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昔の王様は城の大きさで自らの権威を誇ろうとしたらしいが、これを見れば成程、と納得してしまう。
ルーブル美術館。
元は宮殿だった建物を流用して建造された美術館は荘厳の一言に尽きる。
壁に流麗な装飾を施されている点は、昨夜訪れたガルニエ宮と酷似しているが、規模はまるで違う。
ガルニエ宮での騒動を修めた
ただ、世界的にも有名な観光スポットである事から訪れる客も多く、入り口付近には来館者による長蛇の列が形成されていた。
「獅子の門から入ろう。観光客が知らないから、並ばずには入れる」
地元出身のジャンヌが、勝手知ったる様子で皆を先導して歩き出す。
今日ここに来たのは、メーヤの提言に拠る物だった。
件の幸運強化により武運に恵まれているメーヤが告げた事は、たとえ「勘」であったとしても無視はできない。
ある種の「占い」的な要素も期待できる事から、ここは任せてみようと言う事になったのだ。
ちなみに、流石に美術館に堂々と帯刀して入る訳にもいかないので、逆刃刀はキンジに預けてある。先の藍幇戦でスクラマサクスを失い、キンジの背中は空になっているのでちょうど良かった。
ジャンヌの言った通り労せずして中に入ると、内部は更に華美な装飾によって彩られていた。
美しいが、決して派手派手しい物ではなく、精緻にして絢爛、ある種の調和すら感じる豪華な内装が施されている。
並んでいる美術品の数々もまた、世界的に有名な物ばかりと来ている。
思わず、戦役の事も忘れて見入ってしまいそうだった。
「緋村、瀬田を連れて来たくなったのではないか?」
「あ・・・・・・あー、うん、そうだね」
からかうように含み笑いを浮かべながら投げ掛けられるジャンヌの言葉に、
確かに、任務の一環とは言え、ここに茉莉を連れてこれなかった事は、
「あらあら、緋村さんは瀬田さんと、お付き合いなさっていらっしゃるのですか?」
そんなジャンヌと
そう言えばメーヤと茉莉は、師団会議の際に映像越しとは言え、顔を合わせていたのだ。
「瀬田さんは良い方ですね。素直で、真っ直ぐで、大事になさってあげてくださいね」
「そうだぞ、緋村。あいつはお前には勿体ないくらいの女だ」
「わ、判ってるってば」
言い募るメーヤとジャンヌに対し、ちょっと照れくさそうに返事をすると、紅い顔を隠すようにそっぽを向く。
自分の彼女を褒められるのは、悪い気がしなかった。
そんな会話をしながら、4人は美術館内部へと足を進めていく。
サモラトニのニケ、ミロのヴィーナス、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザ
どれも、世界に並ぶ物の無い芸術品の数々である。もし
しかし、
世界的に有名な芸術品を見れた事は得難き体験である事は間違いないが、
歩き始めて3時間経つが、未だにその兆候は表れる気配は無かった。
「これは・・・・・・空振りかな?」
壁に掛けられた絵画を眺めながら、
まあ、このままここで1日潰してしまうのも悪い話ではないのだが、
そう思い始めた時だった。
傍らに拠ってきたキンジが、
「おろ?」
「緋村、あれ見ろ」
キンジがさした方向に視線を向ける
ジャンヌとメーヤも、揃って覗き込むように見やる。
するとそこには、どこかの学生と思われる、制服を着た少女の一団がいた。
ジャンパースカートの制服が可愛らしい、その女子学生の一団は、研修か何かと思われる。
その中に、花柄の眼帯をした、おかっぱ頭の少女が、いた。
「あ、あれ、カツェだよね?」
唖然とする
正しく本命バッタリ。どストライクだった。
「メーヤ、お手柄だぞ」
ジャンヌが小声で賞賛を送る。彼女の作戦が図に当たった形である。
「これ、お前の力なのか、メーヤ?」
