑があったりなかったり。

胸のサイズが2つ下の学年であるみりあよりも小さい。初めてのブラを一緒に買いに行った時はそのことをちょっぴり悔しく感じたりもしたが、みりあの胸のサイズを測る姉の様子の方が強く記憶に焼き付いたので直ぐに忘れた。

初見で主人公が敬意を払わなくても良い人間だと見抜いたあたり人を見る才能があるかもしれない。


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