「はい、恐らく・・・・・・としか厳密には言えないのですが。会うべき仇敵に偶然出会う、その偶然が必然に変わる。最も典型的な、私の『
キンジの質問に答えつつ、カツェを睨み付けるメーヤ。
正しく千載一遇の好機である。
しかも見たところ、周りにいる他の女子は魔女連隊のメンバーではない。動きが素人すぎる。恐らく、カツェの学友であると考えるべきだった。
「お前等、ババッと魔法で捕まえる事できないのか? あいつをカエルに変えたりとかしてさ」
「もしくは、こう、テレポートとか金縛りとかは?」
尋ねるキンジと
「お前達、乏しい魔術知識で無理に語ろうとするな。聞き苦しい。今は魔術はダメだ」
「今日は瑠瑠粒子が濃い、魔術に頼り辛い日なのです。あの害虫も同条件ですけど」
どうやら魔術にもいろいろあるらしく、強化幸運のように粒子の影響を受け辛い物もあるようだが、基本的に瑠瑠や璃璃の粒子が散布されている時期は、ステルス関連の能力低下は避けられないらしい。
「使えねーな、お前等。じゃあ、実力行使で行くぞ。ここで会ったが100年目だ」
言いながらキンジは右手をジャケットのホルスターに差し入れ、左手は背中に伸ばして逆刃刀を取り出そうとする。
だが、そのキンジの動きをジャンヌが制した。
「よせ遠山。ここは美術館だぞ。無関係な人間も多い」
「今すぐ殺虫したいのは山々ですが、尾行しましょう。1匹1匹殺しても良いですが、巣穴を見付ければゴキブリを一網打尽にできるかもしれません」
確かに、ここでの戦闘は貴重な美術品を傷付けるだけでなく、一般人にまで被害が及ぶ可能性もある。
ここは作戦通り『
暫く覗いていると、カツェは先生の講義を聞きながら、必死にメモを取っているのが伺える。
言動は粗暴な印象があり、不良っぽいイメージの強いカツェだが、その本質は意外に勤勉家なのかもしれない。
と、4人が密かに視線を向ける中で、カツェは観光客に背中がぶつかり、荷物を盛大に床にぶちまけてしまった。
だが、周りで見ているクラスメイト達は、誰もカツェを助けようとはしない。
見るからにはぶられ気味だった。
「あれはストラスブールの、フォレ・ノワール女学院の制服だ。通学制の、かなりのお嬢様学校だ。教育レベルも高いが、学費も高くて有名だ」
ジャンヌの説明を聞き、
確かに、上品なお嬢様学校では、あのカツェの性格は浮いてしまうのも仕方が無かった。
その後、一通りの見学を終えた女学生たちは、夕方になると現地解散となり、それぞれ仲良しグループと共にパリの街へと繰り出していった。
せっかくパリまで来たので、買い物でもして帰ろうと言う算段なのだろう。
そんな中で、
カツェは1人、ポツンと佇んでいた。
ここでも彼女は1人、取り残された形である。
やがて、
「ケッ」
カツェはポケットからマルボロを取り出すと、1本取り出して火をつける。どうやら、少し時間をつぶすつもりのようだ。
やがて、たばこ1本を吸い終わると、おもむろに動き出した。
携帯電話を出していずこかに電話を入れると、そのまま地下へと歩き出す。
それを尾行する、キンジ、
地下室に降りたカツェはと言えば、駐車してあったバイクへと乗り込んでいるのが見える。
そのバイクの形がまた奇妙だった。
前輪は普通のタイヤなのだが、後輪は2軌道のキャタピラになっているのだ。傍から見ると、小型のトラクターにも見える。
「ケッテンクラートだな。ナチスドイツで量産されたオートバイだ」
ケッテンクラートは本来、自走砲等をけん引する目的で量産された物だが、車輪式の車輌に比べて路外走破性が高い事に着目され、路面の悪い東部戦線でも多用された傑作車輌である。
シーマ・ハリ号での敬礼もそうだが、つくづく、魔女連隊はナチス的な物を愛する組織であるらしかった。
カツェが地下駐車場から出て行くのと入れ替わりに、メーヤが運転する深紅のアルファロメオが到着。
2
ケッテンクラートは目立つうえにスピードもそれ程出ないらしく、追跡にはさほど労する事は無かった。
パリ市街地を南東に抜け、郊外へ出て田園地帯を進む。
やがて車は、フェンスに囲まれた小さな飛行場へとたどり着いた。
「クベール飛行場だ。入って行くぞ」
ジャンヌの言葉通り、カツェの運転するケッテンクラートが飛行場内に入って行くのが見える。
その飛行場は大型機の運用には適さず、主に気球や小型機の発着に使われているらしい。
だが今、そこには全長70メートルほどの飛行船が鎮座していた。
ヒンデンブルク号を髣髴とさせる飛行船の側面には、魔女連隊のマークも描かれている。
「ビンゴだね、一応は」
キンジの背中に手を突っ込んで、逆刃刀を鞘ごと引き抜きながら
確かに狙い通り、カツェを尾行する事で魔女連隊関連の場所まで来る事が出来た。
だが、問題はここからだ。
カツェが、あの飛行船に乗って行こうとしている事は疑いない。だが、自分達には、それを追う手段が無かった。
「格納庫内を見ましたが、積み荷は武器と・・・・・・化学兵器の材料と思われます。パリで買い集めていたのでしょう。きっと、ローマを攻める心算なんです」
オペラグラスで観察していたメーヤが言う。
孤立したバチカンが、今、魔女連隊の総攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。何とか、その前に片を付けないと。
「どうする。離陸されたら、流石にもう追えないぞ」
「ロケットランチャーでも持って来ればよかったんですがね・・・・・・」
焦るキンジとメーヤの言葉を聞きながら、じっと冷静に飛行船を観察していたジャンヌが、オペラグラスから目を離して口を開いた。
「ケッテンクラートを格納した倉庫だが、どうもハッチが割といい加減なつくりだから、潜入できそうだぞ」
参謀ジャンヌの意見は、このまま追跡を続行して敵施設に対する破壊工作の実行だった。
「と、言う訳だ、遠山、緋村」
「おろ?」
「いや、何が『と言う分け』なんだよ?」
猛烈に嫌な予感を覚えながら問い返す
しかし、その予感は杞憂ではなかった。
「潜入に成功したら連絡をくれ」
「お2人のいる場所へ、すぐに駆けつけますので」
既に
「行くんなら、お前等が行けよ。レディー・ファーストだろ」
「今は瑠瑠粒子が濃いとは言え、いつまでも濃いとは限らない。潜入の後に粒子が晴れたら、私達のような魔女は、カツェに探知される恐れがあるのだ」
言い募るキンジに、ジャンヌはにべも無く言う。
要するに、彼女とメーヤは今回の追跡作戦には向かない。やるとしたら、キンジと
とは言え、メーヤの幸運で得たチャンスをフイにするわけにもいかない。それにうまくしたら
やる価値は充分にあった。
「仕方ない。やるか」
「だね」
メーヤが胸の谷間から取り出したシリアルバーを受け取りつつ、キンジと
ともかく、離陸前に何とか乗り込む必要がある。
2人は貨物等の物陰を利用しながら可能な限り飛行船へと近づくと、一気に駆け出す。
既に飛行船は離陸準備に入っている。一刻の猶予も無かった。
「先行くよ、キンジ」
「あ、おいッ」
身の軽い
大丈夫。この距離と
そう思った次の瞬間、
すぐ横合いから、強烈な勢いで飛び出してきた存在が、容赦なく
「ッ!?」
強烈な衝撃と共に、吹き飛ばされる
とっさに体勢を立て直しつつ、足裏で地面にブレーキを掛けながら後退。勢いを殺すと同時に顔を上げる。
だが、その間に相手は更に動き、キンジへと襲い掛かろうとしている。
「やらせるか!!」
とっさに地面をけって疾走する
スピードは
殆ど地面を滑空するような勢いで相手に追いつくと、同時に神速の抜刀。白刃を叩き付ける。
相手もまた、
その間にキンジは、飛行船に向かって走って行く。
「チッ」
相手の舌打ちが聞こえて来たが、
妨害が入った以上、
相手を見やる
そこで、目を見張った。
全身を覆う金属鎧に、手にした両刃の大剣。
間違いなく、藍幇城で対峙した鎧人間だった。
「よう、また会ったな」
気さくな調子の相手に対し、
相手は自分の攻撃を物ともしなかった相手だ。侮る事はできない。
そこでふと、相手は訝るような仕草で
「あれ、そう言えばお前って、男じゃなかったのか? あ、実は、あれが男装で、本当は女だったとか?」
「い、いえ、あの・・・・・・これには深い事情がありまして・・・・・・」
しどろもどろになりながら、口調を濁らせる
まさか、敵にまで
とは言え、
チラッと視線を向けると、既に飛行船は離陸している。いくら
しかし、どうやらキンジの潜入は上手く行った様子である。取りあえずは、こちらの作戦は成功と言う事だ。
「チッ だから、研修なんかフケちまえって言ったんだ。あいつも、妙に律儀だからな」
どうやら、カツェの事を言っているらしい。となると、この鎧は、カツェの護衛としてこの場に来たと言う事になる。
「ま、いいや。それでお前と、こうしてやり合う事ができれば、俺としても特に言う事はねえしな」
言いながら、大剣を構え直す。
対抗するように、
どうやら、激突は不可避であるらしい。
3
次の瞬間、両者は地面を蹴って駆ける。
対して、そのまま突っ込んで行く鎧。
ガキン
逆刃刀の刃が鎧に受け止められるのを見て、
状況は藍幇城の時と同じ。やはり、
日本刀は西洋鎧に対して相性が悪い。
純粋に「斬る」事を目的に造られている日本刀は、可能な限り切れ味を追及しており、その刃は薄く鍛えられている。その為、人体や日本式の鎧等、比較的柔らかい物に対しては絶大な威力を発揮する反面、板金鎧が基本の西洋風鎧に対しては、聊か分が悪かった。
もっとも、対処法が無い訳ではないのだが。
「甘い!!」
横なぎに振るわれた大剣を、
地に足を付けたところで、相手が大剣を掲げて斬り込んで来た。
真っ向から振り下ろされる斬撃。
しかし、
「どうした、逃げてばっかりじゃ、俺は倒せないぜ!!」
さらに踏み込んでくる鎧。
振るわれる横なぎの一閃。
それに対し、
「飛天御剣流・・・・・・」
螺旋のように捻られた体が、一気に巻き戻る。
「龍巻閃!!」
振るわれる、強烈な一閃。
その一撃が、鎧の頭部を捉える。
「グッ!?」
思わず声を漏らしてよろける鎧。
相変わらずダメージが入った様子は無い。だが、相手を怯ませるには充分だった。
更に
着地と同時に体をたわめ、寝せた刀の刃を左掌に乗せる。
未だにバランスを回復しきっていない相手を睨み付ける
次の瞬間、解き放つ。
「飛天御剣流、龍翔閃!!」
吹き上げられる刃の一閃が、相手の顎を捉え、大きく弾き飛ばす。
地面に倒れる鎧。
その姿を見据えながら、着地した
技は完璧に決まった。
並みの相手なら、あれでノックアウトさせる事も不可能ではない。
だが、
「あ~ イッテ~ やるじゃねえの、お前」
何事も無かったように立ち上がって見せる。
やはりと言うべきか、大したダメージは与えられたようには見えない。
再び、刀を構え直す
「厄介だよね、その鎧」
「あ、これか?」
言われてキョトンとしたような声を上げる。
次いで、自慢するように見せびらかした。
「良いだろ、俺のお気に入りだぜ」
「・・・・・・・・・・・・成程」
それ程の自慢の逸品となれば、まずはあの鎧をどうにかしないと、
「ならまず、その鎧、壊させてもらうよ!!」
「ハッ やれるもんならやってみな!!」
突撃してくる鎧。
それに対して、
間合いに踏み込む両者。
次の瞬間、
縦横に奔る剣閃。
視界全てを斬り裂く銀の光は、その全てが鎧へと殺到する。
「飛天御剣流、龍巣閃!!」
振り抜かれた刃が、次々と鎧を乱打する。
手を緩める事無く、剣を振るい続ける
そして、
ついに剣戟の威力に耐え切れなくなった鎧が、金属音を響かせて外れる。
いかに板金鎧の防御力が高かろうが、全てに同等の防御を施せるわけではない。
たとえば鉄板の継ぎ目のジョイント部分は、比較的脆い構造をしている。
崩れ落ちる鎧。
同時に、装着者本人も、姿を現す。
「貰った!!」
自身の勝利を確信して刀を振るう
剣閃が真っ向から振り下ろされる。
次の瞬間、
ガキッ
「なッ!?」
絶句する
あり得ない音と共に、刃は阻まれる。
しかも、
先に戦った呂伽藍のように、筋骨逞しい太い腕ではない。むしろ、
次の瞬間、横なぎに振るわれた大剣が、
「ぐあッ!?」
とっさに防御が間に合わず、大きく吹き飛ばされる
バランスを回復させる事ができず、そのまま滑走路上を転がる。
どうにか顔を上げる
斬撃は防弾セーラー服とコートが防いでくれたし、幸い、当たり所が良かったのか、骨折の兆候も無い。片手での振り抜きだった事で斬撃の威力が落ちた事が、どうやら
しかし・・・・・・
そこで、思わず息を呑んだ。
マスクの下から現れた金髪と、ブルーの瞳。
端正な顔立ちは、間違いなく少女の物だった。
「悪いな、言い忘れちまって。俺は別に、この鎧でお前の攻撃を防いでいた訳じゃないぜ。鎧を着てるのは、まあ、趣味みたいなもんだ」
そう言って、肩をすくめる。
確かに、
少女は最後の
つまり、
「ステルス・・・・・・いや、魔女か」
「ご名答だ」
何らかの魔術的な要因で身体能力と防御力を強化し、
少女はニヤリと笑い、手にした大剣の切っ先を
「今さらながら、名乗らせてもらうぜ。北方大管区ノルウェー管区所属、
やはり、魔女連隊。
ステルスが相手となると、流石の
どうする・・・・・・切り札を使うか?
そう考えた時だった。
視界の端で、銀色の光が煌めきを発した。
と思った瞬間、大気を斬り裂いて氷の礫が、ルシアに襲い掛かった。
とっさに、手にした剣で氷を打ち払うルシア。
そこへ、接近したメーヤが、大剣を横なぎにしてルシアに切り掛かる。
「チッ!?」
舌打ちするルシア。
同時に後退して、メーヤの剣を回避する。
「緋村、大丈夫か!?」
聖剣デュランダルを手に駆け寄ってくるジャンヌ。どうやら、
「あれは、《鉄腕の魔女》ルシア・フリート。魔女連隊ではカツェの盟友で、特に危険な害虫の1人です」
と、相変わらず敵を害虫扱いしながら説明してくれるメーヤ。
それに対し、ルシアは鼻を鳴らして睨み付けてくる。
「銀氷に祝光か。良いね、盛り上がってきたじゃねえか」
言いながら、大剣を構え直す。
「言っておくが、俺の魔術は瑠瑠粒子の影響を受けにくいからな、流石に全力とはいかねえが、この状況でも充分に戦えるぜ」
対して、こちらはジャンヌとメーヤの戦力低下は否めない。
4人はそれぞれ、剣を構えて対峙する。
激突は必至か?
そう思った次の瞬間、
耳障りな轟音と共に、1台のオートバイが滑走路内に入り込んで来た。
サイドカー付きのオートバイは、
「時間です。退きますよ」
運転席に座った由比彰彦が、そうルシアに告げる。
「あ、もうそんな時間かよ?」
時間を忘れて戦いに興じていたらしいルシアが、キョトンとして彰彦を見やる。
「ええ。遅刻すると、イヴィリタさんのお仕置きが待っているのでは?」
「うげッ そいつは勘弁だぜ」
慌てた調子で、サイドカーに乗り込むルシア。
その視線が、
「緋村っつったな、お前」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「なかなか面白かったぜ、お前との勝負。今度、またやり合おうぜ。その時は、この《龍殺しの聖剣》の錆にしてやるからよ」
「逃がすか!!」
地面を蹴って斬り掛かる
しかし、その刃が届く前に、彰彦はバイクをスタートさせる。
空を切る刃。
「それでは、また会いましょう、緋村君」
そう言い残して去って行く彰彦。
その背中を見据え、
第8話「龍殺しの少女」 終わり